第2話『三大魔神エルダーク』
天より下らぬ黒き星。
万象の理すら逆らえぬ因果の外に在りし、それは”災いの起源”。
遥か上空、青空のはるか彼方──空を飛ぶ鳥たちの目にも届かぬ高さ。
この星を周回する巨大な天体が一つ、静かに回り続けている。
それは衛星軌道上に存在する“黒き隕石”。
だが、その実態はただの岩石ではない。
かつてこの世界に破滅をもたらした魔神のひとり。
《三大魔神》と恐れられし、究極の魔法生命体──
**《エルダーク》が封印された魔神核石**である。
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●過去
数万年前。世界に「理」が満ちていた時代。
時の英雄、時の賢者、時の竜王……
ありとあらゆる叡智と力を持つ者たちが結集し、たった一柱の存在を封じるために、命を削り尽くした。
その名は、《エルダーク》。
“あらゆる魔法”を、より強く、より凶悪に、より終末的に昇華させる能力を持つ黒魔神。
彼の扱う魔法は、すべて黒で染まる。
•**消えぬ黒炎**──一度燃えれば、空間が焼き尽くされるまで絶対に消えない。
•**解けぬ黒氷**──物質と魂を永遠に凍てつかせる絶対零度。
•**まとわりつく黒雷**──放たれた雷は意思を持ち、何度でも対象を襲い続ける。
•**沈む黒水**──満たされれば魂ごと深淵に沈められる漆黒の液体。
•**やまぬ黒風**──吹き荒れた風は存在するすべての命を削り取る。
これらは単なる魔法ではない。魔法を超えた魔法、**“因果の頂上”に立つ魔法”**だ。
封印の際、最後の賢者はこう言った。
「この隕石は、永遠に地上には届かない。因果律を支配する《因果封印式》により、永久に空を巡らせよう」
そして、星の外周へと送り出された“黒き星”は、二度と地上に届くことはないはずだった。
……はずだった。
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●現在――異世界転生直後、草原にて
カミシロ・トオルは平和な草原で目を覚ました。
空は青く、風は爽やか。
しかし、彼が存在するその一点から、世界の“理”が微かにズレていく。
発動していたのは、スキル──《厄災》。
「……ああ、なんか寒気がする。気のせいか?」
草原の空気が、わずかに重く、ざわつき始める。
だが、彼には知る由もない。
そのスキルが、「因果を逸脱する」存在であり、
かつて決して破られぬとされた“因果封印”すら、気まぐれに揺らすものだということを。
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●同時刻:衛星軌道上
魔神核石の中心で、閉じられた黒の瞳が、カッと開いた。
「……呼ばれた……?」
長き眠りの中で、初めて“地上の気配”が、彼に干渉した。
「何者だ……因果の封を突き抜け……我に触れたは……?」
ゴゴゴ……と、宇宙に音が鳴るはずもないのに、空間が震える。
因果律が歪んだ。
重力が乱れた。
星が──動いた。
かつて決して地上に落ちぬとされた“黒の星”が、軌道を逸脱する。
少しずつ、確実に──
引き寄せられている。
引力でも魔力でもない。“最悪”という現象に。
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●草原・地上
「なんか、空の色……おかしくない?」
トオルが空を見上げた瞬間、黒点が太陽のそばに現れた。
それは“隕石”などではない。
黒き終焉。
魔神の瞳が、地上を見下ろしていた。