第一話『幸運の代償』
俺の名前はカミシロ・トオル。28歳、独身、コンビニ夜勤バイト。
特技はなし。恋人なし。夢は「平穏な人生」──だった。
だが、人生ってのは時々、とんでもない見返りをぶっ込んでくるらしい。
―――
昼下がりの商店街。誰もいない宝くじ売り場で、俺は一枚の紙切れを見て立ち尽くしていた。
「……あれ、当たってる……?当たってるよな?なあ?」
見間違いじゃない。スマホの当選番号と見比べて、三回目でようやく確信した。
「……三億……三億円……!」
体中が震えた。見慣れた灰色の世界が、ほんの少しだけ色を取り戻した気がした。
──だが、運命はもう、動き始めていた。
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翌朝、俺は自転車を漕いでいた。
向かうは銀行。預金して、焼肉行って、あとは人生プランでも立てようかと。
空は晴れ渡り、信号は青。足取りも軽い。
「ふふん、俺の時代、ついに来たな……」
ズズズ……ンッ!
突然、地鳴り。
道路が、ひび割れた。舗装が裂け、黒い裂け目が口を開く。
「は!?なんで!?俺、昨日三億当たったばっかだぞ!?!?」
次の瞬間、地面が崩壊し、俺は何十メートルも下へと飲まれていった──
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目が覚めた時、そこは真っ白な空間だった。
空中に浮かぶ、金の翼を持った絶世の美女が、優雅に微笑んでいた。
「ようこそ、転生者カミシロ・トオルさん。あなたは……死にました。そして選ばれました」
「いやいや、え?死んだ!?待て待て、三億円……!」
「残念ですが、あの地割れは完全な天災。人間の運では防げません」
「運のせいにするなよ!?」
「でも大丈夫。あなたには“異世界転生”の権利が与えられます。そして、特別に――“スキルガチャ”一回引けますよ!」
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女神の手が宙をなぞると、無数の光の玉が現れた。
《神速》《創造主》《因果支配》《オールマイティ》《ギフテット》……どれもとんでもねえスキル名ばかり。
「こ、これ引けば……最強になれる可能性も……?」
「もちろんです。なお、ハズレもありますけど」
不吉な前振りを無視して、俺は一番光っていた玉に手を伸ばした。
ピコン♪
光が弾け、選ばれたスキルの名が浮かび上がる。
「おめでとうございます。あなたが引いたスキルは──」
女神の顔が固まった。
「……え、え~っと……これは……その……《厄災》ですね」
「待て!今、“え~っと”って言ったよな!?なんでマニュアルめくってんだよ!?」
「あらゆる状況が、あなたにとって最悪の方向へと進行します。……ただし、ごく稀に、幸運が混じることもあります。滅多にありませんけど」
「それ、もう俺の人生だよ!!」
「では!異世界へ、れっつご~☆」
「うわああああちょ、待っ──」
⸻
世界がぐるりと回転し、視界が白に染まる。
そして、次に目を開けた時──
風が穏やかに吹き抜ける草原。どこまでも広がる青空。鳥が鳴き、虫が飛び、花が揺れている。
「あれ……?普通に……平和……?」
だがその草原に、異様な気配が走る。
続く