六話 都会はお金が減る
受付嬢からは模擬戦を元にAランク以上の剣士を探してくれると説明を受けた。
とげの人はBランクだったらしい。ABC順ということはAが最高なのかとも思ったがSが最高みたいな言い方をしていたので何故アルファベット順からいきなりSになるのか分からないがスペシャル的な意味なのかもしれない。
AはアーティストでBはぶっ殺す、Cはなんだろう?Dも分からないし。いまいち基準がやはり分からないままだ。
そして私は宿の場所等も確認しながら王都を散策して服屋を探している最中である。
やはりと言うべきか和服が売ってあるところが見当たらないので、包帯になりそうな物も売ってそうな服飾店に入り、私の姿を見て少し落胆したような感じが見られる。
どうせ並んでる服には興味がないので店員にそのまま話しかける。
「和服を…作ってくれませんか?」
「わふくですか…?」
その後にしばらく沈黙が続き、紙を一枚差し出される。
「図案書けますか?」
言われるがままに知ってる限りの和服の絵を描いて模様はどうしようかと悩んだけど背中には三日月を入れることにした。終盤の大木に向かって稽古をしていた時にいつも支えてくれていたのは月だったから。
袴もそのまま図案として提出したが目を輝かせたまま渋い口をされるという珍妙な顔で判断に困る。
「これって改造してもいいですか!?あとお客様は冒険者ですよね?なのにこんな服をお望みということは防御性なんて皆無でいいんですよね!」
あるに越したことはないから反応に困るが、とりあえず「任せます」とだけ言うと、店員が新しい紙に服の絵を描き始める。私のとは違って裁縫の手順などが細かく記載されている所を見るとこれが本当の図案というやつか。
「お客様は生地はどんなものを想定していましたか?」
「綿です」
「綿ですか!本当に防御無いですね!それなら身軽な方が良いってことですよね布面積もういっそのこと減らしちゃいましょう!こんなのはどうでしょう?」
見せられるのはどことなく肩が見えたり、袴も短くなっていてこれだと足の動きが相手に見られてしまうと思うが、自信満々に描いてくれたのだし頷いておく。
「後ろの変な形をした果物みたいなものはこだわりだろうと思って残しておきましたが良かったです!」
「三日月です」
「あ、月でしたか!それなら色合いも考えないといけませんね。服をお探しということはその髪留めや靴なんかもお求めでは?」
「服は同じものを数着…髪留めは結べればなんでも…靴は滑りにくい物であればいいです」
「なるほど!包帯だらけなので怪我でもしてるのかと思いましたが滑り止めですか!それなら手袋もお求めではないですか!?」
勢いが凄すぎて、服屋で店員にあれこれ言われる記憶がフラッシュバックされる。苦手なのだよなこの空気。
「手袋は…紙を貸してもらえますか?」
アーチェリーグローブの指だしで中指を通す形の手袋を描く、この店員に理由を言っても分からないと思うが手のひらを滑りにくくしたいのと指先の感覚だけは刀の柄に馴染ませておきたいから。
目が見えなかった時は触感にもかなり頼っていた名残で指先は出しておきたい。
私が描いてる間に靴下なども描いてくれているがそれも脚で触感を残しておきたいので短めの靴下を所望したが。
「ブーツの方がいいと思うんですが!仕方ないですね、ショートブーツにしましょう!そしたら靴下はこれくらい長い方がいいと思うんですよ!」
「あ…そうですね…」
まぁ、許容範囲だったのでそのまま頷いたが今の残高が気になってカバンの方に視線を向けた瞬間店員が心を読んだかのようにまくしたてる。
「お客様!私フリティアと申します!お店の名前はユワナヴェル!贔屓にしていただけるなら値段も相談受け付けてますよ!」
とりあえず覚えておくようには心がけるが、見せの名前まで覚えれるだろうか…。
「そうですね。素材は基本綿ですけど、手袋の方は滑り止めなら弄らせてもらいますね。靴は知り合いに頼むので問題はありませんご安心を。ただどこの服かと聞かれたら当店の名前を是非出してくださいね男女問わず!」
それも頷いておく。
「それで数着用意するとなると銀貨をかなーりいただきたいところ。100枚!それじゃ駄目だと思うので50枚!しかしお客様が贔屓にしてくれるのなら私は身を切る思いです!25枚なんてどうでしょうか!」
半額に次ぐ半額…安い!そして私のカバンには60枚ほど残っている。それならと思い頷くと笑顔になられた。
「あ、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「アカネです…」
「アカネ様!ちなみにどうして当店を選んでくれたんですか?」
「包帯が見えたので…」
「なるほど色んな商品を扱ってそうに見えたところを見て選んでくれたんですね!いや最初はなんて田舎者が来たのかと焦りましたが商品も見ずにオーダーメイド頼んでくるなんて驚きました!私も盲目でしたね!」
まぁ、この国からしたら田舎者だろうし、別の国では都会に住んでいたと言ってもこの格好では信じてもらえないだろう。
まだフリティアが喋っている最中だが、お金を数えて25枚差し出すとそれもまた驚かれた。
「アカネ様は稼いでいらっしゃるんですね?分割でお支払いしてもらおうと思ってましたけど冒険者ですよね?相当な実力者ですか?ランクは幾つなのでしょう?」
タグを見せると微妙な顔をされたが声は喜々としている。
「Dなのにおしゃれを嗜む。私は冒険者事情は知りませんが服より武器を好むものだと思ってましたがアカネ様はそうではないんですね?」
そんなに木刀と包帯で巻いてるけど銅刀は武器として心もとないように見えるのだろうか。別にゴブリンも盗賊もランクBのとげの人みたいなでかい斧なんていらないと思うんだけれど。
そのまま手を繋がれてカウンター裏まで案内される。
「採寸しますので!すぐに終わりますから安心してくださいね!」
この体が成長するかは分からないので少し大きめに頼むと返事は「はい!」と即座に返答してくるので店主の鑑みたいな人なんだろうとは思う。
私はこういう明るい店主にはなれないだろうな。
採寸もすぐに終わり、下着を数着渡された。
「さすがに下着も田舎臭い上に包帯まみれで驚きました!こちらは差し上げますのでぜひ使ってください!」
貰えるなら貰うのだが、下着に田舎臭いとかあるのか。まぁ雑貨屋の古着だし仕方ないのだろうけど。
実際貰った下着を穿いたら程よい密着感で落ち着く。
「ありがとうございます」
「いえいえ!アカネ様が小汚くても可愛い見た目をしてらっしゃいましたので私もありがとうございます!儲けていらっしゃるなら銭湯へ行かれてはいかがですか?」
「行きたいです…」
王都となるとそういうのもあるのか、村には無かったから素直に行きたい。
そして行きたいと告げると、紙に簡易マップを描いてくれる。宿の場所や清潔度、飲食店の場所。武器屋の場所までご丁寧に。
「ありがとうございます」
「ここ以外には別のお客様が行ってるのであまり広報にならないからおすすめはしないですけどちゃんと真面目に書きましたから安心してくださいね!」
正直は美徳だと思うが、ここまで素直だと悪意が無いというのが伝わってありがたい。
お辞儀をしてから店を出ても「一週間以内には仕上げて見せますから!」と熱い声を頂き、商売魂すごいと思う。
なんか気付けば残金の半分くらいが減ってしまったけどこれが都会か…私も都会に住んでたと思うけどもっと金銭感覚に気を付けないといけないな。
とりあえず銭湯に地図を見ながら向かい、中の料金を見ると銅貨50枚石鹸など使いたい場合は追加で50枚と合計銀貨1枚。まぁいっかと銀貨1枚支払って石鹸を貰ってから女湯に入るとそこそこ盛況しているみたいだ。
鏡もあり、自分の姿を見ると目の色が変わっている。目を抉っていたのに回復した影響なのか色素が無くなった赤色だ。どういうことなのかは分からないが結果的に言えば目が戻ってきて良かったのだから気にすることはないか。黒髪に赤色というのは変な気分だが、周りの人間も髪色も目の色もカラフルだし少しはコスプレ要素になるだろう。
銭湯はシャワーみたいな物もあって意外とちゃんと銭湯している。どういう仕組みなのかわからないがお湯は出るし、レバーを引くだけで操作できるのも楽だ。もっと木の桶をでかくしたような物とか古い物を想像していたがそうではない。
久しぶりに体を洗ってから湯舟でゆっくりできると思っていたがどうやら石鹸を買う人はいるけど買わない人もいるようで湯舟が少し汚れているのを見て湯舟は諦めた。
まぁ、銭湯だから仕方ない。そういうこともある。
上がってからは体を拭いて着替えを済ました後は、フリティアおすすめの飲食店に行ってメニュー表を見ると銅貨30枚くらいの品が並んでいる。文字だけなのでどんなものかは分からないが。
おすすめの肉類を二つほど頼んで、水を飲みながら待っていると届いたものはしっかりとソースなど味付けされてあるものでどれも美味しく食べた。香辛料も効いてるし田舎とはここも違うんだなぁと感心しながら武器屋に入る。
やはりというか直剣が多いのと曲剣といっても先端へ行くほど幅広くなってるカットラスのような物、レイピアなんてものもおいてあるのに何故か刀はない。
「刀は…無いですか?」
「カタナ?それはなん…嬢ちゃんの腰に下げてるもんか?」
「はい」
「ちょっと見せてくれ」
どうせならと木刀と銅刀を二つ渡して見せるが、渋い顔をされるのは毎度のことなのでそろそろ見慣れてきた。
「色々言いたいことはあるが、これが欲しいのか?」
「はい…錆びにくいのと壊れにくければ…あと銅よりも鋼は無くても鉄ほど軽ければ嬉しいです…」
「はーん?まぁ…出来んことはないが…」
「あとは鞘を付けてください」
「それくらいなら問題ないが…壊れにくいかー…まぁいい。銀貨10枚だそれで試作してやるよ。失敗作もくれてやる。どうせ壊れるだろうからな」
私も壊れると思う。失敗作も最低限形が整っていれば十分だ。持ち手の部分がちゃんとしてれば壊れるまではこちらで調整してみせよう。
銀貨を支払うと。「ちょっと待ってろ」と言われたのでナイフとか適当に眺めながら待っていると銅刀に鞘が付いて戻ってきた。
「試しに作ったが、それ抜けるのか?」
言われる通り試すがちゃんと形に沿って合わせてくれてるようで問題なく抜ける。
納刀も慣れてない重さなので少し最初は戸惑ったが慣れれば抜刀納刀までちゃんと動かせる。
「そういうもんなのか。変わった武器を使うんだな。まぁ言われたもんは作るからしばらく時間をくれ」
これも一週間くらい待てば良いだろうと武器屋を後にしたとき、刀の誘惑にまた今の所持金が半分ほど減った。
おかしい。60枚ほどあった銀貨が今では四分の一くらいしか残ってない。都会の買い物は恐ろしいなと思いながら宿に向かうと宿の料金が食事付きだと銀貨1枚だと言われたのでそれも支払っておく。
部屋に行ってから田舎のベッドよりも柔らかいベッドにフリティアのおすすめは確かに良いのだけどこのまま行けば私は明日にはお金が無くなってしまう。
とにかくギルドに行って仕事をしなければ。そう思うも、宿が提供してくれた食事は美味しく稼いでもすぐにお金無くなりそうだなと思いながら味わっておく。
宿くらいは節約できる場所を探した方がいいかもしれない。
今日はそのままクッション性の素晴らしさを尊いと思いながら眠る。
***
久しぶりの柔らかさに良い感じに眠れたと思いながら起き上がって荷物を持って下に降りると受付の人が早い時間から起きていた。
「今日も宿泊されるならお部屋空けておきますよ」
その言葉にまだ残金はあると思って頷いておくと笑顔を返される。
あとはその足でギルドに向かい、中へ入ると少しだけだが視線を感じる。息遣いからこちらを見ているというのも分かるし少し目立ってるのはやはり田舎臭いからかもしれない。
張り紙のところに行くと私の儲ける秘訣であるゴブリンが書いてない。それになんか知らないワイバーンとかそんなのが書いてあったりオーガとか書いてある。どれも銀貨50枚とか破格な値段設定だが知らない害獣を倒すのは難しい気がする。
受付のところに行ってギルドの受付嬢はブラックでも喜んで働いているんだなと思いながら昨日もいた受付嬢に聞く。
「ゴブリン…とかはないんですか?」
「えっと、小さい魔物は書かなくても魔石や毛皮、肉などを持ち帰れば良いと言うのがここでは常識でして…アカネさんはそういうのに詳しくはないんですか?」
頷くと一緒に困った顔になってしまう。
「それでしたら北東の森などはいかがでしょう?ゴブリンもオークも結構な数がいますし、部位に詳しくなくても魔石を持ち帰れば大丈夫ですよ。それと外で冒険者同士の争いには余程のことが無ければギルドは関与しませんので問題がある場合アカネさんが敵と思う者は倒して大丈夫ですよ」
「殺しても?」
「アカネさんなら生かしておけるんじゃないでしょうか?最悪殺してもいいですけど、殺したらタグは回収してもらえると助かります」
面倒くさそうだな。手足を砕いてその場に放置する方が良い。
ある程度は分かったので、石ころ…魔石を回収しに北東に向かう。
王都というだけあって城が目印になっていて方角も分かりやすいのでそのまま門まで歩いて、このままだと日帰りになるかもしれないことに気づいて宿屋や、非常食を買うためにまた中央に逆戻りして宿屋の店主に謝ったり。
残りのお金で非常食と水筒を買い足して三日分くらいは大丈夫なようにしてから北東の森に改めて向かう。
食料を減らしながらカバンに減った分魔石を詰めていけばある程度生活できるようになるだろう。