五話 王都と模擬戦
私が村だと思っていたところよりももっと小さな村等を通り過ぎながら御者が村の人たちと物々交換をしたりして、それを見届けながら。次の所へ出立する。
そういうのを繰り返していると森の中を通っているときに金属音を奏でながらこちらを待ち伏せている何かがいるのが聞こえた。
「お兄さん…盗賊って待ち伏せしてます?」
「そうだね?こういう道で待ち伏せして襲い掛かってくることが多いよ?」
「それなら、この先に十数人…木に隠れているのは盗賊ですか?」
「ほ、本当かい!?」
御者が馬を止めてしまったので向こうも動きが変わって死角を動くようにこちらに近づく音が聞こえる。
馬を思いっきり走らせてしまった方がいいんじゃないのかと思うが、この馬はそんなに早くないのかもしれないから大人しく護衛をするべきか。
私は荷馬車から降りて、前に出るが向こうがそれ以上こちらに来ることはない。
何かを取り出して弦を引く音が聞こえたので木刀を腰だめに構えてヒュンと風を切る音と共に矢が飛んできたので弾く。
弓なんて珍しい物を使うんだな。銃弾なら木刀を砕いていただろうに。
それからも矢が何本か飛んでくるので私か荷馬車に当たりそうなものだけを弾いて様子を見ていると姿を見せてこちらにようやく迫ってきてくれる。
「一人で守ってんのか?ガキが一人で木の棒で護衛してるとかふざけてんのかなあ?」
「気を付けて、矢全部防がれたんだから」
「わかってるよ。ただこのガキが魔法を使ってんなら全員で襲えば楽勝だろうが」
手品かな。
あるいみ曲芸みたいなことをやっていたと言えばやっていたのだろうけど弓の質が悪い。もう少しまともな弓と矢を持ってこられていたら木刀じゃ防げないだろうし、弓を使ってるのも二人なので十人一斉射撃されたら命中精度によるが傷は負うだろう。
御者の人に顔を向ければ私に向かって必死に頷いているので、もう正当防衛は成立してるのだろうと判断して、私は歩いて間合いに入るまでの距離を近づく。
「おーおー?本当に一人で近づいてるぜ、怖くないのか?」
「どんな魔法使うのかしらね――」
今自分の体で、身長で届く間合いに入ったので一人両足を一閃砕いて、勢いに殺さず流れに沿って武器を持つ腕と足をそれぞれ砕いていく。
「なにが――」
「こ――」
「いてええ!足が足がああああ」
「何が起こってんだよおくそがああいでええ」
それぞれの持っている武器を見定めるが、どれも刀とはほど遠い直剣ばかりで残念だ。
とりあえず道の邪魔になる者を蹴飛ばしてから荷馬車に戻る。
「お、お嬢さん…殺さなくていいのかい?」
「殺した方がいいんですか?」
「あ、あぁ…次また誰かを襲うかもしれないからね…殺したくないなら無理は言わないが…」
それは知らなかった。奇病が発生したり治安が悪くなったりしたらもう泥棒は死罪なのか。
刀を使いたくないので荷馬車から降りて、適当に転がっている直剣で首を叩き斬っていくが、案外刀じゃなくても処刑する分には直剣も良いかもしれない。
一人残らず首を斬り飛ばしてから、比較的軽い直剣だけ貰っておく。
「そ、そうだよね。お嬢さんは詳しくないかもしれないけどあの人たちの荷物は全部お嬢さんが貰っていいんだよ?」
「はい?」
「衣服はともかく武器は売れると思うから荷に乗せていいよ」
商売に詳しくないので任せたいが、いや、この人も商人だっけ。
「お兄さんに売ります」
「そっか…それじゃあ手伝ってくれるかな?」
仕方ないので武器や服もはぎ取って荷に乗せていく。小銭袋を持ってる者もいたが中身だけ抜いて袋を荷に追加したらようやく御者も満足したのか馬を走らせる。
盗賊は本当に古風な盗賊なんだな。もっと現代的なものかと思ったけど、日本語が通じてるけどここは外国なのかもしれない。
となると日本地図の知識が役に立たない。日本と繋がるってことは相当近場の国だとは思うんだけどそれも何とも言えない。
外国なら日本に戻らないとと思うが、父も一緒にこの国に訪れているかもしれないしまずは剣の強い男を探そう。そうすればいずれ父に出会える。
父は私よりも強いのだから。
***
御者の人が何を考えているのか分からないがあれから盗賊の襲撃が二回ほどあったがそれを殺害したくらいから話しかけてくることはなくなった。
とは言っても食事は用意してくれるし、問題はないんだけどあれから何日経ったのか分からないほど着いて行ってるがどこまで行ったら少しは都会に着けるのか分からないまま田舎を転々と移動してる気がする。
剣の腕も鈍りそうなので夜には刀で素振りをするのだが、雨の日等に屋根が無いから銅が錆びないように荷物の中に混ぜたりと丁寧に扱わないといけないのが面倒で、それゆえに少しずつ愛着が湧いてくる。
こんなに一振りに固執したことがないので新鮮な気持ちだ。
「お、お嬢さん…」
珍しいことに話しかけて来て何かと首を傾げて見せれば御者が袋を渡してくる。
「明日には王都に着くから先に報酬を渡しておくよ…ギルドにも報告しておくからその袋の中にある証書を持ってギルドに行くといいよ」
一カ月か二カ月程度だろうか、馬も休み休みだったし、結構な時間この人と一緒にいたけど明日でお別れか。
袋の中身を見れば銀貨がそこそこ詰まってたり銅貨も中には混じってる。
後で数えておくべきか。
「報酬は盗賊の物品も含めて銀貨50枚と銅貨が200枚程入ってると思うよ。
五万円くらいか。まかない付きだったから文句は無いけどゴブリンの方が頑張れば稼げれそうな額だな。
まぁ交通費も引かれているのかもしれない。実際移動には疲れはないし、鈍ってしまったとはいえ筋肉痛は刀を素振りしても起きない程度には体も馴染んできている。
ありがたく頷いておくと素振りをしながら明日を待って、早朝に荷馬車を走らせ王都とやらへ向かう。
その間に襲われることはなかったし、王都というのも遠くから見える位置を走ってると都会と言えば都会の場所が見える。
壁がやたら大きいけど、こんなに大きくする意味はあるのか。どこかの映画で見た牢獄のようなものか。
大人しくしていたら門があるところまで来て結構な数の馬車が並んでいて順番待ちをしている。
数時間経って私達の番まで来ると、荷物を点検されていく。
「君は冒険者なんだよね?タグは持ってる?」
そう言われたので木のタグを見せると頷かれたのでもういいのだろう。
王都の中は賑わっていて、閉鎖空間とは思っても結構な人数がうろうろとしている。
御者もある程度進んだところで宿らしき場所に止まって、店主となにかしら話した後に、一緒にギルドに行こうと言う話しになる。
歩いて進んでいるとやはりコスプレしてる人がいてここにいる人たちは小綺麗なコスプレが多い。田舎とはレベルが違うな。
剣と槍と斧の看板があるギルドに着くと、中には普通の恰好をしてる人もいるので安心はしたが私の恰好が田舎臭いのが気になる。裾の長いシャツに体中包帯巻いているのは私もコスプレでミイラと言われたら仲間なんだが、綺麗なコスプレをしている人たちは全身甲冑とか魔女とかそういう本格的なコスプレだ。
私もお金もらったし周りと同じような服装、せめて綺麗な服が欲しい。できれば道着や袴、もしくはせめて着物があれば尚良いのだが。和服であれば安心できる。
ギルドの受付と御者が話し合っているなか周りの喧騒で聞こえづらいが「田舎者がまた来た」という言葉も拾えたので私のことだろうと思う。
「すいませんがタグと証書をお貸ししてもらえますか?」
話しを振られたので木のタグと証書を渡すとそのまま持っていかれて戻ってきたときには鉛色のタグを渡される。
「成果と向こうでの評価を聞きました。本日からDランクの冒険者として活躍を期待しております」
そう言われてタグを見れば『アカネ 剣士 D』と書かれたタグを貰った。Dはなんだ。GがグレートならDはどら焼きしか思い浮かばない。もう少し英語を勉強しておくべきだった。
「アカネさんは今後どうされるんですか?王都に来たがっていたとは依頼主から聞きましたが」
「父を探しに来ました」
「お父さんを?そうでしたか…見つかると良いですね」
「剣術が…一番強い人はどこにいますか?」
「剣術?ギルドですとSランクにいますけど、娘はいなかったと思います。あとは騎士団ですがそこはギルドがあまり関与してませんが剣聖と言われる人はいるそうですよ」
あの父が名誉や権力ほしさに頑張ってるとは思えない。現代社会で強さにのみ拘っていたのだから今でも更なる高みを目指してるはずだ。
それとも武器で困ってるかもしれないしコスプレに困ってるかもしれない。
「服を…売ってるところはどこですか?」
「服飾店なら商業特区ですね、中心地に行けば色んな店がありますよ。武器もありますし買い物はそちらで大体の方は済ませていらっしゃいますね。あ、それとパーティについてなんですけどどうされますか?募集か応募されますか?」
またパーティか。ただ私も無為に荷馬車で時間を過ごしていたわけではない。
そう、パーティとはなんだったのかを私なりに考えていた。パーティはつまりチームとか団体戦のようなものなのだと分かった。
何故少年や少女が顔色が暗いまま解散したのかと思えば団体戦で自分が戦えなかったことに不満があったのだ。だから私は煙たがれた。
だからと言ってあの少年や少女が一緒にいると邪魔なのでそれでいいんだけど。
「私より…剣が強い人を募集します」
父ならこんな文言があれば飛びついて道場破りするくらいの気概は持っているはずだ。ならば募集内容もこれで合える可能性が増える。
そうしたらまた父の元で一緒に打ち稽古ができる。
「うーん…少々お待ちいただいてもいいですか?」
何か悩んだあとに受付の人がどこかへ行く。気付けば御者の人もいないし、私の食料源はついに残されたお金だけになってしまった。
しばらくして受付嬢が戻ってくると隣にとげとげしたコスプレがやってくる。
「一度こちらの方と模擬戦をしてもらえますか?殺すことは禁止、武器の破壊は敗北とみなします」
問題ないので頷いてから案内されるままとげの人と受付嬢に付いていくと丁度良い広さの鍛錬場がある。地面が小石もなく綺麗に整備されている。
「俺の武器は斧だから、骨の一本は折れても文句は言うなよ?」
てっきり剣かと思ったら斧なのか。こいつと戦って意味はないだろうと受付嬢を見ると苦笑いされながら説明を受ける。
「アカネさんが求めてる方がこの人より弱いと思いますか?」
そう言われれば納得はする。剣には剣をと思っているが、父なら相手がどんな武器であろうと問題なく木刀でねじ伏せるだろう。
興味本位か私達が来た場所に見物人が少し増えてきているが、誰も刀を持ってないので残念に思う。
どれほどの強さなのかは肉体の筋肉量や膨張し引き締まる肉質から柔軟な動きは出来なくても繰り出される一撃は確かにすごいのだろうが発達している筋肉が力のみを求めている血流の流動音。
斧を握り、お世辞抜きにして最大限斧の威力を活かすとは思えない構え。
ただ斧だけは本物だ。刃の部分は手入れはされてあるし質感も恐らく木刀では太刀打ちできない程度に強度を感じる。もう少しまともな材質の木刀だったらなんとかなったかもしれないが私の木刀はただの玩具に過ぎない。
それでも私は刀とカバンを降ろして木刀を腰だめに構える。
「どうした?構えないのか?」
「私は構えてます」
「それが?別にいいが、折れるだけじゃなく潰しても文句言うなよ!」
鞘が無ければ居合としては不完全だがそれでも自分が慣れてる攻撃が一番やりやすい。そう思って受付嬢が開始の合図を告げるためにベルを用意して音をチリンと鳴らす。
相手がどう動くのかなんて見ない。一撃必刀、鍛錬場程度の広さで中央で構い合えばすでに私の間合いの範囲。
父から散々と言われてきた音を立てず俊足の歩法で近づいて腕の合間を傷付けないように丁寧に掻い潜って相手の首筋にピタリと添えるように止める。
これはどちらかと言えば父の得意技なのだが、真似したくなって首筋に当てると言う相手に恐怖を抱かせるという強さの優劣を見せつけるための寸止めだ。
私が散々痛めつけられてまた木刀で体のあちこちを叩かれると思っていた時に父が私の覚えが悪いばかりに力の差を見せつけ痛くない恐怖を私に与えた攻撃。
私もいつかはやってみたいと少しだけ練習していて良かった。こういう時に使うのだな。
受付嬢の方を見ると口を開けて呆けてたのを私が見た瞬間にベルを再度鳴らし始める。
「勝者はアカネさんです!」
木刀を納めて、荷物を回収すると後ろからとげの人が頭を下げてきた。
「お、俺を鍛えてくださいお嬢!」
「嫌です…」
むしろ私は自分を鍛えてほしいのに周りにかまけてる暇はない。それに斧とか専門外なことを覚えるつもりもない。まったくだ。