四話 銅刀と出立
結局井戸の近くで野宿をしてから今日もギルドへ向かう。
朝食の干し肉を齧りながらギルドへ入ればいつもの受付の人がこちらを見て嬉しそうな顔で見てくる。
「アカネさん!パーティの打診が来ましたよ!」
またか。もうパーティはしなくていいんだが、お金を貯めてその後は都会に出て行かないといけない。
刀が完成するまでに出来る限りは稼いでおきたい。
「どうしますか?今度のパーティは大人の方なんですけど腕利きなのでアカネさんも満足すると思いますよ」
「二日後都会に向かうので…遊んでる暇はないです」
「あそ…いえ!遊びではなくてですね、都会って王都まで行くんですか?」
何県だそこは。都市庁でおう都なんていう場所があるなんて知らない。
まぁ、いいか。
「それなら今日護衛を依頼してる馬車があるのでそれに同行してはどうですか?」
「二日後に行くので…」
「うーん…そうですか…それなら一応二日待っていただけるか聞いてみますね?パーティも断っておきますか?」
頷くと残念そうな顔をされるが、ゴブリンを探した方がいいのだから仕方ない。救済にもなるし狼を狩るよりよっぽど貢献的だろう。
張り紙のところに行こうとしたら、男は二人通せんぼしてくる。
「俺たちのパーティ入ってくれるってことでいいのか?」
何の話しだろうかと疑問を浮かべていると受付の人がこちらまで来てから男二人をどかしてくれる。
「すいません。彼女はパーティに入らないそうで」
「え?一人はいつまでも続かんぞ」
「そうなんですけど、こちらからお願いしておいてすいません。多分危険は冒さないと思うので様子を見てあげましょう」
「そうか…まぁ、汚い恰好って聞いてたけどまともな恰好してるから稼いではいるんだよな?」
ゴブリンの依頼を見るといつも通りの値段なのを確認してから他の受付にタグと一緒に提出する。
「お気をつけてくださいね」
男性の受付からそう言われてタグをもらってから、西に向かう。
今日は目を開けずに西の森でひたすらゴブリンを狩ろうと決めてから空気の流れを感じながら久しぶりに暗い新鮮な気持ちで耳だけを頼りに進んでいく。
***
そんな新鮮な気持ちで森でゴブリンの足音を聞くたびに奇声をそろそろ六十は聞いたかという頃に木刀が嫌な音を立てる。
目を開ければ木刀が裂けていて、もう一振りで壊れるだろうと思う。
それに周りは暗くなっていて来た道はなんとなく分かるのだが…。まぁいいか。
そこらへんに落ちている木の棒を錆びたナイフで少し持ち手を握りやすくしてから一本ナイフが折れてしまう。
ナイフも残り二本か…。お金が入ったらナイフくらいはあの剣を売ってた店で買っておこう。
手入れとかも考えるとやり方が分からないから刀は何本あってもいいんだが。ナイフを買ってから木刀を自作するしかないかもしれない。
カバンから水と干し肉を飲み食いしながら新しい木刀…というよりもこん棒だろうか…まぁ木刀で次の標的を探しに目を瞑って歩いていく。
川の流れる音が聞こえるから結構離れた距離まで来たのかもしれないから帰りながらゴブリンの石を除去していき、村に戻ったころには夜明けの光が差し込んでいる。
太陽が昇ってくるまで待ってからギルドに入るといつもの受付の人がいるので集めた石をカバンから取り出していく。
「どこまで行ってたんですか!心配…全部西の森から狩ってきたんですか?この量を?」
数え間違いでなければ八十ぴったりのはずだ。帰り道は少なかったのと、計算が面倒くさいので数人は放置したから。
「えっと…か、換金しますね!」
これで八千円。昼夜問わず働いてもその程度しか稼げないことに落胆するが、剣だけではあまり稼ぎづらいのだろう。
私ももう少しバイトとか経験しておくべきだったかもしれない。父に甘えすぎた結果だな。
受付の人が銀貨を八枚渡してくるので素直に受け取る。
「民宿…ホテル知りませんか?」
「みん、ほてる?ここには無いですが、宿のことですよね向かいの建物が宿ですよ」
そうだったのか。近くにあるとは灯台下暗しだな。呼吸法で痛みを軽減してるが筋肉痛がそろそろしんどいので今日は食事を取ったら一日眠って休もう。
「あ、アカネさん!馬車の件ですけどアカネさんのこと待ってくれるそうなので明日はギルドに顔出してくださいね?早朝から出るそうですよ」
馬車…あまりイメージ付かないが歩くより早いならそれに越したことはないか。
お辞儀してギルドを出た後は飲食店で肉をたらふく食べた後雑貨屋に寄るために服を脱いで包帯だらけの体で水浴びをしてから服を着て雑貨屋に入ると、体に付着してる水を見て嫌そうな顔をされたが食料と包帯を追加で買い足してから、刀売りの所に行く。
ドアを開ければ店主が音に気付いたのか裏の工房らしき場所から出てきてこちらを見てくる。
「三日って言ったはずだが?」
「明日の早朝出ていくことになりました…あと丈夫なナイフください」
「話し聞いてんのか分かんねえ奴だな。まぁナイフならそっちに並んである奴を選んで来い、それとカタナだったか?それも一応それらしいものは出来たが…時間が無いならとりあえず見てみろ」
ナイフを後回しにして店主が工房にまた出入りしてから銅の刀を見せてくる。
要望通り片刃にしてくれているし形も問題ない。ただ持てば重い。
鞘までは用意してもらえなかったので包帯で巻いて帯刀することにする。銅なら水に弱いだろうし鞘は欲しかったな。
「それでよかったのか?」
あとはナイフを見て、指で叩いて一番丈夫そうなのを二本ほど選んで店主に見せる。
「良かったのかって聞いてんだよ。もう聞かねえからな!そいつらは二本で銀貨1枚でいい」
支払ってからナイフの鞘もない事に不満を抱く。
「鞘はないんですか?」
「鞘だあ?そのカタナには無いが…いや、普通の鞘ならあるにはあるぞ」
「あと糸か布ください」
「そういえばそうだったな…」
糸をくれるが、あまり質が良くない。贅沢は言えないが刀の持ち手に握りやすいように巻いておく。
鞘もあまりいい物はないが、ナイフを納める鞘は見つかったのでそれを追加で購入しておく。
そのあと太ももの包帯に鞘を備え付けてナイフを納めると店主が勝手に納得したように頷いていた。
「なるほどな…それならベルトがあるからサービスしてやるよ」
雑貨屋にしてもそうだがサービスしたがる人が多いんだな。田舎は暖かいと聞くがこういうところが暖かいのかもしれない。
包帯よりもベルトの方がしっくりくるので感謝しつつ、お辞儀をしてから店を出る。
あとは宿に一泊するだけだ。歩きながら刀が重いことに違和感を感じるが、昔素振りで鉄心入りの木刀を散々振り回していた頃が懐かしいのでそれを思い出すと今使ってる木刀を新調したくなってきた。
雑貨屋に行ってから良い木を売ってる店がないか聞くと、建築士に聞いてこいと言われて木材のマークがある建物に入ると加工された木の香りがして落ち着く。
「えっと…何か用ですか?」
「木刀…これに似た丈夫な物をください」
刀を見せると渋い顔をされる。
「そういう物はないけど丈夫な木なら一応ありますよ」
「じゃあそれで。長さはこれと同じくらいで」
そう言うと加工された木を見せられるが、なんというか粗い作りをしている。
「買ったら建物の壁みたいにコーティングしてくれますか?」
「いいですけど…もう良い物をお持ちなのに変わってますね」
さすがに刀を使い続けると今の私なら間違いなく筋肉痛どころか捻挫や骨にひびがはいるかもしれないからそれの保険に過ぎない。
木の代金を支払ってから、ナイフで形を整えてコーティングしてもらうように渡すとしばらく時間がかかると言われたので適当に座って仮眠を取ってると仕上がった物を持ってきてくれた。
「これでいいですか?」
十分な出来だろう。強度も木の棒より丈夫なのは叩いて密度を確かめて満足する。
そのままお辞儀をしてから宿に向かうと、ベッドのマークをした建物がギルド前にあって、これが宿なのかと思い中に入る。
「初めまして?一泊ですか?」
頷くと食事はいるか聞かれたので頷くと銅貨10枚百円らしい。
部屋の鍵を渡されたので貰ってから鍵の番号を見てから扉に書いてある番号に鍵を差し込んで捻れば開く。
中はちゃんと清掃されてるみたいで、ベッドもある。あまりクッション性は良くないが地面で寝るよりは快眠できそうだと荷物を降ろしてからゆっくりと休む。
***
早朝と言われていたので早起きしようと思っていたがまだ日が昇ってない時間に起きる。
部屋の扉を開ければ食事が置いてあったので、固い肉と冷めたスープを食べてから、カウンターに鍵を置いてギルドに向かうと、中から声が聞こえるので深夜も営業しているみたいだ。コンビニみたいなものなのかもしれない。
ギルドの中へ入るといつもの受付が働いてるのを見て、これがサービス残業なのかと思うとブラックな一面に普通に働くことへの大変さを感じる。
「アカネさん早いですね?」
頷いてからせっかくなので水をもらいながら席に座ってちびちびと飲みながら、お茶が飲みたくなる。できれば緑茶が飲みたいものだ。
何も考えずに時間が経つのを感じていると受付の人がこちらに来てから準備が整ったことを告げる。
「短い間でしたけどアカネさんなら凄い冒険者になれるって信じてますから!」
そんな言葉をもらうが、凄い無職になれるということだろうか。冒険という響きからどこかに行く人という可能性も感じていたがやってることはコスプレしてたり、慈善事業みたいなことをしているからボランティア団体なのかもしれない。
受付の人に案内されると荷馬車があって御者が私の姿を見てから困惑したような顔をしている。
「この人が凄腕なのかい?」
「はい!ゴブリンが軍団で攻めてきても大丈夫ですよ!」
「そ、そうなのか…お嬢さんよろしくね」
私の剣術では集団戦に向いてないから軍団が来たら恐らく死ぬのは私の方だろう。一斬必殺、一撃必殺を百も続けば今の私なら腕が保てない。
御者の人に頷いてから、座るところが少ない荷物の上に大人しく座ってると何か受付の人と話し合ってから出立する。
馬がゆっくりと歩いているが、道が舗装されてないからおしりが凄く痛い。
それを我慢してもあまり早いとは言えない速度なことにすこしがっかりしている。
「お嬢さんは剣が凄いのかい?」
「凄腕らしいけどどれくらい強いのかな」
「眠ってるのかい?」
「大丈夫かな…」
何か話しかけてきているけど、頷いてはいる。ただ御者がこちらを見ることはないので伝わってないだけで、もしかしたら護衛とは暇つぶしの相手を求めているとかだったのだろうか。
だとしたら私に面白い話ができない。自分が今までやってきたことは剣を振っているか、学校生活でも誰かに話しかけられても剣のことしか考えていなかった。
「護衛って…何から守ればいいんですか?」
「あぁ。盗賊とか魔物かな。魔物っていってもはぐれだろうけどね。盗賊の方が心配かな」
盗賊とは盗賊か?泥棒が馬車を襲うのか。車やバイクで来られたらさすがに追い付ける自信は無いがタイヤをパンクさせる準備はしておけばいいだろうか?
何人来るかは分からないが足を切断すれば無理して多人数を相手にすることも減るかもしれないとイメージトレーニングだけはしておいておく。
相手が二人なら簡単だ。五人なら?十人なら?さすがに泥棒相手でも殺したら駄目だとしても手足までなら斬っていいならば大丈夫だと思う。
なにもすることないなぁと空を見上げて暇を持て余していると御者の人も暇なのか鼻歌を歌い始めている。
何もないならそれでいいだろう。
そういえば泥棒が来るならば模造刀の一本でも持ってきてくれないだろうか?そうしたら私的には嬉しいのだが。
警戒はしてたが何かが迫ってくる音もしないので夜になってくると馬を休ませながら御者が、火を焚いて食事を作ってくれる。
まかない付きだったとは知らなかった。干し肉を買わなくても良かったのか。
「美味しくはないかもしれないけどどうぞ」
お辞儀をしてありがたく野菜スープを頂いて素材の味を感じながら栄養を補給する。
「水も欲しかったら言っていいからね」
この仕事なら私は向いてるかもしれない。都会に着くまでは護衛を続けていこう。