二十一話 稽古がもっとしたい
倒れるまで鍛錬できる場所が欲しい。
鎧騎士の一件があって私の力不足を感じてしまった。そうなるとアド師匠は打ち稽古を一回くらいしか付き合ってくれないことを考えるともっと限界まで刀を振れる環境に身を置きたい。
そうは思うも、悩むだけ悩んでも仕方ないのでアド師匠に相談するためギルドで待っていると明るい調子でアド師匠がやってくる。
「今度こそアカネが楽しめそうなところを考えてみたんだけどどうかな?」
「ありがとうございます…庭付きの大木がある家で大木を壊してもいいところとかないですか?」
「ちょっと最初の流れで行く流れなのかなと思ったら急に意味が分からない上になんで壊す前提の木が庭にあるところを探してるのか話していくか、少し慣れてきたわ俺」
「鍛錬と…越冬準備と…鍛錬と…お風呂付がいいのでそこも出来ればお願いします」
「うん前半まで頑張って偉いね。後半からもう探す話になっちゃったけど、とりあえず俺よりティーナちゃんに聞いた方がいい気がするわ」
二人でカウンターに行くといつもの受付嬢が私たちの会話を少し聞いていたのか呆れた様子でいる。
「アカネさんもアドさんもご苦労様です。物件についてですけどアドさんはともかくアカネさんは住民権をお持ちでないので…」
「それじゃあ…アド師匠が買って居候すればいいんですね」
「俺が買うんだ。俺も住むんだ?別に宿でいいかなって思って考えてなかったな」
「あ…料金は私が払いますのでアド師匠はそのまま宿でいいですよ」
「アカネさん、あまり本音を漏らしすぎると私の方も紹介しづらいのですが…」
そもそもギルドって不動産も兼ねているのだろうか?仮に兼ねていたとしたらギルドはかなり儲かってそうだ。
今思えば魔石なんて石ころをお金に簡単に変えてしまってるから資金力はかなりのものなのだろう。
「越冬や木を考えているならいっそ王都から離れたところに住まうというのも選択肢に入ると思いますよ?」
「そこは美味しいもの…出ますか?」
「自宅を持つなら自炊とかはされないのですか?」
「アカネは料理とか出来るのか?」
「出来ないことも無いですが…調味料が私の知ってる物と違います」
「出来るんですね?」
「出来るんだな」
目を抉ってからは料理はしなくなったけどそれまでは自炊していたから出来ると言うだけで別に意外そうに見なくてもいい気がする。
しかしここに来て田舎暮らしをするというのもなんとなく移動が面倒くさい。
何か手っ取り早い解決方法はないものか悩むがあまり思い浮かばない。いっそダンジョンに住み着いて片っ端から魔物相手に打ち合っている方がまだ良い気もしてきた。
「アカネさんこれを機にランクを昇格させてはいかがですか?Aランクになれば住民権が無くても住んでよくなりますよ」
「いえ…王都以外にそこそこ大きい街はないんですか?」
「ありますけど…移動されるんですか?」
「王都って…食事とかはともかく魔物もダンジョンも一日かかって不便ですし…」
「ってなると俺は行かねえぞ?理由はもちろんティーナちゃ――」
「他の街も似たようなものですよ!王都は初級の物であれば半日もしない所にダンジョンだってありますよ!」
「そうなんですか?」
アド師匠がわざわざ別のダンジョンを選んだと言うことはあそこがお気に入りとかそういう理由だったのかな。
それにしたって私が王都にいるのはアド師匠がいるからが大半の理由だけど冬になったら打ち稽古一日一回程度なんてことになれば私からしたら王都にいる意味がない。
あと…アド師匠といても稽古か魔物倒しに行かないなら正直教えてもらうことが今はない。
それを言ったら魔法を教えようとしてくるんだろうけども、私は魔法よりも剣術を極めたい。
「一応王都で住める場所探しておきますから少し考えてみてくださいね」
「アカネは鍛錬出来ればいいんだろ?ギルドじゃだめなのか?」
「相手がいないので…」
「俺がいるじゃねえか」
「…そう、ですね」
そんな自信満々に言われても多くて二回か三回しか相手をしてくれないのに頼れない。
いっそ毎日ずっと斬りかかってみるのも考えたが破門されたらそれでおしまいだし。せめて一回はアド師匠に勝ってから堂々と免許皆伝を得て卒業したい。
仕方ないのでダンジョンに行くか。半日もしないところにあるならそこで斬り続ければ少しは剣に磨きがかかるだろう。
「アド師匠…私はしばらくダンジョンに籠ろうと思います」
「近場のダンジョンはそれこそゴブリンとかしかいないぞ?数も少ないしアカネからしたらレベルに見合ってない所だな」
「では強者の…集うダンジョンを紹介してください」
「悪質なトラップが多いからなぁ…そんなに戦いたい時期ならここら辺にいる魔物一掃してみたらどうだ?」
「それですアドさん!最近北には危険区域が多いというのに王都の人口が増えているのも兼ねて王都外に住宅街を建設しようとしている動きがありまして。もちろん国王が却下したんですけど、そこなら勝手に住んでもいいんじゃないでしょうか?」
「勝手にって…ティーナちゃんが、ギルドが受け持つってことか?」
「いえいえ、王都の外に一軒家を建ててそこに住んでもらったら良いかなと。勝手に作って住んでしまえばいいんですよ王様に何か言われたらアドさんのことを言えば変に口出しはしてこないでしょう」
「そこでも俺の名前が使われてくんだね。俺の扱いが名前だけになっていくんだね」
計画が勝手に進んでいくのを横目に果実水を飲みながら理想の住居。しかも新しくとなるとマイホーム。それなら和風をベースにしてほしいと思うが、畳なんてないだろうし木造の雰囲気だけ和式にしていくのがいいかもしれない。
「建築…するなら私の思う物を作ってほしいです」
「はい!アカネさんの要望には建築家の方に極力お伝えしますよ」
「紙を…ください。数枚」
「はい?」
疑問を浮かべられながら紙を渡されるのでペンも貸してもらい、そこに私だけ住むと言うことも考えたら一階建てが良いか悩んだが屋根の上で寝転んだりしたい気持ちが勝って二階建てにしてから。
浴槽。トイレを広めにしつつ、キッチンやダイニング、個室は客間ばかりになってしまうが、私の部屋だけは広く刀を振り回しても一足飛びしても余裕あるように書いていき、私の部屋だけ広く天井を高くするため一階が私の部屋で問題ないようにしておく。二階がほとんど客間だが気にしない。
あとは外観と周りの敷地に塀を設けること。庭に折れない大木を設置してからと色々継ぎ足していくと一人で住むには大きすぎる家が出来た。
「アカネさん、こんなことを言うのは忍びないのですが…お金は足りるんですか?」
「…いくらですか?」
「家具までかなり丁寧に書いてますけど魔道具ですよねこれ。金貨5枚くらいかかりそうな気がします。特にその壊れない大木とかいう不思議な要項で…」
また金貨だ!ゴブリン狩りの時間が来たようで、氷月に頑張ってもらわないといけない。
「そんなものないだろ。その設計図見せたら作れないものは却下されて値段下がるんじゃねえの?」
「だとは思いますが。家というより屋敷ですよねこれ」
「ゴブリンを…狩ってきます」
「それなら前のダンジョン潜ったほうがいいんじゃないか?他の冒険者もいるとは思うが」
「冒険者の少ない…ダンジョン魔物いっぱいのところどこですか?」
「人気が無いって言えば西のミノタウロスばかり出てくるダンジョンかな?あそこは間引かないと外にミノタウロスが出てくるし、強さと見返りが見合ってないってことで放置され気味だ」
「それならギルドの方で直接依頼しましょうか?金貨…とまでは行きませんが銀貨500枚までなら出しますのでミノタウロスをある程度間引いて金額に到達したら帰ってきたらいいでしょう」
「お願いします」
そう言ってタグを求められたのでタグを渡して受理作業が行われる。
タグと一緒にダンジョンまでの道筋を軽く描いてくれて地図がある。おおよその位置でしかないが西のミノタウロスが住んでた丘よりも超えた先、道の外れにバツ印が示されている。
「それじゃあ…行ってきます」
そう言って宿に大剣を預けて、重そうにしていたので手伝って倉庫みたいなところに投げてから雑貨屋に向かう。
携帯食量は多めにして、前回みたいな長期戦も想定して水もそこそこに買い足しておく。
別に水は氷月から飲めばいいんだろうけど、氷月には私にではなく私が氷月に栄養をあげたいから成長のために沢山食べてもらわないと。
準備がある程度終わったところで、フリティアの所にも寄って置く。
「相変わらずアカネ様は来たり来なかったりですね!以前頼まれてたパーティ記念の品出来上がってますよ!」
「それは…アド師匠が来た時でいいです。近々家を作ろうと考えて…部屋着とか布団とか枕とか…出来ますか?」
「宿暮らしでいい気はしますけど?アカネ様のことですから何か考えがあるんでしょうね、とはいえ何分アカネ様の部屋着に関してデザインがすぐには思い浮かびませんね!前みたいにアカネ様が考えてそれをベースにしませんか?」
別にそこは拘ってないので適当にパジャマとかワンピースとか適当に描いていくが、横からフリティアがそれを見ていてデザインが普通過ぎることに違和感を持ってるのか「むむむ」と悩ましい声で唸っている。
「よし!今の服をベースにデザインしましょう!」
「それでいいです…」
「それはそれとして寝巻はアカネ様の方を採用しますね。ところでこのゴブリンみたいな模様はなんですか?」
「兎です」
「兎でしたか!ここら辺では見かけないもので!それでしたらもうすこしふんわりとした毛並みにしておきますね!布団もデザインされてますけどこれらは何か意味があるんですか?」
「好きな物に…囲まれたいからです」
「なるほど…好きな物にですか。デザイン案をそのまま頂けるのでしたら割引させていただきますよ!」
「どうぞ」
デザイン案というと私と同じ服を着用する人が増えるということか。あまり考えれないが王都に住んでる者たちはそれなりに自分たちの服装に拘ってたりしていそうな気がするし。
服はそんなにかからなかったが布団の生地とかに関して詳しくないので触り心地が良くて毛玉が出ないような物とか言ってたら、そこそこの値段になった。まぁただの綿詰めでも良かったが初めての冬に必要なくらい暖かさを兼ね備えてほしいとは伝えたから多分大丈夫だろう。
稽古をする場所のためにまたお金が必要になったことで食材とかも買い足しておかないといけないだろうから冬を越せるくらいにお金も集めていかないと。
ミノタウロスの所へ向かいながらのんびりとした見知った道を歩いていくことになる。
道にはあまり魔物とか見かけないんだなと思うが、もしかしたらちゃんと警備されて魔物を駆除していってるのかもしれない。
王都という名前の通り一応城があるにはあるが、その付近に近づいたこともないし。門を見張ってる連中の肉体もある程度分かってるつもりだがそれでも冒険者の方が強いと思う。
もしかしたら城の中に強者がいる可能性はあるが、王都のサイズから考えて城のサイズが想像しているより小さいのが少し気がかりだ。大きすぎても不便だとは思うが。
王様というのもどんな人かは知らないが剣術を嗜んでいるのなら是非とも手合わせを願いたい。
***
日を跨いで、ダンジョンらしきところに着くと。ミノタウロスが外まで出てきているようで数十は歩いている。
一体になるまでは鉄刀で処理はしていったが、もう少しこの辺は整備して管理しておくとかしないのだろうか?これじゃミノタウロスがまた街路の近くに住処を作ってもおかしくない。
一体になったミノタウロスに氷月で斬るが、途中までは斬れるが半ばで折れてしまう。仕方ないので体中を氷月で斬りつけていくと失血で倒れてしまったのか浅い呼吸で必死にもがいている。
ちょっと肉質の固い牛肉だが氷月にごちそうだと思い各所の内臓を突き刺していき魔石と角を氷月で抜き取っていく。
最初だから数に圧倒されて仕留めてしまったが複数の戦闘にも慣れておきべきかもっと戦場慣れが必要かもしれない。
そうなると氷月で折れながら戦闘をしていくしかない。
私は目立つ洞窟の中に入って、ここも照明があるようで壁の中がどうなってるのか疑問を感じながら便利なことに変わりはないのでそのまま進んでいく。
入口から間もないというのにミノタウロスがいることに感謝をしつつ氷月の魔力を装填して展開する刃で斬りつけ音で斬りつけた他の個体からの攻撃を避けつつ隙が一秒あれば二十の剣戟をお返しに。それを幾ばくか繰り返せば立ってる者がいなくなる。そして解体作業。
修行として成立しているのか分からないが、何もしないより氷月が成長してくれてるはずなので私もそれに伴うように氷月の使い方を色々と模索する。
氷の重量をとにかく刀として成立するように意識して、氷月が壊れた後の再展開のタイミングなどを見測りながらゆるりとミノタウロスを処理していく。
思ったよりもミノタウロスが多い事も意外だが、ダンジョンのミノタウロスは最初からこん棒を持ってる個体か、持ってない個体がいて、どういう基準で彼らに武器が与えられているのか。
ダンジョンという都合上アトラクションで遊んでもらえないことに対して不満を持って外に出ていったんだろうけど管理人は一体どういう気持ちでミノタウロスだらけのダンジョンにしたのか。
ひたすらに斬りつけて失血させて止めを刺すという作業を終えてようやく一階層が終わる。
次の階層へと降りれば、先ほどと何が違うのか分からないミノタウロスが多く潜んでいてそれをまた同じように処理をしていくと刃こぼれをしている剣を持ってるミノタウロスも中に交じっていて少し心躍る気分になるが剣術を嗜んでるとはお世辞にも言えない雑な剣閃で他と同じく処理する。
氷月は同じ味ばかりで飽きないかだけが心残りになってしまうな。
一応角も回収してるが、これもバッグの容量を狭めていくので場合によっては捨てることも視野に入れよう。
何時間もミノタウロスばかり見ているとまるで世界に自分とミノタウロスだけしかいないんじゃなんて錯覚すら覚えるほど血まみれになる牛の魔石を貰う。
二階層にも多くミノタウロスが蔓延っていて、ダンジョンの中だと時間間隔が狂ってしまうためどれほど時間を要したのか分からないが見落とし聞き落としのないように全部屠ったはずだ。
三階層に降りようと思った時には階段が扉の奥にあるようで、スタッフがきっと飽きないように階段を隠したんだろうけど中から聞こえる息遣いはミノタウロスであまりボキャブラリーが少ないのかもしれない。
扉を開ければ今まで見てきたミノタウロスとは違ってサイズが一回り大きい斧を持った個体がいて、闘技場のような形状の洞窟に見世物か何かなのかと思うも中へ入ると扉は閉まり鎧騎士と同じような仕組みなのかもしれないと思い氷月を構える。
ミノタウロスがこちらに向かって斧を飛び上がって振りかぶるもそれを避ければ地面が砕けてその残骸を氷月で弾いたり避けて納刀した後にミノタウロスの体に剣戟を加える。
肉質が今までのミノタウロスと違うのかあまり斬れることができないが傷は入るので時間を掛ければいずれ倒れるだろうと力任せに斧を振るうミノタウロスを大木と思い連撃を与え続けていく。
これも何時間経っているのか分からないが体中から血を流しながらいまだに突っ込んで斧を振るうミノタウロスを斬りつけ刃をその肉に残して折れる氷月を再度展開してからようやく足を崩して倒れるミノタウロスの体を刺していき仕留める。
魔石も一回り大きいので少しは儲けたかなと角も頂いて階層を降りるために奥へ行く。
三階層も牛祭りで案外変わり種を用意されるより単純に二足歩行の固い生き物というだけで私からしたら良い練習相手なのかもしれないと気を変えて残らず処理していく。
このダンジョンはどこまで奥があるのか、それだけを考えながら倒れていく魔物の死骸たち。




