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第十五章 05 後始末

 王弟オスカーは、取り乱す国王アントニーへ向けて穏やかに言い放つ。


「兄上。先代国王陛下の遺言により、一時的に私が国王代理を務めるよ」

「一時的に……代理を?」

「次代の王はコーネリアスに継がせる」

「なっ、ならん!! 次はアーサーだ! でなければ王位は渡さん!」

「兄上に決定権はないんだ。国王の遺言ゆいごんは絶対だからね。だけど、罪人になる前に兄上が(・・・)遺言を残す(・・・・・)なら、アーサーに王位を譲ることができるよ?」


 意味を正しく理解した者たちはギョッとしてふたりを交互に見やった。いくら国王の遺言であっても、罪人であれば見送られる。まだ判決が下っていない今ならば間に合うと、自決をうながしたのだ。

 遅れて理解したアントニーは暴挙に出る。


「ま、まがい物だ! こんなもの――」


 アントニーの手から放たれた魔法の火が遺言状を包んだ。ところが少しもげることなく元の状態をたもち続けている。そんなはずは、と今度は引きちぎろうとするも、薄い紙なのに切れ込みすら入らない。

 オスカーは気の毒そうに眉尻を下げた。


「兄上……忘れたの? 国王の遺言状は特別な紙とインクでつづられる。破れず、燃えることもないということは、遺言状が本物であるあかしなんだ」

「そんな……」


 オスカーは大地を蹴って跳躍ちょうやくする。膝から崩れ落ち、呆然とするアントニーの前にふわりと舞い降りた。


「王冠と王笏おうしゃくは預かるよ」


 アントニーからふたつのレガリアを取り上げ、オスカーのそばで待ちかまえていた神官長アークトゥルス公爵へ渡す。アントニーはすがるようにオスカーのマントをつかんだ。まるでオモチャを取り上げられた子どものように。


「ま、待ってくれ……、悪政などいていない。だからが国王のままだ!」

「せっかくレグルス辺境伯が逃げるチャンスをくれたのに、棒に振ったのは兄上だよ。――裁きは追って下す」


 レグルス辺境伯がもたらしたチャンスとは王妃のせいにして逃げることだが、それは王妃に操られていたと告白するも同然だ。どちらにしても国民はついてこないだろう。

 オスカーはマントのすそを奪い返し、処刑場を見渡した。


「聞け、国民たちよ。ただ今より王の全権を、このオスカーが引き継ぐ。異議のある者は申し出よ!」


 ザッと足を引く音が会場に響き、誰もが深く腰を落とした。

 宰相が音頭をとる。


「オスカー王に栄光あれ!」

「「オスカー王に栄光あれ!!」」


 あくまで「代理だ」と言い張るオスカーの声は、宰相によって塗り潰された。

 歓声が鳴り止まないなか、セレーネとレオネルは微笑み合って手をつなぐ。

 これで終わりではない。ここからが『宝探し大作戦』の大詰めなのだから。



 ***


「さて、負の遺産を片づけようか」


 王宮の一室にて、巨大な円卓を囲むのは国王代理オスカーと三人の公爵、そしてレグルス辺境伯。

 交渉を行うのはこの五人だが、オスカーの左右にはふたりの王子が、各公爵の横には跡取りたちが座っている。

 顔ぶれを見るかぎり、カノープス公爵家の跡取りは長男のダルシャンではなく次男のルーシャンになったようだ。辺境伯の隣にはレオネルの姿もある。


 もちろんセレーネも参加してレオネルの隣を陣取った。今回もっとも迷惑をこうむり、一番働いたと自負している。父公爵もシリウス家に入った金額の半分はセレーネにやると言っている。だが、お金が欲しいわけではない。セレーネの目的は別にある。


 オスカーは侍従に手を上げ、金額の書かれた紙を配らせた。


「鉱山と土地以外はすべて換金した。税金分を国庫へ戻して、残りが三十億。ずいぶんと貯め込んでいたね」


 ベガ公爵家と、それに追随ついずいして甘い汁を吸っていた家は取り潰しとなり北の監獄へ送られた。未成年者は親族へ預けられたが、成人済みのリリアは両親と同じく監獄行きだ。


「ジョナサンには父が世話になったというのに、恩をあだで返してしまった。換金できた財のうち五割をシリウス家へ。残りを三家で分けたいと思う」


 治癒師である祖父ジョナサンは王宮の職をし、現在は公爵邸で祖母と旅行の計画を練っている。


 どの家もお金には困っていない。皆の関心は鉱山にある。故プロキオン公爵が掘り当てた金鉱山については、王家監修のもとシリウス家とカノープス家が共同経営し、鉄など剣の材料になる金属はレグルス家に、お守りに使う水晶などはアークトゥルス家に融通することで話がまとまった。

 土地についてもオスカーの采配で、着々と分け前が決まっていく。


「それからセレーネ嬢。アーサーの身勝手な婚約破棄について、賠償金を払っていなかったようだね。五千万ほどで手を打ってほしいんだが、どうかな?」

「かまいませんわ。……それよりも、お願いがございます」

「何かな? お手柔らかに頼むよ」

「わたくしに女児が生まれたとしても、王家には嫁がせない。これを誓約書にしていただければ満足ですわ」

「わかった。すぐに用意しよう」


 これでセレーネの願いは叶った。魔力が多いというだけで結婚相手を決められるなど時代遅れだ。


(もし子どもができたら、男の子であろうと女の子であろうと、好きな人と幸せになってほしいわ)



 次は前国王アントニーとグレイス妃の私財についてだ。ふたりは現在、牢屋に入れられ、沙汰を待っている。グレイス妃については先代国王を毒殺したとして極刑は免れないとされたが、セレーネが減刑を求めて聞き入れられた。


 何もグレイス妃のためではない。まだ十歳のカルロには耐えられないと思ったからだ。あんな暴君でもたったひとりの母親。逃げずにずっと従っていたことからも、切り捨てられないことは明白だった。牢に入れられようとも母は生きている。そのことはきっと、カルロの心の支えになるはずだ。


 オスカーは皆の顔を見まわして深くため息をつき、重い口をひらく。


「兄とグレイスの私財についてなんだが……、王領各地からひどく税を取り上げて貯め込んでいてね。民が地獄の底をっているような有様ありさまなんだ。カストル領をたまわったレオネルはよく知っていると思う」


 レオネルは渋い顔で頷き、カストル領の惨状を語った。領は盗賊が仕切っており、領民たちは盗賊の言うことしか聞かない。私財を投げうって領内を整備しようにも盗賊のふところに入るだけだった。

 オスカーが話を引き継ぐ。


「領民が安心して住めるようになるまでお金がかかる。兄たちの私財は領民たちに使わせてもらえないだろうか」


 これには満場一致で理解が得られた。貧しい領を放っておけば、めぐりめぐって自領に害がおよぶ。

 ひとまず肩の力を抜いたオスカーだったが、すぐに表情を引き締めた。


「そこで相談なんだが、レオネル」

「なんでしょう?」

「王領の中でも一番ひどいのがカストル領でね。やはり、本人たちに責任を取らせるべきだと思うんだ」


 本人たちとは、アントニーやグレイスのことだろう。

 レオネルは頷きつつも片眉を上げる。


「私は構いませんが、どうなさるのですか?」

「兄夫婦は管理人として北の砦に住まわせる。本来は塀の中でしかるべきだが、そこを拠点きょてんとして北の監獄内を立てなおさせるよ。二度と魔獣が沸かないようにね」


 円卓におどろきの声があがる。北の砦は堅牢けんろうな要塞ではあるが、大昔に作られた城だ。老朽化はしているし、何より冬は寒い。ぜいを尽くしてきたふたりが、果たして耐えられるだろうか。宰相であるカノープス公爵がおどけて言い放った。


「すぐに逃げ出すに決まっている。鉱山を賭けてもいい」

「賭けにならんではないか!」


 シリウス公爵が突っ込んで笑いが起きた。

 ごもっともだと、オスカーは頬をく。


「そこで、監視役としてアーサーを領主に置く。それにともない、カストル領と北の監獄地域を統合し、カストル辺境伯領とする」

「「アーサー殿下を⁉」」


 公爵たちの視線を受けてもアーサーに動揺は見られない。本人との話はついているのだろう。オスカーが横目でアーサーを見やる。一転してその表情は厳しい。


「アーサーは王太子の職務から逃げた。王位継承権は剥奪はくだつ、今後も王家の者としては扱わない」


 自業自得と納得する者や、それはあまりに酷ではないかと戸惑う者。多様な顔が円卓を囲む。そんななか、アーサーが椅子から立ち上がった。


「元より私には荷が重かったのだ。すまない、コーネリアス。あとを頼む」


 コーネリアスも立ち上がり、差し出されたアーサーの手を握った。


「兄上に無茶を振られるのは慣れていますからね。承知しました」


 そこへシリウス公爵が「ですが」と首をひねった。


「レオネル殿は魔獣討伐の功労者です。カストル領を譲るなら、賜わるべき爵位などはいかがなさるおつもりですか?」

「もちろん用意した。レグルス領に近いほうが便利だろうし、南隣のペルセウス伯爵領はどうかな?」


 言いながらオスカーはレオネルをうかがい、遠慮がちに付け足した。


「ただ褒章珠については……、君に見合うものが用意できなくてね」

「っ……、いえ、あれは自分の意思でお返ししたものですから」


 褒章珠は、働きに対して選定が行われる。ワンランク下のものを賜わるのは騎士にとって屈辱的なことだと辺境伯が言っていた。賜わらないほうが余程マシだと。

 レオネルは平静を装っているが、セレーネには血の涙が流れているように見えて仕方がない。


「レオ、褒章珠のこと、本当にごめんなさい」

「もう済んだことだよ。僕は気にしてないから」


 絶対に無理をしている。セレーネは心の中で月の女神シンシアに話しかけた。


(シンシア、戦の女神ヴァルキスから珠をもらえないかしら?)


『ヴァルキスに力を付与する能力はありません。過去にヴァルキスと契約した聖女が、ヴァルキスの力を珠に封入しました。女神の力だけではないのです』


 戦の聖女は不在なのだから、もう珠は望めない。考えられる策としては壊れない武器を作ることだが、そんなことが可能ならばすでに作られているはずだ。とんでもないことをしてしまったと、あらためて反省した。



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