表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/70

第十五章 02 先代国王を殺したのは

 王都の西にある旧プロキオン領は険しい鉱山を有している。その入口ともいえるふもとには、運命の女神をまつる神殿がある。ここで皆と待ち合わせる予定だ。

 女神シンシアの力で転移したセレーネは、運命の女神像の前に立っていた。もう少し目立たない場所を指定して願うべきだったか、とあせって振り返る。


「来たか」


 声のほうを向けば、セレーネの父ステファンが長椅子に腰かけたまま手を上げた。その隣にはレグルス辺境伯の姿もある。ふたりの後ろには執事服を着込んだ男がそれぞれ立っていた。騎士でもなく魔術師でもなく、執事だ。


「お父様、フェルナンはどちらに?」

「やつならシリウス領を守らせている。領兵団も全員そちらへやった」


 領地には母がいる。感情と切り離されていたときには見えなかった夫婦のきずなが、今ではしっかりと感じられる。


「ですが、危険をともなうというのに、執事を同行させるのは……」

「レイヴンの実力は知っているだろう?」

「ええ……」

「うちのジェームスも問題ない。辺境領でも上位に入る強さだ」

「……そうですの」


 ジェームスと呼ばれたレグルス家の執事は、父や辺境伯と同じ世代だろうか。噂だけはレオネルから聞いていた。魔力持ちなのに肉体派で、やんちゃだったレオネルの教育係だったとか。レイヴンが隣でうずうずしている。手合わせなら外でお願いしたい。


 真ん中の通路を挟んで左側の長椅子には、第二王子コーネリアスが護衛も連れずに友人三人と談笑している。

 セレーネの弟クリスティンと、宰相の息子ルーシャン。もうひとりはアルヘナ伯爵家の令息だったか。騎士志望なのだろう。腰から剣をぶら下げ、体格もいい。だがいずれも十五歳から十六歳。王子の護衛としては心許ない。


「殿下、護衛はどうしたのです?」

「やぁ、セレーネ嬢。そんなのいてきたに決まっているだろう?」


 そういうことを聞きたかったんじゃない。スッと目を細めれば、コーネリアスは肩をすくめながらも理由を話した。

 いわく、護衛の中に妙な動きをする者がいるという。


「少し前からカイトの行動がおかしい。ときどきいなくなるんだよ。まるで誰かに定時報告でもしてるみたいにさ。疑いはじめたらみんな怪しく思えて」

「だから全員撒いてきたと……?」

「一番確実な方法だろう?」


 セレーネはこめかみに手をやった。兄王子に王太子の自覚がなければ、弟王子にも王子たる自覚がないようだ。こんなところで兄弟らしさを発揮しなくてもいいのに。気持ちが顔に出ていたらしい。

 セレーネの口から小言が飛び出す前に、コーネリアスは先手を打つ。


「大丈夫だって! クリスもルカも実力ある魔術師だし、このリオンも騎士科で一番強いんだよ。ぼくはいつも二番手でね」


 学園の騎士科……それも一年生では説得力に欠ける。セレーネが不安げに見つめると、リオンはそつなく礼をとった。


「アルへナ伯爵家が次男、リオンと申します。レオネル様にはお世話になっております」

「――あら、レオと知り合いなの?」

「俺もコーネリアス殿下とともにレグルス家で学びましたから」


 それならまだ安心できる。レグルス家の強さも容赦のなさも、セレーネは身をもって学んだ。


 あともうひとり、計画のメンバーが集まるまで談笑していると、祭壇近くのドアがひらき、神官長のアークトゥルス公爵が入って来た。

 これで全員が集まった。

 神官長にはこの神殿を貸し切りにするため尽力じんりょくしてもらった。ここを拠点きょてんにして三日以内に物証を押さえ、答え合わせをするのだ。


 先代国王の葬儀があったあの日、公爵三家はベガ家の羽振りのよさについて議論を交わした。各々が持ち寄った情報をもとに、ある作戦を立てた。

 もともと父とレグルス辺境伯が作った『王太子すげ替え』計画をベースに、この『宝探し大作戦』という明け透けな作戦を決行するにいたったのである。本当ならここにレオネルとラルフも加わる予定だった。


 神官長は祭壇横のテーブルの上に、丸まった紙束を数本置いて広げる。


「お待たせしてすまない。この領地の地図と、こちらが鉱山内の地図だ。どこもり組んでいるから時間がかかるだろう」


 セレーネは女神の空間から三冊のノートを取り出し、三つの鉱山地図の上にそれぞれ置いた。


「これらが横流しの証拠となる帳簿ですわ」

「でかした、セレーネ!」


 この帳簿にはそれぞれ鉱山の名前が入っており、きんを掘り出すのにかかる必要費用と、その分をどこから補充したのかが詳細に記録されている。ベガ家は身銭みぜにを切ることなく、国の予算から経費をまかなっていたのだ。


 それだけではない。王領の管理としょうしてベガ家の領民を送り込み、鉱山を勝手に開発し、国へ報告することなくふところに入れていた。これらを差し押さえて裁判を受けさせる。それが作戦のおもな目的だ。


 セレーネの父は、三つの地図上で指を彷徨さまよわせる。


「三手に分かれるか。中央の山を私が、右の山はダニエル殿にお任せしたい」

「承知した」

「左の山をセレーネと殿下たちで――」


「――そうはいきませんよ!」


 神殿のドアがひらくと同時に男の声が響いた。

 皆が唖然と振り返るなか、コーネリアスが叫ぶ。


「そなたは、カイト! どうしてここが⁉」

「甘いですね、殿下。こちらが作った隙に乗じるなんて」

「っ……」


 コーネリアスが悔しげに唇を噛む。ふたりのあいだに立ち、セレーネは無表情に黒扇子をかまえる。迷いのない殺気を感じてカイトは慌てた。「お待ちを!」と、何やら後ろをチラチラと振り返っている。


「殿下! おもしろがってないで、出てきてください!」


『殿下』と聞いて、皆の頭に浮かんだのは失踪しっそうした王太子アーサーだ。しかし、「ごめんごめん」と軽く言いながら入って来た人物を認め、公爵以下全員が膝を折った。ただひとり、コーネリアスだけが剣呑けんのんな眼差しを向ける。


叔父おじ上の差し金でしたか」


 王弟オスカーはにこやかに笑うだけで答えない。

 微笑んではいるのだが、その瞳には強い魔力が宿やどっており、頭を押さえつけられたような錯覚におちいった。公爵たちはもちろん、セレーネでさえも重圧に耐えきれず、膝が笑う。

 ゆっくりと近づいたオスカーが、セレーネの前で立ち止まった。


「困るんだよ。我が国の王子に何かあったら」


 おっしゃるとおり。ぐうのも出ない。王太子アーサーは失踪し、そのうえ第二王子まで……となれば止めてしかるべきだ。ただ、それだけではない気がしてセレーネは身構えた。オスカーは視線を合わせるように身をかがめる。


「君のお祖父じい様が、断頭台にのぼっても構わないのかな?」

「っ……、祖父そふは、犯人ではございませんわ!」


 情けなくも震える声を声量でごまかす。目だってそらさない。顔が近すぎて、金冠が浮かぶ星の瞳がよく見える。オスカーも同じ熱量で見つめ返し、「知っているよ」と答えた。


「先代国王を……、父を殺したのは、この私(・・・)だからね」

「「――⁉」」


 誰しもが身をこわばらせた。コーネリアスは取り乱したように一歩踏み出したが、あまりのことに言葉を失っている。オスカーはさらに、セレーネの鼻先まで顔を近づけた。


「さて、セレーネ嬢。君には私の手足てあしとなってもらうよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ