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第十三章 03 王妃の親族

 先代国王ヴィクターが生前伝えていたとおりに、葬儀そうぎは王族と王家に連なる公爵家、そして近親者のみでつつましやかに行われた。お別れをしようにも、そのひつぎがあけられることはなかった。何者かに毒殺されて苦しげに顔をゆがめており、公開できるものではないというのが理由だ。


 セレーネの祖父は容疑者として捕らえられたままだが、まだ犯人には仕立て上げられてはいない。反抗的な態度をとればいつでも死刑を言い渡せる。そうやってセレーネをがんじがらめにしておきたいのだろう。


 シリウス家からはセレーネの両親と弟が出席したが、祖母の参列は許されなかった。帝国出身であることにくわえ、ヴィクター王の毒殺に使われた毒が帝国でしか手に入らない特殊なものであったことから、祖母にまで疑いの目が向いている。


 セレーネは、参列しているベガ公爵家を横目で見やった。


(もう少し、殊勝しゅしょうな態度は取れないのかしら)


 王妃の兄であるベガ公爵ピエールの顔には薄らと笑みが浮かんでいるし、公爵夫人ナタリアは娘のリリアと一緒に、喪服もふくのデザインがどうのこうのとうるさい。


(いい気なものね)


 そもそも、ヴィクター王が息子に王位を譲り、王都から離れた東の城へ移ったのは十五年前。国政からも離れていたのだが、五年前から王都に戻って離宮へ住むようになった。

 当時のセレーネにはわからなかったけれど、ゆっくりと国が傾いていくことに気づいたのだろう。現にヴィクター王が戻ってから少しずつ、王都は活気を取り戻していった。


(財務大臣のベガ公爵にとっては、目の上のコブだったでしょうね)


 国王や王妃に物を申せる、唯一の存在がいなくなってしまった。あの財務大臣ピエールを国王がぎょせるわけがない。頭が上がらない妻の親族なのだから。


(これから先、五年前のように国が傾いていくのかしら)


 棺に土がかけられる様子を、セレーネはジッと見つめる。鑑定眼に映るのは、棺の材質だけ。故人の情報が浮かび上がることはなかった。

 最後まで葬儀に参加したセレーネは、アーサーの隣にロザリンがいないことに気づく。


「殿下、ロザリン様は?」

「……母上が参列を許さなかった」

「そうでしたの」


 王妃の性格からして、ヴィクター王が残した『身内だけで』という言葉に従ったわけではないだろう。あくまでもロザリンを認めない。それを示すためならば、故人をも利用する。


(王妃陛下の行動が、あからさまになってきたわね)


 葬儀も終わり、両親と弟を見送るため、セレーネは車寄せに向かう。アーサーと話をしたものだから少し遅れて着くと、車寄せの前でにらみ合うシリウス家とベガ家の姿があった。

 こちらに気づいた弟のクリスティンを手招きする。


「何があったの?」

「最初は馬車の順番でめてたんだけど……」


 我が家こそが優先されるべきだと公爵ふたりが揉めているあいだに、ベガ公爵夫人ナタリアが、セレーネの母コレットにケンカを売ったという。

 いわく――


『まぁ、コレット様。喪服だからといって、手を抜きすぎではなくて?』

『先代陛下のご意向をんだ結果ですわ。散財をよしとせず、ご自身の葬儀まで節制を願った御方ですもの。そのようにゴテ盛りした喪服など不敬ですわ』

『ご、ゴテ盛りですって?』


 そして両者は睨み合う。


「――と、いうわけです」

「ハアァ……、他家はいい迷惑ね」


 今日は我が国の五大公爵家がそろっている。王弟であるケンタウルス公爵はまだ国王のそばに残っているが、カノープス家(宰相)とアークトゥルス家(神官長)が後ろに控えている。どちらも微笑みを保ってはいるけれど、その眉尻は下がり、時折ヒクついている。


 場を収めようとセレーネが進み出たとき、馬のいななきとともにあらわれたのは、ベガ家の馬車だった。

 ベガ公爵が鼻で笑う。


「ではお先に失礼するよ」

「うふふ。さすが王宮の者たちはよくわかっているわ」

「当然ですわ、お母様。わたくしたち、王妃陛下の親族ですもの」


 勝ち誇ったような顔で、時折こちらを振り返りながら馬車へ乗り込んでいく。父は冷めた目でそれを見送った。馬車が門の向こうへ消えたのを確認すると、車寄せにいた公爵三家はきびすを返す。


 一同は、すぐ近くにある庭園へ向かった。背の低い花々が咲き乱れる庭園は、まわりに隠れる場所もないため、おいそれとは近寄れない。遠くからも丸見えだが、やましいことがないと言い張るにもちょうどいい。


「単純で助かるよ」とは父が吐き捨てたセリフだ。


 シリウス家はもちろん、どの公爵家も最初から馬車など呼んでいなかった。先を競うように車寄せに向かえば、ベガ家を一番に帰すことなどたやすい。


 用意されていたテーブルセットに、公爵三人、夫人三人、息子三人に別れて座る。セレーネはやることがあるので座らない。

 ふと令息三人のテーブルを見れば、カノープス家の長男、ダルシャンの姿がなかった。


「あら、ダルシャン様は?」

「兄は……、領地で謹慎きんしん中です」


 そう答えたのは、ダルシャンの弟ルーシャンだ。


「謹慎とは、穏やかではありませんわね?」

「アイリス様をのがした罰ですよ。勝手に婚約破棄なんかして」

「ああ……」


 あれはアイリスも望んだ結果だから、破棄というより解消だと思うが、ダルシャンを擁護ようごしてやるつもりはない。


「それより月の聖女様、今度お手合わせ願えますか?」

「ええ、喜んで」

「やった! クリスには負けられないからね!」

「ルカはそれ以上強くならなくていいよ!」


 ルーシャンは魔術師を目指しており、クリスティンと同い年で仲もよい。ルカ、クリスと愛称で呼び合っている。もうひとりの令息は、神官の家系であるアークトゥルス家の嫡男ちゃくなんダリル。


「ダリル様は大きくなられましたわね。わたくしのことを、覚えてらっしゃるかしら?」

「もちろんです。セレーネ様はさらにお美しくなられましたね」

「まぁ、お口まで達者になって」


 国民は十歳になると神殿で魔力を測る。測定に訪れたセレーネと出会ったとき、ダリルはまだ五歳だった。十三歳になった今は、神官見習いとしてすでに働いている。

 昔話に花を咲かせていると、セレーネの父が咳払いをした。


「セレーネ! 下を頼む」

「お任せください。では皆様、ごきげんよう」


 美しく礼をとり、セレーネは影に沈んでいく。案の定、カルロが影にひそんでいた。セレーネは半径十メートルを素早く結界で取り囲む。これでカルロは逃げられない。地上の音も遮断した。

 にっこりと微笑むセレーネに、カルロはうろんな眼差しを向ける。


「何をたくらんでるんだ?」

「カルロ、わたくしと手を組む気になった?」

「おれは! 誰とも手なんか組まない!」


 セレーネの手を取ってくれなくてもいい、王妃の手を取らなければそれでいい。

 今、王妃は国王と王弟の話に付き合っている。こちらの動きを知るのは話が終わったあとだ。その内容を報告できないカルロはしかられてしまうだろう。せめて、ごまかす話題でもあれば……。


「彼らは、秋に行われる収穫祭の話をしているだけよ」

「それなら聞いてもいいだろ! 本当は何を話してるんだ⁉」

「カルロ……お願いだから、自分の身を守ることを第一に考えてね」

「うるさい! セレーネの言うことなんか聞かねーから!」


 吠えるように叫んだカルロは、勢いよく結界に突っ込んでいく。ムダなのをわかって何度も体当たりするさまは、元気な子犬を見ている気分だ。ほんわかとした気持ちは顔に出さないでおく。これ以上嫌われたくはない。


(どうか、王妃の捨て駒になどなりませんように)


 それだけがセレーネの願いだ。



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