第十一章 04 話が通じて不安
すべてが順調に運んでいる。だというのに、見えない何かがセレーネの顔を曇らせる。頭に浮かぶのはロザリンのことだ。
(きっと、寂しく感じているだけだわ)
王妃教育の賜物か、最近のロザリンは令嬢らしい振る舞いをするようになった。喜ぶべきなのに、昔の破天荒なロザリンを懐かしく思ってしまう。
それは王太子アーサーも同じだったようで――
「――セレーネ、聞いてくれ」
「はぁ、なんですの?」
アイリスやテティス、スカーレットと楽しく昼休憩を過ごしていたところへ、アーサーが椅子を引いてやって来た。まさか居座る気か。仕方なく席を詰める。丸テーブルは距離が近く感じられるから困る。
「最近、ロザリンと会話が通じるんだ。どう思う?」
「「……」」
神妙な顔をして、言うことがそれか。相手が王子でなければ風魔法で吹き飛ばしてやるところだ。物騒な考えが顔に出ていたらしい。隣からアイリスが引き止めるように袖をつかむ。
「早まってはなりませんわ!」
「そうね。――殿下、」
「それに、くるくるまわってくれないんだ。かわいかったのに」
「殿下……」
「すっかり色気づいてしまって、まわりの男たちの視線が不埒だ。父上までロザリンにいい顔をする」
ただ聞いてほしいのか、意見を言ってほしいのか。前者ならほかをあたってほしい。
「しかも護衛にブレイズを指名するし」
「ブレイズ様を?」
「王宮では知らない人間ばかりだからな。見知った者をそばに置きたいと言われて」
「よくお許しになりましたわね?」
「久しぶりの我儘がそれだったんだ。許すしかないだろう。仕方がないからラルフもつけた」
そういえば、少し前からラルフがシリウス家にあらわれなくなった。義兄の立場もあり、断れなかったのだろう。
この王子はロザリンにとことん甘い。レオネルの聖杯を簡単に手放したことを思い出し、フツフツと怒りが込み上げてきた。聖杯はまだ返していない。アーサーがロザリンにあげたのだから、ロザリンからセレーネがもらっても問題ないだろう。
「よかったではありませんか。くるくるまわる王太子妃なんて国の名折れですわ。ところでロザリン様は?」
「ダルシャンと一緒に勉強している。つまらないから抜けて来た」
一緒に勉強してこい。
喉もとまで出かけた言葉をなんとか飲みくだす。頭が悪いわけでもなく要領のいいアーサーだが、順位がかなり落ちてきた。三年生になり、テストによるクラス分けがないからとサボっているのはあきらかだ。
「ああ、心配だ。セレーネもロザリンの護衛になってくれないか?」
「お断りしますわ」
「大聖女にはテティス嬢がなるのだろう? セレーネは自由じゃないか」
「わたくしはカストル伯爵家に嫁ぐのです。守るべきはカストル領であり、領民たちですわ」
「そのなかにロザリンも入れてくれたらいい」
「王太子妃が王宮にいなくてどうするのです。言っておきますが、わたくしは分身などできませんわよ?」
「……、できないのか?」
「わたくしをなんだと思ってらっしゃるの⁉」
くだらないやり取りで休憩時間がつぶれた。次の日からセレーネたちは、アーサーに見つからない場所を求めて学園をさまようのであった。




