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第九章 01 断罪のお時間です(前編)

 午前中に卒業式を終え、夕方から始まるパーティーまでは支度したく時間だ。公爵家のタウンハウスには戻らず女子寮で着付けを済ませ、セレーネは控え室でおしゃべりを楽しむ。

 丸テーブルにつどうのはアイリスとテティス、それにスカーレットだ。スカーレットとは聖女三人の秘密を共有するほどに打ち解けた。


「皆様にお伝えしておきたいことがあるの」


 神妙な面持ちでセレーネが切り出すと、友人三人は静かに耳を傾ける。


「実はわたくし、とある御方(・・・・・)と婚約したのですけれど、王家から許可が下りない状況なのです」

「まぁ! お相手は? 教えていただけませんの?」

 

 アイリスは好奇心いっぱいの目を向け、スカーレットは思案顔で顎に手をあてる。


「もしや、聖女であると知られたせいで、王家が止めているのですか?」

「その可能性が高いと思うわ」

「セレーネ様、もったいぶらずに教えてくださいませ! お相手は⁉」

「アイリス様……、わかりましたわ。わたくしが将来を誓い合ったのは――」


 婚約式は身内だけで済ませ、婚約許可証が届いたタイミングでお披露目ひろめする予定だった。こんな形で言いたくはなかったが。

 コクリと三人は唾を飲む。セレーネも覚悟を決めた。


「――カストル伯爵よ」

「「カストル伯爵……」」

「って、レオネル様ではありませんか⁉ セレーネ様、正気ですの⁉」


 カストル伯はレオネルが褒章ほうしょうとしてたまわった爵位だ。

 やはりアイリスの反応はよろしくない。ほかのふたりも顔をくもらせている。


「問題ありませんわ。レオネル様の手綱たづなはわたくしがしっかりと握っておりますもの。おーっほほほ!!」

「セレーネ様がそうおっしゃるなら……、もう何も申しませんわ」

「心配してくださってありがとう。でも本当に大丈夫よ」


 話しておきたい三人には伝えることができた。けれど皆の顔に明るさが戻らない。話題を変えるべく、セレーネは勝負服を着たテティスに話を振った。


「テティス様もいよいよ、聖女であることを公表なさるのね」


 テティスのよそおいは、海の女神メレディスを彷彿ほうふつとさせる透明感のある青いドレス。さらにパールを縫いつけ、華やかさを演出している。

 海の石の代金を払おうとしたテティスを高笑いでねじ伏せ、そのお金をドレスにかけさせたのだ。その甲斐かいあって、セレーネの装いにも引けを取らない。姿勢が伸びた今は背の低さも感じさせず、存在感もある。


「はい。おふたりには時間をいただき、感謝しています」

「いいのよ。それで、証拠集めは万全なのかしら?」

「バッチリです! これでギャフンと言わせてやります!」


 誰からともなく「うふふ」と笑いがこぼれ、四人の楽しげな笑い声が控え室に響く。そろそろパーティーの時間だ。立ち上がった四人は頷き合い、パーティー会場へ向かった。


 会場の入口――舞踏ぶとう館の玄関ホールでは、パートナーを待つ生徒たちの姿がそこかしこにあった。その中でもレオネルとラルフは注目の的で、あきらかにふたりが目当ての女子生徒たちが会場へ入らずにホールをうろついている。


(あらまぁ……)


 討伐後、レオネルの異名は『紅茶の騎士』から『閃光せんこう獅子しし』に変わり、ラルフも『黒炎こくえんおおかみ』と呼ばれておそれられている。彼らの前には絶対に出るなという教訓を込めたもので、巨大な魔獣エクリプスを一刀両断にした話は、今も社交界でホットな話題だ。

 セレーネを見つけ、レオネルは頬を緩めながら手を上げる。


「セレーネ、やはり君の黒髪は金緑のドレスによく映える。ひざまずきたくなる美しさだ」


 セレーネの手を取って口づけると、まわりから悲鳴があがった。「きゃぁ」という黄色い悲鳴のなかに、「いやぁぁ」と嘆く悲鳴も混ざっている。

 セレーネだって他人事ひとごとではない。叫びたいのを我慢がまんしている。レオネルに熱い眼差しで見上げられ、羞恥しゅうちに腰が砕けそう。公爵令嬢のプライドだけで震える膝を支えている。

 レオネル狙いの令嬢たちは卒倒そっとうし、警備にあたっていた騎士たちが救護班とす。どちらもご愁傷様だ。


「ありがとう、レオ。あなたも黒の正装がよく似合っているわ」


 黒地に金の刺繍ししゅうほどこしたテイルコートの胸もとには、スミレ色のハンカチ。ここまでやれば、お互いの関係を否応いやおうなく知らしめることができるだろう。


「ご存じだとは思うけれど、紹介しておくわね」


 セレーネは三人の友人を手招きした。最後にテティスを紹介すると、ラルフが高い背をかがめて顔をのぞき込む。


「うん? 君は……あのときの令嬢だよな? 湖で……」

「あっ、はい! ベラトリクス伯爵様にもご迷惑をおかけしました。あの、助けていただき、ありがとうございます。お礼が遅くなり、も、申し訳ございません……」


 尻すぼみに告げるテティスの顔が赤い。ラルフは自身の顔面偏差値をわかっていないようだ。おかまいなしに顔を近づける。


「顔のアレは……なんだ、一枚だけになったのか」

「えっ⁉ なな、なぜそれを⁉」

「あ~、すまない。湖から引き上げるときに見えちまった」

「あわわ……」


 オタオタと踊り出しそうなテティスの肩を、セレーネが両手で押さえる。


「このうろこ、美しいでしょう?」

「ああ。初めて見たときは、伝説の人魚かと思ったぜ。女性にとってはないほうがいいんだろうけど、俺は好きだな」


 そうでしょう、とセレーネたちは何度も頷き、テティスは真っ赤になってうつむいた。

 その背中をセレーネはトンと叩く。


「テティス様、俯いてはなりません。今から戦場に立つのですよ!」

「――はっ、はい!!」

「「戦場⁉」」


 テティスの後ろで「うふふ」と含み笑いをする令嬢三人に、レオネルとラルフは顔を引きつらせる。


「さぁ、やるべきことはたくさんありましてよ!」


 レオネルから差し出された手を取って、セレーネは会場の入口をくぐる。この貴族学園でもっともきらびやかな場所だ。社交界デビューする前に、生徒たちはここで立ち振る舞いを学ぶ。

 それが本来のあり方なのだが、最近は婚約破棄や断罪を行う場として活用されている。最初こそ阻止に動いた学園側も、今ではあきらめており、あえて場を設けることで学生のうちに失敗させておこうという思惑があるのだとか。


「ふふ。今年もやってるわね」


 高台には王族席があり、学園長でもある王弟おうていと王太子が。さらには来月から学園に通う第二王子がおわす。その三人が見下ろすステージ上では婚約破棄が次々と行われ、王太子は眉間をみ、王弟は頭を抱え、第二王子は目を白黒させている。

 王太子が頷けば、婚約破棄は受理される。そのため、ロザリン絡みで破棄される男子が多い。王太子も他人事ではないから無下むげにもできない。

 ロザリンは槍玉やりだまにあがることがわかっているためか、姿が見えない。


「では、行って参ります!」


 書類を手にテティスがステージへ上がる。予約制のステージは制限時間十五分。そのなかで勝利をもぎ取らねばならない。


『ミルザム子爵令息ブレイズ様、ステージへお上がりください!』


 司会の声にブレイズが肩を揺らす。なぜ自分がといった顔でおそるおそるとステージへ上がった。ブレイズの卒業を祝うために来ていた両親、ミルザム子爵夫妻もステージ脇へ駆けつける。

 ステージに上がってすぐ、テティスの姿にブレイズが目をまたたかせた。


「……その髪色。テティスなのか? しかし、顔に気味の悪い模様があったはず」

「間違いなく私ですよ。シェダル子爵家が長女、テティスです」

「へぇ、ずいぶんと変わったな。ロザリンほどではないが、見られるようになったじゃないか」


 テティスの青灰色の髪はツヤツヤに手入れされ、惜しげもなく背中に流して金の鎖を緩く巻きつけている。舞踏会では結い上げるものだが、婚約者と踊る気がないのだからこれでいい。おでこが見えるように前髪も上げ、光る鱗と、あおく大きな瞳はとても魅力的だ。

 どこまでも上から目線のブレイズに、テティス側のステージ脇にいたセレーネたちは殺気立つ。だがテティスは落ち着いたものだった。


「それはどうも。今日は大事なお話があってお呼び立てしました。ミルザム子爵夫妻にもぜひ聞いていただきたい」


 両親の存在に気づいたブレイズがあせる。


「なんのマネだ⁉ まさかとは思うが、婚約破棄する気ではあるまいな?」

「そのまさかですよ、ブレイズ様」

「――ハッ! やまいはほとんど治りかけているようだが、まだあとが残っているぞ。そんなお前を嫁にもらいたいやつがどこにいる? おれしかいないんだぞ? それに王太子殿下だって承知しない」


 王太子を納得させなければ婚約破棄は成立しない。ただ「嫌だから」という理由だけではだめなのだ。



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