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7 ここ4階だよ?


転移したのは第一号店の裏にある従業員用の寮の私の部屋だった。


……いやここでもう既に声が聞こえるんですけど?

ここ4階だよ?

窓も扉も空いてないよ?


――ねえ?


「かっ、カヴィナ様っ、落ち着いてくださいぃ……!!」

「……ん、ごめんセレ、ちょっとイライラが……。ここで待っててもいいよ?」

「……え?何でですか?」

「なんっていうか……殴っちゃうかも、しれないし」

「余計に置いてかないでください!!ほらっ、行きましょう?」

「……ん!」


いやでも、それにしても、うるっさい。


セレに止められたから我慢してるけども、降りるにつれ声が段々大きくなる。

もう、これって営業妨害っていうかただの近所迷惑だよね?


殴りたくなってきた。


……正確に言えば、私は手より足の方が先に出るので、蹴りたくなってきたの方が正しいが。


「――だから、商会長に会わせろと言っているだろう!!」

「ですから、店長は現在不在で……」

「呼べと言っている!!もう5日だぞ!!?いい加減にしろ!!」

「なので、せめてご用件を……」

「何度も言っているだろう!何故ただの平民のお前に、この国の第二王子である俺がそんなことまで伝えねばならんのだ!!?貴様は王家を軽視しているのか!?」

「いえいえそんな……」


ちょっと、駄目だわ、セレに止められた気がするけど、気分的にもう無理だった。


一階に降り寮とつながっている商会の裏口に入り店舗側の入り口まで行くと、ラリーやシルビアや、第一の従業員たちがいた。

ああなるほど、ラリーがまだ第四に移動してこないのはこいつが原因だったのか。


第一の子たちはなあ、セレも含め変な方向で気を使ってくるから、迷惑をかけないように、とかその辺なんだろうなあ。


「――ぐうぇっ」

「“そんなこと”?そっか、“そんなこと”なんだ、ここまで、5日も、営業妨害をしておいて、用件は“そんなこと”……?」

「おい、貴様!!何をするのだ、この俺に対して――!!?」


っは、なんか雑音が聞こえるなあ。


とりあえずくるっと振り返り、尻餅をついていたラリーに手を差し伸べ、立ち上がらせる。


「らり、怪我してない?大丈夫?」

「てっ、店長、っすか!?」

「……?そうだけど」

「うっ……結局店長の力を借りなければならないとはっ……無念っす!!」

「いや借りようよ、そこはさ?」

「あと、靴が今ので汚れたと思うっす……こちらを」

「あーうん、ありがたい、すっごいありがたいんだけど」


だけど、どこからいつの間に出したの、その靴。


有難ーく靴を履き替えさせてもらい、つま先をトントンっとやった後、未だに尻餅をついた第二王子が転がっている方を見た。


……騎士みたいな人たちが声をかけていて、メイド姿の人もいる。

この太陽の眩しい時間に、長い間立たされ続けるんでしょ?


「失敗だったかなあ……?こんなに頭悪いなんて、誤算だよ、もう」

「カッ、カカッ、カヴィナ様っ!」

「貴様、この俺を侮辱したのか!!?」

「えっ?聞いてて分からなかった?」

「なんだとっ!?この俺に――」

「いやさ、まずさ、この俺ってどの俺なの?自分が有名人だとでも思ってる?……だっさ」

「〜〜っ!!?」

「とりあえず中に入れ?君のせいで私、とってもイライラしてるの。だから――早くしないと、また足が出ちゃうかも?」

「分かった!!分かったから、蹴らないでくれ!!」

「……うん、早く着いてきてね」


踵を返し、中に入るよう促す。


「セレ、2階の談話室に居るね。従者の人たちは別室で飲み物出してあげて」

「りりょっ、了解しましたっ!」

「おい待て!置いていくな!!」

「――は?」

「!!」


ちょっとまた、イラッときてしまい、襟をつかんで引っ張っていく。


なんていうか、あれ?

こいつに対する沸点低くないか、私?


なんでこんなイライラするんだろ。


「おいっ!!離せよ!おい!!」

「うるっさ、喉痛くなんないの?それ」

「うわっ」


早く離して欲しかったらしいので、部屋に入った途端放り投げる。


王子はまたも尻餅をつくことになったが、ソファに投げようと判断できる理性がもうなかった。


「痛いだろう!急に落とすな!!」

「うん、そうなんだ良かったね?……で、用件は?店長の私、カヴィナ・テディ―が聞いてあげるけど?」

「……すまないが、防音結界は張れるだろうか?」

「――!!」


えっ。

あれっ?

なんか、意外にも理性的な感じ?


とりあえずうん、結界、結界……。


「張ったけど……良かった、一応ちゃんとサラマンダー様の血は持ってるんだ」

「サラマンダー様?……叔父上のことだろうか?」

「ああそう、うんそう、エイダン・パラルフィニアー様。君の叔父……で、あれが演技だとかどうでもいいけど、とりあえず賠償金は払ってもらうからね?」

「賠償……俺はこれでも第二王子なのだが……?」

「うん!……で?」

「――っ!」


容赦なく、いやそもそも論、容赦なんてしてやる義理はないんだけど、立ち上がっていた王子に当たらないよう配慮はしつつ、常備している短剣をその首に突き付けた。


「まずね、勘違いしないで欲しいんだけど、君がお腹に蹴り一発で済んでるのは私の部下が止めたから。あれでも手加減してたつもりだし、第一、防音結界張ってるんだから、助けを呼べない君はいつ死んでもおかしくないんだよ?」

「……悪かった、本来得られていたはずの5日分の売り上げは払おう」

「その倍」

「――え?」

「だから、倍は払ってね?」

「…………分かった」

「ん!じゃ、座って?今度は別枠だけど」

「……」

「なーに?礼儀とかなら言ったって無駄だよ?」


早速座って(いつの間にか足も組んでいた)ソファの肘掛けに頬杖をつき、王子が不思議そうな目で見てくるのを横目に、部屋の隅にある棚からコップを二つ取り出し(魔法で)、同じく棚にあったアイスティーを取り出し(魔法)、コップにアイスティーを注ぎ(魔)、コップの中に氷を生み出し(以下略)、同じく棚にあるレモンを取り出して浮かべる(略)。


「いや、そのだな……魔法、なのかそれは?」

「え?見て分からないの?」

「……」


王子は沈黙したまま座った。

できたアイスティー✕2をゆっくりと机の上に置く。


「で、なんでこっちがまだ連絡してないのに来たの?しかも5日前からって」

「連絡?何のことだ?」

「ん?」

「?」


おいしそうにアイスティーを飲んでるところ悪いんだけど、なんか話が微妙に嚙み合ってないない気がする。


昨日の夕方、私は目が覚めた。

一昨日の朝ルー君と優しめの“喧嘩”をした。

3日前、伯爵とリーと話した。

4日前にステラとリーを拾い、ルー君に貴族を取り込めと言われた。


だから、それより前から押しかけてきてたっていうのは、ルー君が既に伯爵から根回ししてたんじゃないかと……?


「ええっと、うちのルークに近々連絡するから待っていてみたいなのを言われて、それを待てずに阿呆な王子は早く来たんじゃないの?」

「いや、人違いだ。俺はテディー商会に依頼があって来たんだ」

「……(王子)から?」

「ああ、俺個人からの依頼だとも」

「――っっいやお忍びで来いよっ!」

「……?何故?」


あーなるほどね、うんうん、こういう感じかあ。

頭悪いのかと思ったら仮面被ってただけかと思ったら本当に頭悪い奴かあ。


「……依頼の内容は?」

「国王と王妃の仲を取り持つための、橋渡しを頼みたい」

「っいやお忍びで来い!!」

「……?」


いや、不思議そうな顔をするんじゃない、本当に。


国の案件じゃん。

貴族に感づかれちゃまずいじゃん。


「受けてくれるだろうか?」

「あー……ん、まあ、良いんだけど……」

「そうか、それなら良かった。今までいくつか商会を回って来たんだが、受けてもらえなくてな」


阿保だ!

こいつ本気(マジ)の阿保だ!


……という言葉はしっかり飲み込んだ。


「うーんと、“指名”はするの?」

「ああ、カヴィナ・テディ―商会長。……あなたに、この依頼を任せたい」

「――私、今は依頼取ってないよ?」

「それはあなたの気分の話だろう?」

「んー?……どこで知ったの?」

「俺の勘だ!」


……自信満々なところからも、嘘は感じられない、か。

んー……。


テディ―商会の主な商品は“労働力”。

密偵や手伝い、護衛、いろんなことを引き受ける、いわば何でも屋。


そのために、従業員たちに危害が加えられたり誘拐されたりしないために、従業員たちが“戦えること”がテディ―商会を成立させるための最低条件だった。


素質があるとか気に入ったとかいう理由で私がほいほい連れてくる子たちの中で戦えない子が出た場合は、同じテディ―から護衛をしっかり連れて行かないと依頼や外出は駄目ってなっているし、4人の班を作って行方不明者が出たらすぐ報告するように徹底している。


……もっとも、大抵研修中に班の護衛役が強くなりすぎて返り討ちにしちゃうんだけど。


そんな、商会としては珍しい戦闘力の重視される中で、テディ―商会長(カヴィナ・テディ―)とは最強の戦士である。


ただ私が色々忙しいのと、選んでいたら不満が出るだろってのと、あと面倒なので、依頼は受け付けてないってことにしてるのだ。


だから王子が知ってるのはおかしい、んだけど……。


「まあうん、いっか」

「いいのか!?」

「だけど、仮にも商会長だから高いよ?」

「……母上に頼んでおこう」

「――あ」


ここで思い出す。

そういや私、第二王子囲めって言われてたわ。


「ね、こっちからも君にお願いがあるんだけど、良い?」

「……何だ?」

「王子さ、テディ―で研修受けてみない?」

「――は?」

「というか、後見人になってくんない?」

「……何故?」


後見人なんかがいるのか、という顔である。


「私達ね、今王妃様に狙われてるの」

「――は?お前、もしかして王妃を暗殺しに行くつもりか?……あ」


また、直球な。


でも、こっちが素なのかな、もしかして。

だけど仮面被るにしても、もうちょい別の案はなかったのか。


「いやいや、そんなまさか。……あと、口調は気にしなくていいよ?私が()()()()だし」

「……分かった。いやでもお前、笑顔で人を殺しそうな顔をしてるじゃないか」

「なんって失礼な。んなわけないでしょ、私だって人の心くらいあるよ!」

「……初対面で短剣を首に突き付けておいて?」

「いや、あれは君が悪いでしょ?」

「だとしてもあれはないだろ!」

「いやいや……あ、じゃあ私の指名費と交換でいいからさ」

「……それは、釣り合っている、のか?」

「いや、君の方が損かな」

「おい!」


いや実際そうなのだ。


一瞬のお金と後見人を引き受けることはどんな大金でも釣り合わないだろう。

仮にもこいつは王子なんだし。


「……けど、10日分の売上代もあるでしょ?」

「うっ……儲かってるんだよな?」

「うん、凄く」

「……高いんだよな?」

「うん、10日分の20倍はするよ」

「20倍だと!!?」

「ん、だから私への依頼って、できること知ってる人は一定数いても、あんま入んないんだよね」

「なるほど……分かった、それで頼む」

「じゃ、日程決まったら教えてね、ばいばい」

「――ん?」


流石に今から転移して、は面倒なので、“クローゼット”から書類の山を取り出し机に並べてペンも出す。


「ん?早く帰って?私、君のせいでまだまだ仕事が残ってるの」

「……帰らせてもらおう」

「ばいばーい」


さて、これは今日中に終わらせないと。

ミーにサボってたって怒られちゃうからね。





『ガチャッ(扉が閉まる音)』


~少しして~


『ガチャッ(扉が開く音)』



カヴィナ「……何?まだ何か用があるの?」

 王子 「すまない、道案内とさっきの紅茶をお願いしたいのだが?」

カヴィナ「……うん、従者さんたち一つ下の部屋にいると思うから、そこで私の部下に言ってくれる?」

 王子 「なるほど、助かった」



『ガチャッ(扉が閉まる音)』


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