74 良心につけ込めばいいのさ!
「……やあやあ、お二人さん?」
「――っ……!」
「「……」」
ドアを開き部屋に入ると、冷たーい視線が刺さる刺さる。
……ん、もう一人いると思ったら、なんか見覚えがあるような……あ、そうだ、思い出した。
「それとお久しぶりですっ、王様の側近さん?」
「……お久しぶりです。カヴィナ・テディー商会長」
多分魔力の威圧がトラウマになってるんだろう、強張った笑顔でそう言われたので、覚えててくれて嬉しい、という意味を込めてニッコリと微笑む。
あの時の威圧を体験した人ならどんな笑顔でも怖いと思われそうなので、とりあえずの営業スマイル。
「やあ、リー?」
「何だカヴィナ。最初に言っておくが、俺は今機嫌が悪いぞ」
「うーん……色々やることあって忙しかったから、許して、ね?」
ていうか、どちらかというとマジギレされるのを想定していたので、ちょっと意外である。
リーは私の肩に担がれたベルちゃんをチラ見した。
これぞ私の考えた最良策、『言えないけど察しろ、そして許せ』作戦である。
つまりは良心に付け入る作戦。
……存外クズだな?
リーはしばしの沈黙の後、本当に仕方ないと言うかのように特大の溜め息を一つ。
「はあああああ、今回だけだ。次はないからな」
「……!うん、ありがと」
人工ではあるけど、一応振り回している自覚はあったので丁寧に微笑んだ。
「ところで用件、迎えに来たんだけど、どうする?」
「……お前、俺を怒らせたいのか?」
「?……いや、そんなつもりないんだけど……」
割と本気な困惑である。
うん?
いや、え、ん?
怒らせたい?え?
な、何故?
「……俺は、ここまで関わっておきながら放って帰るような人でなしじゃあないぞ」
「……な……なるほど……?」
「分かってないな?」
「うーん……?」
いや、分かるとも、言葉の意味自体は。
あれだよね、ここまで関わったからには最後までちゃんとやるよっていうこと、なんだよね多分。
ただ、ちょっとその、
「ここまで関わっておきながらでも放って帰るような人でなしだと思ってたから……」
「殴られたいのか」
「殴り返してもいいならいいよ」
え、いや本当に意外だ。
魔族ってほら、情とか湧かないって前、自分で言ってたじゃんか。
だからこそ、一も二もなく普通に帰ると思ってたんだけど。
……だけど、私によるリーの観察結果とリーのしかめっ面を見る限り、どうやら心から本気みたいだった。
……え、どういう心境の変化?
逆に怖いんだが?
「……まあ、いいか。で、どこまで話進んだの?あんまり期待してないから正直に言ってくれていいよ」
「「……殴るぞ」」
「わあ、すっかり仲良しじゃん」
煽った自覚はあるけど、リーと王子の反応がなんか面白かったのでそのまま煽り倒した。
「ん-じゃあまず、王様に話通った?」
「今がその段階だ」
王子が側近さんを手で指した。
「なるほどなるほど。……案外早いね?」
「そうだろう」
「うん。凄い凄い」
なんでリーが胸を張ってるのかは分からないけど、適当に褒める。
そこで王子が口を挟んだ。
「おい、椅子にでも寝かせてやったらどうだ」
「……あ、この子のこと?」
王子は頷く。
「いや、良いよ別に。この子、寝てる訳じゃないから」
「……どういうことだ?」
「んーまあ色々。で、王様に直談判するとこってこと?」
私が答えるのも違う気がしたし、なんなら一回真顔を見せたことのある相手に媚びる必要もないと思ったから、リーに話を振った。
「そんな訳ないだろう」
「……え?何で?」
リーは呆れたような目をしていたけど、私は普通に驚いた。
「一国の制度をこちらから申し出て変えるのだ。これくらいの手順を踏まなくてどうする?」
「……は?」
多分、リーに悪気があったわけじゃない。
誰が悪かったのかを議論するなら、そんなことで怒りをを押さえられなかった私が悪い。
「違うでしょ、リー。そうじゃないでしょう、ティファニー・リー・トランペット」
右肩と右手で担ぎ、支えていたベルちゃんの体がちょっと跳ねた。
視界の片隅で側近さんが倒れているのが見えて、多分これは王様の時みたいな状態。
ただ、前回の暴走と違う点があるとすれば。
「……あ゙~……ごめんねえ、本当」
私の怒りとあの子の怒りによる相乗効果で生まれた暴走を、一瞬じゃあ無理でも、数秒あれば理性でどうにかできるように私が成長していたこと、だろうか。
頭が痛くて、ベルちゃんをゆっくりと地面に下ろしながらしゃがみ、独り言のように呟いた。
早く沈まれ、鎮まれえ……。
本っ当に頭痛い。
辛い。
「だっ、大丈夫ですか、カヴィナ様!?」
「ゔ~……」
誰かが何かを言ってるのは分かるんだけど、頭痛のせいか聞き取れなくてイライラする。
まあ、イライラするだけじゃあ一歩たりとも解決しないということを私は良く知っているので、魔力を薄く延ばして、体にある魔力が均等になるように混ぜて、空気中の魔力を追加して、かさ増しして。
「……ふう。ん、もう大丈夫、よし。で、その側近さん大丈夫そう?」
「あの、カヴィナ様、もう少しじっとしてた方が……」
「んにゃ、大丈夫だよ。……リーも王子も、平気?酔ったなら魔力吸い取るけど……」
「いや、平気だが……お前こそ大丈夫なのか?」
「ん、大丈夫」
まあ、実を言うとちょびっと頭痛いけど、さっきのに比べたら許容範囲内だね。
リーがあまりに深刻そうに見つめるから、魔力暴走になったことないのかなって思った。
経験ある人なら平気だって分かってくれるんだけど、な。
「ベルちゃんは大丈夫?一番近くで浴びたでしょ、今」
「いえ、魔力不足だったので、大丈夫です。……あの、カヴィナ様、気付いてたんですか?」
「……あ、実は起きてたこと?」
「…………はい」
知ってるに決まってる。
……なんたって、私の体は聴力さえ化け物なのだから。
呼吸のペースが変わったなあとか、心拍数早くなったなあとかまで分かるのだ。
それも傍にいるだけで。
「ん-まあ、そうだねえ、気付いてたよ。……けど、魔法沢山覚えたんでしょ?楽しかったでしょ?」
「……はい。でも、一瞬で、戦えなくて、敵わなくって、悔しくって……」
服の裾を握りしめたベルちゃんを見て、とりあえず頭を撫でた。
……■■■が、こうされると安心するって言ってたし、■■■の情報って結構正しかった記憶があるから、多分咄嗟にとった行動としては百点満点だろう。
「でもなあ、君まだ私達より小さいし、魔法学び始めて数日でしょ?……将来性としては君の方が高いしね。まあ、明日からまた頑張って、で、いつか勝てば良いの、分かった?」
「……はい」
……よし、おっけい。
ベルちゃんから手を離し、側近さんのもとへ寄る。
「“ちょうど良くなあれ”」
人差し指でくるくるすると、側近さんの顔色がちょっと良くなった。
……あ、起きたな。
「よし、じゃあ王様に直談判しよう。早くしよう。……リー、手」
「いやよしじゃないだろう」
リーにしては珍しい、正論であった。
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