71 「左様で」
『――やあ、久しぶりだね』
どこか上から目線で、溢れる余裕を感じさせるその声は、祈願室の天井から響いた。
「はい、お久しぶりです。で、用件なんですけど。……察していただけますよね?」
『……記憶の件かな?』
「それです」
『やっぱりか……』
やっぱりか、ってことは神様、私の記憶(真偽は不明)がチラホラ戻ってる訳をご存知なのだろうか。
いや最近、本当に迷惑してるのだ。
……特に、沢山寝た日とか。
起きた直後は気付かないもので、「何でこんなに寝たんだろう……?」で完結するのだけど、しばらくすると夢みたいに思い出す、というか。
こう、じわじわ色水が染みる紙、みたいな。
記憶を取り戻すのが一瞬だったら笑い飛ばせたのだけど、一日かけてじわじわ思い出す感じなのだ。
例えるなら、生活をしながら同じ脳で全く違うことを考えてる感じだろうか。
……いや、普通に気持ち悪いし、辛い。
「あれ、何とかならないんでしょうか」
『ならないかな』
「それはまた、左様ですか」
ええ……?
いや、本当につらいのですよ、神様。
「では、一気に思い出すことは不可能で?」
『うーん、僕もそうしたいんだけど、ちょっと負荷がかかり過ぎて……』
「……ふか?」
孵化、不可、負荷。
「私の脳への負荷ですか?」
『いや、どちらかと言うと君の使っている体、かな?』
「なるほど」
つまりはあの子にも負荷というものが掛かるのか。
何故に。
……まあそうか、体の問題だものね、うん。
「じゃあ、魂に植え込む、的なのはできないんですか?」
『え、できるけど……逆に、いいの?』
「……と、言いますと?」
いいの、じゃないでしょう神様。
私、生憎そこらの人間で平民でして、その辺いまいち知らないんだよねえ。
つまりは、求む説明。
『ああ、うん、そうだったね……。そうだな、今の状況としては、体に負担のない範囲で記憶を染みこませているんだ。でも、今のが最大出力なの。体の負担とか関係なく、もともと、だね』
「あらまあ」
『で、魂に直接となると……まあ、少しはダウンロードも早くなるだろうけど、その間君は意識のないままだし』
「なるほど」
……つまり、メリットがあんましないと。
てか今、記憶の復活作業をダウンロードって言ったな、この人。
「……あ、それって体の交換作業と同時に行うことは可能ですか?」
『あー……なるほどね。いいかも、それ。掛かる時間としては同じくらいだろうし、同時進行も可能だから……あ、本当に良いかも。そうする?』
「できるならそうしたいんですけど、同時進行の場合、どれくらいの時間がかかります?」
頭の中で計画その他諸々、色々なことを振り返ってみる。
一年で済むならアリス発見後すぐが良いし、二年だったら今すぐが良いし、三年かかるんなら諦めるし……。
『……一年かな。でも、ヒロインを見つけてすぐだと体の準備がまだかも知れないや』
「左様で」
ん、もう驚かないよ私は。
対面してる精神世界でなくても心を読まれてるのは前にやられて知ってたんだし、うん。
「では、体が間に合うのはいつですか?」
『分からないな』
「……左様で」
じゃ、最悪学園卒業後でも良いかもなあ。
……そんなこんなで、神様と小二時間程のお話をした後、私は教会を出たのだった。
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