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66 むしろ忘れろ。


「……本当に、何もありません」

「嘘」


座ったまま、軽く顎をあげるような姿勢をさせていたことに気付いて、不本意ではあったけど頬に触っていた両手を離した。


ルークはすぐに下を向く。

やっぱ何かあるな、と感じた。


俯いている隙に、と机を越えてルー君の後ろに回る。

ちゃんと転移で逃げられないように、首に抱きついた。

ルー君は本当に気付いていなかったみたいで、体がびくっと震えた。


「……ルー君」

「本当に、やめてください。俺は――」

「ルーク」


埒が明かなそうだ、と思って、目を伏せ続けるルー君の顔をあげさせた。

……物理的に。


というか、お姉ちゃんレーダーで泣いてる気配を感じたので、右手にハンカチをパッと出してルー君の目元を覆って、グイっと後ろに引っ張った。

いや、やっぱり“クローゼット”って便利だなあ。


結果的にルー君の頭が私の肩に支えられてるみたいな感じになった。

ルー君は抵抗しない。


視線をやれば、折りたたまなかったハンカチは濡れてきていた。


……最悪。本当に最悪。

あー、イライラするなあ。


「私のことを信じろとは言わないから、質問に答えてください。……何があったんですか?」

「……」


できる限りの、優しい声音で、声色で。

あやすような、背中をさするような声でそう問うた。


口調は敬語に変えた。

彼が一番慣れ親しんでいるであろう、敬語に。


加えて……私は知っているのだ。

泣いてる時のルー君には、ため口を使っちゃいけないってことを。


「……っ、妹に会って……」

「うん分かりました。ありがとう、もういいです」


別に詳細を把握したいわけじゃない。

思い出して欲しいなんて微塵も思わない。むしろ忘れろ。

どうでも良い会話、いや理由についてはどうでも良くないけど、さっさと終わらせたかった。終わらせてあげたかった。


「まず、君の名前は何ですか?」

「……」

「思い出して、ちゃんと」


耳元で、囁くようにそう言えば、ルー君は少しの間の後で、


「ルーク・テディーです。……俺は、ルーク・テディー、です」

「……うん」


どうしても褒めてあげたくて、空いてる左手で頭を撫でた。

ルー君はぴくっと反応したけど、好きにさせてくれた。


「なら、私の名前は何でしょう」

「……カヴィナ様……カヴィナ・テディー様です」

「よろしい」


左手で頭を撫で続けながら、何を言おうか考える。


「では、カヴィナ・テディーの顔を思い浮かべられますか?」

「……はい」

「鏡で見る自分の顔は?」

「思い浮かびます」


……あ、大丈夫になった。


すぐに分かった。

声に生気が戻ったなって、感じた。


こういうのって、直感で感じる者なのだろうか。

経験に基づくものなのだろうか。


まあ、あとは仕上げに?


「じゃあ、私と君がハグしてるところは想像できる?」

「……無理です」


羞恥で意識を引っ張ってこれば良いのだ。

ん、おっけい。


「はああ……」


恥ずかしくなったのか、私の手をのけて顔を覆い、座ったまま蹲ろうとするので、両手を離す。

ついでにハンカチはしまった。


「じゃあ、ハグしよう、いま」

「……」


横にまわって正座して。物理的上目づかいでルー君に微笑んで、手を広げた。

ルー君は唖然としながら顔をあげ、ゆったりと立ち上がり、仕方なさそうに腕の中におさまってくれる。


……もう背、追い超されちゃいそうだなあ。


「ん-、ルー君が可愛い」

「……今回だけです」

「えー、良いじゃん、家族なんだし……」

「…………」


……黙っちゃった。

うんでも、本当に可愛い。元気になってくれたようで、何より。


「うー……」


恥ずかしいのか、なんなのか。

ルー君はそんな小さい声を、私の耳の横で可愛らしく漏らした。




読んでくれてありがとう!

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