58 本当、どうしてこうなった
「パレット・アール・カフェイナ様、あるいはバルティモアラスト・アダ・ラパレット様……こっち来れますか?」
言った途端に二人は顔を見合わせる。
……仲良いな。
「無理だ」「無理ですねえ」
まあ、そうだろうな。
なんたってディラン君は魔王なのだから。
――魔族にとって、『まおうさま』とは命より、愛する人より大切な存在である。
恋愛感情を持っていなくても守ろうとするし、力になろうとする。
そういう風に、魂が創られているのだ。
だから、私が抑えてるとはいえ、そんな魔王様であるディラン君が出している魔力が漏れていないはずないのだから、場合によっては威圧されているような気分だろう。
近づくのすら恐れ多いに違いない。
……だって、私が威圧的な何かを出してる時のみんなはそんな気持ちらしいから。
「どうしよっかな……」
半分くらい無意識でそう呟いた。
……魔力暴走って、感情が高ぶってなることが多い。
そのせいで、気絶させても基本魔力を放出し続ける。で、魔力が枯渇して、死ぬ。
言い換えるなら、そういう感情を沈めてあげればいいのだ。
そうすれば魔力暴走は案外簡単に収まる。
……理由が分かればなあ。
そうなのだ。ディラン君の何が高ぶってこうなったのか分からない。
本当に、転移してみたら前兆を感じて、押さえつけたら気絶されたのだ。どうしてこうなったと聞きたいのはこっちである。
「ティ、ティファニー様……!?」
「……今度は何をしているのだ、カヴィナ」
「あ、リー」
バレッティさんの声が聞こえたので視線を向けると、ドアの向こうにリーが現れていた。
やっと来たよ、諸悪の根源。
「ねえリー、こっち来れる?」
「ふむ……無理だと言ったら?」
「ここら一帯を諦めようかな。私も暇じゃないし」
「冗談だ」
「へえ、面白くないね」
相変わらず意味の分からない冗談は置いておいて。
「そこにさ、限りなく空にした魔石があるんだけど、それ、ディラン君に触れさせて欲しいの」
「……この魔石はどこから出てきたんだ?」
「私」
リーなら良いかと思ったけど、何とも言い難い目で見つめられた。
そんな顔をされても原産地は変わらないし、皺になるだけなのだからやめればいいのに。
なんたって、メイド・イン・私なのだから。
「あ、もしかしたら重いかも。それ以前に近づける?」
「行ける。……この石か?」
「ん、そう」
「……随分禍々しいな」
「そうだね」
なんともない顔をしてすぐ傍まで来たリーに目を見張るバレッティとパレットだったが、なにやら、リーは触るのを躊躇しているみたいである。
「別に、ただの闇の魔力で創った魔石だよ?死ぬことはないだろうから、安心して」
「余計不安になったな」
「え、何故?」
首を傾げても、苦々しい顔をされるばかり。
なんなの。
「とにかくほら、早くして。もう時間ないのに。それと、この後付いてきてもらうからね」
「分かった、分かった……ほれ。それで、触れさせるとは?」
どうしよっかな?
……あでも、さっきのどうしよっかなとは意味がまるで変ってる辺り、凄い助かったなあ。
「……この机の端にでも、置いてくれる?」
「…………よし」
「んー、ありがと」
指定したのはディラン君を固定している机だったけど、リーは難なく置いてくれた。
……ここまでやってくれたのだから、あとは私の出番である。
まず、ディラン君の腕を魔石に触れさせる。
押しつぶしている魔力をなるべく漏らさないように、ゆっくり腕を移動させる。
で、周囲の魔力に波を創る。
ディラン君の放出する魔力を魔石に移すための魔力回路を結ぶ。
空気からディラン君の魔力だけを取り込むのは、こないだの……散った私の魔力を大気中から集める経験が生きてるみたいで、案外すらすらできた。
少しづつ押さえつけていた魔力を開放していって、全部ちゃんと魔石に入れる。
そうやって魔力の溜まった魔石とディラン君に魔力回路を繋いで、循環させる。
……ん、よし、これで魔力欠乏による死はなくなった。
手を放して、と。
――ぺちぺち。
「……おい、何をしている?」
「ん-?」
ぺちん、ぺちん。……ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち。
「起こしてるけど?」
「もっと他にやり方があるだろう」
「知らなーい」
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち。
「うう……」
「「「魔王様!?」」」
「あ、起きたね」
目が覚めたようで、なにより。
今日も平和な世界です。
「あ、そうだリー、印鑑証明、あの紙に押して」
「ん?……ああ、分かった」
既にディラン君が書き終えていたらしい親書(?)に、バレッティから印鑑を受け取ってリーが押した。
……ん?どういう状況?
「押したぞ」
「あ、ありがと。じゃあ行こ」
丸めた紙を受け取って、で、転移を発動させる。
「……ん?」
「え?」
「は?」
なんかリーは疑問があったらしいけど、既に転移は発動していた。
……まあ、あとでいいでしょ。
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