56 実はそこにはもう一人(バレッティ視点)
「……だそうですよ、兄上」
「…………気付いていたのか」
「ええ、勿論」
ガチャッと音がして、部屋の天井が開いた。
「……カヴィナは気付いていたか?」
「いいえ。おそらく天井部屋に掛けさせたの魔力探知阻害と認識阻害、そして防音結界の効果でしょうね」
「あの職人には褒美を増やさねばな」
「伝えておきましょう」
「……ああ、頼む」
兄は気付いていないのか、誤魔化せているつもりなのか分からないが、顔色が悪かった。
「……大丈夫なのですか」
「ああ、勿論大丈夫だとも」
兄はつらそうなのを隠しきれていない笑顔で笑った。
……痛々しくて、見ていたくないな、こんな兄上の笑顔は。
「印鑑はメイドに届けさせましょう。兄上は休んでいてください」
「……すまない。それと、メイドではなくパレットに届けさせろ」
「分かりました」
兄上から魔族長の印鑑を受け取って、執務室から出た。
「……パレット・アール・カフェイナ」
「あ゙?……なんだ、お前か」
三回目になってやっと気付いてくれて何よりだが、話しかけられた時に威圧を飛ばすのはいつになったらやめてくれるのだろうか、とバレッティは思った。
どうにもこの兄の忠臣は、兄の信頼している相手意外を敵だと思っている節がある。
「ティファニー様より、こちらを魔王様のもとへ届けろとのご命令です」
「……お前が行けば良いではないか」
「ご命令です」
「……分かった」
納得はしてくれなかったが、受け取ってくれたのでいいだろう。
さっさと踵を返して仕事に戻ろうとした、が。
すんでのところで肩を掴まれた。体格的にも彼の方が有利なので、当然進めそうにない。
「何か?」
「……いや、間違えた。ただ、そっちの道は行かない方が良い」
何を言っているのか、と首を傾げながらも進行方向だった辺りを見回す。
まず気付いた。
己が道を間違えていたことに。
そして思い出した。
……この先は、魔王様の部屋である。
「……!?!?魔王様に何かあったと言うのですか!?すぐに行かなくては――」
「待て。落ち着け。……尋常じゃない魔力の質だが、これはおそらく……魔王様のものだ」
私は、今度こそ意味が分からなかった。




