55 敵なんだよ、私たちは。
「お待ちください」
「……え?」
気まずいだろうから部屋から出て、転移しようとしたところでそう呼び止められた。
ただ残念ながら転移はもう発動させてしまっている。
取り消すのも面倒だから、一端転移。
「!?!?」
「ん、あー、気にしないで、また後で来るから」
これまた不運にもディラン君の目の前に着いたせいで、普通に気付かれた。
お騒がせして申し訳ないと思いつつ、すぐさま転移を発動させておじいちゃんのもとに跳ぶ。
……一応リーもいないのだし、よそ行きの方が良い?
「それで、何か御用でしょうか?」
ちゃんと営業スマイルをセットしている。
ただ礼はしなかった。
別に今日初めて会ったわけじゃないので、ご愛敬。
「……あなたは、何故……おれのことを知っているのでしょうか?」
少しの間、疑問符を浮かべた。
……あれかな、みんなにバレてたりするのか、みたいな。
言いふらしたりしないように忠告、みたいな。
「何故と言われましても、知っているとしか言えません。……未来が見えるとでも、言えばよろしいので?」
「……失礼いたしました」
「用件はそれだけでしょうか?」
「…………いいえ」
50年近くこの国の宰相をしてきた彼の目は、ステラの目とも少し違っていた。
澄んでいるというより、透けているような、そんな感覚。
「あなたは、我々魔族の味方なのでしょうか?」
……ここでティファニー・リー・トランペットの味方なのか、と聞かない辺り、やっぱり彼は優秀だ。
――ただ、今回ばかりはとまで言うつもりはないけど、その問いに彼の望む返事をあげられそうにはなかった。
「敵だよ」
ちゃんと断言する。
敬語が解けてしまったけど、まあいい。
……こういう時、相手にはわずかな希望すら抱かせてはいけないのだ。
「敵の敵は味方っていう意味で今は味方。だけど、私リーのこと嫌いだし、普通に敵だよ」
「……ありがとうございます」
「ん、さよなら。バレッティ・アヴァン・トランペット」
言うが早いか、即刻転移で飛んだ。
……そう、敵。
私とリーは、敵。
…………ちゃんと分かってたはずなんだけども。
実際はどうやら、私はちゃんと納得できていなかったみたいで、案外欲張りみたいで。
敵だ。
敵なんだよ、私たちは。
……まるで言い聞かせるように、心の中で呟いた。




