47 残酷なほどに邪悪な舞
二つ目の方は第二側妃シャーベティ・パラルフィニアー。
「呪術の使い方って人それぞれなのよね」
「知ってます」
「……だから、そんなに引かないでくれるかしら?」
「…………無理です」
「はあ……」
暗い赤髪の女が魔物の死体たちを背もたれにして座っていた。
彼女と対話する黒髪の男は少し離れた、声がギリギリ届くくらいの距離にいた。
「ていうかあなた、何やってるんですか?カヴィナ様じゃないんですよね?」
「違うわ。別人……ああそう、リリー・キャンドル、よ」
「……それ暗殺ギルドのギルドマスターの名前では?」
「偽名だけれどね」
「何やってるんですか」
「依頼」
「いえ、そういうことじゃないんですが……」
「本当に最悪。一番知られてはいけないあなたに見つかるなんて……」
「呪術って闇属性に近いんですよね」
「あっそう」
女は立ち上がり、魔物の死体を踏みしめて頂上に向かおうとする。
「……って、今度は何をするんです?」
「経験値狩り」
「ハア?」
「……踊らなくちゃならないの、あたしは。何度だって踊らなくちゃ、あたしは魔物すら狩れないの」
「…………そうですか」
女は男が誰かを知っていたから、憐れむような目で頂上に座った。
「早く帰ってあげた方が良いわ、ランドルフ領の第四に」
「……会いたい人はここにいるんですが?」
「はっ、いないわ、ここには。カヴィナ・テディーは今、研修中のベルを探しに奔走しているのだから」
「……へえ?」
もしかしたら、話せば仲間になったかもしれない。
けれど、男が幸せを諦めてしまう可能性を少しでも減らすために、女は話そうとはしなかった。
「そろそろ第二波がくるの。……帰ってくれるかしら?殺すわよ?」
「……呪術、使えたんですね。俺にも勝てたんじゃ?」
「あら、別に嘘は言ってないわ。使える魔法はあれだけよ」
「本当に性格悪いですね……」
少しだけ、女は微笑んだ。
「それで?呪術による苦痛の死をお望み?」
「……遠慮しておきます、それでは。“この世の全てよ、闇と化せ”」
「ええ、それでは。……ふふっ」
誰もいなくなり、静寂の訪れた中で、少女は笑った。
集中が不可欠な舞に、強大な睡魔も危険を知らせる痛覚も不要だったから、笑った。
「……ああ、やっと来たんですね」
「…………リリー?」
世界が止まっているかのような気がした。
全身の白かったスカートなどの服は紅く染まり、朝日に輝く紅い髪は、背景と同化したようにも見えた。
「はい、リリーです。偽名ですけども、仕事はちゃんと終わらせました。ドラゴンがいて少し面倒でしたけども、まあ依頼は達成です。……シフォン、この人をしっかり送り届けろ」
「え、ちょっと待って頂戴、え……?」
混乱というよりも、頭が理解を拒んでいた。
たった一人で“反魔の迷宮”の魔物の行進を治めてしまうなんて、と。
「帰ります。報酬は先輩までどうぞ。そ……」
無呪文だったのだろう、中途半端なところで姿は消え去り、最後までは聞き取れなかった。
……そうして。
過去の魔物の行進を踏まえても、被害が最小となる驚きの姿でパラルフィニアーの領は夏を迎えた。
たった一人の、少女の手によって。
読んでくれてありがとう!
いいね、ブックマーク、コメントなど、このお話を少しでも面白いと思ってもらえたら(主に作者のやる気アップに繋がるので)、評価の方よろしくお願いします。




