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2 君の家臣に会ったら殺されそう


「……待て、今何と?」

「え?だから明後日でいいかって――」

「そちらではない。俺は急ぎの用のため馬車に乗せた馬と交代で夜も走らせようやく小二時間程前にここに着いたのだぞ?それなのに、知っているとはどういうことだ?」

「ん……あ」


やっば詰んだかも。

シンプルにヤバいかも。 


でも1日二回の定時報告で5日前に聞いちゃったんだよな、そういえば。

ガチめにどうしましょうだな?


――この時!カヴィナの頭の中には色々な案が浮かんでは消えていた!


①殺す

②記憶の隠蔽

③話すだけ話して殺す

④話すだけ話して監禁する

⑤話すだけ話して他の人に言わないよう契約する

⑥誤魔化す


……うん、実質1択では?

だって今ある通信魔法ってせいぜい小さな村の端から端までくらいしか使えないから、テディー魔法のこと明かしたらコイツが戦争とかにバンバン使ってくことなんて目に見えているし、コイツと私が戦ったらこの辺荒れた原っぱになるのなんて分かりきってるし、記憶の隠蔽なんてコイツに効くはずが……効くのか?


「……リー、答える前に質問一ついい?」

「こちらの質問に答えてからな」

「……」


話が通じない。

めっちゃ睨んでるし……怖っ。

までも失敗した時のリスクが大きすぎるからナシだね。

同じような感じで契約とか言っても魔法を明かしたら普通に破棄されそうなんだよな……。


絶対に破れない契約が確立してないからこれもなしになって。

要するに、


「企業秘密で!」

「ふざけるな」

「うぅ」


答えられないのだから誤魔化すしかない、というわけで。


「いや本当に言えないんだよぅ……」

「なら概要は言わなくて良いが二つだけ質問に答えるがいい。……一つ、お前は世間一般的に使われている常識を覆せる情報の伝達手段があるのか?」

「うんそう、具体的なことは言えないけど」

「二つ、それは口に出して俺に存在を明かした場合、俺が間違いなくそれを欲しがるという確信を持っていると?」

「うん……リーはきっと……戦争に、私がイヤなことに、沢山使う。それに……」

「それに?」

「それにリーと戦った時に負ける確率が高くなるから、絶対に言いたくない!」

「……お前、実はそれが本音じゃないか?」

「そんなことないっていうか買い物あるからもう歩きながらでいい?」


ティファニー・リー・トランペット。

トランペット家というのは国の貴族の中で一番偉い家格の家、つまり王族の次に偉い人。


しかし私が堂々とため口きいて切り捨て御免されないのには理由があり。

……こいつが魔族のとある国の貴族で、ここが人族のとある国の領域だからに決まっているのであった。

そしてだからこそ、私は行ったら間違いなく殺される魔族の領域にはいかないと決めている。


「なんだカヴィナ?」

「何でもないよ、リーの家臣に会ったら殺されそうだなって思ってただけ」

「お前の方が強いのにか?面白い冗談だな」

「え?前に私がリーに勝てたのはリーが怪我してたからっていうたまたまだよ?」

「事実を歪曲しようとするな、カヴィナ。魔王国最強と謳われていた俺を倒しておいて、何故お前は喜ばんのだ」

「なんで?逆に聞きたいんだけど喜べると思う?賊かと思って撃退した相手が私のご主人様にわざわざ正式に正装して会いに来たんだよ?悪夢じゃんもう……」


小説の中では魔王に逆らったとかで追放されていた……6年前だから、ちょうど一年後くらいに。

で、魔族とも仲良くしょうよっていう方針の人間の貴族に匿われていたところを可愛いヒロイン(アリス・ラフィテル)に会う。


その頃のアリスは幽閉されていた家から出たばかりで、リーを匿っていた心優しい人に出会い、そこでリーに会って仲良くなりいつか一緒に旅をしようと約束をして、勉強を頑張って学園に入って……卒業後、自身が魔族の偉い人だったことをリーから伝えられ、けれどアリスはそれでも『私はあなたと違う平民だけど、私と旅をしてくれませんか』とリーに言い、リーはアリスに『こちらこそ、魔族には追い回されるかもしれないが、どうか俺と旅をしてくれないか』というのだ。


あれは泣いた。

めちゃくそ感動した。

リーはアリスが学園生活をしている間迷宮(ダンジョン)に潜りまくって勇者と打ち合えるようにまでなっていた。

バチクソ格好いいんだよ、リー。

とても個人的な理由でめちゃくちゃ嫌いだけど、ね。







……ところで、ちょうどキリが良いし、少しだけ、1年前の話をしよう。

この世界に来てすぐ、最初の原っぱのところはてっぺんまで登ってみるとその先に町があった。


15分ほど“メニュー”とにらめっこしながら歩いたら普通に門の近くまで着いて、ここはどこなんだろう別の町から行ったほうがいいかなと思ったところに思い出したのは“メニュー”にあったマップの存在である。


「へえ……じゃあここがサラマンダー様の領地なのか。ん、ならいっそ働かせてもらう?どうしょっかな……でも信頼を得るなら早い方がいいよね?……うん……すみません!」

「どうしたー!?」

「何かあったかー!?」

「いえあの、どうもしてないはずなんですけど」

「「――?」」

「私身分証もお金もないんですがここに入ることってできますか!?」

「お、おぅ……?」

「できるがギルドまで俺かこいつのどっちかが付いて行くことになるぞ?」

「ご迷惑おかけします!!」

「……良いのか?」

「そうだぞお嬢ちゃん、人のこと言えねえがコイツも柄の悪そうな顔してんだろ」

「おいっ!」

「柄の悪い……ああ、ここって領主様専属の騎士様が門番をしているんでしたっけ?」

「騎士……」

「そんな大層なもんじゃないがな」

「別に問題ないですよ。私からお願いしているので、そんなこと気にしないで下さい!」


ここの領主様である、エイダン・パラルフィニアー様、通称サラマンダー様。

燃えるような赤い髪に暗闇でも光るような濃い黄色の眼を持っている。

めっちゃ優しい。

本当に優しい。


リーも、アリスも拾ったのはこの人。

貧民街で炊き出しを毎日自腹でやってるお陰でルークは貧民街でも生きていけたし、魔族と仲良くなってみようって積極的に先導して外交してるのもこの人だし、身分証がなくても街に入れるし、そいつらが悪いことをしないように身分証を作らせるし働かせるし、そいつらのせいで街の人が怪我しないように騎士団を作って自分で鍛えてるし、とってもすごい人。


そして、だからこそ魔族と戦争が始まった時、真っ先に殺された人。


「――にしても、お嬢ちゃん本当に綺麗な白髪してんな」

「そうですか?照れますね……」

「白にピンクってのは両方珍しいから、人攫いなんかに遭わないように気を付けろよ?まあ要らない心配だとは思うがな」

「え、なんでですか?」

「何でって、間違いなくお嬢ちゃん相当つえーだろ。もしかして魔法とかも使えんのか?」

「あぁ、使えると思いますよ?けど強いかって言われると……微妙だと思うんですが」

「つえーつえー、決まってらぁ、だってな、領主様と張り合えるくらい強い奴が怯えてたんだ、お前が来る時めっちゃビクビクしてたぜ。最初はお嬢ちゃんのことだと思ってなかったがな」

「その方、特殊能力でも持ってるんですか?」

「たしか、魔力の多さが分かるって言ってたぞ。ただ属性を持ってないと持て余すだけだ、とも。だがまあお嬢ちゃんは白髪だろ?今はそうじゃなくてもバケモンになるっつってたぜ」

「なんて失礼な……ていうか、白いと――」

「お、着いたぜここだ……っておい何してんだ!?」

「あ、すみませんつい」


感動。涙出そう。

拝み倒したい……いや既に拝んでた。


ガチめに何を聞こうとしてたか忘れるくらいすごい。

……しかしその内容はすぐに分かった、というか思い出させられた。

何故って、中に入った途端中のザワザワしてた人達がピタッと静かになったのだ。

明らかに私の方を凝視して。


「おいっ、アイツ……」

「そん……ないだろ、どう見………田舎モンだぞ」

「わ、綺麗……」

「なんでテオが……?」

「しかも顔も可愛いじゃねえか」

「でも何であんなに……」


途切れ途切れの話し声と視線に縮こまっていると、やけにその声が大きく聞こえたのだ。


「てことは聖女様の!?」


……聖女様?

聖女ってあの代々綺麗な白っぽい髪の――……ぁ?。


「待って待とう待って下さいテオさん皆さん冒険者さん!」

「おう、どした!?」

「一応言っておきますが私聖女とかじゃないですよ!?」

「光魔法に適性がないって意味か?」

「ないですし、あのアシュリート公爵様の血を引いてるとかじゃないです!」

「ならどういう?」


困った。

本当に困った。

実際適性があるってのが余計困った。

このままいくと聖女様が探されなくなる。

聖女様、勇者のハーレム要員で結構大事なのだ。

それは困る!

でも周りに見られてしまった以上どうにかしないと……。


(なんか良い言い訳、なんか良い言い訳……!!)


「私のこの髪は、もともと茶色だったのが信仰深すぎて白になっただけです!!」

「「「?」」」

「ご飯の前とか色んなことを神様に祈りまくったら白になったんです!」


……嘘は言っていない。

ご飯の前とかにいただきますって感謝したり、転生したいって祈りまくったら転生できて白くなったのだ。

99%の嘘で1%の真実を大きく膨らませる。

これが良い嘘の秘訣。


「そのせいで(異世界に)攫われてお金も身分証も(神様という名の)賊に奪われて身分証を新しく作るためにここにいるんです!!」

「……そうか」

「えっ、信じるんですか」

「嘘なのか?」

「(1%くらいは)本当ですけど……」


一般的に、髪色は属性と比例する。

光属性が強いほど白く、闇属性なら黒く、水属性なら青く、氷属性なら紫に、火属性なら赤く、土属性なら橙、風属性なら緑に、雷属性は黄色に。

だから聖女であるソフィアは真っ白だし、闇を司る魔王は完全黒だし、火属性が得意なサラマンダー様は真っ赤である。


……忘れてた。

完全に失念していた。

この世界は地球とは違うのに。

やっぱり、やるべきは常識と情報の網羅だ。

早く、さっさと、終わらせないと。

私の目標は自分を満たすことじゃないのに。

あの子達の役に立つには、今の私じゃ足りない。


「ならいい。そもそも、冒険者ってのは訳ありが多いしな。言わせて悪かった、お嬢ちゃん」

「――うんテオ、その気遣いの心を僕にも向けてくれないかな?」

「うわぁっ!?ってなんだよお前か。びっくりさせんじゃねぇよ……」

「……貴族の方でしょうか?」

「そっくりそのままお返ししよう。白い髪のお嬢さん、お名前は?」

「……ベリーで。名字もミドルネームない、ただのベリーです」

「そう、僕はここのギルド長、アデルだ。目的は身分証だっけ?作るから、さっさと上来てくれる?」

「え、でも他の人は――」

「いいから、早く、ね?」


いきなり現れた灰色に黄緑の眼のこのイケメンはギルド長だったらしい。

これ以上目立ちたくないと思ったが、そもそも白い髪のまま来てしまったのは私の失敗……というか、神様の失敗である。

そう、色の常識が通用するのはこの世界だけな訳だ。


神様は色んな世界の神なのにたった一つの常識なんか考えてられなかったんだろうな。

うん、そうだよね?

事故だと信じたい。

意図的なもので面白がってるなら張り倒すけど。

しぶしぶ頷いてアデル様に案内された二階の部屋へ入った。


「で?ベリーちゃん、君……親は?」

「いないです。あんな人たち、いないも同然です」

「生死は?」

「死んでますね。感覚的にも、物理的にもいないです」


前世のくそ親を思い出して言ったつもりだったが、どうやら感情が入りすぎたらしい。

少し、澄んだ黄緑色の目が変わった。

そしてやはり、■■■のことは濁った水溜まりを覗き込んでも底にあるものが見えないかのように思い出せない。


「……それで、一応聞きたいんですけど、身分証……というか、冒険者カードって私の年で発行するの、難しいですか?」

「年齢によるけど、何月生まれで、次何歳?」

「えっと……4月1日で8歳です」


咄嗟にステータスにあった誕生日を思い出せたのは我ながら凄いと思う。


「……そう」

「お嬢ちゃん、割に背え小っちゃくねえか」

「……食べるのが、あまり。好きではありませんので」


前世で小さかった遺伝子が影響したのだろうか。

それとも、小食で栄養失調なんかにならないようになのだろうか。


あれ、でも、そういえばメニューに外見変更ってのがあった気が……あとで確かめよう。


「ちなみに、戦えるの?」

「ん……やられはしないと思います」


防御力が最強だし……ってことは、あれ?

私ってもしかして握手とかしたら骨折っちゃうのでは?

やばあっ、気を付けないと。


「……何でそう思うの?」

「え?だって神様が……」

「「神様が?」」

「加護っ、そう加護を!貰っているので、絶対に死なないです!!」


やっばいやっばい、口固くできるようにもっと頑張らないと。


「その、無理、でしょうか……?」

「……いや、大丈夫だよ、冒険者に年齢制限なんてないし、基本自己責任だからね。けど……」

「?」

「心配、というかな?流石の僕でも10に満たない子を送り出すのは……」

「なあなあ、エイダン様のメイドの募集に送ればいいんじゃないか?」

「「……え?」」

「容姿は申し分ないんだし、お嬢ちゃん、料理とか家事とかできるか?」

「あ、はい」

「なら本気で選択肢に上げとくぜ。エイダン様は魔法の素質があって努力する者なら教えてくれるんだよ、魔法をな」

「えっ!?」


あ、でも、そういえばそんな話チラッとあった気がする……。

やべーなサラマンダー様、すげーやサラマンダー様。


「まあそれも悪くないよ。粗相さえ起こさなければね」

「さすがに大丈夫だろ……大丈夫だよな?お嬢ちゃん」

「まぁでも冒険者は依頼受けなくても身分証になるって面で便利だし、発行しちゃおうか」

「はい!」


そうして私は晴れて冒険者デビューをしたのだった。







「あ、お姉さんこのトマトもちょーだい?」

「ん〜ならもう一個買ってくれるなら安くするよ!」

「ん、じゃあ貰おうかな!」

「よしっ、それなら1300ギドだ!」


いやぁ、実に良い。

ここ、結構食べ物系が豊富だし、料理の発展も見込めそう。

そんなことを考えながらお姉さんが渡してくれた野菜たちをバッグに詰める。


「……なあカヴィナ」

「え?なーにリー、もう帰るよ?」


急に話しかけてくるからビックリしたじゃん。


「そんなことは聞いていない……お前には沢山の部下がいただろう、買い物などあやつらに任せれば良いではないか。何故お前がわざわざ出かけるのだ?」

「何言ってるのリーったら……私はあなたみたく偉いわけじゃないんだよ?集団や大衆に属す一人の女の子で、どこにでもいる平民!」

「お前が敵か味方かでは大きく変わると思うが」

「……そーゆーこと言わない」

「?」

「えっとさ、リーは魔国で私を切り捨てても文句言われたり処刑されたりしないでしょう?」

「そうだな、切り捨てられる訳がないが」

「……うん、そんなことな……あるかな」

「あるだろう」

「いや、ん……でも、私はこの辺にいる人を殺したりしたら処刑されるんだよ、まして貴族だったら尚のこと」

「ああ、人族は階級が大事なのだろう?それくらいは知っているぞ」

「私が平民で、部下も平民。一応同等の立場だから、いくら稼いでたってこき使っていい理由にはならないの」

「……だが、クーデターの王は戦争を命じるだろう?」

「それは別だよ……あとは貴族と貴族の場合も別」

「なるほど?人族はやはり面倒だな」

「力こそ正義の方が絶対面倒でしょ……って、よく考えたらリーって今日どーすんの?」


よく考えたら、今日のさっき着いたって言ってなかった?

ていうか護衛とか連れてないの?

まあ、リーには要らないだろうけどさ。


「……」

「お?もしや図星?泊めてあげよっか?今からじゃ別々の宿になっちゃうだろうけど、うちのシェアハウスならあと20人はいけるし?」

「すまないが頼めるだろうか……」

「いいけど、ご飯はそっちでどうにかできる?流石にもう一回は時間ないし、あとその辺にいるリーの部下の魔族の皆さんは今どこにいるの?」

「おそらくその辺の酒場にいるぞ」

「……うっわ、そういう感じ?バレたらどーすんの、まったく。……あ、何人くらい?」

「あー……8?いや9か?その辺りだ」

「ん、おけ。うちのシェアハウスの場所わかる?」

「分からん」

「いっそ潔い……えっとね、すぐそこなんだけど……」


そんなに遠かったわけでもないので、すぐに着く。

表通りの割と広いところを買ったから高かったなあ。


「あ、ここだよ!」

「……でかいな」

「でしょ?でしょ?凄いよね?せっかくの第四号店だし、張り切っちゃった☆」

「張り切った……いや、そうか」


どこか煮えきらない表情をするリーを放置し、扉を開いた。


「ただいまー!」

「!!、あー!ぼすだー!!」

「え?あれ?ピティ、もう来たの?」

「?」

「え、もしかして一人で来た感じ?」

「分かんない……?」

「――お帰りなさいませカヴィナ様、それについては俺から説明を」

「あ、待って?それリーとあの子が聞いていいやつ?」


今チラッと二人の後ろの曲がり角にナディー(仮)のピンクの濃い髪色が見えたんだよね。

いやルー君ってば何でそんなにリーを睨んでるの。


「あ!お客さん!?」

「あんなに大胆な方法を取っておいて結局追加ですか」

「いや、リー達には外でなんとかしてもらうよ、とりあえず今日は、だけど。……リー、早く部下さん探してここに呼んできて」

「ここにいたほうが楽しそうなんだがな」

「追い出すよ?」

「なるほどすまん、行ってくる」


大人しく邪魔者が消えてくれたことだし、扉も閉めたし。


「あ、我らが妹ちゃんの名前は決まりそう?」

「そうですね、明日には間に合うと思いますよ」


なんか、ルー君が素っ気ない。

もうちょい……なんというか、目くらい合わせてくれても良いのでは?


うんけどルー君に聞いてもこれはあんま意味ないな。

そう結論付けていまだ壁に隠れている小さな影に近寄り、しゃがんで目線を合わせる。


「どう?案は出てきた?」


ちょっとビクビクして後ろに下がってしまったけど、ちゃんとこっちを見てくれた。

ちゃんとお風呂に入って服や髪も整えたようで、髪をおろして少し大きな白い花柄のワンピースを着ていた。


……にしても、やっぱり綺麗な髪色。

この、ピンクなのに金色がかってキラキラしてるのはなんでなんだろう。


考察班の中でナディー(仮)の属性は火で、一応光も少し持ってるからピンク――みたいな話があったけど……。


「いくつかは、あるわ」

「そう?いいね、ちゃんと決められる?」

「ええ」

「偉いなぁ、頑張ってね」


頭を撫でると、少し微笑んでくれた。

……破壊力えっぐ。


やばいやばい失神するところだった。

立ってやらなきゃいけないことを考える。


「さて、ご飯作らなきゃいけないから、ピティも手伝ってくれる?」

「はーい!」

「あとルー君、話はご飯の後聞くから妹ちゃんにかまってあげてね」

「……分かりました」


相変わらず不服そうなルー君は置いておいて、


「じゃ、ファイトだよ、妹ちゃん?」


とりあえず夜ご飯の準備に取り掛かったのだった。







机に散らばった色々ある書類に目を通しながら頬杖をついて考え事をしていると、コンコン、とドアを叩く音がした。

……ルー君かな?


「どちら様?」

「ルークです」

「ん、入って。そこ座っていーよ」


当たり。

手にもっていた紙諸々を一度まとめて机の端に寄せる。


声が沈んでるなとは思ったけど、やっぱり目を合わせてくれない。

1年くらい前、最初に“喧嘩”したときはまあ無視されてもちょっと寂しい止まりだったけど……、折角一緒にいるのに目を合わせられないって普通に悲しいなぁ。


「で、ピティがこっちに来れた理由って……やっぱ転移?」

「そうだとしか思えないですね。目の前に急に現れたので」

「どうやったんだろ……ピティってまだ確立できてない雷属性だったよね?」

「はい」

「本人は分かってないみたいだったし……これも経過を見て調べるしかないかな……ちなみに、その時何か特別なことをやってたとか、ある?」

「いえ……自室に入った途端現れました」


想像してて急に叶ったって言うなら、ピティも存外才能があるんだよね。

みんなすごいなあ。


「ん~謎は深まるばかり、か。まあしょうがないね……あ、あの子の名前は決まった?」

「はい」

「……うん、言いたくないなら良いけど」

「本人から直接告げた方がいいのでは?」

「あー確かに、それもそうだね」

「ええ、それでは――」

「――ところでルーク?」

「……はい、何でしょう」


何でしょう……何でしょう、か。

いや今止めなかったら出て行ってたよね、間違いなく。

だって少し腰を浮かせようとしてたし、ずっと目は逸らし続けるし?


ちょっとムカついたので、椅子から立ち、座っているルー君の目の前まで移動する。


「いい加減、こっちを見てくれないかな?」


仁王立ちしても尚、横の壁を見ようとするので、顔を手でこちらに向けさせ、足をソファの上に乗せて覆いかぶさるような形になって額を近づけ、前髪をかきあげて額にキス……までしようとしたところで観念してくれた。


「分かりました、ええ、ですから()()だけは勘弁してください」

「……まあっあああもおまあいえ、むーう?」

「何と言ってるのか分かりませんよ……」


キスを防ぐためだと思うけど、口を手で塞がれてもごもごとしか喋れなかったのだからしょうがない。


「むぅ、ルー君って本当キスされるの嫌がるよね?」

「いえそうではなく、キスされた後のメノウが面倒くさいだけです」

「ん?大丈夫だと思うけど?」

「全然大丈夫じゃないです、あとそろそろ離れてください」

「はいはい……ん」

「あ、ちょっと!」


離れて反対側のソファへ座り直すついでに防がれた分のキスを額にしたけど、ルー君はジト目で滅茶苦茶不服そう。


いやキスしたのが会っただけで分かるメノウが異常なんだって。


座って足を組む。

あ、またやっちゃった。最近思うがこれ、癖かな?


「あそうだ、妹ちゃんをテディ―に入れるの嫌そうだったの何で?」

「嫌そうじゃなくて嫌なんです」

「んー……もっかい聞くけど、何で?」


すぅっと空気が凍っていくような気がする。

笑えてるかな。


ルー君にだって最後まで嫌われたくないから、なるべく怒った時みたいな醜い顔見せたくないんだけどなあ……。


「……カヴィナ様は」

「ん?」

「カヴィナ様は、今までずっと奴隷や孤児ばかりをこの商会(テディ―)に入れてきましたよね」

「……うんそうだね、これからもそのつもりだけど、それが不満要素?」

「はい」


なんて言うんだろうか、この肌がピリピリする感じ。

多分だけど私が威圧みたいなものを出してる、んだけど、それでも体調不良の予兆すら見せないでまっすぐ私の眼を見れているなんて、大分成長したよね……なんて場違いなことを考えてしまった。


そろそろ定時報告だから抑えないと……本当どうしようっかな、もう寝てるかもしれないあの子達の方にまで威圧飛んでってないかな。


「……一応、聞ーとく、んだけど、貴族のお坊ちゃんと孤児の子だったら、全体的に見ても見なくても孤児の子の方が圧倒的に役に立つと思うよ?」

「そうですね」

「じゃあ、何で?」

「結構前から言っていますが、最低でも一人は入れるべきです」

「だから何――」

「貴族に守って貰うためです」


大変だ、泣きそう、や、嘘。

もう泣いてる。

咄嗟に立ってしまったけど、同時に俯く。

ルークは大好きだけど、


「……やめて」


だけど、それは駄目。

それだけは駄目。


「私、駄目なの、ルー君、知ってるでしょ?」

「はい」

「私、君を、それ、言われたら」

「……」

「駄目だよ、追い出さなきゃいけないの、だから――」


顔を上げてルー君を向いちゃったけど、やばい、涙が、溢れて止まってくれない。

テディーにはルールがある。

(ボス)の命令を無視したとか、命令に反したベアはテディ―から出る。

けど、大事な企業秘密まで知ってるベアは、


「――だから、殺さなくちゃいけないの」

「……はい」

「はい?はいって、無理だよ、私……貴族や、王族や、国に、属せるって、属したいって、思えないの、ごめっ、けど、貴族は、無理でっ、駄目、駄目だよ」

「……」


泣いてる理由が自分でもよく分からない。

私の涙腺ってどこにあるんだろう。


ああやばい、でも、本当、どうしよう、だってルークは、絶対考えを改めてくれない。

涙が、あーぁ、涙が。


「――っ、何で?……何で、()()……!」

「ランドルフ伯爵様が仰っておりました」


ピクっと体が動いた。

……こういう、イライラしてる時って本当情緒不安定になるから嫌だなあ。


どうしようどうしようって泣いていた心が、一瞬で『敵を討つためにどうしたら』に切り替わったことで涙も止まる。


「……なんて?」

「とある侯爵の方がここ(テディ―)から金をむしり取るために画策をしているようで」

「だーれ?」


わざわざ名前を出さなかったっていうことは伝える気がないんだろうけど、聞かずにはいられなかった。

しかし予想通りルークは曖昧に笑うだけ。


「潰すんじゃ、駄目なの?」

「侯爵ですよ?一歩間違えば処刑です」

「ばれないようにするよ?」

「駄目です」


なんで、は声にならなかった。


「誰より貴方は殺人を嫌っているでしょうに」

「そう、だけど」

「なるべく早くどこかに守って貰わなくてはならないでしょう」

「無理だって……」


だいぶ落ち着いてきたから座り直す。

服の袖で涙を拭いていたらまた足を組んでしまうけど、やはり直す気になれない。


「……第一候補は?」

「王子ですね」

「どれ?」

「第二王子です」

「ぁ、サラマンダー様の甥っ子で第二側妃様の……?」

「そうです」

「はえ、なんで?」

「権力もありますけど、()()あっても殺せるので」


なるほど?

いやなるほどとか思えてる私って割とこの世界に慣れてきたよね。


「……分かった。一時的な、なら」

「本当ですか!?」

「自分を人質にしておいてよくもまあ……うんけど、そろそろ第二王子って毒殺される予定だったし、預からせてもらおうかな」

「わかりま……って、はい?」

「?」

「え、いや……」

「ああ、第一王子を確実に王太子にするために第一側妃様が毒殺するんだよ。時期的にそろそろなんだよね」

「……なるほど。……分かりました。それでは――」

「あ、ちょっと待って?」

「……?」


色々丸く収まって、そろそろ定時報告だし出ていこうとしたのは分かるんだけど、


「一応、“喧嘩”はしようか?」

「えっ」

「皆の手前、ね?撤回は格好悪いし、ね?」

「……もしかして、そのための()()ですか?」

「さあ、どうだろうね?」


ちょっと青ざめながらどうしようか真面目に考え始めるルー君だけど、ルー君を人質にされたら従うしかないのを分かったうえで私のことを翻弄したのだから、そのくらいの責任は取って欲しいもの。

乙女の涙の代償を安く見てもらっては困るのだから――。




読んでくれてありがとう!

いいね、ブックマーク、コメントなど、このお話を少しでも面白いと思ってもらえたら(主に作者のやる気アップに繋がるので)、評価の方よろしくお願いします。

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