番外編 2−2 化け物(ステラ視点)
「私ねぇ、ステラちゃんたちと同じくぅ、貧民街出身なんだけどぉ?お父さんもお母さんもクソみたいな奴でぇ、いっつも殴られてたんだよねぇ」
これ程までに、怖いと思ったのは初めてかもしれなかった。
……だって、話の結末が見えてしまったから。
「手が伸びてきたらぁ、いつもと同じようにまた、殴られるなぁって身構えるようになったんだけどぉ〜。ある時、ちょうど棒を持ってた時があってねぇ?これ、殴り返せるかなぁって思ってぇ、やってみたら殺せちゃったんだよねぇ」
寒気がした。
死というものを、親の死というものを、こんなにも軽く話すこいつが気持ち悪かった。
貧民街は確かに無法地帯だけど、そこまで殺し殺されが横行しているわけじゃない。
みんな細々と、でも辛抱強く生きている。
「その後お母さんも殺してぇ、ただ、ちょっと間違えて、友達に見つかっちゃったからぁ、その子たちも全員殺したよぉ?」
「……罪悪感とか、ないわけ」
自分でもわかるくらいには、声が震えていた。
言い返されたのに驚いたみたいで、こいつは少し目を見張った。
「……う〜ん、そこなんだよねぇ、多分」
「…………何が?」
「そりゃあステラちゃん、人を殺した後に正気でいられるかだよぉ」
つまりは、罪悪感を感じる人は正気でいられない、ということだろう。
「正気でいられたの?」
「えぇ〜、微妙かなぁ?こんな脆い奴らに縛られてたんだぁって、情けなくなっちゃったぁ」
「……そう」
それは、なにも感じなかったと同義。
――化け物。
そんな言葉が頭によぎった。
「狂ってるわね」
「――」
全力の皮肉というか、もはや嫌味だったのだけれど、こいつは瞬きをした後に頬を緩ませて嬉しそうに笑った。
……は?
「そう?そう?そっかぁ〜、狂ってるかぁ〜!」
「……」
こいつのことは、一生かけても理解できないわ、絶対。
「おやぁ?おやぁ〜?ステラちゃん、眉間にしわ寄ってるよぉ〜?可愛い顔がだいなしぃ〜!」
「っうるっさいわね、誰のせいだと思って――」
「あ」
おでこの眉間辺りをつついてくる指が鬱陶しくてはたき落とす。
やすやすとはたき落とされ、それきり追撃してこないので不思議に思って、こいつが凝視している後ろを振り返ると、相変わらず真っ白な髪の白髪が手を振っていた。
「やほー?」
「白髪じゃない」
「……うん?え、なに、ん?ステラってば、喧嘩売ってんの?」
「はあ?」
「白髪じゃなくて!お姉ちゃんでしょ、お、ね、え、ちゃ、ん!」
「嫌に決まってるじゃないの」
「なにをー!妹の癖に生意気なっ」
「……いつからあたしはあなたの妹になったのよ」
「ん?初めて会った時」
「やめて頂戴」
「えぇ〜」
わざとらしく目を細めながら、そこでやっと白髪があたしの後ろに目を向けた。
未だこいつは白髪を凝視したまま呆けている。
肘で小突いてあげて、やっと元に戻った。
「ぁ、おはようございます、カヴィナ様」
いきなり間延びした高い声も、馴れ馴れしい態度も塗り替えて、こいつは白髪に跪いた。
……え?
あまりの変わり様に驚いたというのもあったかもしれない。
けど、それ以上に、人の命をそこらの石と同レベルに考えているような思考回路を持っているはずのこいつは――。
「本日は、如何なさいましたか?」
「んにゃ、特に。ステラを見に来ただけだよ、暇だったからね」
「……そうでしたか」
こいつは、白髪に、怯えていたのだ。
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