番外編 2−1 頭のおかしな奴ら(ステラ視点)
あたしの名前はステラ。
ステラ・テディー。
最近ようやく、この名前を自分のものだと思えるようになった。
……あたしのもの。
あたしが決めた、あたしの名前。
あたしは今、ある建物に住んでいる。
髪の毛が真っ白な女に連れて来られたけど、あいつは今日も出かけているみたい。
お休みの日だと、薄い緑頭が言ってた。
「ステラちゃん、次もババ抜きでいい?」
「ええ、勿論」
この、茶色の肌に明るい赤髪、暗めの茶色い目をしたモジャモジャ娘は、あたしと同じ部屋のベル。
ベルはあたしが来る少し前にここへ来たらしい。
あたしと同じように、ここに来てから食べて遊んで寝るだけで、何もさせてもらえない。
このままじゃ何も返せないし、いつか追い出されるんじゃないかしら。
――コンコンと、ドアが鳴った。
「入っていい?」
「いいかー?」
「いいわ」
「いいよー」
やって来たのは同じ班のイヴェルとエリック。
ここに来た順に、エリック、ベルとイヴェル、あたし。
イヴェルはベルと兄妹らしい。
それで、みんな貧民街出身。
何で返すもののない者ばかり集めるのかしら?
馬鹿?
何で誰も止めないのかしら?
阿保?
「何してたの?」
「ババ抜き!」
「二人もやるかしら?」
「いや、お昼だから呼んで来いって言われたんだ」
「お昼!」
「あら、もうそんな時間?」
「うん、凄い美味しそうだったよ!」
「分かったわ、行きましょ、ベル」
「うん!」
階段を降りていくと、次第に美味しそうな匂いが強くなる。
……お腹空いたわ。
「メノウさーん!今日のご飯、なんですか?」
「カヴィナ様がいないので、残り物とピザなのです」
「ぴざ?」
「美味しいのですよ~」
いち早くご飯の部屋に行ったベルは、すぐに席に座った。
ぴざって、何かしら。
貧民街に居たときから良いものを食べていなかったのは知っていたけど、ここは聞いたこともない物がたくさん出てくる。
「薄緑、今日は私達だけなの?」
「そうなのです、皆さん出払っているのですよ~!」
珍しいことではない。
ここの人は皆、働いて過ごしているようなので、居候の私達と世話係の薄緑だけが残るという日はよくあった。
「わああ、おいっしい!!」
「あ、ちょっとベル、ずるいよ!」
一人で抜け駆けをしてぴざとやらを食べ始めたベルを、イヴェルが諌める。
同時に、
「いただきますを言うまで食べてはならないのですよ~?」
「ひゃあ!っご、ごめんなさいい……」
薄緑がベルの肩をガッと掴んで圧のある声でそう言った。
……ここでは色々と、貧民街じゃなかったルールがある。
例えば、部屋の中では靴を脱ぐ。
例えば、ご飯を食べる前に『いただきます』、食べ終わったら『ごちそうさまでした』を言う。
はっきり言って、細かいし、面倒くさい。
これ、やる意味あるのかしら。
「それでは、手を合わせてくださいなのです。……いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」
「……美味しいわね」
「うめえな!」
「それは良かったのです。……あ、そうそう、近いうちに皆さんも“研修”が始まるのです、遊ぶなら今のうちなのですよ~」
「「「「……“研修”?」」」」
聞きなれない言葉に声が揃う。
「テディーに入った子達はみんな“研修”を受けるのです。……とってもとっても、大変なのですよ……」
薄緑が思い出を振り返ってか、遠い目になる。
……そんなに大変なのかしら。
大袈裟じゃない?
「無理、死ぬわ……」
「えぇ~?ステラちゃんったらっ、冗談よしてよぉ~」
大袈裟じゃなかったわ。
無理。
本当に、無理。
私、魔法使い志望なのよ?
なのに、『じゃあまず体力から』って、意味が分からないわ。
何なのよ、練習場20周って。
しかもこの練習場、上の建物より大きくて広いじゃない。
何やってるのよ、何よ、空間魔法って。
普通は無属性をこんな風に使わないのよ。
魔力の無駄だわ。
本当に馬鹿なの?
頭がおかしいんじゃないかしら。
最低限これからの生活が保証されるって言ったじゃない、嘘つき。
白髪のこと、ますます嫌いになったわ。
「ステラぁ、み、水……」
「無理よ」
あたしより少し遅れて20周を走り終えたエリックがあたしに水を要求した。
は?
ふざけてるのかしら?
私の髪の色を見なさいよ。
ていうかむしろ、あなた水属性持ってるじゃない。
自分でやりなさい。
ついでにあたしの分も。
「うーん、予想以上に体力がないなぁ~?スリとかやってなかったのぉ?」
「「――――」」
名前の忘れたこいつの言葉に、二人揃って絶句した。
すり?
それって、あたしの知ってるすりと同じ意味ってことで合ってるのかしら?
あの、金持ちから盗む?
もし、そうなのだとしたら……。
「そんなに、軽々しく言わないで欲しいわ」
「……えぇ~?……でも、お金がないから貧民街にいるんでしょぉ~?」
間延びしたその言葉が、なんだか妙に癪に障った。
「ええ、そうよ!お金がないから、捕まったら終わりなのよ!!」
「ぉ、おい、ステラ……」
「…………」
自分で思っていたよりも大きな声が出て、驚く。
同時に、目の前のこいつに、全くもってあたしの言葉が届いていないことに気が付いて、みじめな気持ちになった。
「……顔色一つ変えないのね、あなたは。分からないんでしょうね!あなたには――!!」
「う~ん、ステラちゃんさぁ、何に怒ってるのぉ?」
相も変わらず、間延びした声に変化はない。
ただ、質問の意味が分からなかった。
「だってさぁ、すりって悪いことぉ?」
「……当たり前じゃない」
そこでこいつは言葉を止めたので、仕方なく答えた。
「そっかぁ、当然かぁ」
「……何が言いたいの?」
わざとらしく頷いて共感して見せる姿がむかついて、イライラして、それでもここで目を背けて逃げ出したらなんだか負けな気がして、精一杯の口答えをした。
「……ステラちゃんさぁ、自分のお金が盗まれたら、どうするぅ?」
「取り返すわ」
「うんうん、そうだよねぇ。じゃあ、逆上されて殺されそうになったらぁ?」
「足掻くわ。殺されないように頑張る」
「じゃあ、撃退できたとしてぇ、そこはスラムでぇ、相手が気絶してたらぁ?」
「……逃げるわ、その町から」
「…………そっかぁ」
そこで初めて、目の前のこいつから笑顔が消えた。
驚いて、怖くなって、体が反応したのはあたしだけじゃない。
「ステラちゃんは、人を殺したことがないんだねぇ」
「「――――」」
今度は、口答えする気にさえなれなかった。
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