21 ベルさ〜ん?(メノウ視点)
「ベルさ~ん?」
「どこにいるのです~?」
「ベルさ~~ん?」
「…………あのすみません、メノウ先輩?少し声を抑えて……」
「ベルさーん!返事はしないとダメなのですよ~」
「……」
おかしいのです。
何がおかしいって、ベルさんがいないのです。
匂いはあるのですが、ここ、ジェフの部屋でとても不自然に途切れているのです。
「ジェフ、ジェフ。ベルさんはどこなのです?」
「その質問、8回目だと思うんですけど……」
「ベルさんをどこへやったのです?」
「知りませんって……」
ジェフ・ラテ・テディー。
ミーと一緒で、魔族なのです。
年齢は不明。
元貧民街の捨て子で、カヴィナ様が拾ったベアの一人です。
もっとも、今までに希望してテディーに入ったベアなどいないのですが。
あ、ちなみにミーは8才なのです。
暗めの紫の髪に黒い目、そして頭には一般的な魔族の円錐状の角が2本。
一般的な魔族の角は色が黒に近いほど強いとされているのに、ジェフは黒に近い灰色。
……本当に、何故捨てられたのです?
いかにも魔族という感じの魔族で、普段は確かカヴィナ様から角を隠すための道具を貰っているはず。
……それにしても、往生際が悪いのです。
ここまであからさまに転移した跡がある以上、犯人は明確だと言うのに。
でも、ミーだって引くわけにはいかないのです。
カヴィナ様に任されたからには、やり遂げなければ……!
「……そう、なのですか」
「だから最初からそう言ってるじゃないですか……」
「残念なのです、ジェフ……」
「何の話ですか?」
「しかし残念なことに証拠は出揃っているのですよ。さっさと罪を認めるのです、ジェフ!」
「何の話ですか?」
じいっとジェフを睨んでも、目を細めるだけで表情に変化はないのです。
ぐぬ、強情な。
「良いのです、カヴィナ様に言いつけるほどミーは冷たくないのです。それに……ジェフからは血の匂いがしないのです。殺しては、いないのですよね?」
「本当に何の話ですか?」
「ああ、心配しなくても良いのですよ、ジェフ。思い出して欲しいのです、ミーはある程度の怪我なら治せるのです」
「え、メノウ先輩、頭でも打ちましたか?」
「……?」
意味がよく分からないのです。
だいたい、頭でも打って気が狂ったのはジェフの方なのです。
「ああもうっ、いいから早くベルさんを出すのです!!」
「ですから、それ誰なんですか?」
「……へ?」
ジェフは首を傾げます。
……ジェフは、ベルさんを知らないのです?
でも、嘘をついているようには見えないのです。
もう一度本、棚を開けたり閉めたりしながらジェフの質問の答えを探します。
「ベルさんは……えっと、シェイラさんのところの研修中のベアで……」
「へぇ」
「実務だったのですが、護衛方の研修範囲を先に終えたので呼び出しがかかったのです」
「……優秀なんですね」
しみじみとジェフが言いましたが、ミーは首を捻ったのでした。
「さあ?」
「……え?」
「ミーは最近、実務より書類担当なので、どのくらい強いのかは知らないのですよ?」
「……そう言えば、そうでしたね」
何を今更そんなことを。
カヴィナ様の書類担当だったジェフが第三の代表になったからミーは書類仕事に戻ったのです。
「まあでも、戦闘のお仕事はミーより向いてるルークさんやケイトのお仕事なのです」
「……メノウ先輩ってケイトより弱いんですか?」
「は?なんか言ったのです?」
「…………何でもないです」
そうなのですね、はい、当然なのです。
ミーより弱いジェフにそんなことを言われる筋合いはないのですよ。
「で、ベルさんを知らないとはどういうことなのです?」
「……えっと?」
「シェイの研修生についてジェフが知らないなんてあるわけないのです」
「…………メノウ先輩って僕のこと何だと思ってるんですか?」
「それ、ミーが今、一番信じられない言葉なのです」
「はい?」
「ふむ、ジェフ……そうですね〜」
ミーは考えました。
ジェフのイメージ。
……そんなの、決まっているのです。
「粘着気質のシェイラ大好きなちょっと気持ち悪い後輩、なのです」
「……大分酷いですね」
「嫌いではないのですよ?シェイラの意思を尊重してあげている辺り、好感は持てるのです」
「…………はあ、そうですか」
ジェフは心底呆れたようにそう言いました。
「……で。そろそろ帰ってくれません?」
「何を言っているのです、ジェフ。ミーの問題は全く解決していないのですよ?」
「いや本当、知りませんって。僕も忙しいんですよ」
「……ふむ?ではジェフ、最後にここを出たのはいつなのです?」
「えっと、確か……昨日の晩ですね」
「…………はい?」
流石に耳を疑ったのです。
昨日の?晩?
今はもう7時を過ぎていたはず。
半日近く寝ずに仕事をしていた、と?
「本当に忙しいのですね……」
「なんですかその可哀想な子を見る目は」
実際、とても可哀想なのでした。
シェイが緊急代表に決まった時は、代表の方が決まっておらず、カヴィナ様はシェイに選択する権利を与えました。
そんな中、自らを推薦し、最終的に選ばれたのがジェフなのですが、だと言ってもこの仕打ちは可哀想なのです。
「……では、何故ベルさんの匂いがここにあるのです?」
「こっちが聞きたいですけど?」
ベルを連れてくるという目的が、段々とジェフに罪を認めさせるに変化しつつあったメノウ。
ジェフはまじの苦労屋。
そして根暗。




