番外編 1 私の友人、カヴィナ(王妃様視点)
「「王妃様が、言葉にしなくたって何でも分かってくれる魔道具だとでも思ってるの?」」
近衛に止められながらも近づいた扉の奥から聞こえた、高い女の子の声が二つに重なって聞こえたのは幻聴だったのでしょうか。
(カヴィナ……!?)
確かなのは、その声の持ち主が最近になって知り合った私の友人のものであるということ。
そしてその声は、立ってはいられない程の重圧を感じさせる怒気が含まれていました。
「「それは怠慢だよ、王様。……ほぼ会ったばかりの私の方が王妃様に信頼されてるとさえ思えるね」」
何の話を、と思ったのも束の間。
その声は段々と力強く、重くなっていきます。
「「王妃様を幸せにできないって言うなら、振ってあげなさいよ。恋に捕らわれて、逃げ出せなくて、だけど愛する人には愛してもらえなくて、他にお妃様がいるからって我慢して、押さえて堪えて、好きを貰えない状況で3年間?笑えるわね、本当。それで好きですって?冗談も休み休み言いなさい。嫌いだと言っていたのか?嫌いにならないのが奇跡よ、王妃様ってば優し過ぎるわ」」
私のことを庇っていることは理解できました。
問題は、誰からという点。
……考える必要などありません。
だって、この扉の奥は、応接室。
…………王の客を通す部屋ですもの。
「「あなたにそんなこと言う資格があるとでも?王妃様は、鳥じゃないの。籠の中で餌と娯楽があれば楽しく生きていけるような鳥じゃなくて、人。あなたと同じ、あの人は好きとか嫌いを考えらる、人なのよ、分かってる?王妃様と最後に会話したのはいつ?最後に王妃様に笑ってあげたのはいつ?」」
(私は、どうしたら……!?)
カヴィナを、せっかくできた友人を失いたくはありません。
カヴィナがどう思っているのかはやはり分からないけれど、私は、カヴィナとまだまだ話したいことがあるのです。
「「王妃様、婚約してすぐに王宮に入ったのに、12年経っても子供ができないばかりか王様が王妃様のもとへ行ったのだって随分前だから、笑われているのよ、あなたのせいで。せめて王妃様のもとへ通えばよかったのに。それにあなた、なんで王妃様のこと好きだったなら側妃を入れたの?第一側妃が王妃様のこと虐めてること、知ってる?驚いてるんじゃないわよ、王妃様付きのメイド長、第一側妃の実家の手下なのよ」」
何故、メイドからのいじめをカヴィナが知っているのでしょう。
もしかして、私と仲良くしてくれていたのは、それを知った上での同情からだったのでしょうか。
そんな考えが、どうしようもなく脳をよぎります。
信頼できると思っていたメイド長までが、第一側妃様の、手下?
……それに、あの方が、私を、好き?
情報量が多く、同時に質も高く、脳が追い付かないまま――。
(……魔力?)
ピリッとした空気に、少しの頭痛を覚えます。
……正体が魔力であろうことはすぐに分かりました。
しかしやはり問題は、誰のという点。
あの方の物ではありません。
同じようにウィリアムの物でもないでしょう。
(カヴィナなの?)
空気中の魔力が増加するほどの魔力が一個人から出ているとするのなら、尋常じゃないほどの魔力量でしょう。
尋常じゃないほど、あの小さな体には負担がかかっていることでしょう。
「「王妃様、初めて会った時、顔が真っ青だったわ。骨が浮き出ているんじゃないかってくらいには腕も細かったし、髪の毛の手入れだって適当で、ぱさぱさだった。最低限の物しか食べさせて貰えないんでしょうね。王妃宮の金を着服しているんでしょうね」」
ゆっくりと、ゆっくりと、早口になっていくカヴィナの言葉。
比例するように魔力による圧力も強くなっていきます。
(止めなくては……!!)
そう、思いつつ扉に手を伸ばし、早く引かなければ、早く開けなければならないというのに、体は重く、動きが普段より遅く、焦りばかりが募っていく始末。
「「本来、ええそうよ、王妃っていうのは愛されるものがなるから、虐めっていうのは側妃間で起こるものよ。けど、前提が違うわ、違いすぎるの。あなた、貴族たちのいる観衆の前で王妃様との仲が良いというアピールしたかしら?してないのでしょう?貴族の圧力に屈していたのでしょう?側妃ばかり構っていたのでしょう?おまけに側妃を二人も入れて、それで王妃様はどれ程傷ついたのか、あなたは――!!?」」
「やめて!!」
扉を開けて中に入る勢いをそのままに、立っていたカヴィナに抱き着き、ゆっくりとソファに座らせます。
(……小さい)
抱えてみると、カヴィナは本当に小さく、子供の体でした。
こんなにも小さな体に、これほどの魔力を抱えているなんて。
「カヴィナ、あの、もういいです、いいですから、やめてください」
気付けば私は泣いていて、目が虚ろなカヴィナに何もできないことが悔しくて仕方なかったのです。
「魔力、押さえてください、カヴィナ、駄目です、もう、これ以上は――」
未だに魔力の放出を止めないカヴィナを諭すように、できるだけ、静かに、冷静に、言葉を選んだつもりだったのです。
「カヴィナの体が、持ちません」
それでも声は震えていて、情けないことに涙は収まるどころかあふれ出てきます。
「カヴィナ……カヴィナ!?しっかりしてください、カヴィナっ!!」
虚ろでも開いていた目すら閉じてしまい、喪失感に襲われます。
――そんな時なのに、あの明るく高い声が浮かぶのです。
『……王妃様?』
ぽたっと、気づけばカヴィナの顔に涙が落ちていました。
(早くカヴィナを医務室へ連れて行かなくては。その後メイドを入れ替えて、あの方に……)
涙を拭い取ると、急に冷静になり、立ち上がろうと思います。
(あら……?)
足、いえ体に力が入らないのは、ある意味当然だったのでしょう。
……あれほど高密度の魔力を、短時間とはいえこの身は浴びていたのですから。
意識が消えてしまうのは時間の問題だと思い、精一杯の気力を振り絞って声を上げました。
「今すぐ医者をっ!カヴィナをっ、医務室へ!!!」
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