11 もしもしそこのメイドちゃん
「……どこだ、ここ」
目が覚めると見知らぬ場所でベッドの上。
なんていうか、保健室っぽい雰囲気だ。
起き上がると頭痛が、いたっ。
見渡しても誰もいない。
……拉致?誘拐?
いや、ないな。
私はついさっきまで王様に詰め寄っていたはずだ。
予想だけど途中で気を失った。
……多分アレ、あの子が出てきてたのかな。
王家にもトラウマがある?
ますますこの子のことが分からなくなってきた。
あと、王妃様が、泣いている夢を、見た気が――。
(あれ、夢かな)
何で泣いていたのかは分からないけど、現実で、かつ理由が私だったなら申し訳ない。
ていうか。
(なんか、魔力が、濃い?)
分からん、気の所為かもしれない、が。
……多分気の所為じゃないな。
(空気中の魔力が多い?)
ベッドから出て立ち上がり、窓から出る。
それにしても、これだけ濃いなら――。
「きゃあああああ!!?」
十中八九、魔物が出るよね。
タイミング良く叫び声が聞こえた方へ向かって見ると、多分、ここのメイド(?)……がいた。
って、あ。
ここ王宮じゃん。
ここ通ったことあるもん。
……倒れて医務室にでも放置されてたのかな?
うう、頭痛い。
「誰かっ、助けてっ……!!」
「ん、いーよぅ」
でも、王宮に結構魔物が溢れてるみたいだけど、精々がオーク?
余裕だね。
メイドちゃんはゴブリン×3に詰め寄られてたので、足で蹴り飛ばす。
……ゴブリンその一、二、三は無残にも残骸となった。
あ、返り血避ければ良かったなあ。
「大丈夫?メイドちゃん、怪我はない?」
「あ、ありがとうございま――」
――あっ。
振り返ってよくよく見てみれば、メイドちゃん、君、もしや。
……しかし、そんなこと考えた時にはもう遅く。
「――“ベリー”?」
「…………久しぶりだねえ、アン」
やっばい、どうしよう。
……彼女、茶髪に黒目の童顔な女の子の名は、アンジェリーナ。
貴族っぽい名前の割に平民の出である。
アンには本当、凄い恩があるのだ。
サラマンダー様の家でメイドとして働いていた時の同期。
私より1つ上だったから、今は10才?
まさか、王宮で働いていたとは。
……いや、そうとも限らないな、サラマンダー様と王宮に来たっていう可能性もある。
別に、彼女が嫌いとか、顔すら見たくないとか言うわけじゃないのだ。
むしろ逆。
滅茶苦茶会いたかった、んだけど。
もっと言えばアンを侮辱するような奴がいたら殴っちゃうようなレベルで好き、なんだけど。
アンはすっかり腰が抜けちゃったみたいで、尻餅をついていた。
スカートの中見えてるよとか、そんな言葉をかけるべきなのだろうか。
……いや、無理だな。
もうきっと、冗談にアンは付き合ってすらくれないだろうし。
そもそも最初にアンを放って行ったのは私だし。
なんたって――。
「ベリー、あなた、だって、亡くなったって……!!?」
気まずくなって目を逸らす。
そう、私はアンにとって死んだことになっている。
んでもって当時と私、外見が変わっていないのだ。
……さて、この複雑な状況をどう説明したものか。
私の頭にはさも現実逃避のように走馬灯が駆け抜けていた。
遡ること、約一年前。
サラマンダー様のお屋敷メイドさん募集に応募し、面接でサラマンダー様と会い、採用され、魔法を学ばせて貰いつつメイドも板についてきたところ、気づけば3ヵ月。
私は驚くことにも、思いっ切りギルド長とテオさんと立たせたフラグを回収してしまったのだ。
「キャアアアアアアアアア!!?」
「っだっ、大丈夫アン!?」
それはいつもの掃除中に起こった出来事だった。
私と同じ募集で採用された一才上の同期のアンが、サラマンダー様の大事にしていた花瓶を3つも、それはそれはドミノのように落とし、綺麗に割ってしまったのだ。
しかもその花瓶は全て亡くなった奥様の遺品。
……詰んでいる。
このまま順当に行けば、アンは処刑までいかなくても解雇どころじゃ済まない処罰を受けるだろう。
ただし順当に行けば。
……行かせないけどね。
「ぁ、あぁ、ゎ、私、なんてことを……!」
「…………アン。あなたは今何も見なかった、いい?」
「――え?」
アンは顔を青くして座り込み、震えていた。
……そりゃあそうだ。
いくら普段天真爛漫な子どもとはいえ、もう9才。
自分が何をしたとか、怒られるとか、理解力も高くなってそれくらい分かる。
「体調不良ってメイド長に言って、明日も休んで。けど絶対明後日は来て、怪しまれるからね」
「――っちょっと待ってベリー、あなた何言ってるの?」
「いいから、早く帰って寝てて?その間に全部解決しちゃうから!」
「……っ、本当?」
「うん、本当。だけど今言ったことは絶対守ってね!」
「わ、分かったわ。ごめんなさいベリー、迷惑をかけて……」
フラフラと拙い足取りながらも、アンは部屋を出ていった。
「さてさて……“不思議な不思議なテディ―の魔法”」
誰もいないことを確認した上で、サラマンダー様に魔法を学びつつ商会で開発した魔法を発動させる。
声をちょっと低くして雰囲気を出した感じで声を出した。
「“私に相応しいものを献上なさい”」
すると野球のボールくらいの大きさのブラックホールのような物が右手の上に、白く揺れる水面のような一畳くらいある平面が床から少し浮いたところに現れた。
低く出した声の意味は、まあ特にない。
『――テディ―・ベアは可愛いだけじゃない』と書かれていた薄く半透明な板にはズラリと品目が並んでいる。
テディー商会共用の……あれ、誰かが整理の時に間違えて捨てないように自分用のほうがいい?
今度はちょっと声を高くしてみる。
「“今日の服はどうしましょう?”」
一応、異次元を『私のクローゼット』とするテーマで考え作られたものである。
なんでお嬢様口調なんだと思うけど、こればっかりは色々なことに多数決を採用してた私が悪い。
ああ、高くした意味、ねえ?
…………強いて言えばテンションが上がるかな?
「これでいいね……“私の可愛いベアとお話がしたいわ”」
ブラックホールで花瓶の欠片たちを回収し終わって、鍵言葉により『start』というボタン代わりの文字が現れる。
迷うことなくそれを押し、息を軽く吸った。
『ボスからベアへ、黄色の命令です。サラマンダー様の領地にいる者は直ちに――私を人質とした上でサラマンダー様に喧嘩を売ってください。その際、無駄な殺生はしないこと。物の破壊率は3割くらいでお願いします。死に至るレベルの怪我をさせたらポーションをかけておいてください。骨折までなら放置を許します。ポーションで無理そうな場合は私が対応しますので随時連絡を。それから執事長は管轄の誰かにアンを無事に帰すことを命じなさい。暇な従業員たち。第一が確約している従業員を除いた私含め全員はことが終わり次第、第二予定地に移動しますので準備をお願いします。ああ、最後に――余った者は私を人質にしてサラマンダー様と宰相から関税の軽減を取り付けなさい。……それでは、ベアの健闘を祈ります』
『stop』を押して、アンに駆け寄った時に放り出していた箒を拾い、掃き掃除を再開する。
が、行動を起こした側からガラスが割れる音がした。
「きゃああああああああああ!!?」
こういうのは叫んでおくに限る。
だって私が囚われのお姫様にならないといけないから、何かあったってことを周知させておかないと。
んでもって声を遠くまで聞こえるようにもしている。
……事件の被害者役としては満点だよね。
そしてそんな悠長なこと考える間に、首筋には刃物が当てられ、口は手で塞がれていた。
「……騒ぐな、喋るな、今から声を出したら殺す……とかどうなのです、ベリーさま?」
「いいじゃん?満点をあげちゃおう、ミー」
しっかしまあ流石チート。
メノウが窓を突き破ったのも、私を見て目を輝かせたのも後ろに回り込んだのも、そして万が一がないようにと短剣の刃がないほうを首に当ててきたのさえ見えていた。
「ルー君とどっちが早いかなって思ってたけどミーの方が早かったか」
「ミーはちょうど近くでお買い物をしていたのです。二人とも一番最初の指示が来た時に走り出していて、途中でルークさんに抜かれたのですけど、ベリーさまが指示を出した時に止らなくちゃいけなくなったおかげで勝てたのですよー?」
「確かに、ルー君そういうとこ不器用だよね」
「すみません……」
「あっルー君、おめでとう2位だよ」
「いえ、もう少し後ろです。物を壊しに暴れている者が数名います」
「あーそっか。こういう時みんなが転移系使えたらって思うんだよねー。冬までに覚えてもらいたいからもうちょいペース上げるかな……?」
「「えっ」」
二・三日に2時間くらいの頻度で“授業”はしてるし、自主練なんかをそれぞれがしてることもあってか、まあまあ強くなってはくれたんだけど、壁がなかなか超えられないみたいなんだよね。
「だっ、大丈夫なのですよ、ベリーさま?ルークさんはともかく、ミーは今のままでも覚えられるのですよ!」
「俺も覚えられます」
「んー、まあこれは今度でいいや。それじゃ、私を盾にサラマンダー様を口説き落としてくれる?」
「言い方、なのですよ……」
「それなんですが、関税については全ての者に適用させるのですか?」
「そう。一回一回連絡なんて取ってたら怪しまれやすくなるし、テディ―を名指ししたら潰されること間違いなしだから」
「分かりました。それと、ベリー様は引き渡しますか?」
「あー、この際面倒だしなあ……ん、良いこと考えた。私は見守っててあげるから……えいっ!……この人形持って行ってくれる?それで目の前で殺しちゃって!」
「……分かりました」
「の」
私の手の中に抱かれるようにして現れた、一見気絶している私に見えるほどなそっくり人形にルークは滅茶苦茶分かりやすく顔をしかめ、メノウは下を向いた。
ちゃんと血も出るようにしたのに。
「……そんなにイヤ?」
「嫌です」
「の」
んー困った。
でも何も言わずに逃げて、捕まったと思われて探されても困るから、さっさと納得して貰わ――。
「あ、ぼす見っけ」
「……よしピティ、この、私(の人形)を殺す役やってくれない?」
「え?ぼす死ぬ?」
「死なない」
「ならいーよ!」
「ありがとピティ、じゃあ、はいこれ!私は一足先に第二行ってるから、みんな頑張ってね!“転移”!」
えっ?っていう声が聞こえたような気がしなくもないけど、その時にはもう商会の裏に建てているシェアハウス的な造りの家の私の部屋の中にいた。
その後と言えば、ササッとパラルフィニア―を出て、第三、第四を建てて今に至るわけである。
……あ、ちなみに戸籍も作り直した。
第二の領主様を少し、強請って。
ここまで言えばもう分かるだろう。
私、つまりベリーが生きているというのはトップシークレットもトップシークレット。
外部に知られちゃまずいこと、トップ3には入る。
一番はベリー=カヴィナってことだけど、まあ、この辺はリーにはもう知られているので、バレても、言いふらされなければ、ってとこである。
――が。
君は、駄目、アン。
…………どうしよう、本当、どうしよう。
攫う?拉致る?
……無理だよなあ。
アンじゃなくって、キャロルだったらお金でどうにかできたんだろうけど。
「ねえ、ベリー、なのよね?ほ、本物、なの……?」
「――もう、“ベリー”ではないかなあ」
ちょっと物憂げに言うと、アンはスカートを叩いて立ち上がった。
すうっと息を吸って、真剣な目をして、こっちを見る。
「『静かな夜に歩くメイドは?』」
「『――宙に浮かぶ雲の如く』」
「『太陽から決して目を背けることなく』」
「『――しかし覆い隠してはならない』」
これは、言葉遊び。
メイド長の言っていたことを覚えるために、二人で夜中に大分頑張った。
アンと、“ベリー”しか知らない合言葉。
全部言おうとすると、2、3分は掛かるくらいには長い。
「――やっぱり、ベリーじゃないの」
「…………気づいちゃった?」
「隠す気、ないでしょう?」
「アンは私のことよく分かってるだろうし、隠したって無駄でしょ?」
話の途中で庭木からゴブリンその四が飛び出してきたので、足を軽く伸ばして蹴り殺した。
「……ごめんなさい。私のせいで、ベリーは――」
「違うよアン」
アンの言葉を即座に否定した。
それは、被害妄想というか、もう加害妄想である。
「別にね、アンを庇うだけだったなら、あそこまでする必要、なかったし。結果論かもしれないけど、別にアンが割っても割らなくても、いつかはああなった。……必要だったから、ね」
「…………ごめんなさい」
「――」
俯いたアンの目には涙が浮かんでいた。
いやはやなんというか、人って変わるんだなあ。
屋敷にいたときは、もう少し傲慢と言うか、偉そうと言うか、自信満々な感じだったのに。
……それほどまでに、嘘だったとはいえ私の死というのは大きかったのだろうか。
「アン、アン?」
「……?」
「大丈夫だよ、私、別に死んでないよ?ここにいるよ?」
「――結果論じゃない」
悔しそうに顔を歪めるアンの手を取って、握る。
「うん、でも、生きてるよ?触れるよ?もう大丈夫!」
「――――」
アンは、目を丸くして驚いていた。
……うん?
驚く要素あった?
「……あなた、ベリー、本当に、分からない?」
「…………何が?」
「――」
また、戸惑った顔から、驚きに染まる。
「……だって、メイド長だって、みんな、あなたを――」
「カヴィナ様?」
「ん?ミー?」
必死に何かを言おうとするアンを遮って上から降ってきたのは、メノウ。
ミーはアンを一瞥して、困ったようにこちらを見る。
「えっと、どういう状況なのです?」
ああ……やってしまったぁ。
カヴィナ様って、言わせちゃ、いけなかったんだけど……。
「うーんと、私の方が聞きたいかな……?」
「の、この王宮のことは箝口令が敷かれているみたいで分からないのです」
「それはまた……」
大分厳重なのだろう。
それほど大事なことなのか、はたまた緊急事態か。
「とりあえず、王子と王様ら辺がどこにいるかは分かる?」
「勿論なのです」
「ん、案内して。……アンはどうするの?」
「わ、私、第二側妃様のもとへ行かなくてはならないの……だから――」
「じゃ、一緒にいこっか?」
「へ?」
「異論は?」
「…………ないわ」
「なら良し!」
とりあえず、現状を把握しなければ。
読んでくれてありがとう!
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