9 ◯したくなってきた
「……王子はさあ、もっと事前に説明をするべきだよね」
「わ、悪い……」
「なーんでサラマンダー様のお姉様と会わなくっちゃいけないの!」
「母上が急に会いたいとおっしゃったのだ」
「殺したくなってきた……」
「……冗談だよな?」
王と王妃の橋渡しじゃなかったのかよっ!
普通テディ―商会長に会おうと思ったらそれだけでお金がかかるんだけど?
金払ってくれんの?
ん?
「はああああああ」
「……」
気まずそうに遠い目をしてないで。
止めろや。
お前のお母様だろうに。
「私、信じられないくらい軽装だけど、いいんだね?」
「ああ、平民だからと納得してくれるはずだ」
「平民……ねえ」
「ああ、そうだとも、母上は平民にも理解のあるお方なのだ!」
別に聞いてないけど。
いやね、平民を軽んじてるとか思ったわけじゃなくて、単にそりゃそうだよなって納得してただけなのだ。
――だって、そもそもシャーベティ・パラルフィニアー様って平民だし。
準備が整ったと使用人が知らせに来たので、防音結界を殴り壊すイメージで解除した。
「おはようございます母上、こちらが――」
「はじめましてこんにちは、第二側妃様。テディー商会筆頭、カヴィナ・テディー。よろしくね」
「ええ、今日はありがとう、わたくしはシャーベティ・パラルフィニアー。連絡が遅くなってしまってごめんなさいね。噂のテディー商会長にどうしても会ってみたくって」
「私は会いたくなかったけどね」
「おっ、お前っ――」
「まあ、では理由をお聞かせくださいますか?」
「……そういうところだよ、本当に」
「…………?」
不思議そうな顔をされても困る。
っていうか、うん。
「すっごい既視感……」
「はい?」
多分、あの人。
私がこの人に感じる面影は、多分、サラマンダー様だろう。
……よく似ている。
本当、従姉弟より双子の姉弟と言われたほうが納得できるくらいに。
「……目元か」
「目元、ですか?」
「サラマンダー様に本当良く、似てる」
「──!」
「はあああああ……」
そう、目元。
大前提として髪色だけど、少しつりあがった厳しめの目つきに、あ、左目の横にある黒子も一緒だ。
ふと視線を上げると、何やら考え込み始めている……第二側妃様でいいか。
「第二側妃様、もう行っていい?」
「……母上?」
ここまでしばらく黙っていた王子も口を開いた。
もしかして、第二側妃様も思考に没入すると周りが見えなくなるのかな?
ありえそう、血筋が血筋だし。
「……まあいーか、そもそも話すことなんてないし、早く帰りたいから王妃様のとこ連れてってくれる?」
「ああ。……念のため、防音結界を張りっぱなしにしてもらってもいいだろうか?」
「ん、分かった」
「助かる」
「って、思ったんだけどもしかしなくても私、着替えた方が良いよね?」
「……?別にそのままでも――いや、王妃様がどう受け取るか分からぬ以上、着替えて貰ってもいいか?」
私、自分で言うのもあれだけど、いろいろ体感温度がおかしいみたいで、寒くても暖かく感じるし、暑くても涼しく感じるのだ。
そのため、小学校じゃ学年に一人か二人いる、年中半袖・半ズボン(今はスカート)野郎として過ごしているので、つまるところ普段から滅茶苦茶軽装なのだった。
……あ、別にお洒落の一環で長袖を着ることなんてしょっちゅうあるよ?
冬でも半袖を着ることが多いってだけだから。
「ん、どんな感じのならいい?」
「まずは足だろうか。基本的に貴族の女性は足を出すことを良しとしない」
「ふむふむ?タイツはセーフ?」
「……たいつ?それは、何だ?」
「えっとね……」
タイツ、タイツ、黒いタイツ……。
「こういうの」
「……それも魔法なのか?」
「何回も言わなきゃいけない?」
「……」
いや、でもな、馬鹿にされてるって思われないように、好かれてるって思われるようにって言うならむしろ、得意分野というか。
膝丈スカートに黒タイツのハンデ込みでも負ける気がしないんだよなあ。
「……ん、まあとりあえず会わせてくれる?」
「…………分かった。しかし、くれぐれも失礼のないようにな」
「――」
「……何だ?」
「いや――何も、うん、ないよ」
「そうか?なら行くぞ」
……大丈夫だったかな。
不自然じゃなかった?
……きっと大丈夫、うん。
うん……でも――本当に、本当、貴方は凄すぎるよ、サラマンダー様。
「……来ないね」
「来ないな」
「連絡したんだよね?」
「ああ……だが、王妃様は最近部屋から出て来ないのだ。最悪会えぬかもしれん」
「……ん?」
「…………?」
え、早くない?
もう少し、王妃様が完全に鬱になるのにはもう少しかかるはずなんだけど。
「とりあえず、1時間待ったら決行ね?」
「……何をだ」
王子が私の言葉を訝しむようにこちらを見てきたので、不敵に嗤ってやった。
「脱☆王妃様の引きこもり計画?」
「……何だそれは」
「さあ?」
「…………」
「真面目な話をするなら王妃様の部屋に突撃」
「最初からそう言え」
「え?やだ」
「…………」
さて、王子と話している時間が勿体無いので、雑談は終わりにして。
「あ、今から仕事するけど大事なやつだからこっち見ないでね。……見たら殺すから」
「……分かった」
「んー!」
……それからしばらくして。
多分、30分と少しくらい経った頃。
「「――!!」」
王妃様が、現れた。
……いや、顔青っ。
――結論から言うと、王妃様はやはり、良い子だった。
ただの初恋を拗らせてしまっただけの恋する乙女が、愛する人のために暴走しただけの様である。
謝罪も貰い、水に流してってことで二人仲良くお茶会もどきを楽しんでいた。
「……!この紅茶、とても美味しいですね……!」
「あ、だよね?結構自信あるんだよ、これは!褒めてくれてありがと、王妃様。部下たちにも伝えとくね?」
狙ったのは妹ポジ。
可愛い妹のように振る舞い、しっかり的中させた。
……いやね、最初は演技のつもりだったんだけども。
作り笑顔に敬語をキープしてたんだけども。
ちょっと途中からマジな満面の笑みである。
ああ、敬語じゃなくていいと言われたので不敬にはなっていない、はず。
や、私って一応そういうこと考えられる子だからね。
でも、にしても。
――滅茶苦茶に可愛いわ、王妃様。
本当に惚れそう、お嫁に来て欲しい。
あと、妹ができたみたいで超楽しい。
私って一人っ子だった、から……?
ん?
どうだっけ。
■■■がなあ、ノイズみたいにいるからあやふや。
あ、ちなみに、王子は途中から離脱して別室に逃げた。
多分女の子の、それも義理とはいえ母の恋話はきつかったんだろうな。
「……王妃様さ、王様のこと、好きなんだよね?」
「…………はい。あの方は、どう思っているのか、分かりませんが」
「ん~、そっかあ」
「……」
好き。
そっか、好きかあ。
たった数時間の付き合いで何言ってるのって思われるかも知れないけど、私は結構王妃様が好きになってしまったのだ。
だから、最悪は匿ってあげたい。
惚れた女の子を放置して、体調不良を起こさせるような奴に王妃様を渡したくない、と思う。
「まあいいや、そろそろ帰るね、王妃様。だいぶ長居しちゃったし」
「いえ、そんな。……カヴィナのおかげで楽しかったです。今日はありがとうございました」
「うん、また近いうちに会いに来ると思うから!」
「近いうちに、ですか?」
「ん、またね~?」
「……はい、また」
きっと、王妃様の好きは、私の好きより重いんだろう。
……だから、婚約しているだけの赤の他人に、こんなにも心を擦り減らすことができるのだ。
読んでくれてありがとう!
いいね、ブックマーク、コメントなど、このお話を少しでも面白いと思ってもらえたら(主に作者のやる気アップに繋がるので)、評価の方よろしくお願いします。




