番外編 1−3 転移は“完全”じゃなくても使える(シフォン視点)
「……せんせい」
「え?うん?……なんて?」
「うち、これからベリーちゃんのこと、せんせいって呼ぶことにする!!」
そう決めたのは、うちがベリーのもとで過ごし始めてから約2か月後のことだった。
敬語は外れ、“ベリーちゃん”に“シファニー”と、そう呼び合うくらいに仲良くなったうちとベリーちゃんはこの日、転移の練習をしていた。
といっても、ベリーちゃんは既に転移を使えていたから、うちが練習するのにベリーちゃんが助言する形だったけど。
……18才までは死ねないと、その魔法をかけた張本人に言われたうちはとても荒れた。
一週間近くベリーちゃんへの無視を貫き通し、与えられた部屋でずっと寝たふりを決め込んでいた。
けれど、そんな中、彼女は飽きることなく寝たふりをするうちにこう言った。
『ねえシフォン。君、やりたいこととかないの?先に言っておくけど、12になったら学園に入れるよ?そしたらそれからの6年はあっという間だろうし、今の内にやりたいことはやっておかないと……』
多分それは、ただの善意でしかなかった。
……けれど、その時のうちにとって、それは地雷だった。
『……学園……?』
『うん、そう。フィニア魔法学園。……知ってるでしょ?』
知ってる、とかじゃなかった。
かつて、私が部族の中で暮らしていた時に、家族に売られる前に、目指すべき場所として示されていた場所だった。
『……やだ、行かない』
『え?なんで?』
『――お前にっ!お前みたいな“完璧”にっ、うちの気持ちは分からない!!』
『……』
ベリーはポカンと、頭の悪そうに固まっていた。
うちが再びベッドに潜り込んでからしばらくしたあとで、彼女は躊躇うようにうちに声を掛けた。
『ねえシフォン、もしかして君は、“完全”な属性持ちになりたかったの?』
『……知らない。“完全”なんて、知らない』
最後の方は涙混じりで、というか、泣きながらだった。
『うーん?……シフォン、私ね、“完全”でも、“完璧”でもないんだよ』
『……嘘。“完全”じゃなかったら使えないはずの転移、使ってたもん』
『…………“完全”じゃなくても、転移は使えるけど?』
『ぇ……?』
そうして教えられたベリーちゃんの知識や、魔法の使い方は、里で教えられた物とは全くと言って良いほど違って、実際に初歩的な魔法から試していき、初めて転移を発動できたのがこの日だったのだ。
「うーん……遠慮したいなあ?」
「しなくていいよっ!本当、本っ当、ありがとう、せんせいっ!!」
「……うん……?」
うちの足元にできている水たまりが、ベリーちゃん、もとい、せんせいの顔を映し出していた。
――この時、この瞬間。
水たまりから水たまりへの転移を成功させたその瞬間から、うちは自分のことを私と呼び変えるようになった。
当の本人であるベリーちゃんはともかく、キャロお姉ちゃんやテオお兄ちゃんには多分、ベリーちゃんの真似っ子ってこと、バレバレだと思う。
そのくらい、私を拾って、死ねなくして、最終的に“完璧”以上にしてくれたことは、私にとって大きくて、嬉しくて、ベリーちゃんを大好きになるのに十分な理由だった。
「……良かったなあ」
ぼそっとせんせいが水たまりの向こうで呟いた独り言は、私に届くことなく散った。
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