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1 キャアアアアアアアアアアアアアア(絶叫)


雨が降っていた。

彼女は雨が自身の体を冷やしていることを自覚しつつも、雨に濡れていた。

彼女は高い建物の屋上に立っていた。

誰かがこの場にいたのなら、きっと自殺だと分かり、彼女を止めに走ったであろう。

しかし残念なことに現在は深夜の2時である。


彼女は希望に溢れて暮らす、普通の学生だった。

小説が好きで、特に異世界……ファンタジーな物語を心から愛していた。

いや、愛していたからこそ。


愛する物語と登場人物の役に立てない自分が許せなかった。


『このお話で彼は死んだ。

 私がこの場に居合わせることができなかったせいだ』


『彼女は彼からの恋心に気付けず自殺してしまった。

 私が此処にいたら必ず救えていたのに――!!』


そして愛してやまない登場人物(こどもたち)の悩みや不幸を目の当たりにする度、彼女は世界に絶望した。


私は、彼らを救えない。

()()()、彼らを救えない。


――そんな人生に、意義は在ろうか?

答えは当然否、無い。

ならば私が私で在る必要など無い。

やり直そう、たとえ無に帰すだけになったとしても。

誰も悲しむことのない、最高の終わり方で。


そうして彼女は月だけに見守られながら落ちる。

まるで長い束縛から開放されたような、幸せな顔で。







「――いします神様お願いします神様お願……え?」


目を開いたらなんか凄いふわふわのベッドに横になっていた。

おかしい。


(あれ?私絶対落ちたよね?え?も、もしかして……!!)


「死ねなかったあああああああああああ!!?」


おっと、つい叫んでしまった。

まあでも叫んどいて何だけど、ベッド以外の背景が真っ白だから、きっとここはお約束な異世界までの中継地点なんだろう。


「わあ、やっぱ――」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


(何、何!?耳元から声が聞こえて――)


「び、びっくりしたあ……ど――」

「嫌あああああああああああああああああああああああああああああ!!」


今日3回目の絶叫である。

ちなみに2回目のは急に声が聞こえたことに驚いたからで、3回目のは声の持ち主の顔面の良さに目が潰れかけたからだ。


(咄嗟に叫んじゃうのは悪い癖だな……)


「えっと、大丈夫?」

「大丈夫です!!」


割と食い気味に答えつつ、顔面兵器とはこういう人のことを言うんだろうなあ、などと呑気なことを考えていた。

考えていたのだが。


「そ、そう?ならいいけど……あのね、期待しているかもしれないところ悪いんだけど、君を転生させてあげることはできないんだ」

「何故何故何故ですか!?」


儚い夢は砕かれた。

はっきり言ってショック死しそうなレベルで焦っている。

もう死なない、というか死ねないけれど。


そんな私の様子に彼(?)はかなり驚いたようだった。

まあ普通の大人と大して変わらないJKにいきなり泣きつかれたら誰だって少しは驚くよね。


「あー、えっと……君は、君の大好きな人たちを救いたいと考えているから転生したいんだよね?」

「その通りですけど……」

「ですけど?」

「なんで知ってるんですか?」

「そりゃあ、神だからね」

「なるほど」


どうやら神というのは結構万能らしい。


「で、私が転生できないのは何故ですか?私そんなに徳を積んでない自覚はありますけど、悪いこともそんなにしてないと思いますよ?」

「ううんと、転生できないというか、本当に転生()()()()()()()()()んだよね……」

「と言いますと?」

「君の魂が大きすぎるんだ。普通の体に転生させても破裂するどころじゃ済まないんだよ」

「え?ちょっと待って下さい、それじゃあ私が化け物みたいじゃありませんか」


もし本当に化け物だとでも言うのだとしたら心外である。

私は至って普通な女の子なのだ。


「いや、なんていうかこっちが待ってほしい、切実に。君は確実に一生どころじゃ終わってくれないから君の魂に釣り合う体を準備していたのに、急に自殺するなんて考えてなかったんだよ……」

「……」

「いや死ぬんじゃねえよカスとまでは言わないけどさ?ちょっとはこっちの事情もわかって欲しいんだよね、本当に」

「……」

「ちょっと、ねー聞いてる?」

「あ、すみませんもう一回最初から言ってもらえます?」

「ふざけてんの?」

「嘘です2割くらい」

「……残りは」

「本当です」

「……もういーや、めんどくさい」

「報連相はしっかりしたほうがいいですよ?」

「じゃあ君はその一歩前からじゃないか」

「……たしかに」

「否定しようよ」


いや違うのだ。

だってふざけてるわけじゃないんだけども、


「体を準備していたってことはどのみち大丈夫ですよね?」


そう、気づいてしまったのである。

彼(仮)は呆れたような顔になった。


「なんだ聞いてたんじゃん……それじゃ続けるけど、準備はしてたよ、うん。けど、終わってるかは別って話」

「やばいじゃないですか!!」

「君のその高低差はなんなの?」

「ぶっちゃけ転生はできるなら儲け物程度だったんですけど、できるっていうならやりたいじゃないですか?」

「儲け物って……」

「だって自殺の動機が8割くらいそれですし。……残りはまあ、諸事情ですけど」

「君可能かも分からないことに命賭けすぎじゃない!?」

「いや事情が事情ですから……それで、結局のところ最終的に私はどうなるんですか?」

「あ、結果が全て主義の人?まあいいけどき――」

「違いますよ?」

「うんごめん分か――」

「違いますよ?」

「ごめんなさい」


(ふっ……神に謝らせるなんて私って最強?)


「ひっぱたくよ?」

「うんうん分か――」

「ひっぱたくよ?」

「愚考でしたすいません」


ちなみにこの時彼(仮)は『ふ……やっぱり僕って最強』などと考えていた。


「ていうか貴方やっぱ心読めるんです?」

「うん、勿論」

「何故?」

「神だし」

「なるほどなるほど」


……やっぱり神って便利だな。


「でも、私はここで体が完成するのを待ってれば良い訳ですよね?」

「ごめん、君ここに居れば居るほど自我が消えていくんだ」

「えー?終わってません?そう言われれば確かに前世の記憶が曖昧になってく感じがしますけど……」

「やばいじゃん!え?もしかして君、進行が早いタイプの人なのかな!?ていうか君は何でそんなに冷静なの!?」

「そんな事言われましても……」


(大事な記憶なんて■■■のことくらいで――?)


「――あれ?」

「?、どうしたの?」


おかしい。

絶対忘れないようにしなっきゃって決めたのに。

私が■■■を忘れるわけがないのに――。


「ねえ、私の妹って誰だっけ?……ううん、私に妹なんていないよ。でもじゃあ、あの■■■っていう子は友達だったのかな?でも、あの子私の家に住んでた。家族だよ。……家族?私の家族はお母さんとお父――違う、お父さんは事故で――自殺?そんなはず無い、だってお父さんは私のことを愛して――くれなかったの。あいつが■■■を殺して――でも■■■は病院で命を取り留め……違う、お葬式をしたんだよ、真っ白な肌に沢山痣があった。黄色の花が白い肌によく似合ってて――お父さんが捕まって……?それで――」

「――ストップ」

「……?」


すごく、すごく気持ち悪い。

細かく絵の具を分けていたところに水が入って色が混ざっちゃって、どうにかしようとすればするほど色が混ざっていくパレットみたいだ。


「思い出そうとすればするほど記憶はぼやけていくから、考えないで」


……無理です。

凄いそう言いたいのに、口から声が出ない。

体なんか無いはずなのに、死んでるはずなのに、足が重い。

視界がぼやけていく。

私の顔色を見てか、彼(仮)は私のことをいきなり抱き上げた。


「ごめん、言うべきじゃなかった。こんなに酷いなんて……君は体ができるまで、適当な体で先にどこかの世界に転移して貰う。やり直しはできないから、しっかり世界の運命を決めてくれ。あと、君は年をとらないよ、姿は変えられるけどね、覚えておいて。それと君の自殺の関係で、物語が始まる8年前だから、主人公たちと仲を深めたり、学校に入ったり……忙しいと思うけどまあ、とりあえず君のやりたいことを好きにやってくれ」


私は一番最初に寝かされていたベッドに下ろされる。

……ふかふか。


「大丈夫、君は……いや、うん。『――君に言葉の祝福を』」


すると、私の寝ているベッドは光出す。

……なんか最後言い淀まれたな?

まあ、いいけど。


「……頑張ってね、神殿に来ればいつでも会えるから」


そうして私は目を瞑る。

彼(仮)に光の粒となって消えるのを見届けられながら。







『――頑張ってね、神殿に来ればいつでも会えるから』


目が覚めたら原っぱに横たわっていた。

……ふさふさだあ。


一度起き上がり、ぐーぱーぐーぱーと手を握りしめる。

元の体と何ら変わった様子はない、が。

起き上がったことでよく分かった。

視界に真っ白な髪の束が二本、入り込んでいたのである。


「転移じゃなかったんですかあああああああああああああああああ!!?」


いやまあ、良いんだ、別に。

髪の色が変わるくらい。

顔が、変わって、いないのなら……変わってないよな?

鏡か水面ないかな、と一度立ちあがったその時。


「あだっ」


何かが上から降って来たようで、頭に当たった。

一枚の紙と、鏡。


「鏡!?」


手のひらサイズの手鏡であった。

そしてその鏡を恐る恐る覗き込み――。


「嫌あああああああああああああああああああああああああああああ!!」


発狂した。


「ヤバい目が潰れる……誰この美少女――いだあっ」


また何か降って来たと思ったらさっき放り投げた紙だった。

よく見ると文字が書いてある。


「ただの紙なのに結構痛かったし悪意を感じる……なになに?」


『リリアンヌ(仮)へ

きっと君は今僕の創った顔の顔面偏差値の高さに大層喜んでいることだろう』


いや、おん?

何でこう、いちいち鼻につく言い方するなあ……?

まあ喜んでるけども。


ていうかリリアンヌ(仮)とは。

ふざけてんのかな?


『まず“メニュー”と唱えて――』


「“メニュー”」


言うが早いか、口に出す。

……こういうのってステータスがテンプレじゃないの?

そして目の前には水色の半透明な……板と言うには薄く、しかし紙まではいかない薄さの長方形が出てきた。



メニュー

【2371年3月27日】

▶ToDoリスト

▷物語を読む

▶ステータス

▷スキル一覧

▶称号一覧

▷マップ

▶外見の変更



なるほどなるほど。

まずは定番ステータスをぽちっと。



メニュー

【2371年3月27日】

▶ToDoリスト

▷物語を読む


▼ステータス

リリアンヌ(仮) 7才

HP(体力) 99999

MP(魔力) 99999

ATK(物理攻撃力) 99999

MAT(魔法攻撃力) 99999

DEF(物理防御力) 99999

MDF(魔法防御力) 99999

AGI(素早さ) 99999

DEX(器用さ) 99999

 →詳しく見る


※これは世界最強と言われている神龍と同等以上のステータスだよ。

自分が化け物ってことをよく自覚してね。


▷スキル一覧

▶称号一覧

▷マップ

▶外見の変更



おっふ……お待ちくださいな、神様?

私別に強くなりたいわけじゃないんですよ。

人の不幸を知っていたくないだけで、無双願望とかもないんです。


「嫌あああああああああああああああああああああ!!終わった……私の人生オワタ……チートは面倒ごとと切っても切れない関係で結ばれるんだあああああああああ」


ていうか全部99999とかバグってんじゃないのこれ。

詳しくってなんだよめんどくさいなあ。

続いて恐る恐るスキル一覧というのを開くが――。



メニュー

【2371年3月27日】

▶ToDoリスト

▷物語を読む

▶ステータス


▽スキル一覧

水属性―なし

氷属性―なし

火属性―なし

土属性―なし

風属性―なし

雷属性―なし

光属性―なし

闇属性―なし

無属性―なし


▶称号一覧

▷マップ

▶外見の変更



良かった、属性制度で。

本当に良かった。

魔力量で全てが決まる魔法社会だと大きい魔力の代償に扱いが大変なんてことになりかねない。

ただまあ、ここに書かれている属性以外に世界に存在する属性がなくて、属性を調べる方法があるというのなら困るけど。


また、手紙の続きはこうだった。


『まず、“メニュー”と唱えてみてくれ。ステータスの高さに驚くかもしれないけど、君の力を最大限生かしつつ君の力を悪用されないためにはチートしかなかった。我慢してくれ』


ふむふむ?

安全策で最善策というのなら仕方ないだろう。

手紙はまだ続く。


『そして、君に心の準備ができたなら、物語を読むを選択して。この世界の元となる物語の名前は“白と黒(モノクロの)の幻想曲(ファンタジア)”』


「――“白と黒(モノクロの)の幻想曲(ファンタジア)”」


目に入ってきた文字を復唱する。

忘れるはずのない、私が大好きで大嫌いな物語。


「初手がこれかぁ……きちーですよ神様……」


バタッと後ろに寝転がる。

そう、初手である。

私が、初めて、物語の改変に挑む世界線。


「だからって失敗は、許されない」


この世界はこのままだと滅ぶ。

プレッシャーが重いなんて言ってられない。


「負ける訳にはいかないのです」


バッと起き上がり、私は▷物語を読むを選択する。

少しでも私の知る未来と違うことを祈り――。


「……さいあくだ」


終わっている。

読み進めるにつれて私の心はどんどん重くなっていき、2、3時間かけて読破したころには完全に鬱である。

……うん。

だがこれでとりあえずの方針は決まった。


「――ベラジディントの令嬢(悲劇のヒロイン)をを助けに行こう」


そうして私は歩みだす。

――全ては幸せな結末(ハッピー・エンド)のために!!


「ふんふ〜ふふ〜んナディーが私を呼んでいる!」




読んでくれてありがとう!

いいね、ブックマーク、コメントなど、このお話を少しでも面白いと思ってもらえたら(主に作者のやる気アップに繋がるので)、評価の方よろしくお願いします。

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