猫を被った3歳児
午後3時、お菓子が大好きな3歳児の僕にとってこの上ない至福の時間。
だが最近はこの時間を有意義に過ごせていない。
なぜならこの長男である僕を差し置いて僕より先に母からおやつをもらう無礼な奴がいるからである。
【3週間前】
「ママ、みて!ニャンコ!」
僕は猫というものに興味があった。つい先日テレビをみていたら僕と同い年ぐらいの子が猫 と楽しげに戯れていたからである。 そこから僕はことあるごとに猫を飼いたいアピールをすることにした。
テレビに猫がうつった時には
「ママきて!」
と、料理中の母をわざわざテレビの前まで連れてきたりした。
母「この子も一人じゃかわいそうよね・・・」
その甲斐あってか1週間後我が家に猫がきた。
父が仕事終わりに買ってきたらしい。
父「ふぅおいで!ほら新しい家族だ!」
母「ふぅちゃんよかったわね!パパが買ってきてくれたのよ!仲良くしてあげてね!」
僕は初めて生で見る猫に少し緊張したがどうしても触れ合いたかった。
恐る恐る近づくとその猫は不安そうな表情で僕を見つめ
猫「君は・・・誰?」
と言った。
これは僕の3年間の人生の中で一番の衝撃だった。
「ママ!パパ!猫が喋ったよ!」
と伝えたが全く耳を貸してくれない。
父「この子の名前どうするか」
母「あの子がふぅだから・・・すぅちゃんなんてどうかしら」
どうやらこの猫の名前をどうするかで頭がいっぱいのようだった。
いやそれどころではないと思い、どうにかこの怪奇現象を両親に伝えようとしたが、僕はこ
こであることを思い出した。
僕は時々黒くてフワフワしたものを目にすることがあった。 その黒いフワフワはいつも視界の隅にいて掴もうとすると見えなくなってしまう。
そう。 僕には霊能力があるのだ。というか1歳から5歳の子供は大人には見えないものが見えたり するらしい。
この猫が喋る現象もその類だろうと思った。 きっとこの猫の言葉は母にも父にも聞こえず、僕にだけ聞こえるのだろう。
「やぁ、僕はふぅ。君は・・・まだわからないけど多分名前はすぅになると思うよ。よろし
くね。この家の人間で君の言葉がわかるのは僕だけなんだ。君は猫だからね。ママとパパに
は伝わらない。何かあったら僕を頼ってね!」
すぅ「ニン・・・ゲン?」
すぅはこの時よくわからないという顔をしていたが、まぁ所詮猫の理解力なんてこんなもの だろう。
そこからの猫がいる暮らしはとても楽しかった。ほんの少しだが両親の気持ちがわかった気
がした。
自分よりもレベルの低い生き物というのはなんとも可愛らしいものだ。
僕はこの猫と一緒にご飯を食べて、一緒に眠った。
この毎日が続いたらいいなと思った。
のは最初だけだった。
この猫がきてから3週間がたち、だんだんこの猫に対して苛立ちを覚えてきたのだ。
この猫は人間の僕よりも先に母にだきつく。
この猫は人間の僕よりも先に父の膝に乗る。
この猫は人間の僕よりも先に3時のおやつを食べている。
許せない。
猫は人間よりも下の生き物なのだから僕より先にしていいことなんてないはずなのに。 自分のことを人間と勘違いしている猫というものをテレビで一度みたことがあるが、こいつ はその類のバカ猫なのかもしれない。
今日も今日とて3時のおやつを母にもらいにいくとその猫はやはり僕よりも先におやつを食 べていた。
もう我慢の限界だ。上下関係というものを教えてやる。
「すぅ。お前どういうつもりなんだ?」
すぅ「え?何が?」
「何がじゃない。お前自分の立場がわかっているのか?」
すぅ「立場・・・?なんのこと?」
「だから・・・お前は・・・」
このバカ猫に現実というものをたたきつけてやる。
「だからお前は猫なんだから人間の僕よりも先におやつを食べるな!」
すぅ「・・・もしかしてだけどさ」
「な、なんだよ」
すぅ「僕の友達にね。つい最近まで自分のことを人間だと思ってた子がいたんだ。家から出 ないでずっとうちにいたから他の猫をみたことがなくてさ。ふぅ君もきっとそうなんだろ?」
「何が言いたいんだお前は!」
ボカッ!!!
すぅ「痛っ!何するんだ!」
母「こらこら喧嘩しないの!ちゃんとふぅちゃんの分のチュールもあるからね」
すぅ「人間はチュールなんて食べないんだぞ。鏡をみてみろよ!」
その時鏡をみてわかったことは、時々見えていた黒いフワフワは僕の尻尾だったということ
だ。
~完~
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