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絶対王者の備忘録  作者: 夜のほろろ
第一章 異世界転生
7/8

第5話 パーティーと異変

災害レベルの暑さ

屋敷の中に入り、大きな広い廊下を歩く。




ところどころに、見知らぬおじさんの顔を模った胸像が等間隔に置かれている。どれもみな荘厳で凛々しい面立ちをしていた。




およそ50mはあろうかという長い廊下を歩いて行くと、突き当りに門口の扉と同じぐらいの大きな扉があった。




ようやく目的地に到着だ。






扉の前には、剣を携え兜を目深く被った兵士が、左右に佇んでいた。身長が高く、兜が邪魔でよく顔が見えないが、口元だけでもかなり整った顔立ちをしている。兵士と言えど、その装いや立ち姿から、ただの一般兵ではなく、それなりに手練れの者に見える。




王族主催のパーティーの門兵を務めているのだから当然と言えば当然だが。






国王が兵士たちに合図すると、彼らは同時に鞘から剣を抜き出し、胸の前で構えた後、後ろに振り返り扉に手を掛けた。






「国王陛下の、御成りーー!!」






扉の奥から大きな声が響いたかと思うと、耳を劈くほどの拍手の音と、ピアノやバイオリンの音色のような音を奏でる楽器、甲高い声を重ね歌う聖歌隊。音と音が重なり合い、その不快感から思わず耳を塞ぎそうになる。






「よし。では行くぞレインフォルトよ。心の準備はよいか?」






国王がその大きな顔で僕の方を覗き込みながら問う。






「もちろんです!父上、速く行きましょう!」






僕は笑顔でその浮腫んだ手を引っ張り、兵士が押している開きかけの扉を勢いよく開け放つ。








扉の先には、先ほど外で出迎えていた人のおよそ3倍ほどの人が、皆一様にこちらを向き手を叩いていた。周りに気づかれない程度に周囲を見渡すと、先ほどまで外にいたはずの、ガタイのいい男や跪き出迎えていた人達も群衆に紛れている。




僕たちが廊下を歩いている間に回り込んだのだろうか。






けたたましい拍手を全身に浴びつつ、金色の刺繡が目立つ紅色のカーペットの上を進む。僕らの歩みに合わせ、周囲の人の視線も動く。




豪華な装飾の巨大なシャンデリアの下を潜り抜け、先にある少しの階段を上がる。




そこにある、絢爛豪華で大きな1つの玉座に国王が座り、その隣にある少し小さい玉座に僕が座る。






国王が右手を空に翳すと、建物内に鳴り響いていた音という音が止まり、静寂が訪れる。






「それでは、只今よりアレクス・フォン・レインフォルト王太子殿下の生誕7歳のお祝い、並びにご生誕お祝いお披露目パーティーを挙行致します。」






身長の低い、くるりとした顎鬚が特徴の国王補佐で、宰相をも務めている、『グラウアー・エッカルト』が拡声器のような形の物を手に、パーティーの開始を高らかに宣言した。




手にしているあの道具は、音魔法【拡声ラウド】の魔法が込められたものだろう。






この世界には、あの拡声器のような決まった魔法が込められた魔法道具が数多く存在している。




此処に来るまでに、乗っていたあの竜車にも車輪部分にサスペンションとして【衝撃緩和ミティゲーション】の魔法がかけられており、僕ら搭乗者のお尻を守ってくれていた。




このような魔法道具は、その名の通り元の世界の家電とは異なり、電気は使わずに使用者の魔力を用いる。その構造自体は少し複雑だが、端的に言えば魔法道具に内蔵されている魔石を媒介とし、刻印された魔法を魔力を流すだけで使うことができる。




通常の魔法と異なるのは、魔法の術式や効果を設定する必要なく、魔力を流すだけでいいという点だ。魔力の簡単な操作さえできれば、誰でもその効果を受けることができるため、王侯貴族だけでなく一般市民にも広く普及している。






「皆の者、今日はよくぞ集ってくれた。我が愛息子、レインフォルトは本日無事に7歳の誕辰を迎えることができた。今宵の晩餐は王国の料理人の腕に縒りをかけさせ最高級のものを用意した。大いに楽しんでくれたまえ。」






国王が宰相から拡声器型の魔法道具を受け取りスピーチを始める。内容としては「僕が無事に育ってくれて嬉しい」とか「僕が可愛いくてしょうがない」とかそんな中身の無いしょうもない話ばかりだ。








「おっほん。少し長く喋り過ぎたな。では、早速だがこれよりレインフォルトのお披露目というわけで、レインフォルトより少しのスピーチをして貰う。」






年若い子の中には少しうつうつとしてくる子が出てくるほど長々と喋った後、今度は僕に拡声器型の魔法道具を渡してきた。






「レインフォルトよ、緊張する必要は何もないぞ。いずれお前の部下になるものたちばかりだ。気を負うことなく堂々としていればよい。これの使い方はわかるか?魔力を込めるのはセバスにやって貰いなさい。」






「わかりました、父上。」






笑顔で国王から、拡声器型の魔法道具を受け取り、後ろで控えていたセバスに魔力を込めてもらう。形としては、立って魔法道具を持つ僕の横で、立膝でセバスが手を翳している形だ。




あたりのざわめきが収まり、会場の皆が僕に注目している。先ほど眠そうにしていた幼子たちも、親に起こされたのか目を擦りながらこちらを見ていた。




【拡声ラウド】の魔法が展開されていることを確認する。元の世界では、大勢の前で発言するのは得意な方ではなかったが、不思議と今はあまり緊張しない。




少しパサつき始めた口を開き、言葉を発する。






「皆の者、初めまして。僕が、アルクスト王国第十三王子アルクス・フォン・レインフォルトだ。今日は僕のためによくぞ集まってくれた。先ほど父上のスピーチにもあった通り、亡くなった僕の母上『アルクス・フォン・シェリエッタ』は、この国の第一王妃である。この国の法律に従い、その血を受け継ぎ国王陛下より許可が出された僕が、第十三王子でありながら王太子の名を賜った。今宵のパーティーは、僕の誕辰とお披露目を兼ねたものだが、これを機に此処で宣言する。僕、アルクス・フォン・レインフォルトは、此処アレクストの次期国王として恥かしくないよう、父上の下であらゆる事を学び、より良い国となるよう努力していく事を約束する。大いに期待していてくれ。」






少しの静寂。




僕がスピーチを終え手にした拡声器型の魔法道具を降ろすと、ようやくあたりに拍手の音色が響き渡る。先ほど入場する時より、遥かに大きな拍手。




野次を飛ばす者もおらず、拍手だけがただただ響く。




隣を見ると、国王はその豊満な体を震わし、脂肪で肥大化した顔を涙でぐしゃぐしゃに潤していた。












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あれから暫く経ち、パーティーもいよいよ終盤に差し掛かってきた。




スピーチの後は、パーティーに参加している全ての貴族家と順々に挨拶を交わした。




この国の貴族家は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五爵に、辺境伯と騎士爵を加えた、7つの階級に分けられているが、今回のパーティーは国王主催。一部例外はあるが、基本的にどの貴族家も強制的に参加しなければならない。




どいつもこいつも、「今日はお日柄がよく・・」とか「我が娘を是非・・」とか、一言で終わらず長々と喋るから、挨拶だけでも小一時間程度時間が掛かった。






その後は、食事やダンスを楽しむ時間が設けられた。




僕自身も国王から言われ、ダンスに参加することになったが、有数の貴族の令嬢数人と踊っただけでも、僕の正妻を狙い言い寄る者ばかりで、碌に楽しめるものじゃなかった。次期国王の正妻になれば、将来安泰はもちろんだが、その家の権威も向上する。そのため、本人の意思に関係なく、家として僕の正妻を狙うものは多い。最も、子爵家や男爵家は求婚すること自体が無礼にあたるとされており、最低でも伯爵家でなければ求婚することも憚られている。






「皆さん、今宵のパーティーはお楽しみいただけましたでしょうか。楽しい時は永遠に続くことはございません。名残惜しいですが、そろそろ最後の演目を執り行います。」






司会をしているエッカルトが、今回のパーティー最後のプログラムの案内を始める。






「それでは、只今より、次期国王であらせられるレインフォルト王太子殿下の近衛騎士任命の儀を執り行います。ルトブルク公爵家三男、『ヴィルーエ・ルトブルク』前へ。」






「はっ!!」






エッカルトの声掛けを受け、ヴィルーエ・ルトブルクと呼ばれた男が前に出てくる。




身長はおよそ185cm程度ある長身で、筋骨隆々。顔立ちも良く、まだ十代であろうほど若く見えるその男は、頬に大きな切り傷の傷跡を残し、その目は生気とやる気に満ちていた。






「レインフォルト殿下こちらに。」






エッカルトに言われ僕も席を立つ。




階段を降り、ヴィルーエ・ルトブルクが跪いている前で止まる。エッカルトが横から、長身の剣を渡してきた。




剣を両手で持ち床に着けた状態から、目の前で構える。通常の構えではなく、剣の刃を横に向け剣の腹が見える形で構える。






「アルクス・フォン・レインフォルトの名において、汝に命ず。今この時よりその身その心、その魂まで全てを捧げ、命尽きるその時まで、主のためにあらゆる敵を穿つ矛となり、あらゆる困難をも打ち砕く盾となれ。この命違えることあれば、その命をもって償え。」






代々伝わる、近衛騎士任命の儀。




王家に産まれた王子は、そのお披露目の際に生涯の従者となる騎士を任命する。任命とは言っても、その時々の中で最も有力な武力を持った貴族家のものが仕えることになっているつか。




その中でも、次期国王となる王太子には、代々近衛騎士として王家に仕えているルトブルク家の者が仕えることになっている。




ルトブルク家の長男はそのままルトブルク家の跡継ぎとなり、次男は国王の近衛騎士として仕える。現国王の近衛騎士団団長もルトブルク家の者が努めている。




僕の近衛騎士、ヴィルーエ・ルトブルクが三男なのに近衛騎士となっている理由だが、ルトブルク家の次男、本来僕の近衛騎士となるべきであった者は、家臣や貴族の階級社会に嫌気が差し、当主と家に反抗したため、勘当されてしまったらしい。元々素行が悪く、酒癖も女癖も良い評判は聞かない男であったため、勘当されていなくても僕の近衛騎士となることはなかったかもしれないが、腕だけは確かであったため、惜しいと言えば惜しい。






「この命尽きるまで、殿下に付き従い、必ずやこの命果たしてみせます。」






ヴィルーエは、跪き俯いたままの頭を持ち上げ、答える。先ほど返事をした声よりもさらに大きく逞しいその声は、会場全体に響き渡り、決意の大きさを体現しているようだ。




会場全体が僕ら二人に注目し、この国の未来を担う背中に期待と不安の眼差しを向けていた。




僕は、翳した剣をエッカルトに渡し、かわりに金色に輝く二匹のドラゴンが一本の剣に絡み合うような模様が施されたブローチを受け取る。このブローチは近衛騎士であることの証となり、ブローチについている布の色で大隊が区分される。




近衛騎士団は、国王直属の第一近衛騎士団、王太子直属の第二近衛騎士団、それ以下の王子に第五近衛騎士団までが順に与えられる。




ヴィルーエが所属するのは、僕の第二近衛騎士団。ブローチには赤色の布が付いている。








ブローチを手にとり、立て膝により丁度僕の目線と同じ程度の高さとなったヴィルーエの胸に、小中学生の名札よろしく付けようしたその時、元の世界で数度聞いたことのある、酷く不気味で不安感を掻き立てる音が鳴り響く。




いくらぼくら日本人が慣れてるとはいえ、怖いものは怖い。それに、僕が今まで経験したことのないほどの轟音で鳴るそれは、その威力のほどを物語ってるようだ。






会場にいた者のほぼ全てが、異常に勘付き、行動に移す。




幼子を連れた者は抱き抱え、猛る者は己が剣に手を添え、仕える者は己が主を護るべく前に立ち身構える。




斯く言う僕も、ヴィルーエに抱き抱えられ、そのマントで頭を守られる。






皆が皆一応に危険を感じ、来たる衝撃に合わせ、防御壁を作る魔法の展開準備に入っているのを横目に、それはさも当然のように訪れる。










地震。






元の世界で頻繁に起こる自然災害。






生まれてから転生するまで、何度もその身をもって感じたもの。




中でも大きいものは2度程度。




最も震源近くにいた事はないし、棚が倒れるとか建物が崩壊するほどの被害に遭ったことはない。




それ故に、地震大国に暮らしていても今まで感じたことのないほどの大きな揺れに、心底動揺してしまう。




先ほどの地響きよりも更に大きくけたたましい地響き。




恐怖で泣き叫ぶ幼子たちの声を掻き消し、すぐそばにいるはずのヴィルーエの言葉も、僕の耳に届く頃には既に言葉としての原型を留めていない。








揺れは約4分間続いた。




この4分間は、この国の人間にとって終わりのない地獄のようであっただろう。






揺れが落ち着き、ヴィルーエの抱きしめる手が少し緩んだ。頭にかぶさられたマントを少しずらし、周囲を確認する。




壁際に置かれた銅像や装飾品、壁にかけられたランプや絵画は床に落ち、食後のデザートが配膳されていた机の周りには手つかずだったデザートがその形を崩し散乱していた。




建物自体もかなりダメージを受けているのか、ところどころの壁は歯抜けのように崩壊しているが、その形を完全に崩すことはく留めている。




国王やエッカルト、その他会場にいる全ての貴族や来賓たちは、皆魔法を使ったり魔法道具を使ったり様々であるが、【防御壁ヴォルグ】の魔法を展開し、身を守っていた。最も、その中のほとんどが貴族本人ではなく、家臣や従者が主人を守る形で展開している。






「殿下!ご無事ですか。」






「ああ。問題ない。」






ヴィルーエが少し驚いた顔でこちらをみていた。




地震の動揺もあるが、周囲や状況の確認で思考に耽り過ぎて、ついつい素がでてしまっていた。慌てて取り繕う。






「大丈夫だよ。ちょっと怖かっただけだから。」






笑顔でそう言い、ヴィルーエの胸に顔を埋める。






「ご、ご安心ください。何があっても殿下の身はこの私がお守りいたします。」






動揺しながら答える様に、少し申し訳ない気もするが、しょうがない。引き続き純粋な子どもを演じ続けるには必要なことだ。






「レインフォルトォォォ!!!」






誰よりも大きく強固な【防御壁ヴォルグ】に包まれた国王が、その声を荒げ、唾をまき散らしながら叫んでいる。魔法を展開していた王宮魔法師の頭を叩きながら催促し、魔法を解かせる。




あの魔法師、先ほどまで近くにはいなかったはずだが、裏に控えていたのだろうか。顔を隠しているから誰か判別は付かないが、なんにせよあの【防御壁ヴォルグ】の強度だ、そうとうな実力を持っているものであるのは間違いない。






「無事か⁉レインフォルトよ!!」






魔法が解かれるやいなや、その短い脚を目一杯回転させ、一目散に駆けてくる。






「怪我はないかレインフォルト!怖かったであろう。もう大丈夫だぞ、父上が来たからな。安心してよいぞ」






「怖かったです。父上!」






甘える子どものような声で、駆け寄る国王を両手を広げて迎える。




この場で、国王ほど近くに来られて困る者はいない。王族だから、それなりに魔法の才はあったのだろうが、あの体たらくだ。そこら辺にいる一兵士の方がよっぽど頼りがいがある。






「皆さま、どうか落ち着いて下さい。此処はいつ崩れるか分かりません。早急に屋外へ避難してください。」






エッカルトが魔法道具を使い、会場全体に指示をする。




確かに、この建物は今にでも崩れてしまいそうなほどに、ダメージを受けている。【防御壁ヴォルグ】があるから、たとえ崩れたとしても死傷者はでないだろうが、用心するに越したことはない。






さて、外はどうなっているだろうか。




あれほど揺れたのだ。震源はここの近くのはずだ。




そうなれば、今朝通ってきた道も、見ていた街並みも心配だ。金を持っている王家御用達の建物があのダメージだ。庶民の家ともなれば、全壊していてもおかしくない。






などと思案しながら、僕はヴィルーエに抱かれながら国王に続き外に出た。






外に出ればひとまず安全だ。という人々の期待を他所に、外は太陽の光が届かず暗くなっていた。




人々は外の状態に気を取られている。




建物、道路、道端の木々。




あらゆる物がダメージを受けており、荒れている。




そんな状態だったから、だれも陰っていることに気も留めない。








僕はヴィルーエに、お姫様抱っこのように抱かれていた。




だから、自然と目線は上に向く。パーティー会場の上空、かなり高い位置のはずなのに、だまし絵のように大きく迫力がある。




辺りを暗くしている正体、その生き物と目が合い、僕は思わず固唾を呑んだ。







そろそろ蝉が鳴くころかな??

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