殺害未遂
これは適当にパーッと頭の中で浮かんできたものを増幅させ、書いただけの伏線のないただ物語が進んでいくだけのものとなっていると思います。更に、語彙力皆無の為、若干変なところや意味のわからないところがあると思います。だけど!みんなに読んでもらいたい!そんな思い出書いたのでぜひ最後まで読んで頂けると幸いです。
考えた事はないだろうか。何故生命というものは生きていかなければならないのか、生きている意味を見つけなければならないのか。生命は数億年前から存在していたいわば当然の存在、けれど何故そもそも生命というものは生まれたのだろう、そしてなぜ子孫をのこすようになっていったのだろうそして哺乳類、両生類、魚類、鳥類のように分裂していったのだろう。
男は自宅である、薄暗いアパート、静かなアパートで一人考えにふけっていた。
私が病院、母親の子宮の中で生まれた時から意味とはなんなのだろうか。この社会という絶対不条理の中に入れられた意味とはなんなのだろうか。社会とは逆流することの無い大きな川だ。この川に入ってしまえばもう逆らうことは出来ない。抜け出すことも出来ない。こんな社会で何をすればいいのだろう。はるか昔、恐竜時代よりも前の時代からもう社会はできたのではないかと私は思う、強いものが生き残り、弱い生き物は死んでいく、そう弱肉強食な社会だ。
弱い生き物は平然と自由を奪われ生命をも奪われる。強者は平然と自由を取り、生命という権利も獲得するのだ。弱い生き物は強者に踏み台にされるのが存在する意味なのだろうか。私もそのひとつなのだろうか。人間社会もそうだ。絶対的強者に絶対的弱者は利益を奪われる。
それは社会という大河では常識であり、当たり前の事だ。この社会という大河ははるか昔から流れ続けて来た。ちっぽけな私はその水の中で周りと同じように流され、生きている意味を探し続け無ければならないのだ。生きる意味、生きる意味とは...
そこで男の思考は一度停止した。男が務めている会社から電話がかかってきたのだ。男は自分が座っていた椅子からスっと立ち上がり「社会人」としての声をつくり、静かに応答ボタンを押す。男は何も考えてはいなかった。
「......はい。こんばんは。何でしょう?」
「白羽さんですか?こんばんは。水島ですけど。今回の資料は出来ていますか、出来ていればこちらにお送りさせて頂けたら有難いのですが」
「あぁ、あの資料でしたらもう既にあちらの会社にお送りしました。以前に出来たらそのまま送って欲しいと仰られていたので」
「......あぁそうでしたか。有難うございます。こちら側としても手間が省けて大変助かります。こんな夜遅くにすみません」
男は一瞬自宅の時計をチラリと見た。二つの時計の針は、十時を指し示していた。
「全然大丈夫ですよ。水島さんも大変ですね。では失礼させていただきます。はい、ではまた会社で.....」
電話の通信が終了した音が鳴る。男は自分が座っていた椅子へとゆっくりと腰を下ろした。男の考えは椅子に体が触れると同時に再開し、ありとあらゆる思考が脳内を飛び交い始める。
まただ、この関係は僕がこの世界に出て産声を上げた瞬間から決まっていたのだと思う。良く赤い糸で結ばれて幸せに人間関係が築けるようなそんな夢のようなことがアニメや小説、漫画では起こるけれど、そんな事は二次元だけであって、私の生きる現実世界には存在しない。もしあったとしても不条理な社会である大河の中では糸は流れで途切れ、他人の糸と絡まりあってしまう。
現実の人間関係なんてそんなものだ。けれどそんな中で唯一この社会で自由に生きる法則を私は見つけたと思う。それは、「生命の自由をうばうこと」、つまりは「殺害」だ。それはもう随分も昔、生命が生まれた時から定められてきた社会の中の法則なのだ。
生命が消えると新しい生命が生まれる。つまりこれも生命の自由が奪われた時、その自由は新たな生命に譲られる。これは難しく捉えると意味が分からなくなってしまうのだろうが、自分の身近にして考えてみるといたってどこにでもある、当たり前の法則なのだ。例えるならばさっきの弱肉強食が一番わかりやすい例えだろう。あるところに小さな魚がいたとしよう。その魚はまた自分より小さいプランクトンを食べる。この瞬間プランクトンの生命、つまり自由が奪われた訳だ。しかしそのおかげでその魚は飢えをしのぎ、自由を手にすることが出来る。そしてあるところに今度はその魚よりも大きい動物がいたとする。その魚はその動物によって自由は奪われるが、又その動物は自由を手に入れることが出来る。こんなように殺害とは食物連鎖の中心、いわば生命を繋げてきた基礎と言えるのだ。
これを行えばこの社会という猛烈な流れに少しは楽に身を任せることが出来る。これこそが社会の「常識」なのだ......
そこで男の思考は停止した。もう考える理由など浮かばなかった。「殺害」という社会の常識を行うこと以外は。
男は静かに前もって準備していたバッグをためらいなく掴み、そしてそれを右手で持つと玄関へと向かった。 玄関に着くまでには数分も時間が掛からなかった。男は鍵を素早く開け外へと向かう瞬間、ほんの瞬間だったが横目で何かに視線を向けていた。その後、自分の家を早々に出た男は家に止めてある車にスッと乗り込みエンジンをかけた。男は何も考えていなかった。車のエンジンがかかる音がする、男は、何のためらいもなくアクセルを踏み込んだ。
「....えぇ、その件につきましてはそちらにお送りしました資料に載ってあるはずですが」
「はぁ?見にくいのよ、こんなところじゃ。貴方、そっち方の上司でしょう?そんなんじゃ貴方の部所の能力がどんなものか.....」
「はぁ、申し訳ありません」
私はプログラムされた機械のようにいつも通り「社会人」としての言葉を喉を震わせ、出した。もう何回聞いたことだろうか、私の部下が何かやってしまったらしい。こんな事なら資料を確認しておけば良かった。
女は相手からの怒号を半分聞いて、半分聞いていなかった。女は、こうなってしまった自分の不運な道のりを思い出していた。
私がこうなってしまったのも自分が上の「あっち側」になってしまったことが原因なのだろうか。だいたいこの社会がおかしいのではないか。努力は絶対実になるとはなんだったのだろう。あぁ、そういえばこれは誰かから聞いた言葉だったな、誰だっただろう、もうあまり覚えていない......。
そこで女の思考は一度停止した。半分聞いていた耳で拾っていた情報で、これから重要な話になることを上手く予想したからだ。
「.....はい、分かりました。ではその時間にそちらにお伺いさせて頂きます。はい、はい、分かりましたそれでは失礼させていただきます」
通話が切れたことを伝える音が鳴る。女は自宅のソファにゆっくりと腰を下ろして座り込み、フゥ、と小さくため息をついた。そして女は完全な自分の思考へと入っていった。
....上に立てば、上にあがれば、社会が楽になる、そう思っていたのにこの有様。それもこれも社会の「細胞」になる事が出来ない部下達のおかげね。
私はただ純粋にこの社会という「個体」から少しでも溶け込めるようにしたかった。そうじゃなければ社会の異物として見られてしまうもの。この社会というものはどうやら生き物のようになっているらしい。私達「細胞」が一つ一つ深く絡み合い、くっ付いて一つの組織となり、またそれらが深く深く絶妙に絡んで器官となる。器官となったものらが又合わさって個体、つまりは社会ができる。そうなればもう社会というものはちゃんとした生き物ね。この細胞たちと上手く絡み合えないものは異物として見なされ、消されてしまう。
だから周りに合わせ、周りの細胞たちと同じ遺伝子を持たないといけないの。だから私はずっと、ずっと、社会の細胞になり続けた。でも社会、生き物とは単純なもので、要らない細胞、古くなった細胞は垢として個体から引き離される。不必要な存在。それは無情にもどれだけ深く細胞たちと絡み合っていおうと、社会の一部になっていたといおうと、削除されてしまう存在なのだ。私はそれを知り、上にたち続けた。でなければ不必要な存在となってしまうからだ。私は怖かった。ずっと不安だった。社会に消されるんじゃ無いかって、必要が無くなり、見捨てられるんじゃないかって。
だから少しでも上にたち、社会という個体に必要な細胞であり続けることで不安と恐怖を取り除こうとした。けれど最近になってようやくわかった。それは、上に立ったところで不安と恐怖は取り除けれないって事に。私はずっと社会の細胞である限り、不安と恐怖、この二つの遺伝子情報を入れられ続けるのだろうか。なら私はもう別の遺伝子情報を持った細胞になればいいのか、ダメよ。それだと社会の異物として消されてしまう。この社会というものははるか昔からずっと生きているのだから。なら私は何になればいいの?何の細胞になればこの二つの遺伝子情報は組み込まれなくなるの?
そこで飛び交っていた女の思考があるひとつの結論でぴたりと止まった。
そうか、私をこの細胞の一部から切り離せばいいんだ。もう苦しむことなんてなくなる。垢のように切り離されるのではなくて、切り離すの、自ら。そうすれば不安と恐怖、この二つのの遺伝子情報は組み込まれなくなるわ......。
そこで女の思考は停止した。決心がついたのだ、そう、「殺害」をするのだという決心が。
女は前もって用意していた革バックを左手で掴み、玄関へと向かった。 玄関まではそう時間が掛からなかった。女は静かに素早く玄関の鍵を開けてドアを開けた。女は外に出ていく瞬間、ほんの瞬間だったが横目で部屋の奥をスっと見ていた。その後女は家に停めていた車に乗り込むと素早く車のエンジンをかけた。
女は、何も考えていなかった。エンジンがかかる音がする。女はためらいもなく、アクセルを踏み込んだ。
ここは夜に賑わう有名なスポット。大きな道の横にあるのは綺麗な街の灯りを反射してキラキラと輝く大きな大河。そこにはいつも通り大勢の人間に満ちて、大勢の生物に満ちて、いつも通り賑わっていた。ありふれた毎日、ありふれた日常。そこになんの変哲もない男と女が男は右側から、女は左側から歩いていた。男と女は夜の景色や美しい川には目もくれず、変わりようのない今自分が歩いている木で出来た道を向いて歩いていた。男と女は人間たちの賑わう音やそれ以外の周りの音、「社会の音」など到底聞こえてはいなかった。女と男が徐々に近づいていく、そしてついにはー。
ドンッ、という人と人とがぶつかり合う鈍い音で男と女は初めて前を向いた。普通ならここで謝るのが「社会の常識」なのだろうが二人はその常識的行いをしなかった。二人がぶつかった衝撃で二人のバッグに入っていたものが少し飛び出し、顔を出していた。これを二人は驚くこともしなかった。男は女のバッグを見ると静かに女の方を向いて
「あぁ、貴方もですか」
と女に一言、言葉を告げた。女は男の言葉を受けた後、少しして、
「えぇ、貴方もですか」
と男に一言、言葉を告げた。男は頷く事もせずただ、ずっと女の顔を見ていた。女は何も言わずに少し飛び出してしまっていた中身をバッグに押し戻すとスっと、立ち上がった。その動きにつられるかのように男もバッグの中身を押し戻すと立ち上がった。男と女は、立ち止まったまま、互いの顔を気持ちを読み取ろうとするように見ていた。その間も、世界の歯車は常識にのっとって相も変わらず動き続けている。そうして数秒間互いの顔を見合った後、女が静かに声を出した。
「カフェ、寄りましょうか」
「.....そうですね」
女の会話は随分と少なく、なんの目的かも分からないその質問に男は変に感じることも無く、ごく普通に答えた。二人は近くのカフェへと足を運んだ。こんなことになるとは男と女とも予想外の事だったが、特に戸惑う様子もなく、ただ静かに歩を進めていた。 カフェに着くまでには数分もかからなかった。二人はカチャリとカフェのドアを開け、中にへ入っていく。店内に入ったと同時に店員の元気な「社会人」としての声が店内に響き渡った。
「いらっしゃいませ!」
男と女はその声には応じず静かに右側の端にあるテーブルへと歩を進めた。テーブル席へ腰を下ろし、定員を呼んで数秒後、一人の定員が男と女の元へとやってきた。女の店員だった。店員はいつもの声のトーンより数音あげて声を発声する。
「お客様、ご注文を承ります」
男はいつもの調子で、
「僕は、コーヒーを一つ」
と答え、女もまたいつもの調子で、
「私も、この人と同じものを一つ」
「.....っと、コーヒーがお二つ、ですね?」
男と女は同時に頷いて店員の確認に答える。店員は二人の答えを見た後
「ごゆっくりどうぞ」
と言い、自分の持ち場へと戻って行った。男と女は店員が戻っていくのを見送り終えると静かに互いの顔を見つめ合った。二人とも静かに、思考は止まることなく高速に回転している。少しして、女から言葉が出る。
「.....貴方は何故ですか?」
女の喉から出た言葉は何を指しているのかも分からない、曖昧な言葉のように見えるが男にはそれで十分な程理解が出来た。この表情を見せず、ただ思考だけを高速に回転させているこの場は心理戦のような場面になっていただろう。明るオシャレな飾りをつけたカフェの中はまるで二人の存在など無いかのように周りは人の声で溢れかえっていた。
「そうですね。嫌気がさした、とでも言っておきましょうか。私はね、逆流する事を諦めたんですよ。この社会で。逆です、私は楽に、流れに身を任せて流れてゆきたいのです。私が行おうとしているのは社会の常識であり、当たり前のことなんですよ。貴方も分かるでしょう、大昔から存在していたこの社会というものに逆らう事なんて出来ないんですよ」
女は静かに頷いた。そこまで言うと男は言葉を切り、小さくため息を吐く。
「努力は絶対実になる、なんて言葉、狭い檻の中に少しでも気晴らしになるようにと貼られた外の世界の自然の写真と同じようなもで、結局は現実逃避するためのものに過ぎないんです」
男はそう静かにそして心は乱れているのを感じながら喋り終えた。女はこの答えを聞き漏れの無いように聞いていたがふと少し目が大きくハッとしたかのように開いたかのように見えた。男と女が表情を見せたのはここが初めてである。この二人はもしかすると、互いに似ており、似てないのかもしれない。つまり、似て非なり、だろう。男は話し終えた後、少しして女の方を向いた。
「貴方は何故ですか?」
「私は...私も同じです。この社会という生き物から除外されてしまうのがずっと怖くてそれ故に異物にならないようにとしてきました。でも、気付いたんです。この生き物を殺さないと私は恐怖と不安という遺伝子情報を組み込まれ続ける事に」
そこで女は一旦言葉を切り、少し俯いて話を続けた。
「......昔、私が上司になる前、こんなことを言われた事があります」
お前も社会の異物になってみないか。
「私は何で自ら異物になろうとするのかが分かりませんでした。だって、大昔から生きてるこの社会という生き物から逃げだす事なんてできること無かったのですから」
そこで女の喉から出る言葉は終わりを迎えた。しかしこの時既に女には男の姿や周りの背景など、もう目にはうつっていなかった。ただ、昔の自分の不運な道のりの一部分をぼんやりと脳内で思い出していた。
「......さん、水島さん!」
明るい元気な声が私の鼓膜を通って耳に流れてくる。そこで女はどっぷりと浸かっていた自分の想像から、一気に現実世界へと引き剥がされた。
「大丈夫です?」
「あぁ、大丈夫。ありがとう」
私のことを心配して私の顔を覗き込むようにして声をかけてくれたのは私と同じ職場の親友とも言える仕事仲間、紗由理ちゃんだ。初めて入社した時に真っ先に声を掛けてくれたのがこの子だったのだ。以降、一緒にご飯を食べたり、遊びに行ったりとなって今に至る。ドジではあるが明るく、周りの元気の源となるような、そんなキャラだった。
「しっかしまぁー長かったですね。会議。私、緊張しちゃって肩めっちゃ今こってます」
「貴方緊張していたものね。体ガッチガチだったわよ」
「えっ!バレちゃってました?変になってたの上司に見られたかな〜」
そんな事をへらへらと呑気に言っているこの子を見て、呆れからなのか心配からなのかよく分からない気持ちになってしまった。もしかすると、面白さからなのかもしれない。私は手を口の近くに持っていき少し指を曲げて「フフフ」と笑った。
「あー!何で笑うんですか。あれでも頑張ってたんですよ」
この日の会議は私達新入社員にとっては初めての会議参加で、特別なことは無くただ参加してい話を聞けばいいとの事だったが、皆緊張して聞いていた。何しろ顔が少し強ばって見えたからだ。無論私も緊張してはいたが、会議の後何故か私だけは上司に呼び出されて褒めの言葉を頂いた。緊張していなかったのは貴方だけだ、と。
「水島さん、又妄想してるんですか」
「え、あぁ、別に何も。明日の予定を思い出してただけ」
とっさに見抜かれやすそうな、典型的な嘘をつく。けれどこの子はふーん、と言った後
「私、努力は絶対実になると思ってるんです」
と、なんの前触れもなくそう私へと言葉を放った。あまりに唐突に述べたこの子の言葉は急カーブ過ぎるボールで
「えっ」
と、何の伏線も無しにいきなり急カーブを見せたその言葉を私は上手くキャッチする事が出来ず、ただまじまじと彼女を見るしか無かった。そんな私を置いて彼女は笑顔で会話を続ける。
「勉強をすれば学力がつく。そんなように努力を惜しまなかった人には何年後かは分からないけれど、いい結果は必ず現れると思うんです。綺麗事見たいに聞こえるかもしれないけど、私のおばあちゃんが言ってたんです」
結果の実を育てなさい。それはいつ開花して実をつけるか分からないけれどそれ以前に、どれだけ努力の花粉をつけたかが重要だよ、と。
実は必ず実る。けれどその時にどれだけ大きくて、みずみずしい実をつけるかは努力の花粉を惜しまずつけた者のみ得られるものなんだよ、その後彼女はこう語った。どうやったら綺麗事に聞こえようか。私と対照的な純粋で、明るい彼女に私は何も返すことは出来無かった。
男も同じ頃、女と同様に自分の過去をぼんやりと脳内で映し出していた。
ここは屋上。白いフェンスが立てられていて、床はコンクリートでできている。今は仕事の合間の休憩時間だ。そして僕の前には僕の上司であり、先輩でもある人が電子タバコを吸いながら外の景色を見つめている。僕はそんな先輩に対して、軽い話から切り出した。
「先輩、電子にしたんすね。前まで紙タバコを吸ってたのに」
「おお、良いだろ、時代はハイテクってな」
「何で変えたんすか」
「なんでと言われてもな。何となく同じタバコでも健康的そうだったからかな。ちなみに俺はニコチン入だぞ」
「正直言います。意味無いです」
そんな軽い話から話題を始め、徐々に仕事関係の話題へと切り替わっていった。
「最近どうだ」
「仕事の方すか。......正直、あまりやりがいを見い出せません」
「そうか」
「自分が本当に必要とされる存在なのか、分からないんです」
「別に良いんじゃねえの、金さえ貰えれば。まぁそう深く考えんなって、俺もこの歳になってもまだやりがいなんて感じたことないぜ。こんなにやってんのによ」
そう手で自分が今まで働いてきた年月を表現しながら、ははは、と軽い口調で話す上司の顔を見ながら僕は何か抑えきれない感情が溢れて気づけば大声で怒鳴るように叫んでいた。
「先輩にはわかんないっすよ!必要とされない人間の気持ちなんて。貴方はいいです、やりがいを感じなくてもここの上司だ。皆から必要とされる。けれど僕はどうですか?何の取り柄もない。ただの新入社員です。誰からも必要とされない、ドジを踏む、ため息をかけられる!実際必要とされないよりもいらない、捨てたいと思われてるんです。そんなところで何を見出すんですか。ゴミと見られた山の中で!」
感情が爆発して歯止めが効かなくなったその言葉を、僕は上司にぶつけた。少し間が開けば、自分が何をしたのかを人は気づくことが出来る。僕はしまったと思い、すぐさま謝罪を行う。
「すいません先輩。自分の事ばかりで」
「......」
上司は遠い綺麗な街並みをしばらく横顔で僕の話を聞きながら見ていたが不意にこちらへと顔を向けた。その目は僕を見ていなかった。何か、遠い自分を見ているような。先輩、そう声をかけようとしたところで上司の方から話しを切り出した。
「お前、蝉の孵化を知ってるか。蝉はな、地面が硬すぎてもいけないし、周りに天敵がいてもいけない、もっと言えば雨の多い梅雨の日に孵化しなければならないんだ」
何を急に話し出すのだろう、何も関係ないじゃないか。回りくどく言うのはやめてさっさと語ってくれ!
「つまりだ、その時の環境によって人間で言えば人生が左右するということなんだよ。分かるか?環境だ。能力才能が無いから見捨てられる訳じゃない、その場の環境が合わなかったんだ。蝉も雨の日で地面が柔らかく、天敵がいなければしっかりと土に潜り、羽化して最高の蝉になることが出来る。」
「先輩はさっきから何を言ってるんですか、回りくどいのはやめてくださいよ」
「まだ分からないのか?お前に合った環境ならお前も最高のパフォーマンスが出来るということなんだよ」
出かけていた怒りから来る言葉が奥にぐっと推し戻った。はっとした。確かにそうだ、今までここの環境で輝こうとばかりして、すっかりと盲点になっていたことがあった。そうだ、そうなんだ。
さっきまでの憤りはすっかりと消えて先輩の方をむくともう先輩はいつもの調子で電子タバコを吸っていた。ありがとうと言うことは出来なかった、いや、しない方が良かったのかもしれない。僕は電子タバコを吸いながら日が落ちかかった外の景色を眺めている先輩を横目に、ふとそんな事を思っていた。
互いに何も言わない。テーブルには手をつけていないコーヒーが二つ、置かれている。不意に二人の焦点がお互いに合わさる。
「もうこんな時間ですね。私はこれからしなければならないことがあるので今日はここらへんで」
そう切り出したのは女の方だった。
「そうですね。僕もこれから丁度用事があったんです」
お互いの意見が合致する。二人の顔は初めの時と同じように表情は無い。ただ、いつもと変わらず会計を割り勘でし、定員のありがとうございました!と言う声に会釈をしただけだった。二人とも互いに自分の行くべき道へと歩いていった。それが正しい道なのかも分からない、でもいいのだ。
男と女はもう既に「殺害」を行ったのだから。
ーっと、まぁ、こんなお話です。あまり話すこともないのでここらで終わりにしますが最後に一言!
名前になんか特別な意味はありません。