04 双子の姉と兄の婚約者
リリィ&兄
「ここは………でけぇ家ですねっ」
「あらあら、リリィちゃん。はしゃいじゃって。迷子になったら、攻撃魔法の詠唱を済ませてから道案内してもらうのよ〜」
「母上、案内してくださる方をなんだと思いで?」
「きゃあっ、エリー、カッコいい! うっ………オーリも良いわね。息子たちが眩しいわ」
「俺様、お兄様たちにご用はないので探検してきますっ」
「気をつけてね、リリィ」「うわぁん、リリィちゃん……もっと二人を見てよ! でも、いってらっしゃ~い」「………はぁ、本当に父上と母上の娘か? 元気すぎるだろ……」「えっ、私達そんなに元気ない?」「いや、違います……」「のんびり?してます」「のんびりっ!?」
楽しそうな家族をおいてリリィは走り出した。
政治や、父親の跡継ぎになんか興味はない。
目指すはアーデルハイトと、ハイディだ。イリスから、ダレンに報告を終えたと通知があった。
「アーデルハイト様っ、お久しぶりですっ」
「あら、リリィ様。お久しぶり、と言っても昨日会ったわね」
「リリィさん、で良いですよ。結局はお兄様と結婚するんでしょうっ?」
リリィが純真無垢で天使のような顔で伝えると、ピクリとアーデルハイトの眉が動く。顔は笑っているのに、心なしか目は全く笑っていない。薄ら寒い気配を覚えるほどだった。
そこへ、コツと他の人の靴の声が聞こえて、アーデルハイトは横目で見る。
困惑した顔を浮かべるオリヴァーがいた。
「アーデルハイト嬢と………リリィ? これは、面白い組み合わせだね?」
「あら、オリヴァー様、こんばんは……そんなに面白い組み合わせでしょうか?」
「完璧なご令嬢と妹ですっ!」
リリィがオリヴァーに勝手に命名したペアの名前を伝える。
クスリとオリヴァーは優艶に笑う。
「婚約者と妹に訂正してほしいかな」
「………べた惚れじゃないですかっ。俺様いづらいです」
「………………ふふ」
「なら、アーデルハイト嬢。バルコニーへ行きませんか?」
妹の指摘にアーデルハイトとオリヴァーが笑みをこぼす。本当はここで二人きりにさせるのが良いのだけれど、リリィにはやることがある。
そのために双子の妹が準備していてくれてる。
イリスが参謀なら、リリィは実行。
イリスが交渉係なら、リリィは少し強引にでも。
そうやって、連携してきた。
イリスは少し人見知り──のように振る舞わなくてはならない。相手に自分より下の存在と思わせるために。
リリィは純真無垢で行動力のある少女──として振る舞わなくてはならない。掴み所がないが、害はない。そんな存在と思わせるために。
「ぅっ……アーデルハイト様に、渡したいものがあったのに……」
「オリヴァー様、少しお待ちになって? リリィさんから、わたくしにプレゼントかしら?」
「はい……でも、お兄様が……?」
「せっかくの可愛い貴女からのプレゼントだもの」
リリィはどこからか、小さな箱を出してアーデルハイトに渡す。
淡桃の箱に、銀色のリボンが美しく飾られていた。
「これ、です……」
「まぁ、綺麗。何が入っているのかしら」
中を見ようとしたアーデルハイトをリリィは止める。
ここで見られては意味がないのだ。
「お楽しみにしていただけませんか……?」
「可愛い……じゃなくて、いいわよ。帰って自室で見るわ」
「約束ですよっ? でも念のため〈契約魔術〉起動」
「え……?」「は?」
「これで、破れませんっ! アーデルハイト様、大好きですっ」
リリィはあっという間に人混みに紛れてしまい、見えなくなった。
〈契約魔術〉 術者が解除を言い渡さない限り、その約束を破ることはできない。しかし、軽い約束──例えば、先程のような「後で見てね」や「絶対お金返してよね!」みたいな約束のみ。生死に関わるものは、適応されない。
「ま、まさか、そこまでされるとは思っていませんでしたわ……」
「あとで、叱っとくね………」
「いいえ、可愛いではありませんか。では、お楽しみにしておきますわ」
「ほんっっっとうに、ごめん」
「ふふ、そこまでですか?」
■■■
(ミハイディに会えなかったことを除けば、ッションコンプリートですっ。
アーデルハイト様は俺様のお願いを拒めませんっ。
それはお兄様の妹だからっ。
そして、アーデルハイト様は懸念が一つ。
それを解消するまで、お兄様と仲よぉくしないとなんですよねっ?
あは、イリスに褒めさせる権利をあげなくては)
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「なぁに、ちゃっかりとアーデルハイトの婚約者ぶって。オーリ君がほんとぉに好きなのはだぁれ? 聖女のティナじゃぁないの?」
「ね、そうだよね。やっぱりお姉ちゃんは、分かってくれる!」
「あの、妹が邪魔だなぁ。そしたら、ティナの計画がうまく進むのにぃ」
「なんで、プレゼントなんかあげるかな?」
「好かれたいんだよぉ、だぁいすきなお兄様に」
「なるほど〜。お姉ちゃん、明日もよろしくね? あたし、さりげなく登場していくね!」