02 兄と双子&リスの話
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【side オリヴァー】
授業が終わり、教師の荷物を運んでいるとき、隣にいる彼女は話し始めた。
「お上手。オリヴァーくん。ついに上級魔法までできるようになって」
「いえ、先生のおかげです。これからも、ご指導よろしくお願いします」
「頭も良いし、期待の的だよ」
私は十七歳になった。そして、奇妙な妹たちはいま、十一歳だ。いま、セレスティア学園中等部を受験する予定になっている。
シュバルツ家 長男として、と言うのもあるのだが、そこそこに優秀で友人も多いという地位を学苑で築き上げた。
シュバルツ魔法伯の息子なのに、と後ろ指をさされるのが嫌だっただけかもしれない。
「こんにちは……オリヴァーさん」
「こんにちはですっ。オリヴァーお兄様」
「おはよう」
妹のイリスは私のことを兄とは呼ばない。他人行基だからと、なんど両親が言っても兄を兄と呼ぶ気はないようだ。
「オリヴァー様、こんにちは」
「こんにちは、アーデルハイト」
「あら、こちらは噂の妹さん? こんにちは。貴方たちのことは一度でいいから見てみたかったの」
「「こんにちは、アーデルハイト様」」
「俺様はオリヴァーお兄様の妹、リリィです」
「同じく、兄様の妹イリスです」
「よろしくね」
イリスが私のことを「兄様」と呼んだのは嬉しいのだが、猫をかぶっているとも言えなくはない。
アーデルハイトは私の婚約者だ。ラプター侯爵家の長女で、薄く桃色のかかった銀色が美しい女性だ。
「オリヴァー様と妹さんとの会話時間を奪うわけにはいかないので、わたくしはこれで失礼」
「「お気遣い感謝致します、アーデルハイト様」」
「いいのよ。またね」
アーデルハイトはにこやかに微笑んで、馬車に乗った。
反対側では、にこりと同じ顔をして微笑む妹。
たまに、間違うのだが、リリィが金髪碧眼控えめにツインテール。父の影響だろう。イリスが灰色の髪に、赤い瞳。こちらは母の影響と考えられる。
「で、二人は高等科まで何をしに来たのかな?」
「オリヴァーお兄様へ、お父様から伝言を頂いておりますっ」
「『今度、パーティーがあり、その時に次期当主としての威厳を示してね。僕は竜討伐のお仕事が入ってるので、クラウディアに任せてます。あと……』」
「ちょっと待ってくれ? そんな事一切聞いていなかったのだけれど」
「『ごめん、言い忘れてた。でも、エリオットも呼ばれているから、頑張れ。』」
「そこまで、父上に声を寄せなくていいんだよ、イリス?」
あー、あー、と声を調整しているイリスを見るとなんだか申し訳なくなってくる。そして、似ているので、どれほど父上が忘れていて誤魔化そうとしているかが、分かってしまう。これは私が父上にいきなり重要な行事を言われて、焦っている父上の癖を基に言っている。
「……『あと、イリスは僕と竜討伐だから頼っちゃだめだよ?』だって。オリヴァーさん、多忙だね」
「………………父上は十一歳を戦場へ連れていく気かい?」
「行ってきます。まかせろ」
抑揚のない声で、告げられ、絶句する。
父上はたまにとんでもないことをするから、どうしようか、と父上を除いて一家で悩むことがあった。
「ボクは行きたいな。本当はリリィといっしょに行きたかったけど」
「そうですっ、それなら二人で…………できるのに」
「……ね」
小さく竜のうろこを回収と聞こえたが気のせいだろう。竜のうろこを回収するには、上級魔術師ぐらいしか成せない。
それをこの小さな子供がするなんて。
「ボクたちは家に帰るね」
「お母様からですっ」
「あー、あー、あー……『今度の週末にでも帰っておいで』」
「うん……じゃなくて、イリス、似すぎだって……」
危ない声が、似すぎて「母上」と言いかけた。
■■■
「ねぇ、なんとか二人で討伐、行けないかな?」
「そうですねっ、でも、俺様は情報収集をしないとでしょうっ?」
「そう、だね。この世界は、こう、カツンと引っかかる所が何個かある」
「なにか、隠されてますよねっ」
「それを解消しないとね。判明しているのはいくつだっけ」
「お兄様は隠し事がありますねっ。それに、シュバルツ魔法伯は……微妙ですっ。あとは、あの人と、あの場所と……」
「あげればきりがないから、いいよ。リリィ」
二人が異世界での目標を話し合っていると、馬車のドアが開く。
二人が生まれたときよりも少し、大人びたマーサが出迎えてくれたようだ。
「盛り上がっていましたけど、何の話ですか? 隠れてる、とか聞こえましたけど」
「………今朝、お庭にリスがいて、その子が隠れちゃったって話」
「そ、そうなんですっ。今度、マーサ姉ぇも一緒に来てくれませんかっ?」
「いいですよっ。あたし、見つけるのなら自信があります!奥様も来てくれるんじゃないでしょうか? 奥様、動物好きですもんね」
マーサは屋敷につくと、すぐクラウディアを見つけて、その話をした。
そんな中、ジッとして項垂れているイリスがリリィに耳打ちする。
「………………十一になってそれは、はずかった」
「俺様に任せてくださいっ」
真っ赤になる、イリスの手を引いてリリィはクラウディアのもとへ駆け寄る。
「昨日、二人で物体の形を紙に写す〈投影魔術〉の練習をしていたんですっ。そうしたら、リスが逃げやがって、イリスは頑張っていたから悔しいんですっ」
「そうなのね。明日、ダレンが仕事から帰ってくるからみんなでやりましょう?」
「いいですねっ! 俺様達、もう一回、復習して再チャレンジですっ」
「………なんで、リス限定なんですか?」
マーサが今更な疑問を口にして、リリィはニコッと笑う。
「俺様、リスが好きなんですっ。それでイリスはプレゼントしてくれようとしてたんですっ! ね、イリス?」
「………うん」
「「まぁ。優しい」」
「俺様たち、夕食まで部屋にいますっ」」
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「ありがと、リリィ」
「お互い様ですよっ。いつも、宿題をしていないのに、魔術の練習していることマーサ姉ぇに黙ってくれるじゃないですか」
「ううん、今日はボクのプライドのために助かった」
「まったく、またリリィお嬢様は学校の宿題をしていないんですか? 奥様に言いますよ」
「違うの、マーサ姉。リリィと二人で宿題の分からないところをしていたの」
「そうですっ」
こうやってマーサに誤魔化しています。