第235話 √2-40 G.O.D.
更新文章量少なくてサーセン
「桐か!?」
その聴きなれた声に不覚にも感動した、俺とホニさんと矢を殺しにかかる雨澄和と思われる女子生徒。
声に反応する時でさえも、矢は俺の足を狙い射つように目の前、右左にそれなりに頑丈なアスファルトの地面をクッキーを壊すようにあっさりと砕く。
『うむ、今は敵との戦闘中と言ったところじゃな』
そういえば以前に桐は攻略情報を知っている――と、言っていた気がする。
「あ、ああ!」
「桐? 桐とユウジさんは話してるの!?」
どうやらホニさんには伝わっていないようで、おそらくは俺が途端声を張り上げ「桐」と叫び会話したことで読みとったのだろう。
『そのまま家まで走れ、そこからはわしがなんとかしよう。ホニには安心せいと伝えておけ』
「どうやって!? まさか桐は自分を犠牲にとか言いだすんじゃ――」
『わしを心配している暇など、お主の喋り具合ではなさそうじゃが……とりあえずはそれほどの危険はないから、安心せい』
「そうか、じゃあ桐を信じて俺は走らせてもらうぞ」
『どんとこい』
「……桐から伝言、安心せい。だとよ」
「え――桐は一体何をするつもりなの……?」
わからん、とホニさんには答える間もなく屋根を踏みつける金属や瓦の音が後ろからは響き聞こえる。
ダンスのステップのように、後ろから付き抜けて行くことで変わる風音に反応して寸ほどのところで避ける。
なるほど、帰宅部インドア派な俺でも逃げ足だけと反射神経は早い、良いのか。足に限界が近づいている気がするが……足を止めた途端には何本もの矢でハチの巣だろう。それならばこの足を止めることは出来ない。
……だとしてもご都合な気もするか、というか後ろの音だけで判断するとか何者なんだよ、俺。
『そうじゃ、言い忘れておったがお主に”反射神経増幅”と”超加速”の効果を持ったナノマシンを体内に入れておいたからの』
「なっ……何時の間にお前!」
『数日に及んで何回かお主を襲撃した際にな』
「伏線をもっとしっかり張れよ! そりゃ誰もわからねえよ!」
こう話していても、後ろの気配には寸前で気付き。相当の腕と先読みもしてあるであろう矢の攻撃を殆ど受けない……本当に桐は俺に何か仕組んだのかもしれない。
そうこう桐との話をしている間に角を曲がった――そう、もう少しで俺の自宅が見えてきた。
「なんで、俺の家だけ?」
ほかの景色が色を大きく変えて不気味な様を晒しているのに対して、俺の家の周りだけはかつての色を持っていたのだ。
『ラストスパートじゃな、そのまま門に入るが良い』
「おい! 後ろから来てっぞ!」
『三十……二十……十五……十、いまじゃあっ! ”瞬間転送”』
「今桐何を……って、え?」
矢が急に途絶えた。
『わしの特殊能力施行範囲は十メートルが限度での』
「いやいや! 後ろからもう何も聞こえなくなったんだが! なにをしたんだお前は」
『ちょっくらテレマップというものをな』
「て、テレ?」
『瞬間移動とも言えるかの――さっさと入れ』
「ああ……それはテレポーテーションと言うんじゃないか?」
『四の五の言うでない、お主も無理するでない』
突然の事態に俺は足を止めてしまったが、桐にどやされて直ぐに門をくぐった。
やはりこの家。庭やら家やら空が……この周辺のみが色を保っていた。
まるでこの場所だけを守るように、壊れることを許さずに崩壊が避けられたかのように。
「おかえりじゃ」
そこには仁王立ちした桐が待っていた。