第236話 √2-41 G.O.D.
修正予定です
「なるほどのう、まあ想定はしておったが」
居間に座り込み、俺は息を荒げ痛む足を撫でながら俺は話す。
「ユウジさん……ごめんなさい、我が重いせいで」
「いやいや、ホニさんは全然重くないぞ? 俺の日々の運動不足が要因だ」
いや、本当に。軽くウォーキングでも習慣化していればマシだったなあ、と思う程に体力のなさを実感した。
「それで上手くお主に組み込んだナノマシンが作動したということじゃな」
「ナノマシンなあ……そんな超設定いきなり出しても萎えるだけだぞ?」
「しかしユウジ、それが無ければお主は死んでいる」
あの土壇場で足を早く、反射神経を良くできないとここに帰ることはままならなかったと確かに思う。
あんな喋りながら余裕だな、言われそうだがな。三秒に一回のペースでやってくる矢をどう思う?
それを避けることが出来たというのも今冷静にならなくても常人離れしていること間違いない。
「く……否定は出来ないな。ありがとよ、桐」
「うむうむ」
「それで桐、色々聴きたい事があるんだが」
「うむうむ分かっておるぞ、まずはなぜにこの家に引きこんだんだ? とかじゃろ」
心はこんな時まで読まんでいい。
「数日間かけてこの家には”術無効化”と”神裁”避けの結界を張っていたのじゃ」
「術……?」
「ぞうじゃ、世界の色が変わりお主とホニと……お主らを狙った者以外消え去ったじゃろう?」
あの世界、あの何十人もの人が行き交わる日曜の商店街から三人だけが残されていた。それも商店街は色を変えて俺らの周りに広がっている異様な光景。
「ああ……どうなってんだ?」
「まあ、それがアイツらの”術”じゃな。あの場合は”現からの孤立”と言ったかの、指定した生命体のみを抜き取って背景だけをまるまる模写したかのような別の世界に迷わせるものじゃった」
生命体ねえ……いきなりSFチックな展開になってきたな。
「生命体……人や動物だけをピンポイントで。それも別の世界に?」
「ああしないとアイツらは行動が完全に制限されるからのう。あの空間のみ”神裁”を受け継いだ者、つまりはアイツらは常人を逸した行動をすることが出来るという」
「しんさい? そもそもアイツらって……」
「まあ、その部分な後ほど知ることになるじゃろう」
すんごい濁されている気がしてならない。おそらくは”アイツら”といいう奴らにも名称があったりするのだろう。
「まあ焦るでない……これも主人公としての役割じゃ、無暗に筋書きを読み飛ばすでない」
それはアレか「わしの知ってる展開通りにしかならないし、先を急いでも仕方ない」ってことか。
……そうだよな、お前は攻略情報を知っていて隠しているんだもんな。
「……隠すことについては申し訳ないとおもっておる」
俺の心をまた見透かすように……まあ読んだんだろうけど、突然に謝って来た。
「しかし、わしも声を出したくても出せないのじゃ。未来や過去に行っても干渉出来ないように、わしがそれを言うことで動揺を招き結果的には最悪の展開も有りうるのじゃ。だからわしは攻略情報については閉口させてもらう」
……桐は本当に申し訳なさそうに、言えないことでバツが悪いような表情をする。
しかし考えてみれば桐は言動で教えてくれてはいなかったものの「やかましいほどに家の中や庭を闊歩していた」というのは、もしやこの家の結界を張っていたのでは?
買い物の同行を断ったのも結界を張るのに時間がかかったから――と考え始める。桐が動かなかったら逃げる場所は無く、この世界では生き残れなかったのかもしれない。
そう考えてしまうと桐を責めることはできなかった。桐の言う事を信じれば本当に干渉出来ないのを桐はなりにやってくれたんだろう、と思うからだ。
「…………で、雨澄はどうしたんだ?」
「言ったじゃろうに”瞬間転送”で何処か遠くに飛ばしたと」
あの展開で唐突に雨澄が消失するのと、桐が俺の脳内に送っていた……数字カウントを思えば「十」の時に何かを叫んでいた。きっとそれが「瞬間転送」だったのだろう。
「それでもう襲って来る可能性はないって考えていいのか?」
「違うな、これはあくまで応急措置じゃ。ホニがアイツらに見つかればここも結界は保てないじゃろう」
「……じゃあどうすんだ? このまま家に籠城しても無駄ってことだろ」
「うむ、一度目を付けられた以上は逃げ続けるか。それともアイツらを倒すことしかないの」
「倒す……!?」
あんな凄い勢いで矢を射って来る雨澄をか……無理だろう。それ以前に屋根には昇れねえって。
「まあ、ナノマシンとわしの能力を多用すれば空を飛ぶことは造作も無い。しかしわしはみての通りの小さき女子じゃ、相応の力しか持ってはおらぬ」
まあ喋り方が腐っていても小さき女子というのは間違っていないだろう、実際に体に付いているのは華奢で繊細な細い腕だ。力を行使するものには限度があるのだろう。
「ホニ」
「え?」
「お前も戦うんじゃぞ?」
「! おま、桐っ! ホニさんもいくら神様だとしても、中学生大の体だぞ! 戦いに参加なんか……」
「……我には何も出来ないよ?」
「ホラを言うでない。まあ、出来ないという発言には反論するが、お前は戦うべきではないな」
……さっきから桐は何を言いたいんだ。ホニさんに戦えと促すかと持ったら、やっぱり戦うべきでない。
「どっちなんだお前は。もちろんホニさんが戦うことは許さねえが」
「そう言うならばユウジ、お主が戦うのじゃぞ?」
……はい?
「俺が? どうして……っていや、確かにホニさんや桐には戦わせられない――俺しかいねえ!」
「うむ、それに武器は手に入れたじゃろ? ほぼ確定的じゃ」
「まさか……」
「お主が物置で発掘したナタリーが武器じゃ」
事態はとんでもない方へと方へと向かっていた。
彼女らを戦わせることは俺が許せない……すると俺のみが立ち向かう形になる。帰宅部生涯十五年目。重さに驚いたあの鉈を思い出して冷や汗を俺は流した。




