第233話 √2-38 G.O.D.
SHUFFLE!のアニメ版が面白くて仕方ない
五月一六日
「ユウくん」
「なんでしょうか?」
「なんで?」
「と、言いますと?」
「…………はぁ」
「ユウジさんユウジさん! あれがスーパーという色々なものが揃うお店なんだよね!」
姉貴のため息の理由を俺は知っている。というかもろに当事者だったりするので良く理解している。
「そうそう、食べ物から日常品まで色々売ってるんだぞ」
「ひどいよユウくん……買い物は二人きりだと思ったのに」
「いやー、家族水入らずで出かけるってのもオツなものじゃないかあー」
どこの古臭い親父だよと言わんばかりの発言をしてみるものの、まあ言いたいことは確かだ。
学校で留守番を任せている上に休日までもが俺と姉貴で出かけてホニさんを置いておくのは酷すぎる。
ホニさんはただでさえ好奇心旺盛で、肝試しからの帰宅時に周囲の景色に目を輝かせているのを鮮明に覚えている。
きっとホニさんは我儘を言わないよう、ある程度の気持ちを抑えて俺たちを見送っているに違いない。
ならば、と声をかけた訳だ。
『……え! お出かけ?』
『どうだろう? 俺と姉貴は決まってて、一緒に行かないか?』
『でも……いいの?』
『ああ、ホニさんずっと留守番任せちゃったからな。少し外の空気を吸うのはどうかな、と』
『……少しはしゃいじゃうかも』
『休日ぐらいは羽を伸ばすと思って、な?』
『うん! じゃあ、我も行きたい!』
『了解、ユイとか桐も誘うけど』
『うんっ! お出かけは皆で行くのがいいよね――』
といった感じに一昨日呼びかけてみた。正直ホニさんが来ることを確定しただけでだいぶ気が楽になった。
その他ユイを誘うと「おおう! 丁度ゲームショップ”キッド”をチェックしたかったから途中までお供させていただくぜい!」以下のように途中までの同行が決定。
残りは桐なのだが……まあ正直面倒という気持ちがあるが「わしを誘わないとは何事じゃあ!」と怒られそうな気がするのもあったが、流石に桐を除け者のように誘わないことはしない。桐のことは決して嫌いじゃないからな。
『スマン、わしは止めておく』
『…………え?』
『いやー、お主の熱烈な誘いを断るなんて嫁失格なのじゃが』
『そこまで熱心には誘っていないし、そもそも俺はお前を嫁とは認めていない訳だが』
『――という照れ隠しまでしてわしを誘えなかったのがショックだとは思う、思うのじゃが。今回は止めておくとしよう』
『……ああ、そうかいそうかい。というか言いたい放題言ってんじゃねえ、まあでも今度機会があったらまた誘うからな』
『うむ、承知した』
と言った感じに断られた。思えば最近の桐は忙しそうにも見えた。
数日前からはホニさんとゲームする時間が終わると同時にやかましいほどに家の中や庭を闊歩していた。
そこまで関心が行かなかったこともあって、桐が一体何をしていたかは分からないが。
「ということで姉貴、そろそろ折れてくれな?」
「あうう……」
相当にショックだったらしいが、そんなことはお構いなしだ。
「でも……ユウくんと久しぶりのショッピングだねー」
「そうだな、食材調達も学校帰りに俺か姉貴かでやってたもんな」
ホニさんや桐、ユイが居なかった頃を思い出す。
ユイが越して来たのが今年の春休みを向かえた直後ということもあって、当時は非常に驚いたものだ。
「ユウジさんユウジさん! あれは? あのグルグルと青と赤が回ってる看板がある――」
これほどまでに無邪気という言葉似合う方も居ないだろう、幼少期に親に連れて貰ったデパートでの俺もこんな感じだったのかもしれない。
容姿的には非常に可愛らしいが、その無邪気さと裏腹に永い刻を過ごして本でしか知りえなかった光景を目の当たりに出来ている感動もあるのだろうと思う。
「あれは髪を切って整えるところ、理髪店とか床屋とか言うとこだな」
「へぇー、髪を切ったり整えたり……そんなお店が現代にはあるんだねー」
「ホニさん的に、今日はどうだ?」
「うんっ! 何もかもが新鮮で、すっごく楽しい!」
「そっか、なら良かった」
そんな無邪気にはしゃぐホニさんを見て、流石に観念したか姉貴もふぅと息を吐く。
「そうだよね、また今度があるもんね。それにホニちゃんが嬉しそうで、私も良かった」
「ああ、でもさりげなく未来に予定を入れないでくれるか?」
「それに……ユウくんと私の子供みたいだよね、ホニちゃん」
「うーん、これは反応しちゃいけないだろうなー」
まったく、姉貴も町中だから自重してくれよ……露骨に「手、繋ご」みたいな意思を目配せするな。
と、言った感じにウィンドウショッピングを楽しんでいた。本当に懐かしい、前は姉貴と俺含めて四人で街に駆りだしていたこともあったなあ、と思いだす。
状況こそかなり異なるが、こんな日常もかなり幸せなんだよな……と改めて思う。
そしてしばらく歩いていると――まただった。
『――――』
「っ!?」
その人の周りを他人は避けるように、彼女は明確な拒絶を示す。すれ違おうと前に見えるのは、藍浜高校制服姿の女子生徒。
深い緑色の長髪に、ちょこっと出た両サイドテール。上品さと大人っぽさを揃わせながらも、その瞳は冷たく――
『やはりあなたの匂いは間違っていなかった。見つけた――異を』
「!」
彼女……いや。同じ学校、学年生徒こと雨澄和が饒舌に言葉を発したその瞬間に、日常は壊れた。