第232話 √2-37 G.O.D.
唐突ですけどクソゲヱで面白い回ってありました?
「ユーウくんっ」
「おおう!? 近いっ、近いから!」
居間でくつろいでいると、唐突に姉貴が目の前に現れ顔を覗いてくる。
というかなんという近さだろうか、お互いの吐息を感じるであろう昔懐かし三十センチ定規からカウントダウンを始めるであろう数十センチの距離だった。
「……で、なんだ?」
肩を掴んで引き離すことに成功する。まあ姉貴は少し悲しそうな表情だったがそんなのは関係ねえ。
「ユウくんデートしよ!」
「断る」
姉貴の口からデートという言葉が出た時点で拒否反応が出る。姉が弟にデートはねえだろうよ。
ラブコメマンガの仲の良い姉との対応に慣れた主人公的には「あぁ、買い物ね。はいはい」と流せるのだが、姉貴が言うとワロエナイ。
「……私じゃ不満なんだ」
「いや、それ以前に姉弟関係だから」
姉貴と並べば絵になるだろう……容姿的には確実に俺は釣りあわないだろうが。というか俺と姉貴は容姿は殆ど似ていないので傍目に見れば普通のデートに見られかねない。
俺への溺愛を差し引くとかなりの完璧超人で美人な姉貴だから、決して一応弟とはいえども男として見ると魅力的に映らない訳ではないけども。
溺愛を差し引いちゃいけないのが姉貴で、その溺愛は中学校時代から伝統のようなものになっているせいか「これほど美人なのになぜここまで色恋沙汰がないのか」その要因は俺という存在にある……と、マサヒロに去年ぐらいに聞いた。
だから並んで不満ということはないが――まあ姉と弟ですから、と冷静に指摘しておく。
「……ユウくんの嘘つき」
「はぁ!?」
「……掃除の時にユウくんがデートしてくれるって言った」
「は? 俺がそんなこと言う訳が無いだろ!」
「”……か、買い物なら付きやってやらんこともない”って言ってくれたじゃない!」
「ちげーじゃねぇか!」
どうやったら”デート”イコール”買い物”になるのか――姉貴ならばやっぱり納得できるけども。
というかなんでそこまで一字一句間違っていないのに解釈では間違えられるのか俺には到底理解できない。
「男性と女性が二人で町を歩いて買い物だよ! これがデート以外のなんだっていうのっ!」
「それ以前に姉弟の前提があるからそれはない!」
ここまで聞いて姉貴は俺を弟として本当に見ていないんじゃないかと思えてくる。
「買い物なら一緒にいってやる、って言っただけだろ」
「……買い物という大義名分のもと――」
「買い物な?」
「らぶらぶいちゃいちゃユウくんとの――」
「ショッピングな?」
「デート――」
「すまん……あの時の発言取り消すわ」
「っ!? やったー、ユウくんと買い物だー!」
……まあ、デートというのは流石にナイので。必死こいて訂正させてもらった。ある種の抑制効果もあるんだろうからこの軌道修正は良い判断と言える。
「るんるんるん~」
姉貴は上機嫌でキッチンへと向かった。それはも嬉しそうに鼻歌を歌っている、なんだかんだで幸せそうだなあと思える。
しかし俺はそこまで優しくない。姉貴と二人きりはかなりの悪い予感が……大掃除をした時の時点でヤバかったので外出(姉貴にしてみればデート)したら――
「……ヤバいな」
姉貴が”家族”という一線を事も有ろうにスキップで飛び越えかねない。
「かくなる上は」
俺は居間を出て二階へと上がる。そしてある部屋の扉をノックし――
「はいはいー……あっ、ユウジさん」
「ホニさん、そういえばなんだが――」
”買い物”は二人で行くとは限らない。デートなんかじゃなければ”何人でも”家族や友人を誘うことが出来る。
俺はそうしてホニさんと桐とユキを誘った――
でも、今考えればこの行動は間違いだったのかもしれない。
いや、早くに実態を知れて結局は良かったのかもしれない。
それでも、平和なる日常が唐突に終わる時が。刻一刻と迫っていた――