第229話 √2-34 G.O.D.
遅れたですー
「……ふぅ」
ニー●レスの持ってきた三巻分を一時間ほどで読み終わる。
いや良かった、アニメの声で山●とア●ムとイ●が再生されてかなり心地が良いんだぜ。
「さてと」
横目に見れば、そこには壁に立てかけられた木製の柄と純粋な銀色というより黒みがかった色を持っている全長ほぼ一メートル半のトゲのついた鈍器に分類されるであろう鉈。
物置部屋を弄っていると、母親の持ち物と思われる鉈を見つけたのだった。
「…………」
鬼隠しでもあった訳じゃないだろうし、見た目は刃の綻びも見受けられないところ見るに殆ど新品だろう。
「うーむ」
手にとって色々見まわしてみるものの、特に表記は見つからな――ん?
「なんだこれ」
丸木で出来た柄の底面を見ると、そこには乱雑にマジックペンでぐりぐりと落書きのように文字が並ぶ。
「”ナタリー”」
…………ええと、ここは笑うべき部分があるのだろうか。
単純に考えて「英語圏やフランス語圏で使われる女性の名前」と「鉈」をかけたんだろうなあ――
「っ」
なんだろう、あまりに安直過ぎて涙が。せめてマジックでこんな乱雑に書くことはしないでくれよ、鍛冶屋も報われねえよ……まあ、この文字の乱雑さは流石に今の母ではないだろう。少なくとも昔の母が買った、与えられたものなのかもしれない。
……それはあくまで母親の持ち物として仮定するということなのだが――他の理由で物置にあるとか考えたくは無いな。
「ひぐらし的な発想で行くと」
オヤシロサマ的な? 呪いの鉈? まあ、鉈にはそんな設定無かったけども。
「……喋るとかしないよな?」
デ●フリンガーじゃあるまいし、鉈に喋られても困りものだな。
というかこの発想に即行く着く時点かなりのラノベ脳という……いやだってさ、この世界ギャルゲ含んでるんだぜ?
喋り方だけが老朽化した妹とか、色々なキチガイ能力が使える古い妹とか、絡んできてはフザケた求愛行動して来る妹とか。狼な神様とか←すごいかわいい。
まあ、そんな方々が居る世界観なのだから喋っても何の違和感もねぇな。なんて思ったわけだ。
「……おいナタリーさんよ?」
壁にもう一度たてかけた鉈に高校生が喋りかける光景――シュールだろうなあ。
どこの厨二病だ「ナタリーさぁんよぉ? いや、相棒ぅ!」とか言ってやればなんか喋るのだろうか。
「おーい、相棒」
コツコツと刃をつついて見るも、反応はなし。
いやあ、こんな光景誰にも見られない自分の部屋だからやってるってもんだよ。
ほら、美少女フィギュア持って「ハァハァマ●アさん、ちょっと覗いていいかなグヘヘ」とか「シャシャシャシャ●たん! いつもぼぼぼぼぼくの傍に居てくれてありがとうなデュフフフフ」
とかやってる訳ではないから、そこまで心身異常者には見られないだろうけど…これが見られたら俺一週間は恥辱のあまり休んじゃうわー、マジ一週間の故意休暇確定だわー。
「あーいーぼーう」
「……………………」
「あー……!」
後ろに気配、振り向いたら何かがそこに居て何にも付かぬ形容しがたい表情をしながら立っている気がしてならない。
なんだろうこの動悸は、一番見られて面倒臭そうなヤツにじっと見られている気がする。
少なくともこの謎行動は流石に直ぐに反応することは出来ず、何か哀しみを含んだ優しい目をしながらそこには誰かが――
「す、すまんな」
……桐が居た。かなりきまずいなぁ、謝ったあとはどう話を切り出そうかかなぁ。なんて内心困惑しているであろう微妙な表情をしていた。
「……どこから見てた?」
「ナタリー」
一週間休むわ。
「ぶ、ぶはははははははははははは」
「…………」
「な、ナタリー! ブリタニア家の妹さんみたいな名前じゃのう(笑)」
「…………」
「あ、あいぼうぅ! っく、ふふふふっふふふふふふふふふふふh」
「えーいっ、止めろよ! 鉈で裂くぞ」
「ナタリーじゃろ? ぷっ、くくくくくく」
……今すぐこの鉈を実用に移したいんだが、どうだろう?
「まあ、面白いユウジ弄りもここまでしておいてな」
「ひどいよ、こんなのあんまりだよ」
「そう嘆くでない、これはわしとお主の二人だけの秘密じゃ」
それは桐にとってのいつかの脅迫材料の間違いではないだろうか。
「……鉈にお主は選ばれたということじゃ」
「いきなりお前も厨二病患者みたいなこと言いだすんだ? 当てつけか! それは俺への当てつけか! ちっくしょうめえ、秘密宣言から十秒経たずにネタにするなんて、このド外道が!」
「わしが理不尽にこれほどにも罵られているじゃと……わけがわからないよ(笑)」
「鼻で笑うのを止めろや、某掲示板でもブログでも挑発が主要目的だぞそれは」
まったく、隙を見つけた途端に凄まじい程の活きをみせやがって。
「……しかし先程のはユウジをネタにしたのではなく、ガチじゃ」
「選ばれた云々のことか?」
「うむ。ある種、それが固定武器となったということじゃの」
「固定武器? まるでこれから俺が――」
武器を使って戦うみたいな言い草だな。
「いやいや、鉈とか戦いに向かないだろう。重いし」
「それはお主の運じゃろう」
すげえぐらいに俺の運って底辺だな。
「まあ、それを言いに来ただけじゃったが……思わぬ収穫があったからわしは満足じゃ!」
「ああああああああ、ちくしょうめえええええええええええ」
桐にネタを提供してしまったのが屈辱以外のなにものでもない。ああ、不覚だった。
桐に常識なんて通じず、プライバイシ-のプの字も無いヤツだったから……うかつだったわ。
満足げに部屋を「じゃあの」と言って去って行く桐を睨み終わると、先程の言葉を思い出す
――と、イライラするが。少なくとも”ガチ”と言った桐はしごく真面目な表情をしていた。
だからもしかして、だ。
「……いや、ないよな?」
誰に問いかける訳でも無く、俺は天井に向かって一人呟いた――ってこういう行動がダメだろな。