第225話 √2-30 G.O.D.
今回からが実質√2、第二節!?
見慣れた路地、いつもの変わり映えしないそんな景色の中で日常から切り離された、異常な光景が繰り広げられていました。
長い黒髪の女の子を連れた男子高校生と、藍浜高校の制服を着た女子生徒――それだけならば普通な光景でしょう。
しかし女子生徒は地に足はついてはいませんでした。
少し見上げると、そこには空を舞う女子生徒。そして男性高校生の方へと――
「ちょっ! おまぁ」
なんだよ、どんな展開だよ、おかしいだろよ。
どうしてこんな事態になった、どうして――ホニさんが狙われなければならないんだよ。
「ユウジさんっ」
「俺から離れるなよっ!」
「う、うん」
なんで俺は逃げ回ってんだろうな……予測できるか、こんな展開。
「逃がさない、この世界のイレギュラー要素”異”は排除する」
アスファルトで固められた地を足で蹴って前へ前へとホニ様を連れて走る俺。一方完全反則な空から見下ろしながら飛ぶ彼女。
「んなこと言われても俺は知らねえよ!」
「……おとなしく」
「その言葉そっくり返す!」
「……イレギュラーは異は害、排除すべき」
「スルーかよ!?」
帰宅部チャンピオン候補者こと俺には、この連続猛ダッシュは堪える。しかし止まったら最後ホニさんは――
こいつらのやることだ。傷一つでは済まないし、最悪の場合もありうる。
「ユウジさん」
「ん、なんだ?」
必死に走る中でホニさんと会話をするものの、やはり自分の息は絶え絶えだ。己の体力の無さを改めて自覚する。
「こんなことに巻き込んで、ごめんなさい」
「ホニさんが謝ってどうする。……そんなことよりも、追っかけてくるこいつらに俺は怒りの矛先は向いてるね」
「ユウジさん……」
「――大丈夫だ、なんとかする」
確証が有るわけでもなく、自信のほどもない。
けれど、護らないと。そんな一心でパンパンになりズキズキと痛む足を前へ前へと持っていく――
* *
「おかえりー! ユウジさん、ユイ」
スーパー癒し系神様ことホニさんがこちらも綻ぶ柔らかな笑顔でお出迎え。
くぅー、下之家に生まれて良かったァァァァァァァァッ!
「ただいまー」
「ただすっ」
ユイは恒例なオーバーリアクションで、もはや原型を留めない帰ってきた人が言う挨拶だった。
そのあとホニさんは「後少しで洗濯物まっててねー」と言い残して居間へと戻って行った。
とりあえず、水分を欲す俺はホニさんを追うようにユイが自分の部屋へと向かうのと違いキッチンへと向かおうとしたその矢先。
「ふむ、帰ったか……おかえりじゃ」
居間では見かけだけは微笑ましい妹(古)こと桐がぺたんと畳張りの居間に座っていた。
目をこすりながら変に挨拶だけはキチンとする謎家系故に、桐も従い挨拶を言ってくる。
「ん? 桐は昼寝明けか?」
「うむ……今のうちにユウジの部屋で寝ておかないとな」
「まてーい、さりげない不法侵入行為をさぞ当たり前のように言うんじゃねぇ」
朝這いのみならず、俺のいないアフタヌーンティタイムにも侵入しているとは――もはや怒りも起きない。
「わしとユウジは運命共同体……部屋も共同でよいじゃろう」
「やだよ! お前みたいにロクな死に方しなさそうな奴と運命を共にしたくねえよ!」
「ヒロインはわし一人」とかホラ吹くし、猫かぶり中途半端だし、喋り方古いし、黙ってれば可愛いし。
「なぬ、失礼な! わしは神様のご加護が有るからの、あと八七万六千時間は生きる予定じゃ」
「時間だから――って律儀に計算しそうになったじゃねえか! 確か年数に換算すると百年ぐらいだっけか?」
「よく知っておるな、ならばこのオ●ーナを買う権利をやろう」
「ネタの織り交ぜ方雑ぅ!」
「……というか、さりげなくお主はわしを可愛いと思っておるのじゃな」
「久しぶりだなァ、その心詠める設定!」
というか桐はなんか色んな能力あるとか言ってたんだよな……今のところ「不法侵入」と
「心詠み」ぐらいだよな?
あー、まだ知らないとは思いますが。桐には他に「涼●さん風空間造成」「物体創造」「ステルス」「針金使い」エトセトラあるんですよね。
なんかチートって言うんですか? 無敵ですよね、もう。
「まあ、とりあえず部屋同じは勘弁な。そんなことしたら姉貴が来そう――」
デレレーンデレデレデーンデーン(ベートー作曲、交響曲第五番「運命」)
と、いきなり制服ポケットから携帯の着信音が鳴り響く……これはまさか。
『ユウくん、お姉ちゃんのこと呼んだ?』
「エスパーかっ!」
ブチリと電話を切り、電源さえも切る。まだ生徒会のはずだよな……?
怖いよあまり良く知らない父さん、偶然にしては出来杉君もびっくりな具合ですよ。
「む、むう。分かった。わしも妃は許すが、ミナには略奪されかねない」
「それ以前に俺はお前のものにはなるつもりは金輪際無い」
「お前のもの!? ユウジったら坦々ね」
「せめて最後は間違わずに”大胆”言えや」
はぁ……余計に喉乾いてきた。
「とりあえず喉乾いたから」
「もうぅ、ユウジ? わしは母乳なんて期待しても出ないよ?」
「期待も何も論外だバカヤロオオオオオオオオオオ」
もう「家の中で走るものじゃないよー」と大昔母に言われていたことが俺の馬鹿脳が引っ張ってきたが、そんなことどうでもいいので右から左へと受け流し、桐からまた絡まれることを全力で遠慮願いたいのでキッチンへと走った。
すると、俺たちが意図しない(少なくとも俺は)コントを公演していた傍で黙々と洗濯物を畳むという家事をやっていたホニさんは、気づかぬうちに俺の行く先だったキッチンに居た。
「あ、ユウジさん」
花がぱっとさいたような笑顔に一コンマ三秒癒されると、そんな俺の名を呼んでくれたホニさんを見る。
「ん? ホニさん、料理してたのか?」
コンロに火をかけた状態でおかれている煮物鍋とおたまを持って可愛らしいエプロン姿のホニさんを見て解釈して言う。
「う、うん。ちょっと野菜の煮物つくってみたんだけど……勝手にしてもよかったよね?」
「ああ、もちろん構わないぞ。おお、煮物か――」
鍋には綺麗に切られた手頃な大きさの野菜が浮かんでいて、ホニさんの料理レベルが普通に高いことを物語っている。
「あのユウジさん」
「ん?」
「あとで……」
「あとで?」
少しもじもじと恥ずかしそうにするホニさんめっちゃ可愛い、なんてここまで癒しを分けてくれるのだろう。ああ、素晴らしきホニさん。
「味見してくれると、嬉しい……な?」
「ん、俺でいいの?」
「うん! じゃあ、お願いー」
「ああ」
ホニさんと喋っていると喉の渇きも忘れてしまう。癒しも心の潤いみたいなものだし、口もついでに潤ったのだろう(謎理論)
そうして麦茶をゆっくりと飲みながらとにかく長い黒髪にセーラー服の上に付けたエプロン姿が異様に似合うホニさんは楽しそうに料理をするのだった。