第224話 √2-29 G.O.D.
女子生徒は2-18参照、謎の会話は3-2参照~
五月一〇日
なんというか、朝だ。
「…………」
で、だ。一つの疑問点、いや要約して一つでだが遠慮をしなければ複数の疑問点がある。
しかしそんな疑問点を提示し、声に出すのが面倒になるほど。”それ”はどうでもいい。
「なんで……お前がまた」
「おはよー、おにいちゃん☆」
桐が使いまわしのごとく”また”俺の体の上へと乗っている。そんな桐のワンパターンな行動に少なからず俺は呆れている。
「なぜ夜這いならぬ朝這いをするのか」「どうやってしめたはずの俺の部屋の扉をこうも簡単にスルーして侵入するのか」「どうして俺の体の上へと乗りたがるのか」
そんな疑問点はとうの前にあり、今回ばかりは声にだすのも憚れる……というのもきっと桐の返信もおそらくは以前と変わらず理不尽な根拠で言いくるめ――られはしないが、俺が抵抗を放棄するだろう。
高校生の青春ロードをひた走る兄の上に少しマセた礼儀正しい妹(周囲見解による)が乗っている。
それは傍からみたら微笑ましいかもしれないし、高校生という俺の立場と小学生という設定の桐を考えると俺が白い目で見られかねない。
「久しぶりに来てみた」
「嘘つけー、それほど経ってない上に頻度高いだろ」
いやー、ユウジ。それがですね? 結構経ってたりするんですよ。きっと読者方の体感時間的には数カ月ぐらいだと思います。
というか桐がこんな展開を毎回のようにしでかしていたのはもう半年以上前のような。スタッフが飽きたのか、伏線なのか……文章がアレなせいで判断つかないんで止めてください。
「何を言う、わしはお主の……嫁だからな!」
「ケ●コみたいなこと言いやがって、いい加減に諦めろ」
「ふっ、諦める? 冗談を言うでない……しかしわしは寛大じゃから、第三妃までは許してやろう」
「どんだけ俺は節操ないんだよ!? ってかさりげない本妻宣言をすな。あれか? 子供の冗談だねー、的な温かい笑みで受け流せばいいのか」
「妃とか言うガキとか嫌じゃな!」
「そのガキがおめーだろうが!」
「ガ、ガキじゃと……わしは、わしは――きゃーん、そうだったー★ おはようございまーすきりっちでーす★」
「お前のガキイメージが掴めない」
朝っぱらからこの桐テンションに付き合わされると、一日に消費するエネルギーを無駄に不完全燃焼している気がしてならない。実に非エコロジーだ。
というか猫かぶりが白星で、勘違いガキスタイルが黒星なのか……まあ、後者の胡散臭さは比べて増大してるけども。
「ところで起きんのか?」
「……俺の上に乗るヤツの台詞かそれは?」それならさっさとどけよ、去れよ、失せろよと。
「だから、じゃ。お・は・よ・うの接吻を、早くそれでいて早急に素早く急行でな」
「さ・よ・な・らの足蹴りならしてやりたいけどな」
意味がほぼ全部なのに繰り返し言うのはある種の強調なんだろうけど、なんだろう凄いイライラする。
「仕方ない……この平民の黒髪メイドから貰った媚薬で――」
「お前はその言い方なら貴族以上なんだな? そうなんだな!」
ったく、いつまでも漫才を続けている場合じゃないな――おい、誰か夫婦漫才自重しろ爆発しろとか言ったヤツ誰だ。全力坂を全力で転がすぞ。
「ということで振り落とし」
「ぬわっ!?」
不意打ちごめんの速効行動故に、桐も対処出来ずにベッドから転げ落ちる。内心「ざまぁ」と思っていたが表情にも行動にも言動にも出さないのが大人な対応だろう。
「な、なにをする! 更に胸が膨らむじゃろうが!」
「斬新な豊胸術だな……」
”転落式豊胸術”ってか……いやまあ失礼だけど地上三千メーターで仰向けのまま落ちたら胸辺りに肉は集まりそうだけども。
それで膨らむ胸ってどうなんだ?
「落ちることによる生じる宇宙なんたら力で」
「なんたらを誤魔化しちゃだめだろう」
「エントロピーがうんたらかんたら」
「それはあのキュ●ベえにさえ謝るべきかと思う」
ということでは俺は捨てられた子犬のように――いや、そうだと無垢に見えてしまうな。
捨てられた粗大ごみのような目で見てくる桐を放置して俺は部屋を出ようする。
「ならば、わしを連れていくがよーい」
「……ぶらさがんな」
気付くと俺の首には小さな腕が回され少しの重さが首にかかる。呼吸できないほどではないが、正直鬱陶しいことこの上ない。
「ほうほう、お主の背中は大きいのうー」
「まあ、何もしないならこのまま行くけど」
「わーい、流石婿殿~」
まあ、桐の発言は安心のスルーですけどもね。
そんなこんなで「俺ってば優しいなあ」と自分で思いつつも居間へと向かった。
なんというか、学校だ。
ついてそうそう、息を合わせたとばっかりにユキと姫城さんが俺とホニさんの関係について問い詰めてくる。
ユキは登校途中少し不機嫌で、通学路での合流そうそうに「ユウジ、昨日のことしっかり説明してね?」と瞳の奥に今までにない闇を溜めこんでそう言った、表情は笑っていものだから相当に冷や汗だった。
なんとか昨日のことを謝り、暫定で許されるものの。今度はホニさんについてのみ聞いてきて、質問を先導する姫城さんと神妙そうに頷き聞くユキが印象的だった。
そんなこんなで、午前の休み時間は心休まらない状態だった訳で。時折二人が不機嫌オーラを出し始めるので少し大変だ。
ユキも姫城さんも可愛いし、モテモテのはずなのに。俺以外の付き合いはどうなのだろうか、と思う程に俺と話に付き合ってるけど……俺でいいのか?
両手に花で幸せ満開に思われがち……いや幸せには違いないが、流石に休み時間中に何度も俺の机へと訪れてくると気疲れする。
というか、ホニさんが来た頃から二人の様子がどこか変な気がしてならない。なんでだろね?
と、いうことで逃げ出すようにトイレへと向かった。まあ、傍から言わせれば「幸せ疲れ? 暴発しろ」とマサヒロに言われてしまったので流れるような動きで文句が言い終わると同時に殴る。言い終わるまで待つ俺超優しい。
そんな時のことだ――
『―――――』
「!」
一瞬時が止まったかのような錯覚。そう、まただ。
数日前にいつものメンバーで学食に向かおうとしたところですれ違った”あの女子生徒”その人たまたすれ違う。
アニメ・マンガ表現になるが違和感のない深く濃い緑色、新緑というより樹海で聳え立つ木々の色だ。
なんだろうか、やはりこの人は異質だ。綺麗な容姿から隠さずに現れる冷たく強い拒絶の意思。
それは見た者を凍りつかせるような、目を背けさせるかのような人を拒む薄茶色の瞳を誇っている。
また、そうして俺はこの人が気になりながらも関わることなくすれ違って行く――それがごく自然だった。
『――あなたは異の匂いがする』
「!?」
ふいに近くで聞こえる声は、確かに俺へと届くように呟いた。
ことなり? 匂い? 出会い頭に選び言うべき言葉でないだろう。
「…………」
嫌な予感がする。この身に災厄が訪れるのを虫の知らせが言うように。
今すれ違った女子生徒は――また今度もすれ違うことになる、そう俺は感じてた。
* *
それは部屋の中。暗闇、意図して証明を消した深い黒。
「ついにアイツが目を覚ました?」
何かに問うように。
「ああ、僕が実際に見てきたからな」
少し呆れたように。
「そうか……ならば我々も動かなければな」
同意を促すように。
「野放しにしておいたら……」
続かせるように。
「早急に確保しようか」
「じゃあ向かうと、しますか」
二人は賛同し、動き出す。ここは町のどこか、深い黒の部屋の中。