第218話 √2-23 G.O.D.
復帰2?
「……そうですか」
俺は結局話したのだった。ホニさんを俺の家へと連れ込んで、それでいてこれからも居住と共にすることになったこと。
身寄りがなく、このままではいけないので暫定的に――と、説明した。
聞いている間の姫城さんは先程のドス黒オーラは途絶え、真剣に俺の説明および弁護を聞いていた。
後ろのユキさんも「そっかー、そうなんだー」と言いつつも少し納得のいかない表情でいる。
そして、全てを俺が話したところで姫城さんはこう言い放った。
「それでは、私も住んでいいんですよね?」
「…………はい?」
衝撃の発言すぎる。
「それでは、っていう意味が分からないんだが」
「私が家出をして、暫定的に住まわせて貰えば――」
「まてまてまて! なんで家出をわざわざするんだよ!?」
すごい、ホニさんの境遇というか条件に合わせにくるとか……なんというか予想の斜め上を行くな。
「それは、ユウジ様と一夜を共にしたいからです(キリッ」
「いやいやいや! なんで一夜まで経過ぶっ飛んでんの!? 俺はそんな邪な気持ちでホニさんを引き取ったんじゃないんだからね!」
「……ユウジ、なんでツンデレ風になってるの。というか姫城さん! い、いいいいいい一夜を共にするなんて簡単に言っちゃ駄目だよ!」
「簡単に決めたことじゃないですよ? ――出会った当初から決めていたことです」
「いくらなんでもはえええよ! 姫城さんは自分を大事にすべきだから! 俺みたいなクソヤロウとか絶対今後黒歴史だから!」
「ユウジはなんでネガティブなの!? ユウジは自分を大事にすべきだと思う!」
「……学校から直接よろしいですか?」
「よろしくありませんっ! だからホニさんはほぼ緊急事態なんだって!」
「私も緊急事態ですユウジ様、いつユウジ様が寝取られるか気が気でなく……」
「いつ俺には彼女がいたんだろう……」
『わしじゃな』
「まぎれこむな!」
「えっ、何が!? ユウジ、まぎれるって何が!?」
「ユウジ様……私を家に上げるのは嫌でしたら、家の塀前でもよろしいですよ?」
「よろしくないって! じゃあもうあがってよ!」
「ユウジ!? さりげなくなんで了承しちゃってるの……はっ、姫城さん策士だったんだ!」
『おいユウジ、浮気したら許さぬぞ。そしたらわしは一生口聞いてやんないゾ!』
「結構だよ! お前は勝手にしろ」
「お前だなん……ユウジ様、ここは学校ですから」
「学校じゃなくてもアウトだから」
「これが本当の奥さまは女子高生だね……」
「ユキもさっきから妄言ばっか吐かないでくれる!? なんか事態がややこしくなってるから」
「え、えっ! 私何か変な事言ってた!?」
「あ、おはようございます高橋さん。ユウジ様の伴侶になりました姫城舞です」
「お、おままままままままっ! ユウジッ! この貴様ァッ!」
「まて、まて、落ちつけ。なんだそのコンパス、学校ではそんなもの今は使わないぞ? な、冷静になれよ。ケイイチ風に言ってクールになれよ……って、おーい誰か助けてくれー」
「呼ばれた気がした」
「おおう、とあるカオスの状況悪化さんことユイさんが乱入してきた! いや、お前は勝手に音楽でも聴いてろ」
「うおう、修羅場好きこと修ラバーなアタシにとっちゃ今の状況は大好物、ユウジさんごっつあんです」
「ええーい皆黙れ!」
そのカオスな様々な声混じり合う展開は一〇数分にも及び、なんとか俺が叫び続けることで収拾がついた。
「そういうわけだ」
「そうで――」
「ごめん姫城さん、シャラップ」
黙れである、静かにでもなく命令形な黙れであった。
それを言われた姫城さんはシュンとするもそれはまったくもって自業自得なのでスルーだ。
「という経緯でウチで預かることになった」
「えぇー、それはユウジねえぞ……合法的に見せかけて誘拐とかな」
「……眼潰しと耳潰し、さてマサヒロクンはどちらがお好みかな?」
「えぇと、なんでもないっす」
「でもユウジ、そういうのって警察に届けた方がいいんじゃないの?」
ユキの意見は至極まっとうだ。でもホニさんにはそんな意思はなく、俺も出来ればその手段は控えたい。
「それが正しいんだろうけど、本人が望んでないからなあ……一筋縄ではいかないだろうし、警察もどういう対応をするのか」
児童相談所に連れて行かれる可能性がある。そこで預かってもらえれば万事解決――などではない。
ホニさんが普通の子だったらそれは出来たことで、彼女は神様だ。
少し力めば頭頂部からは犬耳が、尻尾もあるらしい。それが見つかったら大変な事態になる。
物語で言う獣人が現れたとかで騒ぎにもなるし、それから平穏な生活が送れるとは到底思えない。
それを言えば一般人は皆パニックか好奇な視線を浴びせるだろう……でも、こいつらには話しても大丈夫層に思えた。
ユイもマサヒロもおちゃらけてはいるが分別はあるし、ユキはそういうことは一切口外しないだろうし、姫城さんも納得してもらえると思う。
驚かれてもしょうがないけれども、行動が狭まるよりも。なにより姫城さんが完全に納得するにはそんな決定的な理由が必要だった。
「それにな、ホニさんは――」
俺はホニさんのことを話す。最初は皆信じられていないようだったが「今度機会があったら紹介するから」と言うと。
「まあ保留だな」「うん、ユウジが嘘言っているようには見えないけど」「確かめたら私も納得すると思います」と言ってくれた。
そして他の生徒はもちろん、家族にも口外しないことを約束させて。今後紹介することを俺も約束した。
朝のホームルーム前の濃密な時間が終わり、授業が始まる。
「(そういえばホニさんは今日から家に一人だっけ)」
気になる。なるほど小さい子を学校へと送り出した娘を溺愛する父親の気持ちが少し分かる。
今はどうしているだろうか、いやホニさんは家事の覚えも凄まじいほど早かったし、年齢的にはケタ違いに大先輩だから心配する必要は皆無なんだろうけど。
「(あの容姿を見ちゃうとな……)」
どうにも不安に、庇護欲が掻き立てられる。正直ホニさんが今家で何をしているのか気になってしかたなく。
いつもはそれなりに頭に入れながら板書する授業も、手は動かすものの心此処にあらず状態である。
「(この時間帯だから今は洗濯物を干している頃かな……)」
洗濯物を物干し竿に背伸びしてかける姿が目に浮かぶ。なんと微笑ましいことか、是非にまた見たい。
「(気になるなああああああああああああ)」
その時の俺は気になるあまり、貧乏ゆすりが秒速四連打並みのスピードになっていた。
周囲からは「下之くんの机のものがカラカラと落ち続けてる……」「あれは貧乏ゆすりなんてものじゃない、あの振動数とその均等性を考えるとあれは伝説の富豪ゆすりだな」「下之くーん、教科書逆だよー」「おいおいユウジの机で消しゴムがダンスパーティしてるぜ」「ユウジ様の振動をこの身で――」「あまりの揺れに次元震が起りそうだぞ、皆伏せろ!」とヒソヒソ聞こえたが俺はホニさんが気になって仕方なく、そんなことに意識が向くことは無かった。




