第215話 √2-20 G.O.D.
わ、笑いのポイントが分からない!?
ええ、まあ時間軸戻っての「五月六日」ユウジが謎の棺桶登校を果たした朝のこと。
「今日は転校生が来るデュバァッ!」
「なんだよその出オチ」
「いんやあ奇をてらってみたくなってね」
「……奇をてらうという表現は今に限らずお前には過去現在未来夢現日常茶飯事オゥルウェイズ適応されると思うんだが」
「ん、最近では久しぶりだが?」
天然なのか!? 既にユイのキャラ作りが奇をてらった末に滑っている残念キャラだというのに……本人はそういう認識ですかそうですか。
ゲームのキャラを探してもここまで統一性の取れていない語尾・人称や四季通して保ち続けるテンションそしてキラリ輝く教師も呆れるグルグル眼鏡、ここまで濃い人物像はそうはいないだろうと思う。
ましてやこいつは”ゲーム”のキャラなどではない。ガチであり素でありデフォルトだ。それ故にたまり繰り出される天然か策略か判断つかぬ行動に白旗を上げざるを得ない。
むしろこいつと比較すればゲームから現れた彼女達の自然さといったらない。逆にこっちの現実サイドのユイや姉貴、それに”あいつ”やら彼女のいる方が不自然極まりない。
ゲームの主人公になる以前から濃い方々に囲まれていることも、ゲームが突然に現実と融合しゲームから現れた”彼女”達への違和感などを感じない理由なのかもしれない。
「で……転校生だっけ?」
「数日前に言っただろう?」
言ったっけ? ああ、言ったか。ものの数秒で思い出した。そういえばそんなことを抜かしてた気がする。
「グッドニュースだぜい」と教室に滑り込み勢いで近くの机・椅子を吹っ飛ばすというなんともハタ迷惑な登場をしつつも俺は律儀に「で、グッドニュースってなんだ?」
あれだろ、そうだ。お前の欲しいギャルゲのタイトルとかが発売されるんだろ? なんだっけか「D.C.X」だっけか? あれ長く続いてるよな~、もう無印出てからニ〇年ぐらい経つもんな……ってその発言は時間軸が崩れるから止めて?
または、そうか。お前が最近ハマってるアニメのLDだろ? えーっと「とあるお兄ちゃんなんて夢も希望もドラゴンストラトスですか?」だっけか? タイトル長いよな~各テレビ局の番組欄での略し方異なるせいで確認しにくいって……ってその発言は実際の時間軸と現実を混同させているせいで状況把握がしにくくなるので止めて?
――と俺が思考する度に何かが割り込み異論を唱えてきた。 はは、何を言うのやら……って誰だよ?
と、まあそんなことをじゃないかとあながちニアピンを狙っていたが。
「よくぞ、きいて、くれ、まし、た! 転校生が来るんだってサ!」ということについて適当な返しをした上でそのあとグダグダ喋るとM&――おっと追手が来たようだ、さらばだ! ユウジ!」なにか不穏なな展開を臭わせつつも足早に走り去ったことを覚えている。
まあ、転校生は既にその時聞かされ。実のところそれほどまでに期待していなかく、クラスメイトの男女よりも関心の薄い俺は冷めた反応になる訳で。
「そうか、良かったな」
「それでその転校生――って、なんでそんな冷たい返しなの!?」
「いや、興味ねーもん」
「またまた御冗談を~」
「……冗談を言う顔に見えるかね? ワトソン君」
「なんでいきなしホー○ズネタ挿しこんだんですかいユウジさん(ダンディボイスで)」
「てか興味ねえ、女であろうと男であろうと興味ねー」
「ダミダヨユウジクン! そんなこの学校では話題にせざるを得ないほどの一大イベントを、みすみすと不参加とするのかね!?」
「いや、もともとなんだそのイベントは。ただ転校生が来るだけだろ?」
「ちっちっち、甘いなユウジ。あまりに平穏で退屈で変化も起伏もないありふれた流れるだけの日常に唯一落とされる清涼剤……それが転校生という奴だよォ!」
まるでライトノベルで「非現実世界に行きてー、あー女の子落ちてこないかなー」とかな主人公の友人Aが言いそうなことをさも当然のように言うが、どうだろう?
そりゃ美女なら驚きもするし、美男子ならばクラスの女子勢は喰いつくかなあ……なんて思う。
「中国やドイツやらの代表候補生が来るなら驚きだな」
「ユウジからI○ネタが出たことにアタシは驚きだよ。というかアタシは美少女ならいいぜいっ!」
「いやー、でもさハードル上げても転校生が苦労するだけだぜ?」
「アタシは代表候補制の方がハードルがグングン上げられていると思うんだが」
「まあ俺はちょっとやそっとじゃ驚かないぜ? 宇宙人・未来人・超能力者……なんでも来いや!」
「どこの涼○さんだお前は……ってそのボケはアタシの特権! 許さぬぞっ、ユウジィ!」
しかし結局は現実だ。そう簡単に美女・美男子がやってくる訳がない。そうこれはまぎれもない現実だから――
『ふふ、甘いなユウジ』
「!?」
突然頭に響く声、先程のとはまた違う高く幼い声だ。しかし老いた喋り方が大きな違和感を孕んだ――
「(桐……だよなあ)」
『なんだユウジ……他の女子が良かったと申すのか?』
「(うん)」
『え、否定しないの』
「(そりゃ、桐だとガックシ来るね)」
『その冷たい反応にわしはガックシじゃ!』
最近絡んでこないかと思えば、こんなところでである。まったく、一体何を思って桐になんかテレパシー能力を与えたのか憎むべき相手がいない故に空回りしている。
そんなわけで、久しぶりの桐とのトーキングタイム。正直あんまり嬉しくない、というか面倒くさい。
「(で、なに? 何も用事ないなら切るぞ?)」
『いやいやいや、公衆電話とかじゃないぞコレは』
「(おかけになった電話は現在使われておりません)」
『途中からは無理があるじゃろうて』
「(おかけになった電話は相手側の都合によるお繋ぎできません)」
『着信拒否されとるー!?』
「(ガラにもなくツッコミ入れてないで、はよ用件言えや……俺は気が短いんだぜ?)」
『誰のせいじゃと思っとるのかのう……まあよいわ、大したことではないのじゃがの』
「(……じゃあの)」
『だ・か・らぁ! なんでそう簡単に受話器下ろすように言うかなあ?』
「(口調口調)」
『……! おっと失礼失礼。それで、ユウジ。貴様は先程”まぎれもない現実”と言ったな』
「(……果たしてそう言えるかな?)」
『いやいや話を伸ばさんでいいから、尺とか気にせンでもいいから』
「(そう? なら、どうぞ。三分間待ってやる……もうテレホンカードの残量少ないしな)」
『えらいリアル指向!? ご、ごほん。真面目に言うぞ、うむ』
するとらしくなく桐は深呼吸すると言った。
『この世界での転校生は果たして現実の人かの?』
「(……!)」
なるほど、と俺は一瞬で理解した。
俺が今把握している状況は「この世界は現実に”ルリキャベ”のゲーム設定やシナリオにキャラ設定に至っても擦りこんだものである」「起きているのは確かなことで、ここで受ける傷も記憶も確実に蓄積される、現実となんら変わり無い」「今俺が知りうる上で存在するヒロインは四人。ユキ、姫城さん、ホニさん、桐」というところまで。
そして桐のいう事を考えると今回訪れる転校生は”ゲーム”のヒロインである可能性が高い。というかここまでのフリでそうじゃなかったら桐叩く。
『ちょっとしたドキドキイベントに遭遇するかもしれんが、気にするのじゃないぞ?』
「(Q.ドキドキイベントが気になって夜以外眠れません、どうか教えて下さい)」
『A.ユウジによる転校生へのセクハ――って、なんでわしはノリに乗せられやすいのじゃ!?』
「(フフ、理解したぞ? そもそも転校生と遭遇しなければそんなドキドキイベントならぬセクハラには発展しないいうことだ)」
セクハラ、セクシャルハラスメント。かつて父親が怒鳴り散らし一家の大黒柱としていたのは今は昔、男尊女卑の思考は尻すぼみとなっていき、それまでの恨み辛みと言わんばかりの女尊男卑の時代が到来している。
セクハラという行為はした者を地獄の底へ突き落す、例えそれがまったく意図し得ない不可抗力だったとしても、女性側から見れば何も変わり無いセクハラなのだ。
つまりはそんなドキドキイベントと引き換えに俺の学校生活やら社会的生命が終わりを迎えることも十分にありうる。
それを知ってさえいれば回避行動や対策を練るのが常であろう。ということで俺はそんな展開には持って行かないことを宣言しよう!
『お、お主! 貴様は女の体に興味がないのか?』
「(ふっ、セクハラしてまでは知りたくないものさ。それに俺は既に薄い本で学んでいるからな!!)」
『う、薄い本は独断と偏見と狂気と性癖にまみれた一番教材にしてはいけない部類の気がするのじゃが!』
そういう風に薄い本の意図とポイントを理解している桐もどうかと思うぞ?
「(ならばギャルゲにエロゲだ。かつて友人は言っていた”ギャルゲは俺にとって教科書で、エロゲは参考書”だってね)」
エロイ人はよく言っていたものだ。
『今は関係なかろうに!』
「(うん、あんまり関係ない。とりあえず怒りやら軽蔑をされるような行為を俺はしない!)」
『……まあ、警告をしただけじゃ』
「(一部は俺が誘導したけどね!)」
桐は面倒くさささえなくせば使いや――げふんげふん、扱いやすい子である……って意味があまり変わらないって?
『それでも、貴様にその呪縛から逃げれるか傍観させてもらおうかのう』
「(望むところ……と、言いたいところだが。小学生なお前はさっさと自分の持ち場に戻ってろ)」
『ふむ、ここに意識を置いてもそれほど影響はないが……それではの。健闘を祈るぞ』
……なる。転校生はヒロインか。
「まあ、俺はユキ一筋だしな」
ああ、もちろんホニさんもほぼ同列でかわいいです。
ということで桐の曰く”セクハラ”なんて展開になってしまった暁には、あとあと大変そうなのでなるべく関わらないようにしよう。
それに……昨日の俺は何故か今日に起りうることを全て想定したかのように今になれば思える。偶然には出来すぎることが起きたのは昼休みのことだった。