第214話 √2-19 G.O.D.
修正予定~
「えと、誰? どっかに隠れてんの?」
!? 彼は”誰”と言った。それも我がお揚げに反応した時を同じくして。
まさか、本当に。我の声は聞こえないはずなのに……でも、彼の言っていることは――
『あ! 聞こえてた? うん、我は我だよ?』
何気なく、それでいて驚きが悟られないように明るく振舞う。彼には聞こえている。
試しにしてみよう、もしかしたら……もし出来るのならば――
『じゃあそっちに行くねー!』
「!?」
我は準備を整える、仮初めの肉体を借りるのだ……そして中へと入りこんだ。
手足の動作を確認してみたり、頬を右手で引っ張ってみたりする。問題無かった……ただ引っ張った頬が痛むけれど。
そして我の居た岩からゆっくりと降りて行き我の好物を持ち、我の声が聞こえていたように思えた彼の元へと向かう。
「よっこいしょー……って、なんであなたは我の好物を?」
「え? これか?」
返してくれた。言葉を返してくれた。嬉しさがこみあげてくるがここは必死でこらえる。
もっともっと話がしたい。
「そう! あなたの持ってるそれ! 我の好物はお揚げなんだよー、その様子をみるに偶然持ってきたのかな?」
「はぁそうなんですか。ええ、たまたまですね。食べる?」
そう言って彼は透けた四角い器に入ったお揚げを前へと突き出してくる。
「え、いいの!? わぁ、ありがとー! じゃあ遠慮なくいただくねっ! うぅぅん、おいしい! やっぱこれだね!」
美味しかった、それは本当に久しぶりで。こうして人と直に話すのは幾年も生きてきて二回もなかった。しかしその二回も会話しているとは到底言えない、神様という立ち位置から一方的な願望を我にかけるのみだった。
でも、今度は違う。こうして美味しいお揚げを貰って話せている。純粋な会話が出来ていた。
「それで、君はこんなところで何を?
「えーと……眠ってたの?」
眠っていることは嘘じゃなくて、我のかつての肉体はこの石の下で確かに眠っている。
そしてそれを離れた魂は、我はこの石に絡め取られているかのように放してくれなかった。それからずっと我はこの石で過ごすことになり。
「……こんなところで?」
「こんなとは失礼なっ! 我が祭ってあった神聖な石だよ!」
祭って”あった”それは言い間違えでなく、かつてのこと故だった。今は我は祭られてなどいない、そもそも我の存在を知る者が僅かしかいないのだから。
でも、こうして先程の男や女の方も我を目的に訪れてくれて……まだこの世界で我の存在が生きていたことに何度も感動させられた。
「うん! 我こそ美桜山の農作物を護る神!」
農作物を護り、恵みをもたらす神として崇められていたことがある。それに我には――
「……えーと、とにかくあなたは神様なんですか?」
「うん、そうだよ! そして我の名前は”ホニ”!」
ホニ「穂に(宿る)神様」ということから我に何百年も前に付けられて、それを我は気にいって使い続けている。
「我の姿が見えてる?」
今まで我と話は出来ても、見えているというのは初めてかもしれない。
我が入りこむだけで、存在しているはずの仮初めの肉体でさえも他人には見えなくなってしまった。
だから彼には特別な何かを感じる……何の違和感もなく平然と、今まで出来なかったことが出来る。
「(!?)」
どれだけやっても見えない壁に阻まれるように、一定の範囲までしか動けず鳥籠に閉じ込められていたようだった。仮初めの肉体を使ったとしても、それは無理だったのに。
でも今は抜け出せた。一歩を進めた。
「決めた! 我は、あなたたちについて行く!」」
そうして我は、彼と出会い彼と過ごすこととなった。
……強引で勝手に決め込んだことだけれど。もう一人にはなりたくないから。
そして我が初めてあの石から離れることができて、初めて会話が出来たから。
彼には悪いけれど、少しの間わがままを許してほしい。そして彼は――いや、ユウジさんは。




