第213話 √2-18 G.O.D.
別視点の物語、1人の寂しさは自分の周りから居なくなってからでしか分からないものですよね?
HRS√2-1
我は狼、一匹狼。でも孤独になりたかった訳じゃない、怪我をして仲間に見捨てられて――我は一匹。
痛む右足はびくびくと脈打って、そのたびそのたび痛みが走る。
「我をおいて行かないで……」
悲痛の鳴きも仲間は聞き入れてはくれない、足手まといにしかならないモノは切り捨てて行くのだ。
それは我も分かっていた。でも、我は――
「孤独は寂しい……」
取り残された我は、泣きだす空と同じように我も涙を流す。
寂しいよ、寂しいよ……誰でもいいから、我の傍に――横倒しになったまま我は孤独に苦しむ。
* *
”あのこと”から数日が経って。訪れる人はやっぱり少なく、神石から見下ろすのは変わることのない景色だけが有る。
余りに代わり映えないその景観に、我はとっくの昔に飽きてしまっていました。
ずっとここで我は漂わなければならないのだろうか、いつまでも我はこの神石から離れることが出来ないのだろうか。
途方もない月日を過ごしてきた我でも流石に滅入ってきて。
「(仲間はあの後どうなったのだろう)」
何百年も昔に仲間に見捨てられた我は、それでも仲間のことが気になっていました。
「(……神様と崇められて、こんな力があっても一人孤独なら意味がないよ)」
崇められたのはずっと過去の記憶、我の存在は言い伝えになって伝説になって果てには作り話にまでなる……けれどもそれは忘れ去られていく。
「(我はここにいるよ、誰か我を救い出して……)」
悲痛の声は誰にも聞こえない。我は神様で、そして今はもう誰にも見えない存在なのだから。
少し前までは良かったのに、あの子のおかげで我は久しぶりに好物を食べられたのに。
「(また……食べたいなあ)」
四月二五日
ここに来る人は殆どいない、居るとすれば寂れた神社の前を丁度良い道草の場として使う者だけ。
たまにチュウガクセイという人が訪れて、色とりどりの本を広げては置いて帰って行き。
退屈な我はそれさえも好奇の対象で、それに書かれた事柄をすぐさま頭に叩き込んでいました。
その意味は分からないけれど、あまりにも退屈過ぎて”知る”ことしかできないでいます。
「(この山を降りたら一体どんな景色が広がっているのだろう)」
少しは知っていても百聞は一見にしかずとも言うし雑誌に載る絵、それらを聞いていても実感が沸かなかった。
するとある人が我の居る神石へと何かを抱えてやってきました。
「よいしょっと」
持ってきたのは白地に果物の絵が描かれた箱と、何の変哲もない木の板。
その箱の上に木の板を載せると「これで、よしっと」汗を拭う仕草をするも一滴も汗をかいているようには見えません。
「神石ねぇ……あっ、どんな神様が祭られているのか調べ忘れてた」
その人は我に興味を持ってくれた。あまりに久しぶりで我はそれがとにかく嬉しかった。
辛いのは忘れさられること、孤独になること。それはいままで我が過ごした幾年を踏まえて言えること。
「まあ、今度調べるとして……じゃあ神様、これを置いておきますね」
置かれたのは朱色で頭頂部に葉の生えた丸っこい果物……みかんだった。
「(……例えどんなものでも、それが我の為とあればうれしいな)」
言ってしまうとみかんは生前に食べ飽きていた。それでも……その我へと向けてくれる気持ちがひどく嬉しかった。
「(名前もしらない方、ありがとう)」
その人の背中を見送りながら、我はみかんの皮をむいて口へと運ぶ。甘くて酸っぱい……普段のみかんの味。でもいつもよりも美味しく感じて、ゆっくりと食べる。
* *
そのあとも人が訪れた。女二人で歩いて来て本やらお菓子やらを置いて行った。
それらは新鮮で、過去十何年分の知識が手に入りそうな分厚い本も、草木を切るのに重宝しそうな小刀などもあった。
ここへと訪れ我のところへと物を置いて行ってくれる……そんな嬉しい出来事が続き、我はとにかく舞い上がる。我の為にこんなにしてくれるなんて――
そして……運命の出会いなのかもしれない、彼がやってきて。
「ユウくん……ユウくんっ」
先程から二人で歩いて来ていて、今回は男と女の二人だった。
男の方は女の方をみて呆れているような、ひいているかのような表情をみせている。
「さーて、貢物貢物っと」
そして彼がおいた、その中身に我は驚き。嬉しさのあまり大きな声が出てしまった。
『わ、好物のお揚げだ♪』