第212話 √2-17 G.O.D.
「はっ!?」
俺は寝ぼけを介すことなく突然に覚醒し――なんて書かせませんよ!
な、なんだ!? 俺の思考に別の声が――うるさいシャラップ、何回目ですかクソスタッフッ! 同じ展開これで四回目ですよ!? なんですか、それほどに使いまわしに執着してどうするんですか? そんなにアクセス数欲しいですか? このアクセス乞食がっ、こんな小説長く続いてるから「あ、これ続いてるってことは面白いのかな」なんて騙されてきた人で成り立っている詐欺小説じゃないですか! 訴えますよ! 時間浪費罪で訴えますよっ!
……何の話だ? ――ああ、ユウジの思考でしたか。面倒なのでそれまでの記憶消しますね。
えっ、えっ? なに? 俺が何を――3、2、1。はい忘れた、今この瞬間何も聞いていませんっ!
「はっ!?」
なんだろう、すごい頭が重い。さっきまで凄く唐突でメタで理解できないことを延々と聞かされたきがするけど俺は一切覚えていない。
それにしても、俺はベッドで寝ていたはずなのに――
「なぜに学校?」
はっ、少し思い出して来たぞ! そういえば俺は「学校で目が覚める~」ってな夢を見たんだった。その中で深緑の髪色の女子生徒に会ったのだ。
確かに俺は家のベッドで寝ていたはず。しかし俺は気付かずにここへと、学校へと移動していた。それから考えられる事は――
「……てことは、これはテイクツー?」
そうか、二度寝したのか。他にも「寝ながら登校」「テレポートを身に付けた!」ということが頭に浮かんだが、今着用しているのは部屋着兼寝巻でなくなんとも黒々とした学ランで、中のワイシャツもその内に着るTシャツも間違いない。
というか寝ながら登校とかどれだけ学校に行きたいんだよと「学校に行って勉強しないと禁断症状のあまり体があらぬ方向に向いちゃう!」なんてことは無いわけで、というかどちらかといえば休日ラバーな俺としては絶対的にあり得ない。
テレポートを身に付けたならば「ジャッジメントですの」とか言って学園都市を――はとりあえずどうでもいい。
しかし、だ。
「…………?」
見た夢と随分に違う。その相違点はかなり大きいものがあった。
一つにクラスはいつも通りの喧騒に溢れていたこと、二つに腹部に謎の痛みを感じる……内から来るものでなく外傷的な方面でだが。
「ふ、俺のブレインもその程度か」
以前に見た夢を完全再現出来ずに中途半端とは……まったく呆れたものだね。だからアニメ化は地雷だと言ったんだ、原作の良さや意味を理解せずに脚本をつぎはぎに作るから見ている側から見ていたらあべこべだし、面白みもない。あとは製作が一クールにラノベ六冊分を押しこむのもかなり無理が――って、何の話だコレ。
いつまでも自分の脳を馬鹿にしていても何も進展がない以上にじわじわと蝕んでいく虚しさがあったので、よりあえず止めておこう。
「起きたかユウジー」
するとセンス皆無のグルグル眼鏡をキラリ光らせながら下之家の隠れた同居人こと、巳原ユイがすたすたと軽い足取りにやってくる。
「起きましたけど」
「そうか、それは良かった」
なんと、この夢では質疑応答が出来るのか。ひゃぁ、最近の夢は便利になったもんだねぇ(?)
……というのは冗談で、俺の話すことも既にセッティングされていて日々の会話パターンから応答を選択されている可能性も十分にある。ならば返しが面倒な事を言えば――
「なんで俺は学校に居るんだ?」
「!?」
ユイは「あ、やべっ」のような驚愕と隠し事がバレて血の気が引くような表情をする。
「ユイ、なんで驚いてんの?」
「え、覚えてない?」
「なんで?」
「…………」
まるで俺は忘れているかのような言い草だな。失礼だなあ、これでも現役男子高校生ですよ? 活力に溢れた青年ですけども?
そんな俺に忘れてしまうことがあるだって? はっ、冗談はよしてくれよ。俺はこう見えても記憶力は悪くない方だぞ?
中学一年の頃、校歌をニ週間で覚えて更にバス・テノールを使い分けて歌えるほどまでの記憶力を持っているんだぜ?
例えば最近の夕食だ。在り来りだが応えられない若者は多い、さあ俺は胸を張って言えるはずだ。さあ一昨日の晩御飯が何だったかをっ!
…………ご飯、味噌汁……あ、その日はコンソメか。そうなると、ハンバーグ……じゃなかった。コロッケ……だっけ、だったはず、だったっ!
他には……無かったはずだ! うん。ご飯、コンソメ、コロッケ――
「野菜系がねぇっ!」
体に悪いわっ! 油ものに炭水化物に汁物しかないじゃあないかっ、有り得ない。姉貴がそんなバランスの欠片もない献立をつくるとは思えないっ!
……ということは俺の記憶は完全圧敗ということか。ふふ、笑いたければ笑うがいいさ。この散々調子に乗った末にこのザマだよ!
忘れている繋がりでそんな献立よりも。なによりも、何に代えても忘れちゃならないことを、俺は忘れている気がしてならない。歯に小骨が引っかかったかのようにむずがゆく違和感のある感じ、その正体にはまったく見当がつかないが……それは忘れてははいけないことのはず。
「ぬわっ、いきなりどうしたユウジ」
「え、いやなんでもないよ。ははは、ユイはおかしなことを言うなあ。まあ、もともとユイそのものがおかしいとは思うけど」
「ぐっ、さりげなくアタシに槍を一挿しするとは……ユウジやりおる」
……あれ? なんかどこからか方向性がズレた気が――ああ、なんで俺は学校に居るのかってことだ。
そもそもこれは夢で……いや、冷静に考えて夢なのか? 夢の中でも俺はネガティブ発想が炸裂するぐらいの根暗野郎なのか?
それじゃ夢もキボーもありゃしないじゃないか。せめて夢の中では明るく生きようぜ、俺! 今までは見ていた夢や、今の俺の現況から夢と断定していたが――
「ユイ、これって現実か?」
「…………それは、どのような意味で?」
「いやー、今おれがユイと話しているのも含めてこれは俺の見ている夢なんじゃないかと」
後で考えればなんだこの電波野郎はと思われるかもしれないが、疑問に思ったから仕方ない……と冷静に考えてみたら相手はどう返せばいいのだろう。
これは夢ですか? いいえ、現実です……なんでそんな質問をしたのか発した数秒後に後悔する俺、案の定。
「……打ち所悪かった?」
「いやいや! 俺はおかしくないよ?」
おかしいならこんな夢をみせる俺の頭だよ……ってアレ? やっぱりおかしくなっていたみたいですねっ☆
「……そっか、腹パンの衝撃が脳内に直結して――」
「腹パン? そういや、少し腹部に痛みがあるな」
腹をすするとアザに触れたような小さな痛み……何かしらの打撃を俺を受けたか、どっかの角にぶつけたのだろう。
「ごめん」
「? なんで謝ったし」
ユイが若干冷や汗を流しながら謝って来た……なぜに?
「いや……なんとなく、これは謝らないといけないと思った次第ですわねえ」
なんかユイの口調が変というより、別キャラに転身しているのが少々気になったが触れないでおこう。なにより、今俺が知りたいのは今のこの状況だ。
「いや……夢ではないかと思うけども」
「そうなのか……じゃあ、どうやって俺はここまで来たんだっけか」
そしていつ着替えたのかと。そんなこと聞かれたら「ハァ? アンタバカア?」とか言って罵られそうだけども、気になるから仕方ない。
「ああ……それは」
「それは……?」
いつもの違って遠慮気味に喋るユイに、今までの言動や挙動を含めて疑問に思いつつもユイの指さす先を見た。
「そこの棺桶で」
「!? えと、ごめんなさい。棺桶がどうしたことなのだろうか?」
混乱で若干日本語が崩壊している。というか何故掃除ロッカーの隣に平然と黒地に紅い帯の入った吸血鬼が今の今に出てきそうな風格を漂わす棺桶があるのかと。
いや、でもそういえば……これは――
「棺桶で、ユウジを、運んだ」
「なぜに!?」
まてまてまてまて、何事? 一体何故そんなことをユイがしたのかと。
「いやー、なんかユウジ寝かしてやろうかなと」
「いやいやいや! なんで、僅かな睡眠時間を考慮してまで棺桶登校させたんだよ!?」
「それは……き、気分だ」
「なにその”今日はこのハンカチにしよう”的なニュアンスで俺が棺桶登校することになるんだよ! というか起こせよ!」
「起きないようにした……いやっ、起きなかったんだよ! うん」
「……?」
どうにもユイは何か隠ぺいしている気がしてならない。さっきから傍目からみても動揺しまくってるもんなぁ。
「……棺桶でどうやってここまで運んだんだ?」
「引き摺った、というところかな?」
「引き摺る!? ユイが? 一人で? オンリーイベント?」
「ああ、まあな」
どこぞのRPGで仲間に先立たれて、死んだ仲間の入った棺桶を引っ張らされる仲間の図……を、頭に思い浮かべる。
それをクロマキー合成をして、通学路の背景(通学する生徒込)と組み合わせるッ!
「シュールだな!?」
「そ、そんなことないぞ? 近所の奥様方も”あらあらまたモンスターに倒されちゃったのね”とか”仲間の方々に申し訳ないと思わないのかしら? 薬草の使いどころを間違ったのでしょうね”とか話していた」
「嘘付け! このその発言はこの世界感を行方不明にするだけだから止めろ!」
実際のところは不審物だと奥様方見たのならば通報するだろうに。
「……で、ユイ。改めて聞こうか」
「なんでございましょう」
「どこからどこからがマジだ?」
「棺桶登校のところまではマジだ」
なんてことだ……それこそギャグであってほしかったのに。
「証拠にあの棺桶の中身をみるがいい、栄養チューブのゴミが入っているからな」
「どうりで腹が膨れてるのかと思えば棺桶の中で器用にもチューブで栄養摂取してたのかよ!」
「腹膨れるのかよッ」
「ノリでツッコンでじゃねえ! おい、ユイ。何か隠してるだろ」
「な、なんのことかなー? ドュフフッフッ。ぼ、ぼぼぼぼくが何か隠してるとでも言うのかい? し、心外だなあ」
「その口調は何かを隠してるうんぬんよりもムショウに殴りたい衝動が沸き起こるのはなぜだろな」
「まあその口調そのものが不快なのと、アタシがやってることによるダブルコンボ故だな」
「分かってるなら、凄まじいほどのタチの悪さだな」
……なんか朝から疲れたな。
「そ、それよりもさ――今日は転校生が来る日なのさ!」
「え?」