第211話 √2-16 G.O.D.
手抜き回?
「はっ!?」
俺は寝ぼけを介すことなく突然に覚醒した。そして違和感へとすぐに気付いた。
「俺……ベッドに寝てたよな?」
しかし俺は椅子に座っている、そして目の前には机。
「それにここは……学校?」
机へが有る程度の整列を成し、古びたチョークが刷り込まれた黒板にコンクリートの少し黄ばんだ白い壁、カーテン越しにあるアルミサッシの交差式窓に。天井には蛍光灯が点けられている。
しかし、誰もいない。教師もクラスメイトも誰も、誰もいない。きっと俺が今この教室には一人であることが容易に想像出来た。
だからもちろんのこと座る椅子も、目の前の机も自分のマイデスク・マイチェアーではなかった。
見事なまでに大量生産されるのに向いたデザインの学校机・椅子。そんな椅子に座ったまま、俺は机に自分で腕枕を作って寝ていた――らしい。
「しかし、なんで学校……?」
確かに俺は寝ていた、自分のベッドで布団へと入り朝を待たずに深い眠りへと落ちて行ったはず。
それがなぜに俺は学校に居るのかと。
「そうか」
夢か。
夢オチとかいいのか? というか俺は眠りから覚める夢を見ているということか……どんだけ睡眠に飢えてるのかと。
「そうと分かれば……」
寝よう。どうせ睡眠に特化した夢なのだから、また寝ることも可能であろう。
何の根拠もないがそう適当に考えて、また同じ体勢で眠りへとつく。
「おやすみ……」
「いや、寝ないでくださいよ」
「……誰かの声が聞こえたような気がする」
「いや、すぐ近くに居ますから」
「え」
腕枕から顔をあげると、そこには――
「誰もいない……か、寝よう」
「隣にいるじゃないですか!」
「隣……うわお!」
顔を上げた状態から首をぐるぅと左へと向けると、そこには女生徒が立っていた。
「そんな叫びはないでしょうに……お久しぶりですね、下之ユウジ」
久しぶり……?
その女生徒は背丈は女子高生ならば中ぐらいの160センチ前後で、前髪が長く、髪色はアニメや漫画で見がちな深緑の髪色をしている。
前髪が大きく表情を晒すことを邪魔していて彼女がどんな顔で、俺に話しているのか分からない。
「?」
「とにかくですね、これで三回目ですね。それではまたヒントを――って、なんでそんな怪訝そうな顔をするのです?」
「いや、えーと。話が全く見えないというか、なんというか」
彼女は何を言っているのだろう。ヒント? 三回目?
「えーと……もしかして私のこと覚えてなかったりします?」
「……ええ、まあ。すみません」
「そうですか……あ、ちょっといいですか?」
「多分、俺の記録力がアレだった――って、一体何をっ!?」
突然彼女の顔が接近し、額と額が触れ合った。とにかく長い前髪を介してだが彼女と額が触れ合ったのだ。
「分かりました……やっぱり、おかしいですね」
「え、俺が何か悪いことでも――」
「いいえ、こちらの話です。少しばかり把握の出来ない状況になっていますね」
「……」
さっきから彼女は以下略。
「きっとあの子ですね、まったくお人よしとも残虐とも言える行為をやってくれるものですね――」
「いや、あの」
「ああ、ごめんなさい。今のは電話していたところでしたの」
「携帯持ってなくね?」
その手には携帯などというものはなかった。
「間違えました、テレパシーです。そして以心伝心です」
「無理があるよーな気がするぞ?」
そう応え、そして俺も疑問に思ったことがあった。
「えーと、やっぱり俺とあなたは以前合ってるのか?」
「会っているとも言え、会っているとも言えない。少なくとも今のあなたが私にあったのは初めてでしょう」
「???」
「……そろそろ起きたらどうでしょうか? 学校もありますから」
「いや、俺はそれよりもあなたの言う事の方が――」
「まあきっと少なからず会う機会はあるでしょうが、安心してください」
「いや、あのさ……」
「はやくねてくださいっ」
その時うなじ辺りに衝撃を受けた。それも結構強めの一撃。
「それでは下之ユウジ、次会えるのはもう少しでしょうから。その時はよろしくお願いしますねー」
そんな彼女の声をBGMに俺の意識は途絶えて行った。