第206話 √2-11 G.O.D.
更新出来ず、すみませんでした。まだまだ寒い日常編は続きますー
ギャグセンスの欠片もないのは仕様
サービスシーン中。俺は着替えを脱衣所に置くと速やかに退散した。
傍からシャワーの水の滴る音と別に声が聞こえるのだが、嫌な予感しかしないので颯爽退場。
着替えを持っていく際に半開きになった他の空き部屋兼物置を見つけたので、おそらくはそこにとりあえず荷物を運び込んでいるのだろう。
そうと分かれば行動は早い。見るからに分かる姉貴の私物以外はすばやく運び込んでいった。
「(この部屋、結構前から使ってないからな……)」
今掃除している部屋は、少なくともここ数年は人が過ごしてはいなかった。
テキトーに自分の部屋に入らない私物やら家財を詰め込んだ印象のあるこの部屋。
蒼然と積み上げられたダンボール箱の絵柄にも時代を感じる……いやいや。
”福山●物運送株式会社”って何だよ、何時の話だよ。その一方でアマ●ンの小型ダンボールが塔を形成してるし。
他にも明らかに骨董品な壺とか、電車の台車とか学校の机が数個鎮座している光景は非常にシュールだ……ここの時代設定が分からねえ。
「……あー、これか」
部屋の隅をみると、そこには空き瓶が転がっていた。そこからは果実系のお酒の匂いが漂っている。
「ったく、マンガじゃあるまいし。ぶどうジュースと間違えて飲むとか……せめてファ●タだろ」
いやユウジ……それも五十歩百歩な気がするんですが。
「で、これは……っと」
瓶を拾い上げて見てみる、香るのは芳醇な葡萄の香り。そして、なんとも高価そうな緑色を帯びた瓶だ。俗に言うビィンテージワインなんじゃないか?
そしてラベルを見るに明らかに輸入物のそれはこう書かれていた。
『Romanee Conti 1967』
「…………え?」
これって、アレだよな……ガチじゃね? ニセモノじゃなきゃガチじゃね?
「ロマ●コンティだよなあ……」
高級ワインの代名詞かつ、生産数が少なく需要も高いので安くならない……それで四〇年物。どっかで聞いたがウン十万は下らない上に、年代によればウン百万――
……おいおい、う●い棒が何本買えるんだ? 大当たり~、うまい棒一年分ならぬ一生分だわこれ。こんなのやお●んもビックリだよ。
「おそらくは……母さんのか」
母さん家に帰るときは片手にビール缶の入ったビニール提げて帰って来るからなあ……結構な酒好きな訳で。
やっちまったよ姉貴。おそらく母の隠し持っていたであろう秘蔵のワインを葡萄ジュースと間違えて飲んじゃったよ。こんな物置に放置する母さんもなんだけど。
ロマネさんも報われないな、なにせ葡萄ジュースだ。グレープジュースなら僅かに格好がつくけれども、姉貴曰くぶどうジュースだもんな。
この実はまずい状況にしばしば困惑、少し思考。うーん、うーんと唸ってみるやはり良い案は思いつかず。しかし俺は妙案を思いつき、左手を平らに右手を固めてポンと叩き。
「見なかったことにしよう!」
俺は何も見なかった、ということで通すこととしよう。まあ母さんが弁償するとか言い出したら、一応はフォロー……出来るといいなあ。
「ユウくん、お待たせー」
何も知らない(覚えていないは誤り)姉貴は湯上りの上気した体を俺の半そでTシャツに短パンのボーイッシュなスタイルで包み、乾き切れていない茶色というより今は栗色に近い艶やかでしなやかな長髪でやってくる。
学校生徒がこれを見たら溢れ出る色気に卒倒なのだろうが、俺はとうに見飽きているので何の問題もない。
「? どうしたの、ユウくん? 私の顔何かついてる?」
「……いや」
なんでもない。きっといつか知られてしまうだろうが、それはもっと遠く未来の話だろう。責任感の強い姉貴が何をし出すかわかったもんじゃないから、とりあえずは先送りにしておこう。
「……! もしかして、私と付き合ってくれるの!?」
「掃除の付き合いなら」
「そうじゃないよ、恋――」
「誰のせいで、こんなに時間かかってると思ってるんですかな? お姉さん?」
「お姉さんなんて呼んでくれるなんて嬉し――じゃなくて、ごめんね! 真面目にやるから、うん!」
きっと姉貴の”付き合って”というのは掃除のことではないことを俺は確信していたが、反応するのも面倒なので、ドスを効かせてみた。
まったく、疎遠な姉弟よりは幾分もマシなんだろうけど……少しは自重してくれな? 姉貴。