第621.19話 √6-18 『ユウジ視点・ユキ視点』『↓』
福島との昼食を終えタイミングをズラして教室に戻るもののそれでも午後の授業開始までの猶予はそこそこあった。
「ユウジ氏が他の友人と昼食を摂るとは珍しいぬぅ」
帰ってくるなり俺の席周りで待っていたユイがそう話しかけてくる。
いつもはユイやマサヒロとの三人で姉貴お手製弁当・コンビニ飯・学食問わず昼食はつるんでいるだけに、今回の行動はイレギュラーに映ったのかもしれない。
……え? 『友達他に居たん?』的意味? 余計なお世話じゃい!
「もしやヒロインの攻略中ですかな……?」
友達攻略中という意味では当たらずとも遠からずかもしれない。
目標は福島に友達一〇〇人出来るかな! さすがにそれは多いな……でも古参マウント取れるならアリか?
「ニアピン賞を差し上げます」
「イエーイ! ……そして相手は女ですな」
「そういうことだ。それで俺の席に来てるってことは何かグッドニュースでもある感じか?」
「ううん……お昼ご飯一緒に出来なかったからお話したかったの」
……目を瞑ってればなかなかグッとくるかもしれなかった、だがちょっと普通の女子っぽい拗ねた風味の声音にしていても長身グルグルメガネで悪友なユイである。
ここはスルーしてもいい気がするが――
「俺が他の女と飯食ったからって嫉妬か? かわいいやつだな」
「な、な! そ、そんなんじゃないんだけど!?」
「え?」
いやいや! 好感度高い時のリアクション!
思ってた反応と違った……『何言ってんだオメー・気持ち悪いな・キモ・きしょ・コミュ抜けます』的なリアクションが来ると思ったら急にガチ照れムーブするじゃん。
からかい返しというか、俺のはからかいどころか煽ってるようにも聞こえかねないのだが。
メガネで表情は分からずとも顔から耳まで真っ赤、意図的なら演技派すぎる。
「……ふ、ふぅ。アタシ相手じゃなかった即死だったぜ」
「そんなことはないだろ。フツメンで恋人でもない男にこんなこと言われたら逆に煽りだろ」
「ぜ、絶対他の女相手にするなよ! 絶対だぞ! フリじゃないぞ! 壁ドンしながらとか絶対にダメだからな! 特にミナさん相手に絶対にするなよ」
たぶんこのフリからしてイケメンあたりに壁ドンされながらの台詞ならユイでもアリなシチュエーションらしい。
というかガチトーンだし、というか何故姉貴の名前が出てくるんだ。
「わ、悪かったよ」
「い、いや。これはこれでごちそうさまだけど……」
よくわかんないわこの悪友。
「ごほん。で、本題なぬだが。今、生徒会で肝試し企画が持ち上がっていてな」
「肝試し? それも生徒会の企画ってなんでまたユイが」
「生徒会のチサパイセンとはちょくちょく交流があるからぬ、どういったイベントにすべきかギャルゲーやアニメ漫画でのラブコメに造詣の深いアタシに相談があったんだ」
ユイとチサ先輩かぁ、意外なところで繋がりがあるとは。
案外ユイの持つ女子ネットワークもチサ先輩と構築したものだったりするのだろうか。
ちなみになぜに生徒会が肝試しをする必要性があるのか、それも夜間の外出は好ましくないのではないかと思われるかもしれない。
というのも修学旅行先でのデモンストレーション的意味合いが強いようで、生徒会役員と希望参加者からサンプリングしたい意図があるようだ。
「ちなみに開催地は裏山の寺と墓地だけど、マサヒロの親族が管理してる場所でな。マサヒロ経由で住職に相談したら『迷惑かけない・終わったら元に戻す・先祖の霊を敬う』なら良いと了承済みだ」
マサヒロって住職の縁者がいたんだ……まったく知らなかったわ。
「だからユウジも”今日一緒にお昼ご飯した”親しい友人がいるならば連れてくるがよいぞ、もちろん事前にアタシかチサ先輩に伝えてくれい」
……今日一緒に~のところだけ語気が強かった気がするが気のせいだろうか。
しかし福島は生徒会役員だからほぼ参加するので、わざわざ呼ぶ必要性はないのだがユイに話した方がいいだろうか。
別に福島から止められているわけでもないし、今日の相手のことぐらい話してもいい気がするが――
「というか今日一緒に昼ご飯したのコナツだし、呼ばなくても来ることになると思う」
「うん、コナツ……?」
「ああ、福島コナツな」
「なんだって!!??」
思わず俺の机を軽く叩いて声を出すもんだから周囲の目が俺たちに集まってしまう。
そこで「すいませんウチのユイのリアクションが大きくて~」とペコペコすると、すぐ興味を失ったのか注目は一瞬だった。
「それでどうした」
「う、ウチのユイ……じゃなかった! え、あの? 福島コナツだよな?」
「そうだけど。友達になったって言ったじゃん」
「いや、それにしても……福島氏が生徒会役員以外と昼食を摂ったというのが衝撃的でな。驚いてしまったぞ」
福島は生徒会や部活の助っ人で昼休みの間姿を消しているが、昼食を摂っている光景自体目撃例が無いらしかった。
部活の助っ人でも昼食会には参加せず、昼休みの生徒会招集でのみ昼食を摂っているらしいぐらいとのことで……これはチサ先輩経由の情報だろうか。
「ということはアタシやチサパイセンですら知らない福島コナツ氏の昼休みの行動をユウジは知っていると……!?」
「まぁ、今日のことは知ってるけど言わないぞ」
「そこをなんとか……と、言いたいところだがやめておこうぬ。この手でつかんで見せるぜい」
あの空き教室を自分の根城として、生徒会会計活動などを昼休みに個々で行う場所としている以上知られるのは望ましくないだろう。
……あの同性九割からのラブレターを考えると、福島と一緒出来るかもしれない昼食の場所なんて知られれば争奪戦やらで死人が出かねない。
そして学校もとい生徒会が許可を出しているかもしれない空き教室の情報がユイに伝わっていないということは、チサ先輩からも伝える必要のないない情報か福島の意思で伏せられている可能性も高いから俺の口からは言わないでおこう。
「この手でつかんで見せるって、俺を尾行するなよな」
「ぎ、ギクッ!」
するつもりだったようだな? まぁでもユイも良識がある方なので、ここまで言われて詮索はしないだろう……たぶん。
そこでとりあえず福島関連の話は終わり、そういえばとユイが続けて切り出したのは――
「情報交換の結果知り得たヤツだけど、来月この学校というかこの学年に二人の女子転校生が来るらしいぜぇ!」
「へー、双子とか姉妹とか?」
「期待するがよいぞ」
しかし入学シーズンから一ヵ月ズレての転入でそれも二人とは珍しいな。
まぁともかく俺とは特に関わりはないだろう――
== ==
私、ユキはすべてを覚えている。
夢だと思っていたことが現実で、世界は繰り返していて、少し前まで私は下之ユウジという男の子が幼馴染だった。
だけどこの世界では私は単なるクラスメイトでしかなくて、勇気の無い私は話かけることだってできなくて。
そしてこの世界はおそらく――ユウジや福島さんが死ぬことでその日の朝まで時間が巻き戻る。
既にループ七回目の世界だ、福島さんもそうだけどユウジが死んでしまう光景を見るのはどうやっても慣れないし……巻き戻ることが分かっていても死んでほしくない。
それでも私に何が出来るのだろう、幼馴染というカテゴリも無ければユウジに話かけることも出来ない私に――
それから姫城さんもといマイとの【ユウジ様観察同盟】と何度聞いても慣れない同盟、というかユウジのことを話すだけだからサークル? コミュニティのようなものが出来て数日。
活動内容と言えば――
『今日のユウジ様のお姉様お手製弁当の中身は――』
『今日のユウジ様のワイシャツはいつもよりパリっとしています、おそらくお姉様によるアイロンがけあってのことでしょう』
『今日のお手洗いの回数は――』
『今日のあくびの回数は――』
『今日の下校時間は――』
すっっっっっごいストーカーな気がするよおおおおお!?
全部マイから流れてくる情報だけどちょっとアウトな気がするよぅ!
観察同盟って本当にここまで観察する必要ある!? 何かに役立つの!?
「いずれお役に立てるはずです」
そうかなぁ、好きな人のことを知りたい欲求が暴走してるだけだと思うけど……。
「でも尾行とかはしないんだ」
「……? それではストーカーではないですか」
自覚なかったんだああああああああ!?
というのがここ数日の活動内容、正直参考になったりならなかったりするけどもマイと話せるのはちょっと嬉しい。
たぶんこういう機会でもないと仲良くなれなかったから……でも、これは仲良く……仲良いのかな……?
そうしてお昼ご飯の時もマイと食べながら話すようになり、その時だった――
「ちょっと時間いいですか?」
「嵩鳥さん? 私はいいですけど」
嵩鳥マナカ、委員長という愛称でも呼ばれる子だ。
小学校の頃から委員長をしていて私やユウジと同じクラスになることも多かった。
……その割にはあんまり接点がなかったんだけど、そんな嵩鳥さんが私たちに用事とはなんだろう、そう思ってマイに目配せすると――
「構いませんよ。何か私たちに御用でしょうか」
マイはいくらかフラットに嵩鳥さんに答える、とりあえず嵩鳥さんの話を聞いてみることにした。
「ああ、すみませんまずはちょっと内緒のことで篠文さんに」
「え、え? 私?」
「わかりました、耳を塞いでおくのでお気になさらず」
そうしてマイが耳を塞いで目を閉じるのを見計らうように、嵩鳥さんは私に衝撃的なことを耳打ちした。
「篠文さん、もしかしてあなたって――これまでのこと全部覚えてたりする?」
「えっ」
その、ええと……これまでのこと全部、とは。
「実は私、下之君のことずっと気になってるんだよね――前世で元カノだった時も、それ以前も」
「っ!」
……知ってるんだ。
この人、嵩鳥マナカさんはこの世界が繰り返されてきたことも知ってるし、自分がかつてはユウジの彼女になっていたことも覚えている。
「な、なんで?」
「すみません。私、人の心が読めて記憶も辿れてしまうので……あなた経由でこれまでの世界を知りました。ええと、こうするとですね――」
人の心が読める!? そして嵩鳥さんはメガネを外す……割と幼い顔立ちしてるんだー、じゃなく!
「――本来の名前は篠ノ井雪華さんですよね」
「っ!?」
私の本当の名前も知っている、誰にも話していない私だけが覚えているこの世界になる前までの私の名前。
それこそ私の心でも覗かない限りわからないような記憶だと思う。
「意外とこの世界って”特殊能力者”が結構いるんですよ。正確にはこの町にですが、これまでのことを覚えている篠文さんもおそらくそうですよね?」
「特殊能力……」
もう色々衝撃的な情報が多すぎて処理が追い付かない……。
あまり深く考えたことはなかったけど、人の心を読めるのが”特殊能力”なら……私のこの記憶力の良さが”単なる人との違い”でないのなら――
「ああ、ごめんなさい。私メガネかけてる時は人の心は読めませんから、これ能力発動防止用の伊達メガネなんです」
まさか嵩鳥さん伊達メガネキャラだった!? そして視力も裸眼で二.〇以上あるらしい。
そうして私だけへの話は終わったらしく、嵩鳥さんは耳を塞ぎ目を瞑っていたマイの肩を叩く。
「終わりましたか」
「はい、それでご相談なのですが――私も、ユウジ様観察同盟というものに興味があるんです」
「それを、どこで聞きました?」
嵩鳥さんには少し警戒気味のマイがちらっと私を見るものの私は首を横に振る、私は漏らしてないよ。
「実はブラコンなお姉ちゃんに甘い弟っていうのもいいですよね」
わ、わかる!
ユウジのブラコンの姉持ってる~って感じだけど十分シスコンなの、素直に姉好きとは言わない男の子のツンデレって感じでエモいよね!!
「なるほど――同志の方でしたか」
「よろしくお願いします」
マイとしても同志たり得ると思ったらしく嵩鳥さんと熱い握手!
私も特に異論はなかった、私の秘密もマイに聞かれないようにしてくれたみたいだし。
ユウジ以外のことで打算的なことになっちゃうけど、もしかするとこの世界の秘密を知る嵩鳥さんと接近出来たのは今後役立つかもしれないし。
そうして嵩鳥さんも【ユウジ様観察同盟】に入ることになったんだよね。
〇 ユウジ様観察同盟
マイ「協力者から素晴らしい音声を入手しました」
マナカ「ほう……気になりますね」
『俺が他の女と飯食ったからって嫉妬か? かわいいやつだな』
マイ「協力者との会話の中でふざけて言った言葉のようですぐふっ!」
マナカ「 (ふざけて言ったにしては性質が悪い) これはなかなかのがはっ!」
ユキ「 (協力者ってユイのことで、これって盗聴じゃ) くぅうっ!」
あとあと二人はマイから音声データを転送してもらった。