第621.16話 √6-15 『ユウジ視点』『↓』
「ようこそ生徒会へ! 下之ユウジくん!」
そうして俺は生徒会に目隠しと運搬で連れられてきて、小学生みたいな女子に君付けで呼ばれたのだ。
さっきの揺れは台車に載せられていたかららしい、特殊なプレイではなくてよかった。
「それで……またオレ何かやっちゃいました?」
生徒会相手にやらかしたことなんてないはずなんだがなあ。
品行方正を自負……とまではいかなくとも、特に誰にも迷惑をかけることなく暮らしてきたつもりだ。
校則を破ったり、風紀の指摘を何度も受けたわけでもない、一体俺は何をして目隠し連行されるまでになってしまったのか
「むしろ私たちがやっちゃった方ね」
今度は黒髪のグラマラスお姉さんにそう言われる、そうらしい。
確かに生徒会に呼ぶ分には校内放送の呼び出しか、友人の福島に言伝を頼むなどしてもいいはずだ――と福島の方を見ると気まずそうにゆっくりと俺から目をそらした。
しょうがないので姉貴の方を見ても申し訳なさそうにしている、案外今回の件は福島と姉貴が関係しているのだろうか。
「こほん! 下之ユウジくんに生徒会に来てもらったのはほかでもなくてだね――」
いつの間にかカールしたタイプの付け髭をしたクリムゾンレッドな髪色をした小学生女子(?)が威厳を出そうとしながら言いかける。
あっ! そういえば――
「あ、いつも姉がお世話になってます。手土産もなくすみません」
「これはご丁寧に、急なことだったから手土産はまた後日で……って違うよ! 君に来てもらったのはだね――」
「なら、コナツと友達になったことが未報告だったことですか。どうも福島コナツさんの友達の下之ユウジです」
そう言って頭を下げる、顔を上げると福島が目をそらしていたのをこらえきれず俺の方をちらちらと見ながら頬を赤くしていた。
「これはこれは、私は生徒会生徒会長代理の葉桜飛鳥だよ。コナツがこちらこそいつもお世話になって……って違うんだって! 君を生徒会に呼んだのは――」
「えっ!? 生徒会長!?」
「そこ!? 私一応入学式に挨拶したよね!?」
確かに入学式の生徒会長の挨拶で聞こえてきたのはこんな声だった、だが壇上には誰もいなかったはず――
「アスちゃんはアホ毛で識別するものよ、見えていたはずだわ」
「言われてみれば……!」
「チサも君も失礼なんだよ! 私はちっちゃくないよ!」
いや、ちっちゃいとは思うが……そういうのは人気出ると思いますよ、たぶん。
しかし壇上にいたものの背丈で見えないから俺は顔も知らなかったのか、なるほどなぁ。
「今日は生徒会長と話せて楽しかったです。長い間お世話になりました」
「こちらこそ……じゃなくて、なんで帰ろうとしてるの!? ふふ、それに君はまだ手錠を付けたまま。このままじゃ帰さないよ」
言われてみれば確かにそうだ、未だに俺は手首に手錠をかけられ運搬用台車に載せられたままだ。
このまま手首を拘束されたまま不安定な台車上から立ち上がるというのは危険だ、だが――
「見くびられたものですね、こんなの多少関節を外せば――」
「なっ!? アニメや漫画で見るやつ! 下之ユウジくんにはそれが出来るの!?」
「無理でした、痛いです」
関節を外そうとして痛かった上に、手錠が食い込んで痛い。
「出来ないんかい! 言わんこっちゃない、痛いの痛いのどんでいけー」
そう、言われるとなんだか痛みが引いていく気がした。
「気持ち、良くなりました。プラシーボ効果ってやつですね」
「気持ち良くなりました!? 君そういう性癖なの!?」
「……アスちゃんと君のコントはいいけどこの小説もう半ばまで来てるのにまだ春なのよ。いい加減生徒会パート終わらせて次のイベントに進まないと三十数話じゃ足りないわよ」
小説とか生徒会パートとかよくわからないですけど、とりあえず巻き進行で頼むということですね!
ちっちゃい生徒会長との掛け合いは楽しかったが、楽しそうに話していたことで姉貴が面白くなさそうだし福島も少しいら立っている様子だ、ここまでにしておこう。
「それで俺が生徒会に呼ばれた理由を聞いていいですか?」
「うん、それはね。下之ユウジくんが現職生徒会役員からの推薦されていてね。生徒会に入ってほしいんだよ」
現職生徒会役員? ということはこの中に俺を推薦した人物がいるということになる。
「でも俺生徒会役員経験もないですし、推薦される理由がわかりませんよ」
「それは簡単だよ――君がミナの弟で、福島の友人だからだよ」
「つまり縁故採用ということですね」
「ぶっちゃけそうだけど、そう言わないでほしいかな!?」
なるほど姉貴と福島の推薦か、俺の能力というよりも関係性で推薦してくれたなら理由としては納得だ。
「君には選んでもらう。生徒会に入るか生徒会役員になるか、だよ」
「あ、じゃあよろしくお願いします」
「それはいかイエスと変わらないじゃん! ……ってツッコミじゃなくて、いいの!? 一応君の意思とか聞かずにやろうとしたんだけど!?」
よく聞いたら確かにそうだ、選択肢なかったわ。
でも、そうだな――
「俺から立候補する勇気はなかったですけど、少しでも姉貴の……姉の副会長の役に立てるなら嬉しいです。友達がやっている会計の仕事も隣で見られますからね」
「「うっ」」
実際俺は自ら進んで生徒会に入る自信はなかった、でも姉貴が推薦してくれたのならやらない理由はない。
本当は姉貴ががんばっているところをもっと近くで見たかった、でもそれを姉貴が望んでいるかどうかわからなかった――だから本当にいい機会だったのだ。
それに同じ生徒会役員になれば福島との時間も増える、生徒会活動をちゃんとやりつつも適度に話せたらそれはそれで嬉しい……のは良いんだが姉貴も福島もいよいよ気まずそうにしてるのはなんなんだろう。
「えっとユウくん、もしかしてお姉ちゃんが誘ったら生徒会入ってくれたりした?」
「当たり前だろ。何か姉貴の手伝いしたかったし」
と、返したら胸を抑えてしゃがみこんだ……大丈夫かと聞くと「物理的に痛いとかじゃなくて、心が痛くて……ごめん」と制された。
「もしかして私がユウジのこと誘っても生徒会入ってくれたか?」
「もちろん。コナツがやってる生徒会活動にも興味あったしな」
と、返したら流れるような動きで生徒会室床に正座したかと思うと「すまん……なんかすまん」とギリギリ土下座にならないラインで頭を下げられてしまった。
「……ねえ、ミナ。こうでもしないと下之ユウジくんが生徒会に入ってくれないって私たちに熱弁したよね」
「そ、それは」
「それに乗っかる形で福島も連名で推薦していたわね」
「う、うっ」
「本人乗り気というか、誘えば来てくれそうだったんだけど」
「こんな拉致してまですることはなかったわね。私は面白かったからいいけど」
そうして姉貴と福島をとがめるような口調でちっちゃい生徒会長とグラマラス先輩が追い打ちをかける。
あ、やっぱこれ拉致でグラマラス先輩は面白かったんですね。
「改めて生徒会長代理の葉桜飛鳥だよ! 会長とかアス会長と呼んでくれ給え!」
「私は生徒会書紀の紅知沙よ。私のことは紅先輩でもチサ先輩でもお任せするわ」
「よろしくお願いします。アス会長、チサ先輩」
トーク力に長けたちっちゃい会長のアス会長とちょっと黒そうだけでグラマラスで美人なチサ先輩をそう呼ぶこととした。
「こ、こほん。私は生徒会副会長の下之ミナです、生徒会活動に関しては手取り足取り教えるから心配しないでね」
「で、私は会計だ。今後ともよろしくなユウジ!」
「頼りにしてるよ姉貴、いや……ミナ副会長。コナツも色々教えてもらうかもしれないからよろしくな」
姉貴は名前呼びで副会長と呼ぶと「姉貴って呼ばれるのも捨てがたいけど。ミナ、ミナって呼ばれるのもなんかいいかも……」と喜んでいてなにより。
福島も頼られたことが嬉しかったのか「おうっ! へへ」と白い歯を見せてニカッと笑った。
そのあとミナ副会長から生徒会役員の構成は現在この四人であること、生徒会活動の主な業務、活動頻度などを知らされた。
基本的にテスト期間以外はほぼ毎日活動があるようで、朝の挨拶も週に三日ほどあるようだ。
なるほど姉貴の通学も早いわけで、放課後の活動があるから下校も遅めなわけだ。
「それでユウくんの生徒会での役職だけど、出来れば”私の”副会長補佐に就いてほしいなって」
そもそも姉貴の手伝いになりたいことが大きな動機の一つの生徒会活動参加なこともあって、副会長である姉貴の補佐を出来るのは願ったりでもある。
それで俺もいいと思ったし、アス会長も「うんうん」と頷きチサ先輩も異論がない様子だった。
そんな中、ただ一人だけが異論を唱えた――
「えっ?」
そうミナ副会長に聞き返したのはまさかの福島だった、それも”あなたは何を言っているんだ?”的な表情であり完全に異論がある様子。
「私としては会計補佐になってほしいんですけど」
そうきたか。
確かに俺個人の感情的にミナ副会長の提案に頷きかけたが、一年生の役職としては同じ一年生の補佐に就くのも道理ではある。
福島の生徒会での印象は知らなかったが、馴染みのある生徒会メンバーなだけあってか物怖じすることなく上級生のミナ副会長にそう進言していた。
思わずミナ副会長を見ると――表情は笑っているのに目が笑っていない、超不機嫌なマジのやつである。
「福島ちゃん、ユウくんは私を手伝ってくれるって言ってくれたから副会長補佐なんだけど?」
「お言葉ですが副会長、同年代で同じ仕事をした方がいいまであります。会計補佐にすべきです」
「っ! 副会長は会長の次に人事権があるんだけど? 私がそう決めました」
「ちょっとちょっと! 副会長それは大人げないというか職権濫用なんじゃないですか? 弟だからと自分の感情を優先していませんか?」
「それを言うならユウくんと”最近”友達になったというあなたも怪しいと思うんですけど、個人的な感情で動いていませんか?」
やばい、修羅場だ。
ミナ副会長……というより姉貴と福島がバチバチだ。
え、えらいことや……せ、戦争じゃ……!
「心外ですよ。ならユウジに決めてもらいましょう!」
「それは良い提案だと思います。ユウくん、お姉ちゃんと福島ちゃん、どっちを選ぶの!?」
「ええっ!?」
マジか!? そういう流れ来ちゃうのか!?
これどっち選んでも禍根を残しそうというか、どっちかと険悪になりそうだし嫌なんだが……。
「う、うーん」
正直俺としては福島との生徒会活動も魅力的だ。
でも本音を言うと家の外での姉貴の顔を見たい気持ちが強い、少しは姉貴の手伝いが出来ればと思うのだ。
「兼任ってのは――」
「ユウくんには出来ればちゃんと選んでほしいかなーって」
「信じてるぞユウジ!」
ダメらしい、なんてことだ……この選択肢は俺には酷ではないか。
姉と友人俺には選べないぜ……!
助けを求めてアス会長とチサ先輩を見ると「おっとミナは譲らない! コナツも友情に訴えかけている!」と実況のアス会長と「これは選択肢ミスで血を見ることになりそうね」と解説のチサ先輩……エンタメ感覚で楽しまないでくださいよお二方。
しかし、アレだ……やっぱり個人的な感情を優先してしまうのなら――
「じ、じゃあミナ副会長の方に」
「本当! 良かったぁ、よろしくねユウくん」
俺は姉貴を選んだ、選んでしまった。
本音とか感情とか優先順位的には姉貴を選んでしまうわけだ、嘘をつけなかった。
だが俺はこの時修羅場に巻き込まれたことで思考から抜けていたのだ、選ばなかった相手が福島コナツであることに――
「っ! もう死ぬしかない!」
「は!?」
そうしてポケットから取り出したカッターで福島は自分の首で切り裂いて大量に血を噴出させて自殺した。
あまりにも流れるような動きだった為、誰も止めることは出来なかった。
「福島っ!?」
やっちまった……!
「実際に見るとショッキングだよこれ」
「ここまで死亡系バッドエンド多いと結構ダメなシナリオよね」
そんな、どこか冷静なアス会長とチサ先輩の会話を最後に――
四月二十六日
朝スタート、月日は戻らなかったがセーブポイント的な時刻はやっぱり不動らしい。
「どうすりゃいいんだってばよ!」
それからあれこれ考えた結果その時までアンサーが思いつかず、二人とも選ばずに粘った結果二人がじゃんけん勝負をすることになり――
「か、勝った! 第三部完!」
福島がじゃんけんで勝ったことで俺は生徒会会計補佐になった。
いや、時間経過で”選ばない”ことが正解の選択肢のゲームってどうなんだ、理不尽じゃないかね。
X周目 ルート6 バッドエンド&リセット回数:6回
内訳 福島コナツ失血死
<藍浜高校生徒会とは!>
授業外の学校運営の多くを担い、教師陣や各種委員会との連携のほか、実は政治家や財界とのコネクションがあったりなかったりして、藍浜高校においてそこそこの権力を与えられた集団である!
役員選定方法は原則立候補式、重要役職への起用は過去成績や藍浜中学生徒会での活動が加味され現生徒会の精査によって決定される!
役員構成は生徒会会長・副会長・書記・会計が重要役職で、それ以外は雑務や各役職補佐として在籍し、そんな中でも現藍浜高校生徒会は最低人数の四人で運営が任されたエリート集団である!
通常委員会や各行事委員会の統括も行ったりするぞ!
[生徒会長代理 葉桜アスカ <愛されしカリスマ>]
生徒会の総責任者で、学校活動における企画立案のほか生徒会会議の最終決定者で、行事での代表挨拶などをするぞ!
カリスマ性がありつつもみんなに愛される、ぶっちゃけマスコットである!
あくまで生徒会長代理だったり代行だったりして、本来の生徒会長は別にいるものの現在は不明。
[副会長 下之ミナ <陰の実力者>]
生徒会長の補佐……といっても会議の進行のほか生徒会行事の各種委員や教師との連携や話し合いを行っているぞ!
各種委員活動のスケジュール調整も行っている、陰の実力者である!
[書記 紅知沙 <情報の鬼>]
生徒会の会議による議事録作成と保管を担当し、委員会活動を潤滑に進めるべく各生徒プロフィールのおおよそすべてを把握している、隠し事は出来ないぞ!
生徒会新聞の作成担当と各行事パンフレットの作成も行っている、通称情報の鬼である。
[会計 福島コナツ <数字管理人>]
生徒会費の出金状況の把握と割り振った予算の運用チェック、部費や委員会費の精査も行うぞ!
不明瞭な会計の撲滅と委員会費や部費の決定など正確無比な一円単位精査を行う数字管理人である、
以上全員が藍浜中学生徒会経験者で、これらの呼び名は中学生徒会からのもの。
福島コナツ入学前は先代生徒会長代理と会計と庶務数人が居たが隠居済み、現生徒会長代理葉桜アスカは副会長から昇格で副会長の下之ミナと書記の紅知沙は一年生時代から同役職である!
※この設定はほぼ使われません。