第621.15話 √6-14 『ユウジ・ナレ視点』『四月二十六日』
休日も一日数回のメールと電話を福島としていた。
内容は他愛ないもので、おはようとおやすみの挨拶。
その間には福島の部活動のこと、学校のこと、週明け会って話せるのが楽しいこと……そんな話を二人でしたのだった。
こうして話していると普通にいい子だし、話しやすいなぁと思う……本当になんでこの子友達いないんだろう。
正確には福島自身の自己評価の低さから来る友達が”いないと思い込んでいる””出来ないと思い込んでいる”状態なのだが、どうしたものだろうか。
部活動の助っ人で引っ張りだこで、生徒会の会計として先輩からも信頼されていて、容姿含めて女子人気は絶大で、男子からの評価だって決して悪くない。
「友達なんて作り放題な気がするがなあ」
おそらく福島はこれまでの人間関係を意図的に”ズラ”して過ごしてきたはずだ、誰とも付き合わず、特定の友人グループに所属することもなく、生徒会でも先輩後輩の違いはあったはずだ。
余計なお世話かもしれないし、お節介なんだろうが、高校で表面上の付き合いをしている間はいいとしても卒業したら……?
その先福島は一人になってしまうのだろうか。
「……俺が何を言うかって話か」
俺は一度たぶん広く浅くあった友人関係と、親友の間柄だった人との関係を一緒に失っている。
前者は俺が忘れてしまったこと、後者は目の前からいなくなったこと。
かつてのクラスメイトが引き気味に俺へ言った言葉を覚えている――
『下之、お前なんか別人みたいだぞ』
たぶん周囲からはそう見えていたのだろう、事故で記憶の多くが歯抜けになったことで、俺自身がどんな人間だったか曖昧になった時期があったのだ。
記憶喪失みたいなもので覚えてないんだテヘペロ☆ で済んだことだったのだろうか、そう割り切ることで関係を維持出来たのだろうか。
ただその時の俺はそこまで器用じゃなかった、不気味がったり不審がったりして、俺から人が離れていく感覚……そして彼らを繋ぎとめるような努力もしなかった。
ふと見つけたアニメ趣味に目覚めて、ユイやマサヒロに声をかけられるまで俺は一人になっていた。
一人の間は別に問題なかった、なんとかなっていた、でも今から思えば――寂しかっただろうと思う。
そんな”寂しかった頃の自分”を将来の福島に重ねている、まったくもって勝手な話に違いなかった。
だってそれだと俺は、福島を一人にしてしまうような未来を考えてるってことでもあって。
将来がどうなるかわからない、俺が何らかの事情があり意図して福島から離れるかというとそれもわからない。
一度記憶を失っている自分からすると、ふとした時に何かを忘れて別人になってしまう、それがもう二度と無いかどうか。
それが保証できない、確証が持てない。
福島と生涯の友達でいれる自信が俺にはなかった、だからその保険として”代わり”として別の友達がいたら安心だなとふと考えていたのだ。
「……死亡フラグみたいで縁起もないな」
というか俺、何度も死んどるやないかい。
でも今はやり直せているが、もしいつかやり直せない時が来るとしたら――
「うーむ」
とりあえず俺の少ない友人であるユイを紹介するってのはどうだろうか? 俺の友達だからと話題や関係を広げられたりするかもしれない。
それも少し考えておこう――
四月二十六日
朝に生徒会で早く来ていた福島と顔を合わせ挨拶をする。
「よ、よ! おはようユウジ」
「おはようコナツ」
実のところ内心ではまだ福島のことをコナツとは呼べていない、個人的にはもうちょっと仲良くなってからなら違和感ないかもしれない。
なので思わず福島と呼ばないように気を付けていたりする……前に苗字読みしたら死んだからな、もしかしたらここまで何度も俺死ぬ可能性あったのでは。
「…………」
「コナツ?」
いつもなら軽い挨拶をしてすれ違う程度の福島が立ち止まっている。
よく見ればそわそわしているような、気まずいような、悩んでいるのかうーんうーんと唸っていた……どうしたんだろうか。
「な、なんでもないぞ!」
「そうなのか」
昨日までの電話越しやメールの文面じゃ会えるのを楽しみな様子が伝わってきたのだが、ちょっと今朝は変だな?
まあ割と変な子ではあると思うが、いつもとは違うような。
「……すまんユウジ」
「え?」
「じ、じゃあ昼休みあの教室でな!」
「お、おう」
その時の福島の謝罪をこの時俺は聞き取ることが出来なかった。
そうして昼休み会う約束をして福島と別れる、その昼休みに会ってもどこか終始ぎこちない感じなのが気になった。
そうして放課後が訪れる。
いつも通り帰るか、とユイやマサヒロとつるんで帰ろうと思った矢先、携帯に福島からのメールが届いた。
『放課後話がしたい、だからあの教室で待ってる』
「?」
最近になってからとはいえ普通に会って話している場所なのに……なんだろう、この文面から漂う緊張感は。
「でも……そうか」
メールと手紙の媒体違いとはいえ、こう簡潔に淡泊に書かれてしまうと緊張感があるような、突き放すような印象になってしまうのかもしれないな。
だから今にして思えば俺の福島への呼び出しの手紙の書き方も良くなかった、俺は死ぬべくして死んだといっても過言じゃない……いや、それはさすがに過言か。
とりあえず用事が出来たから先に帰ってくれとユイとマサヒロに別れを告げてから教室を出る。
そう、俺はその時何の気なしにもいつもの空き教室に向かっていた、その時だった――
「すまねえユウジ」
突然目の前が真っ暗になったかと思うと、首に衝撃を受けて意識が遠のいてい――かない、でもやたら痛いし手首に手錠のようなものをかけられた気がする。
そして突然持ち上げられたかと思うと揺れ出す、どこかに運ばれているのだろうか。
うーん、これは……死!
真っ暗な視界の中で今回は何をミスったのだろうと考える……すると戻る場所はこれまで通りなら今日の朝六時半で自室のベッドなんだろうか。
うーん、やっぱり朝の福島の様子のおかしさにもうちょっと気を配るべきだっただろうか。
思ったより人の気持ちを推し量るのは難しいな、次回は上手く――
「うおっまぶし」
突然視界が開けたかと思うと俺は見知らぬ部屋にやってきていた。
そして見上げると四人の女子に囲まれていた――なんだこれは、逆のやつか! この作品は健全寄りの作品だぞ! 四人がかりとはこれ以上いけない!
「ようこそ生徒会へ! 下之ユウジくん!」
小学生みたいな女子に君付けで呼ばれる……うん、生徒会?
ということで俺は生徒会に拉致られてしまったらしい。
== ==
どうもナレーションのナレーターです。
時間は遡って朝某所にて――某生徒会、某生徒会室ってもうほぼ答え言っちゃってますね。
朝七半頃の藍浜高校生徒会です、校門での風紀チェック前に臨時会議と称して現生徒会役員の大半が集まっていました。
「チサ! 久しぶりの生徒会パートだよ!」
と、声高に言うのは画面的に表現すると赤色というかくりむゾンでレッドな髪色をした小柄な女子こと生徒会会長代行の葉桜飛鳥、見た目は完全に小学生にしか見えませんが高校二年生女子です。
「最早何年振りかしら。×××が当時影響受けたネタを初期に用いたのはいいけど、今は持て余してる感じが凄い印象ね」
少し毒を含んだ物言いをするのは黒髪ストレートで、絞るところは絞りながらも出るところが大きく出た女性的なスタイルで腹黒疑惑のある生徒会書紀の紅知沙、さっきの生徒会長代行と同い年でクラスメイトだったりします。
「非公式新聞部ネタとか久しぶりに出したけど今後使われる気がしないんだよ!」
「というか続編ヒロイン予定の私たち冷遇され過ぎよ。×××に抗議したら改善するかしら」
こんな会話をしてるのも懐かしいですね……でも本題に入ってほしいですね。
「それで今日の臨時会議の議題はなんですか?」
そんなメタなネタを聞かなかったことにするのは、スパッツとミニマムポニーテールと柑橘系な香りが印象的な生徒会会計の福島コナツ。
「もしかして……私の要望の件ですか?」
そう会長代行と書記に向かって聞くのは茶髪でくせっ毛気味なロングヘア―として女性的な印象の生徒会副会長の下之ミナ、というかユウジの姉です。
どうやら生徒会に対して要望を出していたようで――
「ふふ、ほかでもないそのことだよ」
「じゃ、じゃあ!」
「私たちはミナから散々聞かされたしね。要職は埋まってるけど通常役員がいたら都合が良かったのもあるわね」
「ということは――」
溺愛気味の弟ユウジ以外にはそこまで熱くならないというミナさんが、声の感じからテンションが上がっているのが分かります。
「ということで、以前からミナが希望していたことにつて決を採ろうと思うよ!」
「まあミナが提案したってことでお察しだけれど下之ユウジの生徒会役員登用についての是非よ」
「!?」
その名前に更にテンションが爆上げするミナさんと、衝撃を受ける福島は動揺しつつもミナさんに対して質問します。
「え、それは……ユウジに聞いたことだったりするんですか?」
「弟くん本人には聞いてないかも」
外ではユウジのこと弟くんって呼んでるんですね、そこも某違う生徒会リスペクトなんですか。
「……ユウジがやりたいかどうかって大事だと思うんですが」
「それはそうだけど……」
「ですけど……?」
「もう、欲望を抑えきれなかった!」
「言い方! 言い方に問題あると思いますよ!」
福島がツッコミ役なんですねこの生徒会、ミナさんも今は全力でブラコン発動弟ボケてますし。
「そんな福島ちゃんは、最近弟くんと仲良くなったそうじゃない?」
「うっ、それは」
「想像してみて、弟くんと一緒に生徒会活動出来る光景を」
「ぐっ! それは、それは卑怯ですよミナさん!」
「朝の生徒会活動から放課後まで……たくさん、会えるよね?」
「ぐぐぐぐっ!」
「もちろん生徒会役員としての活動は第一ですが、節度があれば……ね」
「うううううう」
「ということで決をとってください!」
面白そうなので、な会長と書記コンビと熱望する副会長のミナさん。
「わ、私も賛成です……」
しぶしぶといった様子で賛成の挙手をする福島。
「全会一致! ということで決行は今日の放課後だよ!」
「久しぶりの生徒会役員狩り、楽しみね……」
イベントを楽しみにするような会長と面白がってふふふと笑う書記。
「ごめんね弟くん、こうでもしないと私の願いは叶えられないと思ったんだよ」
「すまねぇユウジ、私も欲望に負けちまった」
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……と、いうのが朝にあっての放課後ユウジ拉致だったようです。