第621.13話 √6-12 『ユウジ視点』『↓』
俺の起こした行動はというと、原点に返るかのように手紙を書いたのだった。
今日も授業が終わって少しの時間の間もどこかに行方をくらましてしまう福島だけに、声をかけて何か話そうというのは無理だったのである。
これまでのすれ違い様の挨拶も生徒会で荷物を抱えたり、急いでいる途中であり、止めるのは遠慮してしまった。
ということで俺は彼女福島コナツにアポことアポイントメントを取ることにしたのだ。
授業間の休み時間を使って考える時間もない中で急いでいたこともあり「放課後体育館裏で二人で話がしたい 下之祐二より」という文面のみのノートを切り取ったものに書いた非常に簡素なものだが、やむを得ない。
そして昼休みの昼食前に教室を抜けて昇降口に向かい、福島の下駄箱を見る――
「これは……」
下駄箱には大量の手紙が詰まっていた、俺のような簡素なものは少ないようで、表に見えるだけでも文具ショップで売っているような華々しいレターケースばかりだった。
文通から告白の類の手紙まで盛りだくさんなのだろう、これは想像以上に先客がいて会えるタイミングは後回しになるかもしれない。
今日の放課後という曖昧な時間を指定してしまったが、あいにく福島の放課後活動具合はわからないのでしょうがない。
しかしこの混み具合を見ると今日の放課後実現するかはわからなくなってきた。
「まあ気長にやるか」
どうせ部活にも入ってないし、姉貴や福島のように生徒会役員なわけでもない。
とりあえず今日は日が暮れるまでは待ってみるつもりだった、しかし予想は外れユイやマサヒロに野暮用があるからと別れを告げてのんびり向かった放課後の体育館裏に彼女は待っていたのである。
「悪い、待たせたか」
「今来たところだ」
女子が待たせて男がこう答える場面は良くあるが、なるほどこう言われると好感を持てることがわかる。
「部活動か生徒会あたり待たせてるから手短に済ませるとして、それでわざわざ話に呼び出した理由なんだがな――」
そう、俺は話を切り出そうとしたのだがその口は止まってしまう。
福島は以前に俺がフルネームを殴り書きした婚姻届けを取り出したのだ。
え? それ学校に持ってくるの? とか、それを今取り出して何が起こるというのだ……? という疑問が脳裏に渦巻く中――
「やっぱり私と友達はやってられないってことか!」
そう声を荒げて彼女は言うのである……どうして?
「すまん、話が見えないんだが――」
「こんな人気のないところに呼び出して話すことなんて――関係を終わらせる時ぐらいだろ!」
そうだろうか……?
もうちょっと告白とかの場面にも使われるんじゃないだろうか、でも俺告白して振られているというか福島が振ってるからその線は無いと思われてるのか……それはそれで俺にダメージが入るのだが!
いやそもそもちょっと待ってほしい、これはなんだか嫌な予感がするぞ、思えば最初から福島の様子が明らかにおかしい。
「いや、あのな」
「友達契約を破棄したいんだろう」
「違う違う」
と否定したがそもそも友達契約ってなんなんだという話になるわけで、確かに福島は前にも言ってたけども。
「ユウジは知ってるか、死が二人を分つまでって」
「いや」
知ってるけど、知ってるけどそれを友達に当てはめるのは重――
「悪かったな、ユウジ。耐えられないんだ」
そうして福島はポケットから取り出したカッターを振り上げ、俺の首を一閃した。
噴き出す血液、切られたところが熱を帯びていく感覚と鋭い痛みが伝播してくる――
嫌な予感はしたが、最悪な形だったと思う。
でも俺はなんとなく”やっちまった”とこの校舎裏に来てから思っていたのだ。
ああ、これは死ぬなと――
「私もすぐ向かうから、あっちでは友達に――」
そんな福島の声を最後に意識はフェードアウトし――
四月二十三日
「…………」
何が悪かったのだろうと考える。
正直死ぬほど痛かったのを覚えていて、実際に死んでしまった……でも今は傷も痛みもない、だから気持ちを切り替えることにしよう。
もう俺としてはこのループする世界を受け入れている、自室のベッドスタートで起床時間に戻るのは前と同じだ。
ゲームに例えるならオートセーブ仕様で、コンテニューはその日付の最初からとなる的な、ゲームオーバー・リセット条件はたぶん俺の死か福島の死。
そもそも俺は何をしようとしていたかというと、手紙で福島を呼び出して連絡先を聞こうと思っただけだったのだ。
その日の朝に思いついて、ユイから聞いた前情報をもとに行動したのがいけなかったのだろうか。
なんとなく分かったことだが、福島は思い込みやすい傾向にあるようで、一度感情的になると人の言葉が耳に入らなくなるというか、冷静でなくなるのだろう。
俺の呼び出しが友達をやめることを切り出されるのだと、そう思い込んでしまったのかもしれない。
俺が人気のないところに呼び出したからとそうネガティブになるものだろうか。
ノートの切れ端が手紙代用なのが悪かったか、簡素な文面が良くなかったか……そのすべての可能性はある。
大前提として福島は自分に自信がないと言うのだ、普通ならありえないような「友達をやめよう」という流れも想定出来てしまったのかもしれない。
ぶっちゃけ婚姻届け騒動での彼女の挙動・行動を思えば、普通に予測を立てようとすることがダメなのだろう。
じゃあ手紙を書くのをやめるか、連絡先を聞こうとしたことをやめるのか――それは違う気がする。
いったん気持ちを整理する。
俺は今福島コナツという人間をどう思っているか――正直恋愛感情的なものは冷めてしまったと言っていい。
実際振られた時に恋愛的には終わっているのだ、そして友達から始めたことで福島とは友人関係がはじまった。
彼女は想像以上に不器用だと思う、正直めんどくさいタイプの性格だと思う。
でもそんな福島を嫌いになれないどころか、友達にはなりたいと思ったのだ。
だって友達が一人もいないという福島の現時点でただ一人の友達になったわけだ。
俺が部活動に入っていないとか福島に関心があったことで実現した関係性だが、たった一人の友達……光栄なことじゃないか。
だから俺としては福島と恋愛感情抜きにして仲良くしたいと思ったのだ、
普通なら殺しにくるような……実際に殺す友達なんて怖くて仕方ないのかもしれない、だが今の俺は生きてるし、やり直せるからそれは大したことじゃない。
福島には悪いかもしれないが俺としては難攻不落の高難易度のゲームと相対しているかのような、どうにかして攻略してやろうという気持ちが芽生えているのだ。
目標は”福島とどれだけ仲良くなれるか”出来れば福島が普通にみんなと仲良く出来て友達百人出来るのがいい――そんな目標が出来た。
婚姻届け騒動で死を回避した、次は友達契約とやらを破棄せず二人死ぬことなく福島の連絡先を聞く、それが今回の目標だ。
「……やってやろうじゃん」
俺はそう、決意してベッドから降りる。
まずは前にラブレターに使ったものと同じ便箋を姉貴にもらおう、手紙を書こう――
姉貴に便箋をもらって居間で書き始めたのだが――
「ユウくんが手紙!? だ、誰に書くのかな」
前回も俺が手紙を書くからと関心を示していた、あの時はさすがにラブレターだったので自室に持ち帰って書いたが。
今回は友達に書く手紙なのだから問題ないだろう、と思っていた。
「秘密」
「前も誰かに書いてたよね……お姉ちゃん気になるなー」
誰か、のところを強調しているあたり前の俺のラブレターの宛先は把握しているのかもしれない。
実際に俺が福島に告白して玉砕したという噂が学校中に流れていたことを知っている、しかし男女問わず告白玉砕を繰り返す相手な為「またか」「また一つの星が堕ちたか……」みたいな感じで日常となっていた。
だからすぐに風化するし、なんだったら俺の次に告白して玉砕した話も流れてきている。
「ちょっと友人と文通みたいなもんだよ」
「ふ、ふーん? 手紙と友達とやり取りって暖かくていいね――それで、誰とのお手紙なのかな?」
「秘密」
過保護気味な姉貴のことだ、ここで福島の名前を出すものならラブレター再アタックなのではないかと疑われかねない。
手紙は直接福島の下駄箱に入れるので俺の差出人の名前は書いても、宛先は書かないので文面からバレる必要はないから大丈夫……なはずだ。
「なんで!? お姉ちゃん権限を発動します! 教えてください!」
「弟権限でそれを拒否します」
「なんでよー!」
こういう姉貴との会話も日常的で、前にユイと友達……というか悪友になったことを悟られた際も探りを入れられた。
もしかすると姉貴は話すきっかけ作りにしているのかもしれない、姉として俺のことを気にしてくれているのかもしれない。
姉貴は文武両道で生徒会副会長で家事全般も出来るどころか料理は超上手い、欠点のないような人だが俺は姉貴が何か趣味に打ち込んでいるのを見たことがない。
俺がハマったアニメや漫画も理解はしてくれるが干渉はせず、そして自分もとはならないのが姉貴でそれは幼い頃からずっとだった……気がする。
覚えている記憶の中で姉貴を誘って遊ぼうとして、実際に付き合ってはくれるけどそれまでのことで、俺が誘ったから遊んでくれただけに過ぎないことを覚えている。
だから姉貴はどんな形で息抜きしているのだろう、どうやってストレスを発散しているのだろうとたまに不安になる。
姉貴は家事を喜んでやってくれるし、料理を作る姿は楽しそうだし感想を言ったりすると嬉しそうにするのは確かで。
でもそれは趣味とは違って、家族の生活の為であり、そして家族とのコミュニケーションの一環として考えている……そんな感じがする。
「ヒントだけ! ヒントだけでも!」
「えー」
家族とのコミュニケーションで少しでも息抜きになっているのならそれはいいな、と思う。
残念ながら俺は姉貴に何をしたらいいかわからないし、出来ないから……せめてそれだけでも。
手紙の内容は結構考えたものだ。
最初は率直に「連絡先教えて」ということを書こうとした。
もしかしたら教えてくれるかもしれないが、教えるだけなら手紙の返信でも出来てしまう。
俺は福島と面と向かって話すことは大事だと思った、福島という人間と向き合ってちゃんと友達をするならそこは譲っちゃいけないのだと思った。
だから俺はある意味ストレートど真ん中に、自分の気持ちを書くこととしたのだ。
『友達の福島ともっと話したい、だから会いたい』
という結局短い内容になってしまった、それでいいと俺は思った。
……これがメールやSNSの文面なら、”友達の”を抜けば恋仲の男女の一会話にしか見えないが、見るのは福島だからセーフ! だと思いたい。
葛藤しつつもちらっちらと俺の手紙の文面を見た姉貴が青ざめたりうーんうーんと悩んだりと忙しなかったが誤解されてないはず、たぶん!
そうこうして俺は登校してすぐに、ユイに茶かされつつも福島の下駄箱に手紙を入れたのである。
実は文面において日付も時間も場所も指定しなかった。
体育館裏がネガティブだというのなら、放課後という時間も手紙を読んでからそれまでに悩ませる時間となってしまったのなら、それで回避できるのならば。
「ん」
いつものように授業合間の時間にいなくなる福島がそう声に出して俺の注意を引いたと思うと、何か紙を渡して去っていった。
実は放課後など以外ではじめて福島から教室でアクションを受けたので感動している。
「……なるほど」
その紙を開くと「今日の昼休み部活棟二階の――で会いたい」と時間と場所が指定された文面が書かれていた。
「よし」
とりあえず、前回と流れは変わったぞ。
そして俺は昼休みその場所に向かった――
紙に書かれた地図通りにやってきた、学校内で地図とはそんなアホなと思ったがその場所は人目に付かないような場所にある空き教室だった。
部活動のある放課後ならまだしも、昼休みはあまり人気のない部活棟のその中でも人気のない場所だけに俺も知らない場所だ。
校舎裏よりも更に人目のつかないところだけに、ここで何かあっても誰もにも気づかれなさそうだ……縁起でもないというか、福島を信じるべきだな、うん。
「ここで良いんだよな……」
その空き教室前に誰が待っているわけでもない、しかし地図通りの場所なので教室の扉をノックしてみる。
「俺だ、ユウジだー。コナツいるか?」
そう言うと扉がゆっくりと開くと自信なさげな表情で緊張気味の福島が顔を出す。
「ど、どうぞ」
「あ、ああ」
入っていいとのことなので入ることとする。
その教室は何か物置代用として使われているのか、古い机や何かの部活動で使っていた道具などが置かれていた。
「わ、悪いなこんなところまで来てもらって」
「それはいいんだが、こんな場所あったんだな」
「ああ、生徒会で押収した廃部済みの部室でさ。それを暗黙の了解的にまるごと借りて使わせてもらってるんだ」
「へー」
……教室まるごと借りてる? 何のために?
まあそれはあとでいいや、とりあえず本題に入ろう。
「ところでコナツ、連絡先って交換出来たりしないか?」
「え……」
「携帯とか持ってないならいいんだけど、メールとかでもやり取りできるしなと」
内心では手紙のやり取りが面倒だとか、毎回面と向かって話す度にこの教室集合はかったるいという本心の一部は伏せておく。
でもここで福島が落ち着くって言うなら、ここで話したりするのもアリかもしれないな。
「メールとか出来れば休日に会う約束とかももっとしやすいしな」
「休日に会う……?」
……これはちょっと踏み込み過ぎたか? 友達と言えど、ちょっと気が早かったか?
「コナツがダメならいいんだが――」
「ダメなわけない! というか私と連絡先交換してくれるってことか!?」
さっきまでの困惑顔から一転、目をキラキラとさせてハイテンション気味に詰め寄る勢いでそう聞き返してくる。
「そ、そうだけど?」
「マジか!」
「マジだ」
そうして福島は勢いよくポケットからガラケーを取り出し――
「よ、よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
そうして慣れない感じ手つきで福島と俺は連絡先を交換、電話番号とメールアドレスをそれぞれ知ることとなった。
「その、な……私からメールしてもいいやつか?」
「そりゃもちろん、俺からもするぞ」
「メールは一日何通まで!?」
「いくらでもいい……って言ってもほどほどにな」
「ま、マジか! や、やったー! 初めて家族以外で連絡先ゲットしたー!」
……なんだか悲しくなってきた。
そこまで人気者なのに友達がいないと思っていて、連絡先も家族しかないなんて。
これは、俺も”友達として”福島と仲良くしていかなければ。
「ありがとうユウジ! 嬉しい、嬉しいんだ!」
「コナツとこれで話し放題だな」
「話し放題……! そんな魅力的なことが……出来るのか!」
ここまで喜ばれると、ちょっと頬が緩んでしまうな。
無邪気なところが可愛いな、ギャップのすごい子だよほんと。
「お、メール送った?」
こくこくと頷く福島を見て携帯の受信ボックスを見ると――
「友達とのメール第一号!」
と書かれたメールが届いていた……なんだこれ、微笑ましいな。
俺もさっそく返信しよう――
「うおおおおお! 『友達からのメール返信!』だって! やばい、これすごい嬉しいな! 楽しい!」
「ああ、楽しいな」
そうして俺と福島の”友達”としての距離が縮まった気がして、俺も嬉しい気分になったのだった。
X周目 ルート6 バッドエンド&リセット回数:4回
内訳 ユウジ死亡
== ==
ある部屋にて
ユミジ『ユウジが死にました』
ミユ「見逃した! なんで死んだの!?」
ユミジ『ユウジが手紙で呼び出したらひょっとして友達やめるんじゃないかと福島が邪推した結果、悲観した福島がユウジを殺しました』
ミユ「そうはならんやろ」
ユミジ『なっとるやろがい』
アイシア『ちなみに原作ゲームでも手紙の内容ミスったり名前を苗字で読み間違える度にバッドエンドなんだよねこのルート』
ミユ「クソシナリオじゃん!」